ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

おやすみ、ありがとう。

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 ほんの少しだけ憂鬱な感情を抱きながらテレポートをしたあたしは、岩と満天の星空だけの別世界に降り立っていた。

「ここって外だよね? ラストダンジョンから出ちゃったの?」

 かろうじて平坦な地面はところどころがひび割れて宙に浮かび、そのすみっこまで近づくと、不思議なことに真下も夜空と同じ空間で、どこまでも果てしなく広がっていた。

『いや違う。これはおそらく、光の勇者たちが終焉の起源インナー・ユニバースに近づいたため、ダ=ズール様の強力な闇の波動と女神フリーディアの聖なる力が反発し合い、エレロイダに空間のひずみが生じ始めた結果だろう」
「え? なんか、めっちゃ危険な予感が満載の解説なんですけど」
「ああ。このままだと次元の狭間に取り残されてしまい、先へ進むことも引き返すこともできなくなるぞ。ロア、急いでくれ』
「なによそれ!? 最悪じゃないのよ、もう!」

 やっぱり、マルスたちと合流するしか選択肢はなさそうだ。
 とりあえず、岩山の崩落しかかった壁面をさけ、大小の岩が転がるゴツゴツとした荒れ地の真ん中を慎重に歩いて進む。
 悪路だけれど走れなくもない。ただ、敵と遭遇してもなるべく交戦はせずに逃げきりたいから、できるだけ今は体力を温存しておかなきゃ。

 ──カタン!

「ムホッ!?」

 驚きのあまり、とっさに物音がした方角に向けて武闘家っぽいなんか強そうなかたで身構える。

『安心しろ、ただの落石だ』
「……知ってるし!」

 この階は魔物が発する邪悪な気配だけじゃなくて、今まで感じたことがないケタ違いな闇のエネルギーも漂っていた。そのせいもあってか、いつにも増してビビりになってしまっていた。
 これがダ=ズールの力……本体から遠く離れているはずなのに、これはヤバ過ぎる。それは、マルスが持つ最強クラスの光の力でさえも呑み込まれてしまうんじゃないかなって、元仲間が心配しちゃうくらいの驚異だった。
 しばらく歩き続けていると、絶壁にたどり着いた。辺りを見渡してみても、通れそうなところはここで終わりみたい。

「ほかに行けそうなところも見当たらないし、あきらめてもう一度戻るしかないわね」
『大丈夫だ。そのまま進め』
「いやいやいや! 崖になってるから! まさか、飛び降りて下の階へ行けっていうの!? ラストダンジョンの最深部じゃなくて、あの世へ逝っちゃうってば!」
『我を信じてくれ、ロア』
「…………うん、わかったわよ」

 出会ったばかりの、しかも闇の使徒を信じることなんて正直無理な話だ。でも、今のあたしの命は有って無いようなものなので、渋々前へ歩きだす。

 ポォォォォン……。

 すると、周辺の地面が大きく割れて浮島のように切り離され、対岸の陸地に向かってゆっくり動き出した!

「うわぁ! 地面が乗り物みたいに動いてる!」
『この調子で魔法円まで進んでくれ。おまえが使った魔力を回復するために、我は少しだけ眠りにつきたい』
「えーっ、寝ちゃうの? じゃあ、ミメシスの力の恩恵も消えちゃう?」
『消えはしないが、弱まりはする。それでも元々のおまえの魔力よりは強いはずだ』
「そっか……ミメシス、おやすみなさい。いろいろと助けてくれてありがとう、またお願いね」
『フッ、やはりおまえは、おもしろい人間だな』

 それからミメシスは、なにも返事をしなくなった。
 やがてすぐに浮島が対岸へくっつく。
 それからあたしは、同じようにして何回か浮島に乗っかっては進み、幸運にも魔物に出会うことなく、次の魔法円を見つけて下の階へ移動した。


 いかにも洞窟って感じの窮屈で狭い溶岩洞の中を、身を屈めながらちょこっとずつ進む。かれこれ十五分ほどこんな調子だ。
 ほかのフロアは、なにかしらの光源があったけど、ここは真っ暗闇そのものだった。移動用魔法の〝魔球灯マジック・トーチ〟を唱えたあたしの頭上近くでは、拳大くらいの穏やかで丸い光が一緒に行動をともにしていた。

「熱っ……狭くて近いと、この魔法て結構キツかったのね」

 冒険の最後にこんな超初級みたいな場所が用意されてるのは腑に落ちない。やっぱりこれも、例の影響なのかな?
 そんなことを考えていると、ゴツゴツとした岩肌に触れる手から微かな震動が伝わってくる。
 地震かなって一瞬思った直後、辺りに漂う闇の波動が強いものへと変わっていく。それと共鳴するように、頭上の光の玉が輝きを増した。
 それは、闇の側に立つ神々や精霊の力を借りた魔法の術者でもあるあたしの魔力が、一時的に高まった証だった。
 マルスが邪神ダ=ズールと戦いを始めれば、あたしたちの世界よりも先にエレロイダ自体が崩壊するかもしれない。
 そのときには〝禁忌の扉〟も消え失せて、元の世界へ絶対に帰れなくなっちゃう。いろんな意味で、早く急がなきゃ──。

「やっと立てる広さになってきた……うーっ、痛たたたた……腰と膝がもう限界……」

 すっかり固くなってしまった足腰をほぐすストレッチをしつつ、周囲を見まわす。
 ちょっとした街の広場ほどの空間。
 天井も縦横無尽に飛びまわれるくらいに高い。
 そして、床には血管が浮き出たダチョウの卵みたいな灰色の物体が直立して無数に転がっていた。
 嫌な予感しかしない。
 戦闘が不可避なイベントとしか思えない。
 不思議がって卵に近づいたら、即座に孵化して襲われるパターンでしょ絶対にこれ。

「こ、この先に進む道は……魔法円はどこよ……?」

 とりあえず、その場から一ミリも動かずに、移動魔法陣が放つ微弱な魔力を精神集中して探ってみる。

 あった。

 この空間の、卵が密集するど真ん中に。

 先手必勝で攻撃魔法を使って邪魔な卵を一掃しようかとも考えてはみたけれど、それだと魔法円も消し去っちゃうし……ほかに名案が思いつかない。やっぱり、このまま歩いていくしかなさそうだ。

「スーッ……ハァァァ……スーッ……ハァァァ……」

 胸に片手を添え、大きく深呼吸を繰り返して心の準備を整える。覚悟は決まった。

「……よし! 来るなら来なさいよ、モンスターども!」

 一歩一歩、不気味な卵に守られた魔法円へ近づいていく。少しでも卵が動いたら、この杖で手当たりしだいに叩き割ってやる!

 と、

 急に真上から伸びてきた一本の太い触手があたしの両腕ごと胴体を締めつけ、軽々と天井の高さまで持ち上げていった。

「こっちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい‼」

 次の瞬間、血管の浮き出た巨大なひとつ目のグロテスクな肉塊触手モンスターがあたしを見つめていた。

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