プリンセスソードサーガ

黒巻雷鳴

文字の大きさ
上 下
65 / 68
第三章 ~ぶらり馬車の旅 死の大地・マータルス篇~

シャーロット・アシュリン・クラウザー

しおりを挟む
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 グングンと上昇していく景色と身体。胃の内容物が逆流するのをなんとか堪える。それでも両腕は自由、まだ戦える。巨大鋏に捕らわれたアシュリンは、空間の裂け目を見上げた。
 その向う側に必ずいるはずであろう本体。聖剣クラウザーソードの力があれば、非力な自分でも一矢報えるはず──そう覚悟を決めてつるぎを構える。
 だが、アシュリンを捕らえた巨大鋏は持ち上げる動きを徐々に弱め、そして止まった。
 殺す気なら、とっくにできたはずだ。
 いったいこれからなにが起ころうとしているのか?
 アシュリンは臨戦態勢のまま、固唾を呑む。

『……貴様はここでなにをしている? マータルスに何用があって訪れた?』

 脳内に響く謎の声。
 一瞬なにがどうしたのか、理解がまったく追いつかずに言葉を失うアシュリンではあったが、すぐさま凛とした態度でその問いかけに答える。

「わたくしはシャーロット・アシュリン・クラウザー、リディアス国の王女。父王マグヌス・クラウザー十八世を救うため、この地に足を踏み入れた。おまえは、かの暗黒神バルカインか?」

 その返事は、しばらく間をおいてから返ってきた。

『哀れな姫君よ、どうやらその様子では、まだ己が何者かを知らぬようだな』
「なにっ? それは、どういう意味だ?」
『フフフッ……まあよい……いかにも、我が名はバルカイン。だが、暗黒の神などではない。リディアス国の姫とやら、どうかこのまま立ち去ってくれ。貴様と戦ってしまっては、デア=リディアやホビット族の小僧までを倒す力は残らんからな』
「……断る。ホビット族の英雄の末裔として、おまえを闇の世界へ退ける!」
『ホビット族の末裔だと?……ふむ……たしかに、あの小僧と同じ力も・・・・感じられる。そうか、どうやらかなりの時間ときがあれから過ぎているようだな』

 そう言い終えるや否や、巨大鋏がゆっくりと地上まで降ろされる。まさかとは思ったが、アシュリンは無事に解放された。
 一部始終を見守っていたレベッカも、何事が起きたのか理解できないでいた。

「……姫さま……姫さまッッッ!」

 ふと、我に返ったレベッカが叫びながら駆け寄るも、今のアシュリンに聞こえているのはバルカインの声だけだった。

『ならば、貴様と戦おう。呼べ、デア=リディアを。目覚めさせよ、己の本当の姿を……』

 異空間で迸る電流が、ついに雷となって地上まで降りそそぐ。次々に襲いかかる電撃はまるで意思があるかのように地を走り抜け駆け巡り、逃げ惑うロセアが油断した隙に、ソンドレとオルテガを繋いでいた縄を焼き切ってしまった。

「あ! 待て、おまえたちっ! 逃げるんじゃないっ!」

 当然ながら、待てと言われて待つ罪人などこの世に誰もいない。逃亡者のふたりは電撃をうまくけながら、バルカインのもとへと駆けていってしまった。

「バ、バルカイン様! 早く裁きの鉄槌を下してくださいませ! シャーロット王女もオーフレイムも軍人の小娘も、すべてあなた様の贄にございます!」

 ソンドレが長大な脚の前にひざまずき、両手も組んで大声で叫ぶ。それに対してオルテガはと言えば、空間の裂け目を睨みつけるように見上げていた。

「ええい、バルカイン! 遅いぞ、まだなのか!? 早く姿を現して、その力でリディアスを草木も生えぬ焼け野原にしてしまえッッッ!」

 だが、ふたりの言葉にバルカインはなにひとつ答えることはなかった。

「わたくしの……本当の……姿……」
「──姫さまッ! はぁ、はぁ、はぁ、ご……ご無事ですか……はぁ、はぁ、はぁ……」
「レベッカも逃げて」
「はぁ、はぁ、はぁ……はい?」
「ハルとドロシーを連れて、早くお逃げなさい」
「姫さま……」

 アシュリンの表情と声色は騎士団長のそれではなく、本来の姿であるシャーロット王女に戻っていた。それがなにを意味するのか、レベッカはすべてを察する。

「まさか、姫さまひとりで戦うつもりかよ!? 冗談じゃないぜ……相手は魔物なんかじゃない、神サマなんだぞ!?」
「だからこそ、偉大なる初代マグヌス王の子孫であるこのわたくしが戦うのです」
「なっ!?……だったらよぉ、あたしだって聖騎士レオンハルト・オーフレイムの子孫なんだ! 姫さまが戦うなら、あたしだって死ぬまで戦ってやらァ! それに、あのふたりだって最後まで戦う覚悟が──」

 尻尾を振り乱して叫ぶ興奮状態のレベッカは、ドロシーたちに向かって振り返る。が、ふたりはまだ気絶したまま地面に横たわっていた。

「お……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!」
「ありがとう、レベッカ。そうよね……わたくしたちは〈天使の牙〉。それこそが、本当のわたくしの姿!」

 凛々しい顔つきに戻ったシャーロット王女──否、アシュリンが、クラウザーソードを天高く掲げて声高らかに叫ぶ。

「我らは〈天使の牙〉! 正義の名のもとに悪を噛み砕く、女神デア=リディアの手によって解き放たれた聖なるけものなり!」

 かくして、少女騎士団とバルカインの最終決戦が幕を開けた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アネンサードの人々

buchi
ファンタジー
アネンサードとは、すでに滅びたと信じられている異能の人種の呼び名。教会は何百年もかけて彼らを追い詰め、彼らが生きた痕跡を抹殺した。そんなものはおとぎ話に過ぎないと。 中世の面影を色濃く残すその時代、国一番の公爵家の御曹司フリースラントは、自分の異能に疑問を持ち、伝説の人々の最期の足跡が残る街、レイビックを目指す旅に出る。 一国の滅びと復興、ヒロイズムと殺戮が混ざるダークファンタジー。主人公が巻き込まれていく運命の答えは最後まで読まないとわからない、起承転結のある物語です。約65万字。185話。男女向けは不明。 第二部では、フリースラントはレイビックで金山を見つけ大富豪になり、レイビック伯爵を名乗ります。

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。 ほんのりと百合の香るお話です。 ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。 イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。 ★Kindle情報★ 1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H ★第1話『アイス』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE ★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI ★Chit-Chat!1★ https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

ミニゴブリンから始まる神の箱庭~トンデモ進化で最弱からの成り上がり~

リーズン
ファンタジー
〈はい、ミニゴブリンに転生した貴女の寿命は一ヶ月約三十日です〉  ……えーと? マジっすか? トラックに引かれチートスキル【喰吸】を貰い異世界へ。そんなありふれた転生を果たしたハクアだが、なんと転生先はミニゴブリンだった。 ステータスは子供にも劣り、寿命も一ヶ月しかなく、生き残る為には進化するしか道は無い。 しかし群れのゴブリンにも奴隷扱いされ、せっかく手に入れた相手の能力を奪うスキルも、最弱のミニゴブリンでは能力を発揮できない。 「ちくしょうそれでも絶対生き延びてやる!」 同じ日に産まれたゴブゑと、捕まったエルフのアリシアを仲間に進化を目指す。 次々に仲間になる吸血鬼、ドワーフ、元魔王、ロボ娘、勇者etc。 そして敵として現れる強力なモンスター、魔族、勇者を相手に生き延びろ! 「いや、私はそんな冒険ファンタジーよりもキャッキャウフフなラブコメスローライフの方が……」 予想外な行動とトラブルに巻き込まれ、巻き起こすハクアのドタバタ成り上がりファンタジーここに開幕。 「ダメだこの作者私の言葉聞く気ねぇ!?」 お楽しみください。 色々な所で投稿してます。 バトル多め、題名がゴブリンだけどゴブリン感は少ないです。

帰らずの森のある騒動記   (旧 少女が魔女になったのは)

志位斗 茂家波
ファンタジー
平凡だったけど、皆が幸せに暮らしていた小国があった。 けれどもある日、大国の手によって攻められ、その国は滅びてしまった。 それから捕えられ、とある森にその国の王女だった少女が放置されるが、それはとある出会いのきっかけになった‥‥‥ ・・・・・ちょっと短め。構想中の新たな連載物の過去話予定。 人気のある無しに関わらず、その連載ができるまでは公開予定。ちまちまと別視点での話を更新したりするかも。 2018/01/18 旧「少女が魔女になったのは」 変更し、「帰らずの森のある騒動記」にしました。

離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね? 魔道具師として自立を目指します!

椿蛍
ファンタジー
【1章】 転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。   ――そんなことってある? 私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。 彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。 時を止めて眠ること十年。 彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。 「どうやって生活していくつもりかな?」 「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」 「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」 ――後悔するのは、旦那様たちですよ? 【2章】 「もう一度、君を妃に迎えたい」 今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。 再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?  ――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね? 【3章】 『サーラちゃん、婚約おめでとう!』 私がリアムの婚約者!? リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言! ライバル認定された私。 妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの? リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて―― 【その他】 ※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。 ※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...