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第五章

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「じゃあここで解散ってことで、また連絡はするから」

 私の言葉に渋々丈一はうなずき、直人と共に去って行く。

「さて、と」

 私は芽依に向き直り、ちょっとだけ厳しい声を出した。

「いくら直人の気を引きたいからって、嘘はダメだよ。皆に迷惑がかかるから。それにアイツは鈍感だから、回りくどいことするより、ハッキリ好きって言ったほうが」
「そんなの無理です!」

 芽依は頬をピンク色に染め、一生懸命に続ける。

「直人君はあこがれの人で、普通に話しかけるなんてできません」
「だからって、起きてもない事件をでっち上げるなんて、よくないのはわかるよね?」

 私がさとすと、芽依はおとなしく謝った。

「……ごめん、なさい」
「うん、反省してるなら、いいよ。直人にはうまく言っとくから、心配しないで。もうあんなことしちゃダメだよ」

 私が軽く手を上げて帰ろうとすると、芽依が思い詰めた様子で言った。

「あのっ、直人君の恋人になってくれませんか?」
「な、え、ええぇえ?」

 意味がわからなくて、私はあたふたしていしまう。

「ちょ、待って、どういうこと?」
「直人君、本当に人気あるんです。告白した子もいると思いますけど、多分本気にされてないっていうか、冗談にされたっていうか」

 鈍感な直人ならあり得る。
 自分が告白されるなんて、思いもしていないはずだ。

「でも、そのうち本当に、誰かと付き合っちゃうかもって、気が気でなくて」

 あの依頼には、そんな焦りもあったのだろう。
 どうにかして、直人の近づきになりたかったのかもしれない。

「それでなんで、私が直人の恋人にならなきゃいけないの?」
「有末さんなら、お似合いだと思って」
「いや、そんなことないでしょ」
「お似合いです! 直人君の良さをちゃんと知っててくれてるし、多分直人君も有末さんのこと好きだと思います!」

 なんで断言できるのか。
 私は苦笑しながら言った。

「直人には、恋愛なんてまだ早いよ。男子と馬鹿やってるほうが楽しいんだから。探偵団だって、直人がやりたがったようなものだし」
「有末さんは女子ですよね?」
「それは、その、幼なじみだから」
「関係ありませんよ。直人君にとって、有末さんだけは特別なんだと思います!」

 そんなわけないと言いたいのに、言えなかった。
 あまりに芽依が真剣だったし、まさかと思いながら、ちょっと可能性を感じてしまったのだ。

 私らしくないと思うが、ここ最近直人と丈一を意識してしまっている。
 ふたりといる時間が長くなり、それぞれの良い面を見るたびに、ドキドキしている。

 もちろんふたりのことは好きだ。
 でも、それが友達としてなのか、恋なのかはわからない。
 芽依に言われて、ますますわからなくなった。

「一応、考えとく」
「絶対ですよ!」

 私はうなずいたものの、モヤモヤを抱えていた。
 もし直人の恋人になったら、丈一はどうなるのだろう?

 私にとっては、ふたりといることが一番大事で、どちらかが欠けてもダメなのだ。
 自分がすごく欲張りだと気づいて、私はひとり、顔を真っ赤にしてしまったのだった。
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