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第五章

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「見られてるって、視線を感じるってこと?」

 私が芽依にたずねると、彼女はコクンとうなずいた。

「気のせいとかじゃないです。家の前の電柱に、タバコの吸い殻とか缶ビールの空き缶とかが捨てられてて」

 芽依がぶるっと身体を震わせ、私は思わず彼女の肩を抱いた。

「大丈夫、私たちがついてるから」

 コクンとうなずいた芽依と共に、四人で彼女の家に向かった。
 何の変哲もない、二階建てのよくある一軒家だ。

「あそこが私の部屋で」

 芽依が二階の窓を指さし、次に傍らの電信柱に触れる。

「ここから、見られてたんです」

 確かに見上げると、ちょうどよい位置に芽依の部屋の窓がある。

「今は何もないようだが?」
「掃除されちゃったんだと思います。でもちゃんと写真には撮りましたから」

 芽依がスマホを取り出し、写真を見せてくれた。
 親のお下がりのスマホらしく、私の持つキッズケータイより、写真の画質が良い。

「わっ、こりゃひでーな」

 直人が言うとおり、電柱の下には吸い殻が何本も落ちている。

「この日だけじゃないんです、もう何回もこんなことがあって」

 芽依が四、五枚の写真を見せてくれたが、どれも同じような状況だった。

「うーん、確かに気持ち悪いね」

 私が腕を組むと、ずっと黙っていた丈一が口を開いた。

「もしこっそり監視しているなら、こんなあからさまな痕跡を残すかな? わざわざ見てましたと、教えるようなものじゃないか」

 私と直人はハッとして、顔を見合わせる。
 丈一は険しい表情をしており、芽依は真っ青になってうつむいてしまう。

「それに、さっき見せてもらった写真。吸い殻の銘柄がどれも違っていたし、口紅がついていたものもあった。直人ならまだしも、俺の目はごまかせない」
「あ、え、っと」

 芽依はそれ以上何も言えなくなった。
 これでは自作自演だと、白状しているようなものだ。

「おい、丈一。相手は年下の女子だぞ。んな怖い顔で詰め寄ったら」
「年下だろうが、女子だろうが関係ない。悪いことは悪いと教えるべきだ」

 丈一はキッパリと言い、畳みかけるように続ける。

「君の家はスナックをしているんだろう? 客の吸い殻を集めて、ここにばらまくのは、そう難しくない。なぜ、そんなことをした?」

 どれほど頭が良くても、推理力あっても、丈一にわからないこともある。
 わざわざ聞かなくたって、直人に直接依頼した時点で、おおよそ検討がつくだろうに。

「もういいでしょ? 後は私が話を聞くから」

 私が間に入ると、丈一は強く首を横に振った。

「ダメだ。こんなこと続けさせたら、教育上良くない」

 こういうところ、丈一は融通が利かないのだ。
 私はため息をついて言った。

「丈一は坂下さんの親なわけ?」

 直人が丈一の肩をパンパンと叩いた。

「ここは真琴に任せようぜ。女同士のほうが、いいときもあるだろ」
「……わかったよ」
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