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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。
淫獣死すべし
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移動魔法陣の上に足をそろえ、深紅のあたたかな光の粒子に包まれたあたしは、いろいろと思い出深い藍色の空間へとふたたび戻ってきた。
ゆっくりと前へ進む。
この場所は、あのブタ野郎どもの巣窟でもある。ミメシスの力でパワーアップできたとはいえ、数では圧倒的に不利だし、魔力もなるべく温存して最下層にたどり着きたい。
でも、それから先はどうしよう……女神フリーディアの加護が受けられるのは四人まで。加勢したところで、真っ先にあたしがやられるに違いない。
あっ、そうだ。そのまえに〝ミメシス問題〟があったんだっけ。やっぱりあたしは、ラストダンジョンで死ぬ運命なのかな──。
「ブヒ? 人間の雌が、どうしてここにいるの?」
「──しまった!」
邪悪な気配がまったくしなくて、声をかけられるまで気づけなかった。急いで振り向いたけれど、ブタ野郎の大きな身体がどこにも見えない。
一瞬だけ幻聴かと思ったあたしのスカートの裾を、誰かがグイグイと引っ張る。下を向くのと同時に、ゴールデンオークの子供と目が合った。
「ねえねえ、ひょっとして迷子?」
その姿は同じブタ野郎でも、全然似ても似つかない。
くりっとした真っ黒い両目は丸いボタンのようで、金色に輝く肌とちっちゃくて小太りな体型もあってか、クマさんのぬいぐるみにつうずる愛らしさを感じられた。
ギュッて、抱きしめたくなったりまではしないけど、見てくれだけはまあまあ可愛いゴールデンミニオーク。それでも一応、相手はモンスターだし、ブタ野郎だし、絶対に油断はならない。
『この魔物は、豚人族の子供だな。ロア、貞操帯はつけているか? こいつらは集団で行動をする淫獣だ。捕まれば、確実に孕まされるぞ』
「貞操帯って……そんなモノつけて冒険するわけないでしょ!」
『なら、殺せ』
「ええっ!? まだ子供じゃないのよ!」
『仲間を呼ばれたら面倒だ。ダ=ズール様がおられる最深部・終焉の起源まで道程はまだ長いぞ? 遠慮なく殺せ』
「なんか、さりげなく新しい情報を寄越されたけど……でもねミメシス、この子からはまだ邪気が感じられないし、こっちが先に逃げればいいんじゃないかな。あたしも、できるだけ戦闘はさけたいしさ」
「さっきから、なにをひとりでおしゃべりしてるの? もしかして頭がおかしいから、エレロイダまでひとりで来ちゃったの?」
「──!? ぐぬぬ……!」
まさかこのあたしが、ゴールデンオークの子供に正気を疑われるなんて。ひとりぼっちになってから、本当にいろんな経験を(ほとんどが悲惨なヤツだけど)している。
なんだか段々と、マルスの最低野郎をもう一度この手でひっぱたいてやりたい気分になってきた。ううん、今度はグーで百発くらい殴ってやる。
「へぇー、スカートの中って、こうなってるんだね」
「みゃ?」
気がつけば、いつの間にかゴールデンミニオークは掴んでいた裾を持ち上げて、あたしの最高級シルクの下着をガン見しやがっていた。
はい、殺す。
絶対に殺す。
おまえが子供でも極刑に処す。
『地獄の業火よ……豊沃の大地を突き破り、我の前に立ち塞がるブタ野郎を……もとい、壁を燃やし尽くせ……』
「ブヒッ?」
『煉獄猛火炸裂魔法‼』
ぶちギレたあたしの炎属性の攻撃魔法が、いつにも増して威力を発揮し、辺り一面を焼き尽くさんばかりに燃えさかる。多分、ミメシスの力の影響だろう。
「ブヒィィィィィィィン!」
ほどなくして、丸焼きとなったゴールデンミニオークは、三万Gの金貨となってこの世から消え失せた。
無一文のあたしは、お家へ帰る費用として、腰ベルトのポーチに三万Gをしまった。
こんな小さなポーチでも、見掛け以上にかなりの容量がある。それは、このポーチだけに限らず鞄類全般にも言えて、どう考えても入りっこない大きな装備品もなぜか収まってしまうのだ。
これも世界の七不思議のひとつではあるけれど、とっても便利だから、とくに誰も研究をしてはいないし、今後も行われないだろう。
『ロア、魔物の気配が強くなってきたぞ。逃げきれるだけの脚力はありそうだが、階下へ向かう移動魔法陣に気配が集中している。どうやら最初の逃走劇で豚どもは学習したようだな』
「フフッ、それならそれで構わないわ。むしろ、ウェルカムよ」
『……なに?』
ミメシスの返事を待たずに、あたしは下に降りる魔法円をめざして進んでいた。これで通るのは二度目だし、記憶力は良いほうなので、この先も迷うことはない。
「天才黒魔導師のあたしが、ミメシスの力を得てさらに強くなれた。ゴールデン豚野郎の千匹や一万匹、あっという間に全滅させてみせるわよ。まあ、一万匹はちょっと無理だけど」
『勘違いするな。あくまでも一時的に我の力を貸しているだけだ。それを忘れて、無闇に魔力を使わないでもらおうか』
「えーっ、ミメシスのケチぃー」
『ケチではない。さあ、急げ。本当に千匹ぐらいなら集まるぞ』
「もう、冗談はやめてよ……ね……」
角を曲がった途端、千匹とまでは言わないけど、五百匹以上のゴールデンオークが一斉にあたしの顔を見た。マジでキモ過ぎるその光景に、思わず頬っぺたが引きつる。
「ブッヒッヒッ。今度は逃がさないぜ、ベイビー」
「いちばん乗りはこのオイラだ!」
「ブヒッ!? 待ちやがれっ! オイラが先だ!」
「いいや、オイラだ!」
「オイラが先だぞ!」
なんか知らないけれど、勝手に豚野郎軍団が仲間割れを始めた。その隙にあたしは、炎属性の中級グループ攻撃魔法(ミメシスの力で威力が最上級魔法と遜色なかった)の詠唱を済ませてこれを撃破。
香ばしい肉の焼けるにおいのなかをさらに進めば、今度も百匹くらいのゴールデンオークがあたしに向かって、あちらこちらから全速力で走ってくる。って、どんだけいるのよ!?
『火の揺らめきにくべるのは、愚かなる魂と肉体の(以下省略)──杖の先から炎が長く伸びてグルンとまわって敵を一掃するそれなりに高度な攻撃魔法‼』
勢いよく放射された火炎があたしを主軸に大きな円を描き、迫り来る金色の邪悪な群れを次々に火ダルマにしてみせた。うーん、快感……♡
「ブヒィィィィィィィン!?」
「熱ちちちちちちちちッ!」
「うぎゃあああああ!? オイラの身体が丸焼けになっちまうううう!」
床の上で炎に包まれて無様に転げまわる巨体を尻目に、あたしは颯爽と走った。
やがてたどり着いたのは、血文字がところどころ消えかかった魔法円。このまま乗っかったら、またクリスタルドラゴンの巣に飛ばされちゃうのかな?
「あのね、ミメシス」
『わかっている。その魔法円に向けて片手を前に突き出せ』
「えっ? こ、こう?」
言われるがまま、右手のひらを向ける。すると突然、床の血文字が妖しく輝きを増し、欠損して不格好になっていた幾何学図形は元通り綺麗に戻っていった。
「わおっ!」
『これで問題なく階下へ降りれるはずだ』
慎重に足をそろえて移動魔法陣の上に乗る。
ここから先は、初めての場所。
(マルスたちはもういないんだろうけど、今頃どこまで降りていったのかな。順調に進めてればいいけど……)
そんなことを考えていたら、胸がほんの少しだけ締めつけられる気がした。
ゆっくりと前へ進む。
この場所は、あのブタ野郎どもの巣窟でもある。ミメシスの力でパワーアップできたとはいえ、数では圧倒的に不利だし、魔力もなるべく温存して最下層にたどり着きたい。
でも、それから先はどうしよう……女神フリーディアの加護が受けられるのは四人まで。加勢したところで、真っ先にあたしがやられるに違いない。
あっ、そうだ。そのまえに〝ミメシス問題〟があったんだっけ。やっぱりあたしは、ラストダンジョンで死ぬ運命なのかな──。
「ブヒ? 人間の雌が、どうしてここにいるの?」
「──しまった!」
邪悪な気配がまったくしなくて、声をかけられるまで気づけなかった。急いで振り向いたけれど、ブタ野郎の大きな身体がどこにも見えない。
一瞬だけ幻聴かと思ったあたしのスカートの裾を、誰かがグイグイと引っ張る。下を向くのと同時に、ゴールデンオークの子供と目が合った。
「ねえねえ、ひょっとして迷子?」
その姿は同じブタ野郎でも、全然似ても似つかない。
くりっとした真っ黒い両目は丸いボタンのようで、金色に輝く肌とちっちゃくて小太りな体型もあってか、クマさんのぬいぐるみにつうずる愛らしさを感じられた。
ギュッて、抱きしめたくなったりまではしないけど、見てくれだけはまあまあ可愛いゴールデンミニオーク。それでも一応、相手はモンスターだし、ブタ野郎だし、絶対に油断はならない。
『この魔物は、豚人族の子供だな。ロア、貞操帯はつけているか? こいつらは集団で行動をする淫獣だ。捕まれば、確実に孕まされるぞ』
「貞操帯って……そんなモノつけて冒険するわけないでしょ!」
『なら、殺せ』
「ええっ!? まだ子供じゃないのよ!」
『仲間を呼ばれたら面倒だ。ダ=ズール様がおられる最深部・終焉の起源まで道程はまだ長いぞ? 遠慮なく殺せ』
「なんか、さりげなく新しい情報を寄越されたけど……でもねミメシス、この子からはまだ邪気が感じられないし、こっちが先に逃げればいいんじゃないかな。あたしも、できるだけ戦闘はさけたいしさ」
「さっきから、なにをひとりでおしゃべりしてるの? もしかして頭がおかしいから、エレロイダまでひとりで来ちゃったの?」
「──!? ぐぬぬ……!」
まさかこのあたしが、ゴールデンオークの子供に正気を疑われるなんて。ひとりぼっちになってから、本当にいろんな経験を(ほとんどが悲惨なヤツだけど)している。
なんだか段々と、マルスの最低野郎をもう一度この手でひっぱたいてやりたい気分になってきた。ううん、今度はグーで百発くらい殴ってやる。
「へぇー、スカートの中って、こうなってるんだね」
「みゃ?」
気がつけば、いつの間にかゴールデンミニオークは掴んでいた裾を持ち上げて、あたしの最高級シルクの下着をガン見しやがっていた。
はい、殺す。
絶対に殺す。
おまえが子供でも極刑に処す。
『地獄の業火よ……豊沃の大地を突き破り、我の前に立ち塞がるブタ野郎を……もとい、壁を燃やし尽くせ……』
「ブヒッ?」
『煉獄猛火炸裂魔法‼』
ぶちギレたあたしの炎属性の攻撃魔法が、いつにも増して威力を発揮し、辺り一面を焼き尽くさんばかりに燃えさかる。多分、ミメシスの力の影響だろう。
「ブヒィィィィィィィン!」
ほどなくして、丸焼きとなったゴールデンミニオークは、三万Gの金貨となってこの世から消え失せた。
無一文のあたしは、お家へ帰る費用として、腰ベルトのポーチに三万Gをしまった。
こんな小さなポーチでも、見掛け以上にかなりの容量がある。それは、このポーチだけに限らず鞄類全般にも言えて、どう考えても入りっこない大きな装備品もなぜか収まってしまうのだ。
これも世界の七不思議のひとつではあるけれど、とっても便利だから、とくに誰も研究をしてはいないし、今後も行われないだろう。
『ロア、魔物の気配が強くなってきたぞ。逃げきれるだけの脚力はありそうだが、階下へ向かう移動魔法陣に気配が集中している。どうやら最初の逃走劇で豚どもは学習したようだな』
「フフッ、それならそれで構わないわ。むしろ、ウェルカムよ」
『……なに?』
ミメシスの返事を待たずに、あたしは下に降りる魔法円をめざして進んでいた。これで通るのは二度目だし、記憶力は良いほうなので、この先も迷うことはない。
「天才黒魔導師のあたしが、ミメシスの力を得てさらに強くなれた。ゴールデン豚野郎の千匹や一万匹、あっという間に全滅させてみせるわよ。まあ、一万匹はちょっと無理だけど」
『勘違いするな。あくまでも一時的に我の力を貸しているだけだ。それを忘れて、無闇に魔力を使わないでもらおうか』
「えーっ、ミメシスのケチぃー」
『ケチではない。さあ、急げ。本当に千匹ぐらいなら集まるぞ』
「もう、冗談はやめてよ……ね……」
角を曲がった途端、千匹とまでは言わないけど、五百匹以上のゴールデンオークが一斉にあたしの顔を見た。マジでキモ過ぎるその光景に、思わず頬っぺたが引きつる。
「ブッヒッヒッ。今度は逃がさないぜ、ベイビー」
「いちばん乗りはこのオイラだ!」
「ブヒッ!? 待ちやがれっ! オイラが先だ!」
「いいや、オイラだ!」
「オイラが先だぞ!」
なんか知らないけれど、勝手に豚野郎軍団が仲間割れを始めた。その隙にあたしは、炎属性の中級グループ攻撃魔法(ミメシスの力で威力が最上級魔法と遜色なかった)の詠唱を済ませてこれを撃破。
香ばしい肉の焼けるにおいのなかをさらに進めば、今度も百匹くらいのゴールデンオークがあたしに向かって、あちらこちらから全速力で走ってくる。って、どんだけいるのよ!?
『火の揺らめきにくべるのは、愚かなる魂と肉体の(以下省略)──杖の先から炎が長く伸びてグルンとまわって敵を一掃するそれなりに高度な攻撃魔法‼』
勢いよく放射された火炎があたしを主軸に大きな円を描き、迫り来る金色の邪悪な群れを次々に火ダルマにしてみせた。うーん、快感……♡
「ブヒィィィィィィィン!?」
「熱ちちちちちちちちッ!」
「うぎゃあああああ!? オイラの身体が丸焼けになっちまうううう!」
床の上で炎に包まれて無様に転げまわる巨体を尻目に、あたしは颯爽と走った。
やがてたどり着いたのは、血文字がところどころ消えかかった魔法円。このまま乗っかったら、またクリスタルドラゴンの巣に飛ばされちゃうのかな?
「あのね、ミメシス」
『わかっている。その魔法円に向けて片手を前に突き出せ』
「えっ? こ、こう?」
言われるがまま、右手のひらを向ける。すると突然、床の血文字が妖しく輝きを増し、欠損して不格好になっていた幾何学図形は元通り綺麗に戻っていった。
「わおっ!」
『これで問題なく階下へ降りれるはずだ』
慎重に足をそろえて移動魔法陣の上に乗る。
ここから先は、初めての場所。
(マルスたちはもういないんだろうけど、今頃どこまで降りていったのかな。順調に進めてればいいけど……)
そんなことを考えていたら、胸がほんの少しだけ締めつけられる気がした。
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