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第三章 ~ぶらり馬車の旅 死の大地・マータルス篇~
挿話 偉大なる計画
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長い森を抜けると、そこは〈ビオス山脈〉の麓にある大きくて清らかな湖だった。焼き豚事件で内部分裂寸前だった一行は、アリッサムの提案で、ここでしばしの休憩をすることにした。
空は快晴、小鳥も歌う絶好の洗濯日和。
気温も温かく、アシュリンは元侍女たち三人を引き連れ、水浴をするために湖へと入る。
水着は持ってきてはいるのだが、今回はあえて、みんな裸で遊ぶことにした。
アリッサムは湖で洗い終えた洗濯物を干しながら、さりげなく聞き耳をたてる。誰がなにをどう思っているのか、常に最新情報を得てアップデートし、自らの妄想力を高めるためである。
「レベッカさんて、ほんとスタイルいいですよね……あんなにいつも食べてるのに、羨ましいなぁ」
「んー? そうかな? まあ、ダイエットはしたことねぇーな」
「カッチーン……なんすかそれ? レベッカさんのくせに、どの口がそう言ってるんすか?」
「あん? やんのか、おい? 煽ってんのか、おい!」
「お、おい! おまえたち──」
突然の険悪な雰囲気にアシュリンは慌てて止めに入ろうとするも、笑顔のハルがすぐさまそれを片手ひとつで制止する。大丈夫ですよと、微笑みながら。
そして、ドロシー対レベッカの水遊び大会が始まった。
「うしゃしゃしゃしゃしゃしゃーっ!!」
バシャバシャバシャバシャバシャ!
バシャバシャバシャバシャバシャ!
バシャバシャバシャバシャバシャ!
バシャバシャバシャバシャバシャ!
バシャバシャバシャバシャバシャ!
「うわっ、んぺっ! ブフッ、ドロッチ……おい……やめ……やめろってば! いくらなんでも、はしゃぎ過ぎだぞ!?」
「うしゃしゃしゃしゃしゃしゃーっ!!」
「てめぇ…………こん……にゃろいッ!」
──パッシャーン!
ドロシー優勢かと思われたが、レベッカの強烈な右平手叩きが水面に炸裂すると、形勢逆転となり大量の水飛沫がドロシーの顔面を襲った。
「ぷぅわっ?! ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ケホッ! 鼻に……水が、鼻に……」
「オラオラ、どうしたドロッチ? 隙だらけだぜ!」
レベッカは八重歯を光らせてニヤリと不敵に笑い、全身に力を込める。
そして一気に爆発させた!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッッッツ!!」
いつまでも絶え間なく続く左右の連続平手叩き。レベッカは手のひらが真っ赤になっても、やめようとはしなかった。
「ぶへへ?! プハーッ! レベッカさん、ちょ……!」
「うふふ、ふたりともそろそろ──」
──パッシャーン!
「あ」
「あ」
ハルの顔面にも水がかかったのを皮切りに、戦いはいつの間にか三つ巴になる。
乙女たちのころころと笑う元気な声が、湖畔にまで響いていた。
(みんな楽しそうで良かった。冒険の息抜きに裸の水浴びはかかせないって、アリッサムの言葉は正解だったわ)
アシュリンはそう思いながら、頬笑む。
「せーのっ、団長ぉぉぉぉぉ!」
そんなアシュリンの顔にも、レベッカは容赦なく水をかける。
気づけば四人とも、水遊びに夢中になっていた。
*
身体も心も洗い浄めた四人は湖から上がると、アリッサムが用意してくれた下着に着替えはじめる。
と、なにやらドロシーが不満を漏らした。
「あれっ……おかしいな……そんなはずは……」
「ん? どうしたドロッチ、いろいろとはみ出てるのか?」
「ちょ、なにも出てませんって! そうじゃなくって、なんか下着が気持ちキツいんですよね」
言いながら腰回りをさするドロシー。
「あー、それは……ヘヘヘ……ご愁傷さまです」
「ちょっと待ってくださいよ! なんですか、その不気味な笑顔は!? わたし太ってませんからね!?」
「まあまあ、ドロシーはまだ育ち盛りなんだから、恥ずかしがることはないのよ?」
「ちょ、ハルさんまで……って、勝手に脇腹のお肉を摘ままないでくださいよレベッカさん!」
少女騎士団の笑い声が、ふたたび静かな湖畔に響きわたる。
その中でただひとり、アリッサムだけは作り笑いだった。
なぜなら、彼女だけが事件の真相を知っていたからである。いや、正確には仕掛けたからだ。
少女騎士団〈天使の牙〉の下着は白一色で統一されている。もちろん、デザインも。
ドロシーが穿いていたパンツは彼女の物ではなく、なんと、アリッサムのパンツだったのだ。
これこそ、彼女が長年あたためてきた偉大なる計画──〝おまえのパンツはわたしの物、わたしのパンツはおまえの物作戦〟である!
しかも、卑劣なことに、ドロシーが穿いていたのはアリッサムがさっきまで穿いていた使用済みの物で、つまりは、ドロシーとアリッサムの股間やお尻は間接的に──いや、これ以上は、なにも説明は要らないだろう。
とにかく、この冒険でついに、アリッサムの夢が実現された。卑猥な野望が、またひとつ成就されたのである。
(ドロシーさま……わたし、もう……はぁはぁはぁはぁはぁ♡♡♡)
空は快晴、小鳥も歌う絶好の洗濯日和。
気温も温かく、アシュリンは元侍女たち三人を引き連れ、水浴をするために湖へと入る。
水着は持ってきてはいるのだが、今回はあえて、みんな裸で遊ぶことにした。
アリッサムは湖で洗い終えた洗濯物を干しながら、さりげなく聞き耳をたてる。誰がなにをどう思っているのか、常に最新情報を得てアップデートし、自らの妄想力を高めるためである。
「レベッカさんて、ほんとスタイルいいですよね……あんなにいつも食べてるのに、羨ましいなぁ」
「んー? そうかな? まあ、ダイエットはしたことねぇーな」
「カッチーン……なんすかそれ? レベッカさんのくせに、どの口がそう言ってるんすか?」
「あん? やんのか、おい? 煽ってんのか、おい!」
「お、おい! おまえたち──」
突然の険悪な雰囲気にアシュリンは慌てて止めに入ろうとするも、笑顔のハルがすぐさまそれを片手ひとつで制止する。大丈夫ですよと、微笑みながら。
そして、ドロシー対レベッカの水遊び大会が始まった。
「うしゃしゃしゃしゃしゃしゃーっ!!」
バシャバシャバシャバシャバシャ!
バシャバシャバシャバシャバシャ!
バシャバシャバシャバシャバシャ!
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「うしゃしゃしゃしゃしゃしゃーっ!!」
「てめぇ…………こん……にゃろいッ!」
──パッシャーン!
ドロシー優勢かと思われたが、レベッカの強烈な右平手叩きが水面に炸裂すると、形勢逆転となり大量の水飛沫がドロシーの顔面を襲った。
「ぷぅわっ?! ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ケホッ! 鼻に……水が、鼻に……」
「オラオラ、どうしたドロッチ? 隙だらけだぜ!」
レベッカは八重歯を光らせてニヤリと不敵に笑い、全身に力を込める。
そして一気に爆発させた!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッッッツ!!」
いつまでも絶え間なく続く左右の連続平手叩き。レベッカは手のひらが真っ赤になっても、やめようとはしなかった。
「ぶへへ?! プハーッ! レベッカさん、ちょ……!」
「うふふ、ふたりともそろそろ──」
──パッシャーン!
「あ」
「あ」
ハルの顔面にも水がかかったのを皮切りに、戦いはいつの間にか三つ巴になる。
乙女たちのころころと笑う元気な声が、湖畔にまで響いていた。
(みんな楽しそうで良かった。冒険の息抜きに裸の水浴びはかかせないって、アリッサムの言葉は正解だったわ)
アシュリンはそう思いながら、頬笑む。
「せーのっ、団長ぉぉぉぉぉ!」
そんなアシュリンの顔にも、レベッカは容赦なく水をかける。
気づけば四人とも、水遊びに夢中になっていた。
*
身体も心も洗い浄めた四人は湖から上がると、アリッサムが用意してくれた下着に着替えはじめる。
と、なにやらドロシーが不満を漏らした。
「あれっ……おかしいな……そんなはずは……」
「ん? どうしたドロッチ、いろいろとはみ出てるのか?」
「ちょ、なにも出てませんって! そうじゃなくって、なんか下着が気持ちキツいんですよね」
言いながら腰回りをさするドロシー。
「あー、それは……ヘヘヘ……ご愁傷さまです」
「ちょっと待ってくださいよ! なんですか、その不気味な笑顔は!? わたし太ってませんからね!?」
「まあまあ、ドロシーはまだ育ち盛りなんだから、恥ずかしがることはないのよ?」
「ちょ、ハルさんまで……って、勝手に脇腹のお肉を摘ままないでくださいよレベッカさん!」
少女騎士団の笑い声が、ふたたび静かな湖畔に響きわたる。
その中でただひとり、アリッサムだけは作り笑いだった。
なぜなら、彼女だけが事件の真相を知っていたからである。いや、正確には仕掛けたからだ。
少女騎士団〈天使の牙〉の下着は白一色で統一されている。もちろん、デザインも。
ドロシーが穿いていたパンツは彼女の物ではなく、なんと、アリッサムのパンツだったのだ。
これこそ、彼女が長年あたためてきた偉大なる計画──〝おまえのパンツはわたしの物、わたしのパンツはおまえの物作戦〟である!
しかも、卑劣なことに、ドロシーが穿いていたのはアリッサムがさっきまで穿いていた使用済みの物で、つまりは、ドロシーとアリッサムの股間やお尻は間接的に──いや、これ以上は、なにも説明は要らないだろう。
とにかく、この冒険でついに、アリッサムの夢が実現された。卑猥な野望が、またひとつ成就されたのである。
(ドロシーさま……わたし、もう……はぁはぁはぁはぁはぁ♡♡♡)
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