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第三章 ~ぶらり馬車の旅 死の大地・マータルス篇~
暗黒神合同討伐作戦
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少女騎士団の動きの変化に、巨大な異形の脚を眺めてロセアも考え込む。
間違いなくこれは、暗黒神バルカインの脚だ。
伝説の邪神が相手となると、自分ひとりだけでは太刀打ちが出来ない。さすがに勝つには難しいだろう。いや、不可能か。
「まったく…………とんでもない作戦だな。今まででいちばんの、最低で最悪の作戦じゃないか」
だが、ロセアは笑っていた。
勝算が少しでもあれば果敢に挑む。それがロセア・ルチッカなのだ。
「バ……バルカイン様……まだ生贄が足りんから、不完全なのでございますか?」
ロセアのショートパンツの小振りなお尻の近くで、なにやらソンドレのつぶやきが聞こえる。おとなしく脚を見上げていたオルテガも、ゆっくりとそのまま歩み寄って叫ぶ。
「おおバルカイン、今こそ力を! 我らに力を貸せ、バルカイン! 積年の恨みを今こそ晴らすのだッ!」
裂けた空に向かいオルテガは何度も叫び声を上げるが、そのすべてが虚しく消えていった。
「おい、おまえ! 勝手なことをするな!」
オルテガの手錠に繋がっている縄を強く引っ張るが、抵抗されてびくとも動かない。魔力は強大でも、ロセアの腕力は同い歳の少女たちと代わり映えはしないのだ。
「ふん……ぐぬぬ……! こんの……こんにゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!」
「──手伝うぜ」
力いっぱいに縄を引く手に添えられた指先の爪は、獣のように尖っていた。レベッカの加勢により、一気にオルテガの身体が床へすっ転ぶ。
「グハッ?!」
「ふーっ……オーフレイム、すまんな」
「おまえ、力はそんなに無かったんだな……眼鏡だからか?」
「眼鏡に罪はない! ぼくはなオーフレイム、筋肉がつきにくい体質なんだ!」
「ふーん」
さりげなくロセアの胸もとを見るレベッカ。つきにくいのは、どうやら筋肉だけではなさそうだ。
「そんなことよりも、〈天使の牙〉は、これからなにをする気なんだ?」
「んー、お姫さまが言うには、アイツをもとの世界に押し返すんだとよ」
「なぬっ!? もとの世界だとっ!?」
ロセアは、驚き顔でふたたび異形の脚を見上げる。
次元の裂け目が先ほどよりも広がってはいるものの、まだ多少なりの猶予はありそうだ。本体を倒すことよりも、押し返すことのほうが現実的なのかもしれない。
顔に不釣り合いな大きさの丸眼鏡の位置を右手中指で直したロセアは、大きな決断をする。
「よし、そのアイデアに乗った!」
「みゃ?」
「これより先は、〈神撃〉と〈天使の牙〉の合同作戦とさせてもらおう。オラ、おまえらもついて来い!」
手錠に繋がれたそれぞれの縄を引きながら、ソンドレとオルテガを連れてアシュリンのもとへと急ぐロセアとレベッカ。
すでに〝作戦〟は実行に移されているようで、ドロシーが一本鞭を頭上高く何度も振り回しては、脚の上部を狙って打ちつけていた。その近くでも、ハルが大きな鉄槌を両手に掴み、駒のようにクルクルとその場で高速回転を繰り返していた。
「ていっ! えりゃ! そりゃ! ふんぬぬぬ……こんなの、絶対になんのダメージにもなってないし!」
全力で鞭を振るうたび、額から汗や愚痴まで次々にこぼれるドロシー。ハルも頑張ってはいるようだが、扱っている武器の性質上、命中率はかなり低いようで──。
「うりゃあああああああああああああああッッッ!!」
──スカッ。
「あらっ?!」
どしーん!
……と、こういった具合で、何度も攻撃が外れては、盛大に尻餅を着いていた。
ギィイイイイイイイイイイイイイイッ──!
されるがままだった脚の一本が、ゆっくりとした動作で歩きだす。今度は、少女騎士団が守りに徹する番だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ハルさん、早く逃げなきゃ踏み殺されますよ!」
「ごめんなさい、ちょっとパンツが食い込んじゃって」
鉄槌を支えにした膝立ちのハルが、もう片方の手でお尻に触れていた。
「ちょ……こんなときにパンツの位置を直してる余裕があるなら、逃げきった先で思う存分お尻を気にしてくださいよ!」
「でも、走ろうにもズレが不快で……」
「ええ、わかりますよ! わたしも経験ありますし、もうどんだけ人生でガッツリ食い込んできたのかお尻に訊かなきゃわからないくらいなんで! あーっ、もう! 早く一緒に逃げて、助かってからガールズトークの続きをしま──」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
「ドロッチィィィィィ! ハルさぁぁぁぁぁん!」
叫ぶレベッカが、背中から抜いたブロードソードを走りながら水平に構える。
巻き上がる砂煙の向う側には、うつ伏せの状態で仲良く倒れるふたりがいた。そして、自分と同じように剣を構えて走るアシュリンの姿にも気づく。
その勇姿はまさに騎士団の長に相応しいのだが、実際は小国のプリンセス──シャーロット・アシュリン・クラウザーの暴挙に過ぎない。
「姫さまぁぁぁぁぁぁぁッ! さがっててくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!」
ふたたび絶叫が神殿中に響き渡って駆けめぐる。
次の瞬間には、新たに現れたひとつの巨大鋏が、アシュリンを捕らえて上空へと連れ去った。
間違いなくこれは、暗黒神バルカインの脚だ。
伝説の邪神が相手となると、自分ひとりだけでは太刀打ちが出来ない。さすがに勝つには難しいだろう。いや、不可能か。
「まったく…………とんでもない作戦だな。今まででいちばんの、最低で最悪の作戦じゃないか」
だが、ロセアは笑っていた。
勝算が少しでもあれば果敢に挑む。それがロセア・ルチッカなのだ。
「バ……バルカイン様……まだ生贄が足りんから、不完全なのでございますか?」
ロセアのショートパンツの小振りなお尻の近くで、なにやらソンドレのつぶやきが聞こえる。おとなしく脚を見上げていたオルテガも、ゆっくりとそのまま歩み寄って叫ぶ。
「おおバルカイン、今こそ力を! 我らに力を貸せ、バルカイン! 積年の恨みを今こそ晴らすのだッ!」
裂けた空に向かいオルテガは何度も叫び声を上げるが、そのすべてが虚しく消えていった。
「おい、おまえ! 勝手なことをするな!」
オルテガの手錠に繋がっている縄を強く引っ張るが、抵抗されてびくとも動かない。魔力は強大でも、ロセアの腕力は同い歳の少女たちと代わり映えはしないのだ。
「ふん……ぐぬぬ……! こんの……こんにゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!」
「──手伝うぜ」
力いっぱいに縄を引く手に添えられた指先の爪は、獣のように尖っていた。レベッカの加勢により、一気にオルテガの身体が床へすっ転ぶ。
「グハッ?!」
「ふーっ……オーフレイム、すまんな」
「おまえ、力はそんなに無かったんだな……眼鏡だからか?」
「眼鏡に罪はない! ぼくはなオーフレイム、筋肉がつきにくい体質なんだ!」
「ふーん」
さりげなくロセアの胸もとを見るレベッカ。つきにくいのは、どうやら筋肉だけではなさそうだ。
「そんなことよりも、〈天使の牙〉は、これからなにをする気なんだ?」
「んー、お姫さまが言うには、アイツをもとの世界に押し返すんだとよ」
「なぬっ!? もとの世界だとっ!?」
ロセアは、驚き顔でふたたび異形の脚を見上げる。
次元の裂け目が先ほどよりも広がってはいるものの、まだ多少なりの猶予はありそうだ。本体を倒すことよりも、押し返すことのほうが現実的なのかもしれない。
顔に不釣り合いな大きさの丸眼鏡の位置を右手中指で直したロセアは、大きな決断をする。
「よし、そのアイデアに乗った!」
「みゃ?」
「これより先は、〈神撃〉と〈天使の牙〉の合同作戦とさせてもらおう。オラ、おまえらもついて来い!」
手錠に繋がれたそれぞれの縄を引きながら、ソンドレとオルテガを連れてアシュリンのもとへと急ぐロセアとレベッカ。
すでに〝作戦〟は実行に移されているようで、ドロシーが一本鞭を頭上高く何度も振り回しては、脚の上部を狙って打ちつけていた。その近くでも、ハルが大きな鉄槌を両手に掴み、駒のようにクルクルとその場で高速回転を繰り返していた。
「ていっ! えりゃ! そりゃ! ふんぬぬぬ……こんなの、絶対になんのダメージにもなってないし!」
全力で鞭を振るうたび、額から汗や愚痴まで次々にこぼれるドロシー。ハルも頑張ってはいるようだが、扱っている武器の性質上、命中率はかなり低いようで──。
「うりゃあああああああああああああああッッッ!!」
──スカッ。
「あらっ?!」
どしーん!
……と、こういった具合で、何度も攻撃が外れては、盛大に尻餅を着いていた。
ギィイイイイイイイイイイイイイイッ──!
されるがままだった脚の一本が、ゆっくりとした動作で歩きだす。今度は、少女騎士団が守りに徹する番だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ハルさん、早く逃げなきゃ踏み殺されますよ!」
「ごめんなさい、ちょっとパンツが食い込んじゃって」
鉄槌を支えにした膝立ちのハルが、もう片方の手でお尻に触れていた。
「ちょ……こんなときにパンツの位置を直してる余裕があるなら、逃げきった先で思う存分お尻を気にしてくださいよ!」
「でも、走ろうにもズレが不快で……」
「ええ、わかりますよ! わたしも経験ありますし、もうどんだけ人生でガッツリ食い込んできたのかお尻に訊かなきゃわからないくらいなんで! あーっ、もう! 早く一緒に逃げて、助かってからガールズトークの続きをしま──」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
「ドロッチィィィィィ! ハルさぁぁぁぁぁん!」
叫ぶレベッカが、背中から抜いたブロードソードを走りながら水平に構える。
巻き上がる砂煙の向う側には、うつ伏せの状態で仲良く倒れるふたりがいた。そして、自分と同じように剣を構えて走るアシュリンの姿にも気づく。
その勇姿はまさに騎士団の長に相応しいのだが、実際は小国のプリンセス──シャーロット・アシュリン・クラウザーの暴挙に過ぎない。
「姫さまぁぁぁぁぁぁぁッ! さがっててくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!」
ふたたび絶叫が神殿中に響き渡って駆けめぐる。
次の瞬間には、新たに現れたひとつの巨大鋏が、アシュリンを捕らえて上空へと連れ去った。
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