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第四章

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「びっくりだったね。まさか町内会長が犯人だったなんて」
「人は見かけによらねーってことだな」

 私と直人が会話しながら歩いていると、急に丈一が立ち止まった。

「母さんにも、責任はあると思う」

 思い詰めた表情の丈一に、直人は明るく元気づけるように言った。

「いや、まぁ、そーかもしんねーけど。サッカーボールに穴開けたくらいじゃ、ここまでのことになってねーだろ?」
「それでも、引き金にはなった」

 丈一の母親が、全くの無罪かと言われると、確かに難しい。
 龍星の家に断りもなく入り、サッカーボールに穴を開けたのは事実なのだから。

「丈一は、どうしたいの?」
「謝るべきだと思う。母さんも、俺も」
「丈一も?」

 不思議そうな顔をした私たちに向かって、丈一が決心したように言った。

「俺がさっさと母さんに言えばよかったんだ。甲正学園は受けないって。そうすればこんなことにはならなかった」
「え、受験しねーのか?」

 丈一の進路希望を聞いていない直人は、びっくりした顔をする。

「本当は地元の中学に行きたかったんだ。でも、母さんが期待してるのがわかったから、ずっと黙ってた」

 もう丈一は決めたんだなと思った。
 でも本当に、それが現実になるのだろうか。

「丈一のお母さん、許してくれるのかな?」

 私が不安を口にすると、丈一がにこっと笑って見せた。

「大丈夫。きっとわかってくれるよ」

 これまで丈一は、優秀だけどどこか受け身だった。
 いや優秀だからこそ、受け身だったのかもしれない。

 他人の望みがわかってしまうから、先回りしてそれに応えてしまう。
 多分丈一はそのことに疲れながらも、全部自分で飲み込もうとしていた。
 
 でも今回のことで、身に染みたのだ。
 黙って受け入れていても、必ず皆が幸せになるとは限らないってことを。

「ふぅん? まぁオレは、どっちでもいーけど」
「素直じゃなーい。本当は嬉しいくせに」

 私が直人を肘でつつくと、彼は真っ赤になって反論する。

「ばっ、んなことねーよ! 丈一が来たら、テストの平均上がるだけだろ」
「探偵団、中学行っても続けられるもんね?」
「うるせー、真琴、お前もう黙れ」

 そんな私と直人のやり取りを、丈一が笑いながら見ている。
 私たちの笑い声が真夜中の静かな住宅地に響き、こんな日がずっと続けばいいのにと願わずにはいられなかった。
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