ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴

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新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

乙女の危機!

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 なんとか無傷でひとりぼっちの初バトルを終えられたけど、ほんの少しだけ腰が抜けてしまった。
 装備している武器──雷鳴の杖を支えにして立ち上がると、時を同じくして、ゴールデンオークの死体がうっすらと白い煙を上げて徐々に消えていく。
 やがて、死体が消え去ったあとに残されたのは、両手に持ちきれないほどの大量の金貨。その金額はざっと、十万ガネスはあるだろう。魔物を一匹倒しただけなのに、これは破格の金額である。

 不思議な話だけど、あたしたちの住む世界では、魔物を倒すと経験値やお金が(ごく稀にアイテムも)手に入る。この現象についての論文や仮説は多数あるけれど、いまだに解明されてはいない、世界の七不思議のひとつだ。
 ちなみに、冒険の最初の頃、あたしとプリシラがビキニの水着姿で酒場のアルバイトをしたときの一晩の賃金は、ふたり分を足しても五千ガネスもなかった。

(そういえば、あの水着……プリシラは貰って帰ったみたいだけど、あれ以来一度も着てるのを見たことがないのよね……)

 いったいどこで、誰にお披露目をしたのやら。
 新たなストレスを感じつつ、足もとに転がる大金を見つめていると、周囲にふたたび邪悪な気配が漂いはじめる。

「えっ、やだ…………もう次が出てくるの?」

 不安な気持ちで辺りをキョロキョロ見まわす。
 まだ魔物の姿はどこにも見えない。逃げるなら、今のうちだ。
 けれども、この大量の金貨を持ち歩くには荷物になるし、そもそも、あたしの実家の金庫には不足の事態に備えて八億ガネスが常時収められている。もったいないけれど、あきらめて置いていくしかない。

「でも……」ふと、思う。

 パーティーを追い出された現在のあたしの所持金は、ゼロガネスだった。
 無事にラストダンジョンを脱出して元の世界に戻ったとしても、そこからうちへ帰るには相当な距離が──旅費がかかるはずだ。
 もう、水着姿のアルバイトはしたくない。
 かといって、こんなに重い大量の金貨を持ち歩いて逃げだせる自信もなかった。

「ちょっとだけなら、なんとか大丈夫よね」

 そうつぶやいてから、十万ガネスに近づき、前屈みになる。
 ゆっくりと、右手を伸ばす。
 そして、突き出されたあたしのお尻を、何者かがいやらしい手つきで撫でまわした。

「──きゃあああっ!?」

 驚いたあたしは、伸ばした右手でそのままお尻を押さえて仰け反り、慌てて振り返る。

「ウェッヘッヘ……エレロイダに若いメスの人間が現れるなんて、夢じゃねえだろうな? まあ、オイラは夢でもエッチしちゃうけどね♪」

 またかよ。
 豚人族の頭は単細胞なのか、同じ思考パターンのセリフをほざく、ゴールデンオークがもう一匹現れた。
 今度は速攻で逃げだす。
 自分史上最高のスタートダッシュだった。

「ブヒッ!? 待ちやがれぇ!」

 そんなことを言われて待つヤツなんて、誰もいない。
 移動魔法陣から距離がどんどん離れてしまうけれど、さっきのように運よく毒針は命中しないと断言ができた。
 なぜなら、あの攻撃は二~三十回くらいに一回しか当たらない、ハイリスク・ハイリターンの一撃必殺技だったからである。

「ハァ、ハァ、ハァ……こっ、これだけ距離が空けば、魔法詠唱の時間も余裕……げっ!?」

 すると突然、別のゴールデンオークが数メートル先にもう一匹現れて、あたしの行く手を遮る。

「ウェッヘッヘ……エレロイダに若いメスの人間が現れるなんて、夢じゃねえだろうな? まあ、オイラは夢でもエッチしちゃうけどね♪」
「ひぃー!」

 なんとか捕まらないよう、さらに速度を上げて横へ大きく逸れ、二匹のゴールデンオークから──。

「ウェッヘッヘ……エレロイダに若いメスの人間が現れるなんて、夢じゃねえだろうな? まあ、オイラは夢でも(以下省略)」

 またもう一匹、現れやがった!

「ウェッヘッヘ……エレロイダに若いメスの人間が(以下省略)」

 なっ……!?

「ウェッヘッヘ(※以下同文)」
「ウェッヘッヘ(※以下同文)」
「ウェッヘッヘ(※以下同文)」
「ちょ、ちょっとおおおお! 何匹ここにいるのよぉぉぉぉぉぉっ‼」

 気がつけば、百匹近いゴールデンオークが群れを成してあたしを追いかけまわす地獄絵図が完成していた。
 こんなに走ってばかりじゃ、魔法の詠唱なんて不可能だ。
 ううん、やろうと思えば走りながら唱えられるかもしれないけれど、成功するより舌を噛む確率のほうが遥かに高い。それに、走ることに集中しなきゃ、運動が苦手なあたしは、あっという間に捕まってブタ野郎どもの餌食にされてしまう。

「ハァ、ハァ、ハァ……も、もう……走れ……な……」

 体力の限界が近づいたそのとき、次のフロアへ進む魔法円が見えてくる。
 このまま飛び込めば助かるけれど、その先でマルスたちと鉢合せでもすれば、絶対にあとを追いかけてきたと思われるに違いない。
 それは嫌だ。けれど、ブタ野郎に陵辱されるのも嫌だ。
 自尊心プライドと恐怖心の狭間で葛藤しつつ、残りの力を振り絞って無意識に魔法円をめざす。答えなら、とっくに出ていた。
 走る速度を緩めないまま、血液でえがかれた魔法円に飛び乗る。ツルッと滑って、文字と紋様のいくつかが半分ほど消えたけど、今さらもう、どうしようもない。

「お願い、発動して!」

 ほんのわずかな間をおいてから、まるでそれぞれ意思があるかのように、無数に舞い上がる深紅の光の粒子に包まれたあたしの身体からだが、溶けるようにして縦長に伸びていく。

 ブゥゥゥゥゥン……シュポォォォッ!

 次の瞬間には、さっきまでとはまったく違う景色が涙で潤む視界一面に広がっていた。なんとか無事にテレポートが成功したようだ。

「……え? これって……全部……クリスタル?」

 それは、乳白色から蒼白いかがやきの明滅を穏やかにゆっくりと繰り返す、立派に育った水晶の群生地だった。
 不規則でありながらも、神秘的であざやかな原子レベルの世界が織り成す鉱物の造形美。

綺麗きれい……」

 ひとり佇み、思わず息をのんで感動する。
 なんて素晴らしいんだろう。その大きさを例えるなら、横たわって眠りにつくドラゴンの群れ……それほどまでに、雄大で荘厳な光景だった。

「うわぁぁぁぁ! すごい、すごい!」

 さっきまでのブタ野郎地獄を忘却の彼方かなたに忘れ去ったあたしは、水晶の塊に笑顔で駆け寄り、大きな突起部分をしっかりと掴んで触れてみる。
 摩訶不思議な光とぬくもりから、たしかな生命力が脈打つように伝わって感じられる。こうして触れていると、次第にボロボロになった身体と心が癒されていくようだ。
 でも、それは気のせいじゃなくて、実際に体力と魔力が微量だけれど回復することができた。水晶には神秘の力が宿るっていうし、きっと、その恩恵をわずかながら受けられたのかもしれない。

「このまま撫で続けたら、全回復できたりして」

 そんなスケベ根性を、誰に聞かせるわけでもなく口走りながら、今度は両手でクリスタルを撫で撫でする。

 ナデナデナデ……さわさわさわ……。

「なんだか、さっきよりも熱くなってきたけど……強くこすり過ぎたかな?」

 ナデナデナデ……さわさわさわ……。

「グルルル……ゴォフォォォ……」
「みゃ? なんの音かしらん?」

 かぜのような、獣の鳴き声のような奇妙で不穏な物音が聞こえてくる。それでもあたしは周囲を気にしつつ、両手を巧みに使って水晶の太くて立派な突起部分を撫でさすり続けた。

 ナデナデナデ……さわさわさわ……ナデナデ、さわさわ…………ビクン!

「ビクン?」
「グゥ、ガァァァァァァァァァァッ!!」
「ぎっ!? ひゃああぁぁあああぁああああぁぁ!? 動いてる、動いてる、水晶が動いてるううううッ!」

 突然の轟音とともに盛り上がる水晶のかたまり
 それはまるで、ドラゴンの形をした──ううん、水晶のドラゴンそのもの。あたしがずっと熱心に撫でさすっていたのは、クリスタルドラゴンのお腹の一部だった!

「グルルルッ……!」
「ガァフォォォォォォォォン!」
「アンギャアアアアアアアアアッ!!」

 鳴き声に呼応して、辺りの水晶のほとんど全部が次々と起き上がる。
 ここは、クリスタルドラゴンの巨大な巣だった。
 どうやらあたしは、魔法円の血文字を踏み消した影響で、とんでもない場所に飛ばされてしまったようだ。 
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