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第一章

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 次の朝、ちょっと早めに学校に行き、二組をのぞいてみる。
 思った通り丈一がいた。
 丈一はいつも一番に学校に来て、朝のうちに昨日学校で出た宿題をやるのだ。

「おはよう」

 私が声を掛けると、丈一は顔を上げた。

「おはよう。何かわかったのか?」
「特にない、かな。津崎が動物好きじゃないらしいってことくらい」
「そうなのか? 裕也って飼育委員だろ」
「うん。ヘン、だよね? あとはケンカの最中に、消しゴムがどうとか言ってたって、直人が」

 私のセリフに、丈一が眉をひそめた。

「はぁ? 聞き間違いじゃないのか」

 丈一が私と全く同じ反応をしたところで、直人が教室に入ってきた。

「ちげーよ! 本当にそう言ったんだって」

 どうやら私たちの話に、聞き耳を立てていたらしい。
 遅刻ギリギリの直人にしては珍しい早朝登校だが、やはり昨日のことを気にしているのだろう。

「消しゴム、なぁ……」

 丈一が腕を組み、何か思い出すような表情をした。

「そういえば、井澄の消しゴム、最近新しくなった気がする」
「井澄? 今は裕也と久司の話だろ」

 直人が不思議そうな顔をしたので、私は裕也が清花のことをよく見ているのだと、軽く説明をする。

「ふぅん? でもよく見てんな丈一。実はお前も、井澄のこと気になってんじゃねーの」

 私はドキッとしてしまったけど、丈一は涼しい顔だ。
 直人にからかわれても、ちっとも動揺したそぶりは見せない。

「変わった消しゴムだったんだよ。全体が綺麗なブルーで、金色のシリアルナンバーみたいなのが入ってて」
「シリアルナンバー? 何か特別なヤツなのかな」
「だとして、その消しゴムとふたりのケンカと、なんの関係あんだよ?」
「それはこっちが聞きたい。消しゴムって言葉は、直人が言い出したんだろ」

 丈一にツッコまれ、直人は渋い顔をした。

「だって、そう聞こえたんだから、しかたないだろ」

 直人がふくれたところで、私はハッとひらめく。

「もしかして、プレゼントだったんじゃない? ふたりのどっちかから清花に」

 ただの消しゴムならともかく、特別なものなら贈り物としては十分だ。

「それでなんでケンカになんの?」
「うーん、つまり抜け駆けしたから、みたいな?」

 私の推理にを聞いて、丈一は一応うなずいてくれる。

「まぁ筋は通ってる、な」
「んだよ、しょーもねー」

 ケンカの原因が色恋沙汰だと知って、直人はすっかり興味を失ってしまったみたいだ。
 直人はまだお子様だから、誰かを好きになったことなんてないのだろう。

「ってことは、もう解決?」
「……とりあえず」

 丈一はうなずいたものの、まだ納得していないみたいだった。
 何か気になることでもあるのだろうか?

 聞きたかったけど、だんだん教室に人が集まってきた。
 もうすぐチャイムが鳴るから、自分のクラスに戻らなければならない。

「じゃあまた、なんかわかったら教えて」

 私と直人は丈一を残し、それぞれの教室に入ったのだった。
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