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第二章
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ここは住宅地内にある、小さな公園だ。誰でも使えるけれど、住民以外はあまり来ない。
ブランコとベンチがあるだけだから、わざわざ遊びに来るほどじゃないのだ。
近所に住む低学年の男の子たちも、最近は公園よりサッカーのほうが楽しいみたいだ。
今も道路でサッカーボールを蹴っている。
久しぶり(多分一年ぶりくらい?)に来たのは、直人に呼ばれたから。
まぁ話の内容は大体想像がついているんだけど、問題なのは約束の時間から十分も過ぎてるってことだ。
人を呼びつけておいて、遅れるなんて。
私がイライラしていると、ようやく直人が来た。
「よっ、元気?」
遅れてきたくせに、あやまるどころか急ぐ素振りもない。
「せめて走ってきなさいよ! こんなに遅れて」
怒鳴りはしないものの、キツい口調で言ったのに、直人は全く気にしていない。
のんびりとベンチに腰掛け、私を見上げる。
「そうキンキン言うなって。んなことより」
「どうせ探偵団を結成しようって話でしょ」
直人をさえぎって言うと、彼は驚いた様子でたずねた。
「なんでわかったんだ?」
「直人の考えそうなことくらいわかるよ。津崎にちょっと褒められて、その気になっちゃったんでしょ」
単純だから、というのはさすがに飲み込んだ。
そこまで言ってしまうと、ケンカになってしまう。
「別にそれだけじゃねーよ。皆の悩みを解決できたらいいと思って」
直人はわずかにふてくされ、意外と本気で人助けをしたいみたいだ。
悪いことではないと思うけど、私を巻き込まないで欲しい。
「で、誰が解決するわけ?」
「そりゃあ、真琴か丈一か」
やっぱり。私は大きくため息をついて言った。
「直人は何をするのよ」
「オレはほら、ピンチの時に現れるヒーローみたいなもんだから」
むしろ騒ぎを大きくするだけじゃ……と思いながら、私は首を左右に振った。
「無理だよ。私はともかく、忙しい丈一にそんな暇ないでしょ」
今日だって、直人は丈一にも声を掛けたはずなのだ。
ここにいないと言うことは、塾なりなんなりで断られたに決まっている。
「じゃあ丈一抜きでもいいからさ」
「え?」
びっくりした。直人は意味がわかってるのだろうか?
丈一抜きということは、ふたりきり。
そんな恋人みたいなこと、できるわけない。
「んだよ、何か言えよ」
私がだまってしまったので、直人が不満げな顔をする。
「直人さ、ふたりで探偵するわけ?」
「それがなんだよ」
直人が首をかしげたので、絶対わかってないんだと思う。
「私と直人が、いつもふたりで行動してたら、皆はどういうふうに思うんだろうね?」
ここまでかみ砕いて説明して、ようやく直人は理解したみたいだった。
直人は真っ赤になって、しどろもどろに言い訳をする。
「違っ、オレはただ、皆の役に立てたらって」
「直人はそう思ってても、皆は私たちが付き合ってるって思うだけだよ」
大げさな言葉を使ったら、直人はさらに慌てて、ベンチから立ち上がる。
「付き合うって、そんな」
「だから誤解されるようなことは、やめよって話」
私は直人に言い聞かせるように、ゆっくりと続ける。
「それに丈一抜きじゃ、意味ないでしょ? こないだのことだって、丈一がいなきゃ解決できなかったんだし」
「けど、さ」
まだあきらめきれない直人が何か言いかけたところで、キキーッという音と派手に物がぶつかる音がした。
私たちは思わず飛び上がって、音のしたほうに顔を向けた。
車が電柱にぶつかって、ボンネットがひしゃげている。
その前では尻餅をついた男の子が、サッカーボールを抱えて呆然としていた。
初めて見る本当の事故に、私はただ突っ立っているしかなかったが、直人はさすがの行動力ですぐに少年のそばに駆け寄った。
「おい、大丈夫か!」
「う、うん」
立ち上がった男の子に、怪我はないみたいだった。
私もようやくふたりの元に向かうと、車の運転席から男の人が出てきた。
「なんで飛び出したんだ! 危ないだろう!」
中年のおじさんは、真っ赤になって怒っている。
まさにブチギレという感じで、ここまで大人が怒っているのは見たことがなかった。
私も少年もブルブルと震えていたけれど、直人はひるまない。
「とりあえず、落ち着けよ。どっちも怪我なかったんだから、よかったじゃねーか」
おじさんは額に青筋を立てたまま、また怒鳴った。
「なんだお前、関係ないのに口出すな!」
「だから、わめくなって。さっさと警察、呼んだほうがいいんじゃねーの」
口の利き方! と思ったけど、おじさんは直人と話しながら、少しずつ状況を整理し始めたみたいだった。
「あ? あぁそうか……」
「この子の親、連れてくるから、電話しとけよ。スマホくらい持ってんだろ」
直人がこういうとき、パニックにならないのは、本当にスゴいと思う。
おじさんでさえオロオロしてたのに、直人だけはずっと冷静だった。
ケンカっ早いくせに、いざというときは頼りになるんだと、ちょっぴり直人を見直してしまう。
「真琴はこの子と一緒にいてやって。不安だろうから」
「うん、わかった」
その後は警察と近所の野次馬がやってきて、住宅地内は大騒ぎになった。
詳しい話はわからないけど、男の子の親とおじさんでいろいろ話し合うってことで、一応収まったみたいだった。
ブランコとベンチがあるだけだから、わざわざ遊びに来るほどじゃないのだ。
近所に住む低学年の男の子たちも、最近は公園よりサッカーのほうが楽しいみたいだ。
今も道路でサッカーボールを蹴っている。
久しぶり(多分一年ぶりくらい?)に来たのは、直人に呼ばれたから。
まぁ話の内容は大体想像がついているんだけど、問題なのは約束の時間から十分も過ぎてるってことだ。
人を呼びつけておいて、遅れるなんて。
私がイライラしていると、ようやく直人が来た。
「よっ、元気?」
遅れてきたくせに、あやまるどころか急ぐ素振りもない。
「せめて走ってきなさいよ! こんなに遅れて」
怒鳴りはしないものの、キツい口調で言ったのに、直人は全く気にしていない。
のんびりとベンチに腰掛け、私を見上げる。
「そうキンキン言うなって。んなことより」
「どうせ探偵団を結成しようって話でしょ」
直人をさえぎって言うと、彼は驚いた様子でたずねた。
「なんでわかったんだ?」
「直人の考えそうなことくらいわかるよ。津崎にちょっと褒められて、その気になっちゃったんでしょ」
単純だから、というのはさすがに飲み込んだ。
そこまで言ってしまうと、ケンカになってしまう。
「別にそれだけじゃねーよ。皆の悩みを解決できたらいいと思って」
直人はわずかにふてくされ、意外と本気で人助けをしたいみたいだ。
悪いことではないと思うけど、私を巻き込まないで欲しい。
「で、誰が解決するわけ?」
「そりゃあ、真琴か丈一か」
やっぱり。私は大きくため息をついて言った。
「直人は何をするのよ」
「オレはほら、ピンチの時に現れるヒーローみたいなもんだから」
むしろ騒ぎを大きくするだけじゃ……と思いながら、私は首を左右に振った。
「無理だよ。私はともかく、忙しい丈一にそんな暇ないでしょ」
今日だって、直人は丈一にも声を掛けたはずなのだ。
ここにいないと言うことは、塾なりなんなりで断られたに決まっている。
「じゃあ丈一抜きでもいいからさ」
「え?」
びっくりした。直人は意味がわかってるのだろうか?
丈一抜きということは、ふたりきり。
そんな恋人みたいなこと、できるわけない。
「んだよ、何か言えよ」
私がだまってしまったので、直人が不満げな顔をする。
「直人さ、ふたりで探偵するわけ?」
「それがなんだよ」
直人が首をかしげたので、絶対わかってないんだと思う。
「私と直人が、いつもふたりで行動してたら、皆はどういうふうに思うんだろうね?」
ここまでかみ砕いて説明して、ようやく直人は理解したみたいだった。
直人は真っ赤になって、しどろもどろに言い訳をする。
「違っ、オレはただ、皆の役に立てたらって」
「直人はそう思ってても、皆は私たちが付き合ってるって思うだけだよ」
大げさな言葉を使ったら、直人はさらに慌てて、ベンチから立ち上がる。
「付き合うって、そんな」
「だから誤解されるようなことは、やめよって話」
私は直人に言い聞かせるように、ゆっくりと続ける。
「それに丈一抜きじゃ、意味ないでしょ? こないだのことだって、丈一がいなきゃ解決できなかったんだし」
「けど、さ」
まだあきらめきれない直人が何か言いかけたところで、キキーッという音と派手に物がぶつかる音がした。
私たちは思わず飛び上がって、音のしたほうに顔を向けた。
車が電柱にぶつかって、ボンネットがひしゃげている。
その前では尻餅をついた男の子が、サッカーボールを抱えて呆然としていた。
初めて見る本当の事故に、私はただ突っ立っているしかなかったが、直人はさすがの行動力ですぐに少年のそばに駆け寄った。
「おい、大丈夫か!」
「う、うん」
立ち上がった男の子に、怪我はないみたいだった。
私もようやくふたりの元に向かうと、車の運転席から男の人が出てきた。
「なんで飛び出したんだ! 危ないだろう!」
中年のおじさんは、真っ赤になって怒っている。
まさにブチギレという感じで、ここまで大人が怒っているのは見たことがなかった。
私も少年もブルブルと震えていたけれど、直人はひるまない。
「とりあえず、落ち着けよ。どっちも怪我なかったんだから、よかったじゃねーか」
おじさんは額に青筋を立てたまま、また怒鳴った。
「なんだお前、関係ないのに口出すな!」
「だから、わめくなって。さっさと警察、呼んだほうがいいんじゃねーの」
口の利き方! と思ったけど、おじさんは直人と話しながら、少しずつ状況を整理し始めたみたいだった。
「あ? あぁそうか……」
「この子の親、連れてくるから、電話しとけよ。スマホくらい持ってんだろ」
直人がこういうとき、パニックにならないのは、本当にスゴいと思う。
おじさんでさえオロオロしてたのに、直人だけはずっと冷静だった。
ケンカっ早いくせに、いざというときは頼りになるんだと、ちょっぴり直人を見直してしまう。
「真琴はこの子と一緒にいてやって。不安だろうから」
「うん、わかった」
その後は警察と近所の野次馬がやってきて、住宅地内は大騒ぎになった。
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