ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

文字の大きさ
上 下
14 / 55
新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

前代未聞の急展開! こんな待遇のヒロインなんているんですか!?

しおりを挟む
「──フゥ、やれやれ。淫獣はもうこれで最後にしてよね、もう……」

 ひとつ目ちゃんの触手に締めつけられていた気色悪い感触と粘液が、まだ腕や太股にハッキリと残っている。そして、股間にまでちょびっと。
 あたしが穿いている最高級シルクの下着パンツをグロテスクな触手がずり下ろそうとした、まさに最悪なその瞬間──!
 謎の淫夢にうなされていたミメシスが間一髪のところで『ひゃめれぇぇぇぇッ‼』と艶やかな声で叫びながら覚醒し、ひとつ目ちゃんを〝ボギャッ!〟の〝バシバシバシ、ズキャーン!〟ってな感じの圧倒的な強さで木っ端微塵に吹き飛ばして助けてくれたのだ。

「それにしても、さすがはミメシス先生! 闇の使徒は伊達じゃないっ! これからも末永くよろしくお願いします!」

 目の前には誰もいないけれど、あたしは感謝の気持ちを込めて、前意識の中にいる大恩人に御辞儀をした。

『先生ではない。目的を果たすまえに死なれては困るから、我はおまえを助けたにすぎん。そこを勘違いするな』
「またまたぁ、本当は優しい性格なクセにぃ♪ あ、そうそう。ねえミメシス、さっき見てた夢の話をあとでちょっとだけでも訊かせてよ……ムヒヒヒ♡」
『夢? なんの話だ? 手首を縛られ目隠しまでされた花嫁姿の我が、全裸のヴァインに背後から太股を抱きかかえられたまま、彼のたくましい──公序良俗に違反するため、以下省略──そんな破廉恥ハレンチ極まりない情事を超古代文明の魔法道具マジック・アイテムを使って全世界(※天上界・地上界・魔界のすべてを含めた意味)の上空に生中継された夢なんぞ見た覚えがない』
「ええっ……」

 実は天然な性格だったミメシスが見ていた夢の衝撃的な内容にドン引きしつつ、不気味な卵の障害物を杖の先で横へと退けながら魔法円に足を踏み入れたあたしは、次の階へとテレポートした。


 今度も洞穴みたいな場所だけど、移動用魔法を唱えなくても明るさはなんとか大丈夫そうだ。
 魔法円から一歩踏みでたあたしを出迎えたのは、熱い蒸気と硫黄の強烈なにおい、それとボコボコと沸き上がるような水音が絶え間なく辺りに響いていた。
 マイナスイオンが充満する黒い岩盤だらけのこのフロアには、おそらく温泉があるのだろう。

「うわ、蒸し暑っ。こんな所に長居はしたくないから、早く次へ行きましょう」
『なんだ、ロアは温泉が嫌いなのか?』
「嫌いじゃないけど、今はそんな気分じゃないってば。第一、ラストダンジョンで裸になって入浴ですか? 文字通りの無防備だし、そんなことをするためにエレロイダまでやって来たんじゃないのよ、馬鹿らしい!」


     *


「フゥー、極楽極楽♪」

 ミメシスに導かれて温泉を見つけたあたしは、これまでの戦いの疲れといろんな汚れ・・・・・・を落とすためにガッツリ入浴していた。
 異次元空間の秘湯〝ラストダンジョンの湯〟は茶褐色の炭酸泉で、熱さも不感温度を少し超える程度と、あたし的には快適な温度だ。

「このまま美味しいご飯でも食べて、ゆっくり眠りたいなぁー」

 茶褐色の水面から腕を伸ばして撫でれば、本音が手のひらで掬ったお湯と一緒になってこぼれ落ちる。
 無事に元の世界へ──おうちに帰れたら、メイドのセーリャとあらためて温泉旅行をしようかな。

『……ひとりではさびしかろう。それに、我も温泉に浸かりたい』
「みゃ?」

 その直後、あたしの身体から小さな光の結晶がふわりと離れていったかと思えば、ほんの一瞬だけ強い輝きを放ち、プリシラの姿をしたミメシスがすぐそばに現れた。もちろん、全裸で。

「フゥー、極楽極楽♪」
「なんでまたプリシラの姿に……声はミメシスだから、さっきよりはマシだけど」
「ん? マルスのほうがよかったか?」
「──なっ!?」
「どうした、顔が一気に赤くなったぞ? もう湯あたりをしたのか?」
「ぬぐぐ……うん、ちょっとだけ! でも大丈夫だし!(もしかして、前意識にいるときにあたしの記憶をのぞいたわね!?)」
「フフフ。のぼせるまえに頭を冷ませロア」

 そう言いながら、瞼を閉じるミメシスは少し意地悪そうに微笑み、プリシラに似せた身体の白い首筋や鎖骨を愛しそうに撫でた。
 ミメシスとは親友みたいな信頼関係を築けそうな予感がしていたけれど、マルスに抱いていた密かな想いを知られてしまい、なんだか親に日記帳を見られたような強い憤りと気恥ずかしさを感じてしまった。
 このまま無言で温泉に入っているのも嫌だし、なにか別の長続きしそうな会話を探さないと──。

「あの……さあ、あたしの身体から出たり入ったり出来るんなら、せめて戦闘中だけでも出てきて助けてよ」
「それは出来なくもないが、我の生命力を削り続ける行為となってしまう。なるべくそれはしたくない」
「えっ、そうなんだ……でも、今は出てきて平気なの? なんかフツーに温泉に入ってくつろいでるけど」
「フッ、我は鏡面世界でのみ自由に行動する契約を交わしている。この温泉は淀んではいるが、水面は景色をわずかに映している。すなわち、これもまた鏡面世界」

 そう言ってミメシスは、茶褐色のお湯を手のひらで掬い上げた。か細い指先からあっという間ににこぼれ落ちたそれを、彼女は悲しそうなをして見つめ続ける。
 結局、会話はそこで途切れてしまった。
 せっかくの温泉なのに、身体は温まってもお互いの心はテンションがだだ下がりだ。
 なにかもっと、ガールズトークらしい話題をしなきゃ……あっ、そうだ!

「ねえねえ、ミメシスさん」
「なんだ? 気色の悪い笑みを浮かべて」
「ヴァインとは、どーゆー関係なのよ」
「どーゆー……とは、どういった意味だ?」
「またまたぁ、誤魔化しちゃって!」

 温泉に浸かったままミメシスの真横まで近づき、彼女の二の腕を肘で何度も小突く。

「闇黒騎士ヴァインは、ダ=ズール様に忠誠を誓った同じ闇の使徒。それ以上でも以下でもない」
「ふふ~ん。なら、どうしてあたしなんかと一緒に彼の元へ?」
「それは……」

 言葉を詰まらせたミメシスに、あたしは質問を続ける。

「本当はヴァインが心配なんでしょ? マルスたちとダ=ズールに戦いを挑んで、彼の身になにかがあったら嫌なんだよね?」
「当然だ。同じ闇の使徒として、そんな暴挙を止めなければならないし、仲間が傷つくさまを黙ってはいられない……なんだ、また気色の悪い笑顔を浮かべおって!」
「ここには、あたしとミメシスのふたりしかいないんだし、正直にヴァインが好きだって認めちゃいなよ」
「お……おまえは……!」

 雪のように白いプリシラの頬を林檎のように真っ赤に染めるミメシスは、あたしの指摘に両目を大きく見開き、今度は恥ずかしそうな表情へとすぐさま変える。

「我の心が……読めるのか?」
「読めはしないけど、乙女の直感でわかるのよね……それじゃあ、ふたりの出会いを訊かせてよ」

 にやけるあたしに見つめられたミメシスは、伏し目がちに視線を横へと逸らす。やがて、しばらく黙り込んでいた唇が静かに動きはじめた。

「あれは、忘れもしない……」

 ドグォォォォォォォォォォン! 

「えっ、なに? なんなのよこれ? 地震?」

 突然の轟音と地響き。
 天井からも小さな落石が幾つか起きる。

「闇の波動が激しさを増して乱れている……光の女神の力が終焉の起源インナー・ユニバースに近づき過ぎたのだ。まずいぞロア、急がねば最終決戦が始まってしまう!」
「ムホッ!? あーっ、もう! こんな大切なときに〝ちょっとだけなら温泉に浸かって癒されてもいいよね〟って言った馬鹿は誰よ!?……あたしか」

 慌てて立ち上がりひとり漫才もこなしたあたしは、装備品を置いていた場所へとジャバジャバ音をたてながら歩いて戻る。
 けれども、そこにあるはずの魔法衣や杖、ポーチに靴が無くなっていた。もちろん、下着もだ。

「みゃ?」
「どうしたロア? 急がねば間に合わなくなるぞ」
「あの……たしかここに置いていたはずの服が……下着まで綺麗さっぱりとですね、消えちゃって無かとですよ!」
「なんだと?……まさか、このタイミングで出てくるとは……我としたことが、迂闊だった」

 心当たりでもあるのか、ミメシスは悔しそうに唇を噛む。

「えっ? えっ? 意味がよくわからないんですけど……説明してよミメシス!」
「エレロイダラットだ。泥棒ネズミが現れたのだ」
「エレロイダ……ラット? それって、やっぱりモンスター?」
「ああ。冒険者や魔物たちからも金品や所有物を盗む、小型の盗っ人モンスター。それがエレロイダラット」
「ええっ……なんなのよ、それ……ラストダンジョンで出てくるような魔物じゃないでしょ!?」

 こうしてあたしは、ラストダンジョンで装備品をすべて失い、まさかの全裸姿となって冒険を続けることになってしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...