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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。
魔力が無いっ!
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「あれっ? ここって、もしかして……」
呆然と立ち尽くすあたしの姿が、鏡面の壁に映る。
やっぱり魔法円が不完全だったからか、ひとつ前のフロアには戻れなかった。
その代わり、ふたつ前のフロアに戻るという微妙な奇跡が起きていた。きっとこれは、女神フリーディアがひとりぼっちで頑張るあたしにくれた、ささやかなご褒美に違いない──と、ポジティブに思うことにする。
「やっぱり、あそこじゃん!」
ここのフロアはすべてが鏡で出来ているため、床はツルツルと滑ってしまい、歩くのにとても難儀をした記憶が……あるだけじゃなくて、なにもしなくてもスカートの中がバッチリと見えちゃうのだ。
マルスたちと行動をともにしていたとき、スカートの裾を押さえるのに片手が必然的に塞がってしまい、戦闘がとても面倒なことになっていた。
ちなみに、あたしもプリシラも、穿いているスカートの着丈はかなり短い。その理由に特別な意味はないけれど、あたしたちが住む世界では、女性の衣服のほうがなぜか露出部分がとっても多い。これもまた、世界七不思議のひとつとして研究が進められているらしい。
「あー……まあ、今はひとりだけだし、パンツが見えちゃっても気にすることなんてないか!」
ひとりきりの淋しさからか、なんだか独り言が多くなった気がする。
とりあえず、周囲に魔物の気配が無いことを確認してから、魔力回復剤が入った小瓶をポーチから取り──。
「みゃ? おかしいな……瓶が見つからない」
──出せなかった。
ひょっとして、さっきの〝連続玉っころ投げ〟で落としてしまったのかもしれない。
「ええっ……ちょ……ええっ……マジで勘弁してよ、もう……」
絶望のあまり、軽い頭痛と眩暈を覚え、その場でうずくまって泣き顔も伏せる。
暗黒騎士ヴァインとの戦いでも大量に魔力を消費していたし、クリスタルドラゴンを相手に超強力な禁忌の攻撃魔法まで使ったあたしの魔力は、中級魔法一回分くらいしか残ってはいなかった。小瓶の中身が数粒だけとはいえ、とても貴重な回復アイテムだったのである。
魔法が使えない黒魔導師なんて、ただの非力な物語の登場人物に過ぎない。滅入っていた心は、さらに深く、絶望の底にズブズブと沈み込む。
「……もしもーし、そこの可愛くて美人のお姉さーん。バッチリ下着が見えてますよぉー」
「うん……知ってるから大丈夫、ありがとう。とくに前半部分なんて、生まれる前からよく知ってるし………………って、誰よ!?」
急に話しかけられた驚きと会話内容から、ほんの一瞬だけ憎きあのブタ野郎どもの顔を思い出してしまった。ビックリして伏せていた顔を上げると、目の前に立っていたのは──。
「ぷ、プリシラ!?」
「へへー♪ 探しちゃったゾ♡」
「やだ、えっ、嘘でしょ!? なんでなんで!?」
「ロアを愛してるから……かな?」
ウインクをした笑顔の唇から、桃色の舌先を愛らしくちょこっとだけ出してみせるこの仕草。何度見ても慣れないし、軽くイラッとする。
無言のままでいるあたしに、前屈みになったプリシラがなにも言わずに手を差し出したので、その手を掴んで立ち上がる。
「さあ、ロア……みんなが待ってるよ」
「えっ? みんなって、プリシラしかいないじゃん」
プリシラが不敵に笑って応えた途端、辺りに邪悪な気が漂いはじめた。
次第に邪悪な気配が強まり、プリシラからも、いつもとは違う雰囲気が感じられた。
それを例えるなら、夏の風に流れる雲が、咲き誇る向日葵畑に陽射しを遮って暗い影を落とすような──ほんの少しだけ、胸が切なくざわついてしまうような、うまく言葉では説明ができないけれど、そういった印象を受けてしまった。
「うふふふ……アハハハハハ!」
「プリシラ? どうしたの? なんか変だよ?」
やっぱり、なんだか様子がおかしい。
高らかに笑い声を上げる彼女の美しい深緑の双眸が鏡面世界のまばゆい輝きを妖しげに照り返した頃、鏡の壁や床の中から人の輪郭をした影が次々と際限なく浮かび上がり、あたしたちふたりの元へゆっくりと向かって歩いてくる。
「ゲッ!? 一度にこんな数が出てくるなんて、どうなってるのよ……もう!」
見るからに倒すのが面倒くさそうな、ゴースト系モンスター軍団の襲来。
みんなと一緒のときには、同じゴースト系でも、大きな鎌を持った赤紫色の髑髏の死神みたいなのが何匹か空を漂いながら襲ってきた。しかも、そいつらには物理攻撃がほとんど効かなくて、あたしやプリシラが魔法を駆使してなんとか倒せた。
けれど、今回は魔法をほとんど使えない。プリシラだって、そんなに魔力が残っているとは思えなかった。
「アハハ……ほうら、ちゃんと来たでしょ?」
「ちょっと、プリシラ! 呑気に笑ってないで、早くここから逃げなきゃ──」
なぜか、なにも行動を起こす気配がないプリシラ。むしろ、この状況を楽しんでいるようにさえ見える。
そんな彼女の手首を掴んでこの場から逃げようとしたけれど、すぐにそれをかわされてしまった。
「もう、ロアったら。逃げたりしちゃダメだよ? わたしたちは、戦うためにエレロイダへやって来たんじゃない」
すっかりと笑うことをやめたプリシラが、あたしを射抜くように冷たく見つめる。
「そう……だけどさ……こんな魔物の大群、ふたりだけじゃ絶対に無理だし。あっ、そうだ! ねえ、マルスたちは? あのバカ、どこでなにをやってるのよ?」
「あれあれ? 自分を見捨てたマルスに助けてもらうんだ? 言っとくけど、わたしだからロアを助けに戻ってきたんだよ? わたしは仲間を見殺しにしないんだから」
「う……うん、ありがとう……でも」
あたしの顔をのぞき込んで近づくプリシラの肩ごしに、大勢の黒い人影モンスターが確認できた。
こんなときに言い争ってる場合じゃない。
逃げるにしても、まわりを取り囲まれてしまっているから、もう無理だった。
呆然と立ち尽くすあたしの姿が、鏡面の壁に映る。
やっぱり魔法円が不完全だったからか、ひとつ前のフロアには戻れなかった。
その代わり、ふたつ前のフロアに戻るという微妙な奇跡が起きていた。きっとこれは、女神フリーディアがひとりぼっちで頑張るあたしにくれた、ささやかなご褒美に違いない──と、ポジティブに思うことにする。
「やっぱり、あそこじゃん!」
ここのフロアはすべてが鏡で出来ているため、床はツルツルと滑ってしまい、歩くのにとても難儀をした記憶が……あるだけじゃなくて、なにもしなくてもスカートの中がバッチリと見えちゃうのだ。
マルスたちと行動をともにしていたとき、スカートの裾を押さえるのに片手が必然的に塞がってしまい、戦闘がとても面倒なことになっていた。
ちなみに、あたしもプリシラも、穿いているスカートの着丈はかなり短い。その理由に特別な意味はないけれど、あたしたちが住む世界では、女性の衣服のほうがなぜか露出部分がとっても多い。これもまた、世界七不思議のひとつとして研究が進められているらしい。
「あー……まあ、今はひとりだけだし、パンツが見えちゃっても気にすることなんてないか!」
ひとりきりの淋しさからか、なんだか独り言が多くなった気がする。
とりあえず、周囲に魔物の気配が無いことを確認してから、魔力回復剤が入った小瓶をポーチから取り──。
「みゃ? おかしいな……瓶が見つからない」
──出せなかった。
ひょっとして、さっきの〝連続玉っころ投げ〟で落としてしまったのかもしれない。
「ええっ……ちょ……ええっ……マジで勘弁してよ、もう……」
絶望のあまり、軽い頭痛と眩暈を覚え、その場でうずくまって泣き顔も伏せる。
暗黒騎士ヴァインとの戦いでも大量に魔力を消費していたし、クリスタルドラゴンを相手に超強力な禁忌の攻撃魔法まで使ったあたしの魔力は、中級魔法一回分くらいしか残ってはいなかった。小瓶の中身が数粒だけとはいえ、とても貴重な回復アイテムだったのである。
魔法が使えない黒魔導師なんて、ただの非力な物語の登場人物に過ぎない。滅入っていた心は、さらに深く、絶望の底にズブズブと沈み込む。
「……もしもーし、そこの可愛くて美人のお姉さーん。バッチリ下着が見えてますよぉー」
「うん……知ってるから大丈夫、ありがとう。とくに前半部分なんて、生まれる前からよく知ってるし………………って、誰よ!?」
急に話しかけられた驚きと会話内容から、ほんの一瞬だけ憎きあのブタ野郎どもの顔を思い出してしまった。ビックリして伏せていた顔を上げると、目の前に立っていたのは──。
「ぷ、プリシラ!?」
「へへー♪ 探しちゃったゾ♡」
「やだ、えっ、嘘でしょ!? なんでなんで!?」
「ロアを愛してるから……かな?」
ウインクをした笑顔の唇から、桃色の舌先を愛らしくちょこっとだけ出してみせるこの仕草。何度見ても慣れないし、軽くイラッとする。
無言のままでいるあたしに、前屈みになったプリシラがなにも言わずに手を差し出したので、その手を掴んで立ち上がる。
「さあ、ロア……みんなが待ってるよ」
「えっ? みんなって、プリシラしかいないじゃん」
プリシラが不敵に笑って応えた途端、辺りに邪悪な気が漂いはじめた。
次第に邪悪な気配が強まり、プリシラからも、いつもとは違う雰囲気が感じられた。
それを例えるなら、夏の風に流れる雲が、咲き誇る向日葵畑に陽射しを遮って暗い影を落とすような──ほんの少しだけ、胸が切なくざわついてしまうような、うまく言葉では説明ができないけれど、そういった印象を受けてしまった。
「うふふふ……アハハハハハ!」
「プリシラ? どうしたの? なんか変だよ?」
やっぱり、なんだか様子がおかしい。
高らかに笑い声を上げる彼女の美しい深緑の双眸が鏡面世界のまばゆい輝きを妖しげに照り返した頃、鏡の壁や床の中から人の輪郭をした影が次々と際限なく浮かび上がり、あたしたちふたりの元へゆっくりと向かって歩いてくる。
「ゲッ!? 一度にこんな数が出てくるなんて、どうなってるのよ……もう!」
見るからに倒すのが面倒くさそうな、ゴースト系モンスター軍団の襲来。
みんなと一緒のときには、同じゴースト系でも、大きな鎌を持った赤紫色の髑髏の死神みたいなのが何匹か空を漂いながら襲ってきた。しかも、そいつらには物理攻撃がほとんど効かなくて、あたしやプリシラが魔法を駆使してなんとか倒せた。
けれど、今回は魔法をほとんど使えない。プリシラだって、そんなに魔力が残っているとは思えなかった。
「アハハ……ほうら、ちゃんと来たでしょ?」
「ちょっと、プリシラ! 呑気に笑ってないで、早くここから逃げなきゃ──」
なぜか、なにも行動を起こす気配がないプリシラ。むしろ、この状況を楽しんでいるようにさえ見える。
そんな彼女の手首を掴んでこの場から逃げようとしたけれど、すぐにそれをかわされてしまった。
「もう、ロアったら。逃げたりしちゃダメだよ? わたしたちは、戦うためにエレロイダへやって来たんじゃない」
すっかりと笑うことをやめたプリシラが、あたしを射抜くように冷たく見つめる。
「そう……だけどさ……こんな魔物の大群、ふたりだけじゃ絶対に無理だし。あっ、そうだ! ねえ、マルスたちは? あのバカ、どこでなにをやってるのよ?」
「あれあれ? 自分を見捨てたマルスに助けてもらうんだ? 言っとくけど、わたしだからロアを助けに戻ってきたんだよ? わたしは仲間を見殺しにしないんだから」
「う……うん、ありがとう……でも」
あたしの顔をのぞき込んで近づくプリシラの肩ごしに、大勢の黒い人影モンスターが確認できた。
こんなときに言い争ってる場合じゃない。
逃げるにしても、まわりを取り囲まれてしまっているから、もう無理だった。
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