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第二章 ~ぶらり馬車の旅 リディアス国・王都篇~
リディアス下水道
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生活用水を運ぶ長大な白煉瓦造りの水路橋は、水源の山奥から王都まで四十キロメートルもある。それを巨人族の協力を得て、わずか半年の短期間で建造したことは国民の誰もが知っている有名な話だ。
その水路橋の下を連なって歩くのは、ミニスカートを穿いた華やかな三人の騎士たち。
繁華街へ向かう水路橋の下には、下水道を点検・清掃するための出入口のひとつがあり、そこの鉄柵を開ける鍵が、あの男性が持っていた古びた鍵だった。
彼はここの管理者かなにかで、もしかしたら、下水道内で被害にあったのかもしれない。食堂で手に入れた情報もあって、アシュリンはそう結論に至っていた。
「よし、きょうこそ教祖の棲み家を見つけるぞ!」
そう気合いを入れてランタンに火を灯すアシュリンのつぶらな瞳は、恐れを知らない熱意と騎士団長としての使命感で輝いていた。
が、一方のドロシーとハルの表情はというと、灯火が生み出した濃い影で隠れてしまってうかがい知れない。
あのTバック店員からの情報をもとに、翌日から下水道を探索して四日が過ぎていた。しかし、強烈な悪臭とドブネズミやゴキブリの歓迎を受けただけで、なんの成果も得られてはいなかった。
もういい加減に別の場所へ行くべきだと、進言を続けるドロシーではあったのだが……。
「あのう、団長。きのうもとくに進展は無かったので、そのう……下水道はもうあきらめて、ほかの手がかりを探しに──」
「却下だ」
アシュリンはランタンを片手に、鉄柵の鍵を開けて先頭を行く。ハルはすぐそのあとに続き、ドロシーも深い吐息をひとつ漏らして五秒ほど経ってから、ゆっくりと鉄柵をくぐり抜けて暗闇の道を進んだ。
*
「くさっ……四日間通っても、やっぱりくさっ……」
鼻を摘みながら、今宵も髪や身体を何度も洗わなくてはならない未来に悲観したドロシーが愚痴る。
『臭くてあたりまえだろ。慣れろ、ドロッチ──』
そんなレベッカの声が聞こえた気がしたドロシーは、無理なものは無理と、心の中で返事をつぶやいた。
「おや?」
「どうひまひた、団長?」
突然、その場でしゃがんだアシュリンに駆け寄るドロシー。すぐとなりではハルもしゃがみ込み、ランタンに照らされた床を一緒に見つめている。
「やけにこの辺りが綺麗だ。まるで床掃除のあとじゃないか」
「本当れふね。まっ白れふ」
「あら? モップ掛けしたみたいな痕が、この先までずっと続い……て……」
進行方向を指差さしたハルは、言葉を途中で飲み込んだ。
ランタンの灯りが届くか届かないかの距離で、十匹以上のドブネズミが闇の中をフワフワと浮かんでいたからだ。
「なによ……あれ……」
摩訶不思議な出来事を目の当たりにしたドロシーは、鼻から指をゆっくりと離す。すぐにでも立ち上がって後退りたかったが、団員としても侍女としても、勝手な行動はとれない。
「おまえたち……戦闘準備をしろ」
凛とした表情でアシュリンはささやきながら、しっかりと掴んだランタンを掲げて立ち上がる。やがて、浮遊するドブネズミの全身が次々に血の泡を吹いて溶けていき、小さな骨もすぐに消え失せた。
闇の中で植物油の灯火にさらされたのは、身の長ニメートル以上もある球型をしたゼリー状の生命体だった。ところどころ盛り上がった輪郭が、新たな獲物を求めてウネウネと不気味に蠢く。
「あ、あれって魔物ですよね……王都の下水道に魔物がいたんですか!? ほかに何匹いるんですか!?」
ドロシーは恐怖で指先を小刻みに震わせながら、腰ベルトにあるはずの鞘を手探りで掴み、刃渡り十五センチの短剣をなんとか引き抜く。
初心者の自分が武器を使うなら、小振りなほうが軽くて扱いやすいだろうと考えて選んではみたものの、攻撃するにはかなり接近しなければならないことに初めて気づき、今すぐ違う物と取り換えに馬車まで戻りたいと、このときドロシーは激しく後悔をしていた。
「落ち着けドロシー。今はただ、敵のことだけに集中しろ」
ランタンを前へ掲げたままレイピアの柄を握るアシュリンは、冷静に攻撃の隙をうかがう。
通路の横幅は大人三人が並んで通れる程度で狭く、全員同時には戦えない。戦闘はさけて、真横を流れる汚水に飛び込むべきか──いや、深さによっては、それこそが命取りになってしまうだろう。
「こいつは……スライムか? それにしてもデカイな」
「下水道のいろんな物を食べて、ここまで大きくなったんでしょうね。ひょっとしたら、ここの主さんかも」
人差し指を顎にあてながら、笑顔のハルが愛らしく首をかしげた次の瞬間、三人に向かって巨大スライムから粘液が噴射される。
ピュッ、ピュルッ、ドピュッ!
「危ない、みんな避けろッ!」
「へ? ヒィィィィィィィッ!?」
「えいっ!………………あら?」
バシャーン!
アシュリンとドロシーはギリギリのところで身をひるがえして避けられたのだが、ハルは横へ大きく跳びはね過ぎてしまい、下水の中へ落っこちてしまった。
「ちょっ、ええっ!? 団長、ハルさんが! ハルさんが流されていきます!」
「なんだと!?」
うつ伏せの状態で水面に浮かぶハルが、そのまま闇の奥へと呑み込まれるようにして姿を消していく。
ハルをすぐに助けたいが、先へ進むには巨大スライムを倒さなければならない。いったいなにが最善策なのか──アシュリンに迷いはなかった。
「ドロシー、わたしのあとに続け!」
勢いよくランタンを巨大スライムに投げつけたアシュリンは、なにもためらうことなく下水の流れへと飛び込む。
「ええええええええっ!?」
火に包まれながら迫り来る巨大スライム。そして、汚水の川を泳ぐアシュリンの背中。ひとり残されたドロシーは、後退りながら交互に見比べる。
(なんなのよ、この馬鹿げた選択肢は!?)
ドロシーは涙目で短剣を鞘に収めると、退団届けの文面を考えながら耳抜きをした。そして、心の中で神様に祈りつつ、下水の川へ飛び込んだ。
「グァボ……ゴボゴボ……ぷはっ! ゴボゴボ……ぷはっ!」
臭いのはあたりまえ。不潔なのもあたりまえ。今はただ、無心でひたすら泳ぎ続けるのみ。流れにのったドロシーは、みるみるうちに加速してアシュリンらしき人影に追いつく。
「団長! ハルさんは!?」
「真っ暗でわからん! ハル! 返事をしろーッ!」
「ハルさーん!」
闇の世界に水音と少女騎士たちの叫び声が響きわたる。
「こっ、ここでーす!」
「ハル!」
「こっちです、団長……ドロシー! あ……足がつって泳げな……ブハッ!? ぶくぶくぶく……」
聞き慣れた声を頼りに近づいたアシュリンは、指先に触れたハルの腕を流れに逆らい強く引き寄せる。
「ハルさん……ぷはっ、ゴボッ」
ドロシーもハルの肩を掴み、三人は通路までなんとか無事に泳ぎ着けた。
「ハァ……んっ、ゴホッ、ゴホッ! はぁ、はぁ……団長、大丈夫ですか?」
「ああ。ドロシーこそ大丈夫なのか? おいハル、しっかりしろ!」
「わたしは大丈夫じゃないかも……汚ない水、結構な量飲んじゃいましたし、絶対にお腹を壊しそうであとが怖いです。ハルさん? 生きてます?」
暗闇のなか、一向に返事のない横たわったハルの身体をまさぐるふたり。なにも知らずにアシュリンは胸を、ドロシーはお尻を熱心に揉んでいた。
「ん……うう……んん、アッ……」
「とても苦しそうだな。おや? これは……(モミモミ)……物凄く柔らかいぞ?(モミモミモミ)」
「ええ、こっちもです団長(モミモミ)。なんだろう? 大きくて丸みがあって(モミモミ)、それにこのくぼみは…………あっ! ごめんなさい、ハルさん!」
救助活動のつもりが、陵辱しただけの結果に顔を赤くさせるドロシーではあったが、こうも暗くては仕方がないことなのだと自分を納得させる。
「なんなんだ、これは……ふたつもあるぞ(モミモミモミ)」
すぐとなりでは、アシュリンがいまだにハルの胸を両手で揉みしだいていた。
その水路橋の下を連なって歩くのは、ミニスカートを穿いた華やかな三人の騎士たち。
繁華街へ向かう水路橋の下には、下水道を点検・清掃するための出入口のひとつがあり、そこの鉄柵を開ける鍵が、あの男性が持っていた古びた鍵だった。
彼はここの管理者かなにかで、もしかしたら、下水道内で被害にあったのかもしれない。食堂で手に入れた情報もあって、アシュリンはそう結論に至っていた。
「よし、きょうこそ教祖の棲み家を見つけるぞ!」
そう気合いを入れてランタンに火を灯すアシュリンのつぶらな瞳は、恐れを知らない熱意と騎士団長としての使命感で輝いていた。
が、一方のドロシーとハルの表情はというと、灯火が生み出した濃い影で隠れてしまってうかがい知れない。
あのTバック店員からの情報をもとに、翌日から下水道を探索して四日が過ぎていた。しかし、強烈な悪臭とドブネズミやゴキブリの歓迎を受けただけで、なんの成果も得られてはいなかった。
もういい加減に別の場所へ行くべきだと、進言を続けるドロシーではあったのだが……。
「あのう、団長。きのうもとくに進展は無かったので、そのう……下水道はもうあきらめて、ほかの手がかりを探しに──」
「却下だ」
アシュリンはランタンを片手に、鉄柵の鍵を開けて先頭を行く。ハルはすぐそのあとに続き、ドロシーも深い吐息をひとつ漏らして五秒ほど経ってから、ゆっくりと鉄柵をくぐり抜けて暗闇の道を進んだ。
*
「くさっ……四日間通っても、やっぱりくさっ……」
鼻を摘みながら、今宵も髪や身体を何度も洗わなくてはならない未来に悲観したドロシーが愚痴る。
『臭くてあたりまえだろ。慣れろ、ドロッチ──』
そんなレベッカの声が聞こえた気がしたドロシーは、無理なものは無理と、心の中で返事をつぶやいた。
「おや?」
「どうひまひた、団長?」
突然、その場でしゃがんだアシュリンに駆け寄るドロシー。すぐとなりではハルもしゃがみ込み、ランタンに照らされた床を一緒に見つめている。
「やけにこの辺りが綺麗だ。まるで床掃除のあとじゃないか」
「本当れふね。まっ白れふ」
「あら? モップ掛けしたみたいな痕が、この先までずっと続い……て……」
進行方向を指差さしたハルは、言葉を途中で飲み込んだ。
ランタンの灯りが届くか届かないかの距離で、十匹以上のドブネズミが闇の中をフワフワと浮かんでいたからだ。
「なによ……あれ……」
摩訶不思議な出来事を目の当たりにしたドロシーは、鼻から指をゆっくりと離す。すぐにでも立ち上がって後退りたかったが、団員としても侍女としても、勝手な行動はとれない。
「おまえたち……戦闘準備をしろ」
凛とした表情でアシュリンはささやきながら、しっかりと掴んだランタンを掲げて立ち上がる。やがて、浮遊するドブネズミの全身が次々に血の泡を吹いて溶けていき、小さな骨もすぐに消え失せた。
闇の中で植物油の灯火にさらされたのは、身の長ニメートル以上もある球型をしたゼリー状の生命体だった。ところどころ盛り上がった輪郭が、新たな獲物を求めてウネウネと不気味に蠢く。
「あ、あれって魔物ですよね……王都の下水道に魔物がいたんですか!? ほかに何匹いるんですか!?」
ドロシーは恐怖で指先を小刻みに震わせながら、腰ベルトにあるはずの鞘を手探りで掴み、刃渡り十五センチの短剣をなんとか引き抜く。
初心者の自分が武器を使うなら、小振りなほうが軽くて扱いやすいだろうと考えて選んではみたものの、攻撃するにはかなり接近しなければならないことに初めて気づき、今すぐ違う物と取り換えに馬車まで戻りたいと、このときドロシーは激しく後悔をしていた。
「落ち着けドロシー。今はただ、敵のことだけに集中しろ」
ランタンを前へ掲げたままレイピアの柄を握るアシュリンは、冷静に攻撃の隙をうかがう。
通路の横幅は大人三人が並んで通れる程度で狭く、全員同時には戦えない。戦闘はさけて、真横を流れる汚水に飛び込むべきか──いや、深さによっては、それこそが命取りになってしまうだろう。
「こいつは……スライムか? それにしてもデカイな」
「下水道のいろんな物を食べて、ここまで大きくなったんでしょうね。ひょっとしたら、ここの主さんかも」
人差し指を顎にあてながら、笑顔のハルが愛らしく首をかしげた次の瞬間、三人に向かって巨大スライムから粘液が噴射される。
ピュッ、ピュルッ、ドピュッ!
「危ない、みんな避けろッ!」
「へ? ヒィィィィィィィッ!?」
「えいっ!………………あら?」
バシャーン!
アシュリンとドロシーはギリギリのところで身をひるがえして避けられたのだが、ハルは横へ大きく跳びはね過ぎてしまい、下水の中へ落っこちてしまった。
「ちょっ、ええっ!? 団長、ハルさんが! ハルさんが流されていきます!」
「なんだと!?」
うつ伏せの状態で水面に浮かぶハルが、そのまま闇の奥へと呑み込まれるようにして姿を消していく。
ハルをすぐに助けたいが、先へ進むには巨大スライムを倒さなければならない。いったいなにが最善策なのか──アシュリンに迷いはなかった。
「ドロシー、わたしのあとに続け!」
勢いよくランタンを巨大スライムに投げつけたアシュリンは、なにもためらうことなく下水の流れへと飛び込む。
「ええええええええっ!?」
火に包まれながら迫り来る巨大スライム。そして、汚水の川を泳ぐアシュリンの背中。ひとり残されたドロシーは、後退りながら交互に見比べる。
(なんなのよ、この馬鹿げた選択肢は!?)
ドロシーは涙目で短剣を鞘に収めると、退団届けの文面を考えながら耳抜きをした。そして、心の中で神様に祈りつつ、下水の川へ飛び込んだ。
「グァボ……ゴボゴボ……ぷはっ! ゴボゴボ……ぷはっ!」
臭いのはあたりまえ。不潔なのもあたりまえ。今はただ、無心でひたすら泳ぎ続けるのみ。流れにのったドロシーは、みるみるうちに加速してアシュリンらしき人影に追いつく。
「団長! ハルさんは!?」
「真っ暗でわからん! ハル! 返事をしろーッ!」
「ハルさーん!」
闇の世界に水音と少女騎士たちの叫び声が響きわたる。
「こっ、ここでーす!」
「ハル!」
「こっちです、団長……ドロシー! あ……足がつって泳げな……ブハッ!? ぶくぶくぶく……」
聞き慣れた声を頼りに近づいたアシュリンは、指先に触れたハルの腕を流れに逆らい強く引き寄せる。
「ハルさん……ぷはっ、ゴボッ」
ドロシーもハルの肩を掴み、三人は通路までなんとか無事に泳ぎ着けた。
「ハァ……んっ、ゴホッ、ゴホッ! はぁ、はぁ……団長、大丈夫ですか?」
「ああ。ドロシーこそ大丈夫なのか? おいハル、しっかりしろ!」
「わたしは大丈夫じゃないかも……汚ない水、結構な量飲んじゃいましたし、絶対にお腹を壊しそうであとが怖いです。ハルさん? 生きてます?」
暗闇のなか、一向に返事のない横たわったハルの身体をまさぐるふたり。なにも知らずにアシュリンは胸を、ドロシーはお尻を熱心に揉んでいた。
「ん……うう……んん、アッ……」
「とても苦しそうだな。おや? これは……(モミモミ)……物凄く柔らかいぞ?(モミモミモミ)」
「ええ、こっちもです団長(モミモミ)。なんだろう? 大きくて丸みがあって(モミモミ)、それにこのくぼみは…………あっ! ごめんなさい、ハルさん!」
救助活動のつもりが、陵辱しただけの結果に顔を赤くさせるドロシーではあったが、こうも暗くては仕方がないことなのだと自分を納得させる。
「なんなんだ、これは……ふたつもあるぞ(モミモミモミ)」
すぐとなりでは、アシュリンがいまだにハルの胸を両手で揉みしだいていた。
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