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第五章

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 あの事件以来、探偵団の噂が広まって、依頼が舞い込んでくるようになった。
 困りごとがある人は、私の下駄箱に手紙を入れていく。
 いつの間にか、私が探偵団の窓口になっている、らしい。

 なんで私ばっかり? とは思うけど、結構楽しくやっているので、このくらいは許すことにしている。
 多分依頼者も、丈一や直人には直接頼みにくいのだろう。

「えっと、今日の依頼は三つね。飼い猫を探して欲しい、図書室の本が一冊なくなっている、友達とケンカしたので一緒に謝って欲しい、だって」

 放課後いつものように教室に集まり、私が三枚の手紙を要約した。
 丈一はどこか不満そうに、首をかしげる。

「三つめは、探偵団の仕事か?」
「まぁ微妙なとこだけど。人助けも仕事のうちだし、いいんじゃない?」
「甘いこと言って、こんな依頼ばかり来たら、すぐ手一杯になるぞ」
「でもコレはイイとか、コレはダメとか、こっちで選ぶわけにいかないでしょ?」
「だったら、依頼できるのはこれこれしかじかなものだと、例に出したらどうだ」
「えー、そんなことできない、ってちょっと、直人も何か言ってよ」

 こういうとき、すぐ話に割り込んでくる直人が、やけに大人しい。

「おい、直人!」

 丈一に肩を叩かれ、やっと直人はこちらを向いた。
 頭に手をやり、半笑いで謝る。

「あぁスマン。聞いてなかった」
「はぁ?」

 私が抗議しようとすると、直人は思いがけないことを言った。

「実は今朝、依頼があったんだよ。オレに直接」
「え、なんで?」

 別に直人に依頼すること自体は問題ない。
 ただそんなこと今までなかったし、よりにもよってなぜ直人に? と思うだけだ。

「知らねーよ。うちの店の、常連さんの子どもだからかも」
「直人ん家のラーメン、美味しいもんね」

 私はキレのある味わいの醤油ラーメンを思い出し、お腹が空いてきてしまう。

「まぁな」

 直人は誇らしそうに胸を張ってから続ける。

「でもあの子は、うちのラーメン食べたことないかも」
「そうなの?」
「あの子がうちの店に、直接来たことはないんだよな。いつも出前」
「出前? 珍しいね」
「あの子の家、スナックやっててさ。多分お客さんが頼むんだと思うよ」
「それなのに顔見知りなの?」
「だってそのスナック、うちの店の三軒隣だもん。そりゃ知ってるよ」
「なるほど。で、依頼はどうするの?」
「この後、会うことになってる」
 
 唐突に言われて私がビックリしていると、丈一がちょっと怒って尋ねた。

「勝手に依頼受けたのか?」
「しゃーねぇだろ。オレを頼ってきたのに、断れねーよ」
「だとしても、相談くらいしろ」
「相談してからじゃ、間に合わないかもしれねーだろ」
「そんな緊急で重大なことなら、俺達に相談するより大人に打ち明けるべきだ」
「大人には言えないこともあるじゃねーか」

 直人は口をとがらせて、丈一をにらむ。

「そんなに嫌なら、丈一は参加しなけりゃいい」
「嫌だとは言ってない。直人ひとりじゃ、真琴の負担が大きすぎるしな」
「どういう意味だよっ」
「ちょ、ふたりともやめて」

 つかみ合いになりそうなふたりの間に入り、私は必死で言った。

「引き受けちゃったものはしょうがないよ。直人はこれから、ちゃんと相談すること。わかった?」
「いや」「でも」
「わかった?」

 ふたりが顔を見合わせ、仕方なくうなずく。

「……わかった」
「よし、じゃあ依頼者に会いに行こっか。場所は?」
「学校近くの公園」

 三人で向かうと、待っていたのは小柄な女の子だった。
 直人に直接頼むくらいだから、てっきり男の子だと思っていたので、びっくりしてしまう。
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