7 / 55
新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。
挿話 ブレイキングナイト
しおりを挟む
頭痛と眩暈がする。
さすがのあたしでも、十二時間ぶっ通しの自習で疲れきってしまったようだ。
「フゥゥ……」
ため息とともに、勉強中にだけ掛けている眼鏡を外す。
これは賢人の眼鏡といって、装備すれば知力と集中力が大幅に増加する装飾品だ。それでも、かなりの無茶をしたから、左右の目頭を指先で押さえて眼精疲労のツボをマッサージする。
マホガニー材の学習机の上にひろげられていたのは、王立図書館で秘蔵されている本来は持ち出し禁止の古文書が二冊、それと、インクが乾ききっていない書きかけの論説文にオリジナルと比べて個性的な魔法円や図解が記された新品のノート。
その古文書には、偉大なる大先達が遺してくれた禁断の秘法や錬金術の知識が惜し気もなく掲載されていて、その不完全な部分を最新の技術と魔術で再構築し、導き出したあたしなりの見解をノートにずっと書き溜めていた。
痺れて思うように動かない右手で、近くにあった古文書を閉じる。〝パスン〟て音が、なんだかオナラみたいに聞こえた。
「はは、ははは……あははははははは!」
超ウケる。笑いが止まらない。
疲労が頂点に達して、知らぬ間に意識が危険な領域に迷い込んでいた。
──コンコン、コンコン。
不意に叩かれたドアの音で正気に返る。
「……ロアお嬢様、入ってもよろしいですか?」
いつものように、メイドのセーリャがあたしの耳もとでささやいた。こうして彼女は毎回なぜか、主人の許可の有り無しを完全無視して部屋に侵入してくる。大盗賊も真っ青の超人的能力だ。
「みゃ? ねえセーリャ、このにおいって……バッファロー肉のステーキ?」
「いいえ。セーリャ特製のチョコレート・スプラッター・マウンテンです♪」
天使のような笑顔とともに目の前に差し出されたのは、愛らしい白磁のお皿に盛られた物騒なネーミングの茶色い物体。恐らく、甘い食べ物なんだろうけれど、なぜかたまにピクンて脈打つ。あたしの生存本能が〝食べちゃダメ〟って、教えてくれた。
「うぐっ…………あの……深夜に甘いモノを食べちゃ、その……太っちゃう……し……残念だなぁ!」
「うふふ♡ ロアお嬢様、これだけ長時間脳ミソをフル回転されていたんですから、多少の糖分や糖質はノーカウントになるんですよ?」
「……えっ、そうなの?」
「はい♪」
あたしは、魔法関連の知識には自信があるけれど、それ以外の知識は人並み程度しか持ち合わせていない。けれども、絶対に食べちゃダメって、あたしの守護霊が直接脳に語りかけてくる。
「あのね、セーリャ…………せっかく作ってくれたのに悪いんだけど、あたし食べたく──」
──ガッシャーン!
突然、チョコレートなんちゃらが盛られていたお皿が床に落ちて割れる。
と、同時に、チョコレートなんちゃらが走り去り、そのまま大きく飛び跳ねて窓を突き破り逃げた。
さすがのあたしでも、十二時間ぶっ通しの自習で疲れきってしまったようだ。
「フゥゥ……」
ため息とともに、勉強中にだけ掛けている眼鏡を外す。
これは賢人の眼鏡といって、装備すれば知力と集中力が大幅に増加する装飾品だ。それでも、かなりの無茶をしたから、左右の目頭を指先で押さえて眼精疲労のツボをマッサージする。
マホガニー材の学習机の上にひろげられていたのは、王立図書館で秘蔵されている本来は持ち出し禁止の古文書が二冊、それと、インクが乾ききっていない書きかけの論説文にオリジナルと比べて個性的な魔法円や図解が記された新品のノート。
その古文書には、偉大なる大先達が遺してくれた禁断の秘法や錬金術の知識が惜し気もなく掲載されていて、その不完全な部分を最新の技術と魔術で再構築し、導き出したあたしなりの見解をノートにずっと書き溜めていた。
痺れて思うように動かない右手で、近くにあった古文書を閉じる。〝パスン〟て音が、なんだかオナラみたいに聞こえた。
「はは、ははは……あははははははは!」
超ウケる。笑いが止まらない。
疲労が頂点に達して、知らぬ間に意識が危険な領域に迷い込んでいた。
──コンコン、コンコン。
不意に叩かれたドアの音で正気に返る。
「……ロアお嬢様、入ってもよろしいですか?」
いつものように、メイドのセーリャがあたしの耳もとでささやいた。こうして彼女は毎回なぜか、主人の許可の有り無しを完全無視して部屋に侵入してくる。大盗賊も真っ青の超人的能力だ。
「みゃ? ねえセーリャ、このにおいって……バッファロー肉のステーキ?」
「いいえ。セーリャ特製のチョコレート・スプラッター・マウンテンです♪」
天使のような笑顔とともに目の前に差し出されたのは、愛らしい白磁のお皿に盛られた物騒なネーミングの茶色い物体。恐らく、甘い食べ物なんだろうけれど、なぜかたまにピクンて脈打つ。あたしの生存本能が〝食べちゃダメ〟って、教えてくれた。
「うぐっ…………あの……深夜に甘いモノを食べちゃ、その……太っちゃう……し……残念だなぁ!」
「うふふ♡ ロアお嬢様、これだけ長時間脳ミソをフル回転されていたんですから、多少の糖分や糖質はノーカウントになるんですよ?」
「……えっ、そうなの?」
「はい♪」
あたしは、魔法関連の知識には自信があるけれど、それ以外の知識は人並み程度しか持ち合わせていない。けれども、絶対に食べちゃダメって、あたしの守護霊が直接脳に語りかけてくる。
「あのね、セーリャ…………せっかく作ってくれたのに悪いんだけど、あたし食べたく──」
──ガッシャーン!
突然、チョコレートなんちゃらが盛られていたお皿が床に落ちて割れる。
と、同時に、チョコレートなんちゃらが走り去り、そのまま大きく飛び跳ねて窓を突き破り逃げた。
33
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる