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第二章
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「本当に、君らは何も見なかったと言うのかね?」
ここは地域の公民館。
学校から帰ってきたところで、私と直人は呼び出されたのだ。
目の前にいるおじさんは、いわゆる町内会長だった。
簡単に言うと、私たちの暮らす住宅地のまとめ役、みたいなことをしている。
昔はスポーツ用品店を経営していたけど、近頃は息子に任せて、公園や共有緑地の手入れに精を出している。
挨拶も欠かさない穏やかな人なのだけれど、今は少し、いや結構怒っている。
「だから見てねーって。一緒に遊んでたわけじゃねーんだし」
直人がふてくされて答え、町内会長は眉間にしわを寄せた。
「そうは言うが、君らふたり、そばの公園で話をしていたんだろう?」
「話をしてたから、見てないんです。気づいたら急ブレーキの音がして、車が電柱にぶつかってて」
丈一から緊急の集会があったとは聞いてたけど、まさか私と直人が呼ばれるとは思っていなかった。
だって私たちには、伝えておくべきことなんて特にないのだから。
「……わかったよ。呼びつけて悪かったね」
町内会長はあまり納得いっていないようだったが、一応うなずいて見せる。
「つーか、なんでそんなこと聞くんだよ? サッカーボールを追っかけて、子どもが飛び出した以外になんもねーだろ」
せっかく話がおわりそうだったのに、直人が町内会長に突っかかる。
「ちょっと、直人」
私が直人の服のすそを引っ張るが、黙るつもりはないみたいだ。
「それとも他に理由があって、事故が起こったってことか?」
町内会長はツンと顔を背け、きっぱりと言った。
「君らに話す必要はない」
「はぁ? そっちは質問しといて」
「君らだって何も答えなかったんだから、お互い様じゃないかね」
「オレらは答えなかったんじゃなくて、答えるようなことが何もなかっただけ」
「すみません、もう帰っていいですか?」
私はたまらずに、ふたりの間に割って入った。
「あ、あぁ」
「おい、真琴! 話はまだ」
「いいから、帰るよ」
私は直人の腕をつかみ、出入り口まで引きずってくる。
「なんで邪魔すんだよ」
直人が私の手を振りほどき、少し怒って言った。
私はため息をつき、靴を履きながら答える。
「あのまま会話続けてても、ケンカになるだけでしょ? 話を聞くなら、町内会長じゃなくて、集会に出てた他の人の方がいいよ」
「他の人って誰だよ? 真琴んちの親も、うちの親も出席してねーのに」
直人の両親はラーメン屋を経営してる。
私も何度か食べに行ったことがあるけど、すごく美味しくて繁盛しているお店だ。
お店は夜遅くまで営業してるし、休日は週に一回しかない。
多分集会には呼ばれてないし、呼ばれたところで集会に出ることはできないだろう。
「そう、だよね……」
「これから、どーすんだよ?」
「うーん、どうしようかな」
直人に詰め寄られ、私は悩みながら、先に公民館の外に出た。
ここは地域の公民館。
学校から帰ってきたところで、私と直人は呼び出されたのだ。
目の前にいるおじさんは、いわゆる町内会長だった。
簡単に言うと、私たちの暮らす住宅地のまとめ役、みたいなことをしている。
昔はスポーツ用品店を経営していたけど、近頃は息子に任せて、公園や共有緑地の手入れに精を出している。
挨拶も欠かさない穏やかな人なのだけれど、今は少し、いや結構怒っている。
「だから見てねーって。一緒に遊んでたわけじゃねーんだし」
直人がふてくされて答え、町内会長は眉間にしわを寄せた。
「そうは言うが、君らふたり、そばの公園で話をしていたんだろう?」
「話をしてたから、見てないんです。気づいたら急ブレーキの音がして、車が電柱にぶつかってて」
丈一から緊急の集会があったとは聞いてたけど、まさか私と直人が呼ばれるとは思っていなかった。
だって私たちには、伝えておくべきことなんて特にないのだから。
「……わかったよ。呼びつけて悪かったね」
町内会長はあまり納得いっていないようだったが、一応うなずいて見せる。
「つーか、なんでそんなこと聞くんだよ? サッカーボールを追っかけて、子どもが飛び出した以外になんもねーだろ」
せっかく話がおわりそうだったのに、直人が町内会長に突っかかる。
「ちょっと、直人」
私が直人の服のすそを引っ張るが、黙るつもりはないみたいだ。
「それとも他に理由があって、事故が起こったってことか?」
町内会長はツンと顔を背け、きっぱりと言った。
「君らに話す必要はない」
「はぁ? そっちは質問しといて」
「君らだって何も答えなかったんだから、お互い様じゃないかね」
「オレらは答えなかったんじゃなくて、答えるようなことが何もなかっただけ」
「すみません、もう帰っていいですか?」
私はたまらずに、ふたりの間に割って入った。
「あ、あぁ」
「おい、真琴! 話はまだ」
「いいから、帰るよ」
私は直人の腕をつかみ、出入り口まで引きずってくる。
「なんで邪魔すんだよ」
直人が私の手を振りほどき、少し怒って言った。
私はため息をつき、靴を履きながら答える。
「あのまま会話続けてても、ケンカになるだけでしょ? 話を聞くなら、町内会長じゃなくて、集会に出てた他の人の方がいいよ」
「他の人って誰だよ? 真琴んちの親も、うちの親も出席してねーのに」
直人の両親はラーメン屋を経営してる。
私も何度か食べに行ったことがあるけど、すごく美味しくて繁盛しているお店だ。
お店は夜遅くまで営業してるし、休日は週に一回しかない。
多分集会には呼ばれてないし、呼ばれたところで集会に出ることはできないだろう。
「そう、だよね……」
「これから、どーすんだよ?」
「うーん、どうしようかな」
直人に詰め寄られ、私は悩みながら、先に公民館の外に出た。
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