恋の三角関係♡探偵団 ~私、未来を変えちゃった!?~

水十草

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第一章

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「まーちゃん! ちょっと来て!」

 昼休み。私が読みかけの本を開くと、三木菜々実みきなななみの声が聞こえた。
 顔を上げると、菜々実があわてた様子で近づいてくる。

「どうかした?」
「麻井がケンカしてるの。早くとめないと」
「また?」

 私はため息をついて立ち上がった。
 麻井直人あさいなおとは私の幼なじみだ。

 十年近く前、この近くに新しい住宅地ができて、私たちはふたりとも同じような時期に引っ越してきた。
 それから幼稚園、小学校とずっと一緒。

 私にとって直人はトクベツじゃないけど、皆にとってはそうではない。
 身体は大きく、ケンカっ早く、直人は取り扱い注意の問題児だからだ。
 男子でも普通に話しかけられないし、女子なんて遠巻きにして近寄りもしない。

 だから何かあると、私のところに話が来る。
 本当はもうひとり、直人が言うことを聞く相手がいるのだが、面倒くさがり屋でやる気がないせいで、私が頼られてしまうのだ。

「うわ」

 廊下に出ると、つかみ合いのケンカになっていた。
 参加者は直人の他に、原田久司はらだひさし津崎裕也つざきゆうや

 直人は三組だが、久司と裕也は二組だ。
 一体どうして、こういう状況になったのだろう。

「まーちゃん」

 私が突っ立ったまま三人を見ているので、菜々実が服のすそを引っ張ってきた。
 早く止めに入ってくれということだろう。

「はいはい」

 私は仕方なく返事をして、三人に近づく。

「ちょっと、やめなって」

 直人の肩をつかむと、彼は私をにらんだ。

「るせー、真琴にゃカンケーねーだろ」
「麻井にも関係ないだろ」

 久司がすかさず答え、直人がまたつかみかかる。

「んだとぉ」
「ちょ、待って! とにかく落ち着きなさいよ!」

 私は直人を引きはがし、久司のほうを向いて続けた。

「一体何があったの?」

 久司の頬は少し腫れている。
 誰がやったのかは知らないけど、あとで保健室に行ったほうが良さそうだ。

「コイツらがケンカしてっから、止めようとしたんだよ。したら、殴りかかってきて」

 直人には聞いてないのに、久司より先に答える。
 ふたりが黙っているところを見ると、どうやら本当らしい。
 久司が「麻井にも関係ないだろ」と言うわけだ。

「行動は立派だけど、それで騒ぎを大きくして、どうすんのよ」

 私は肩をすくめ、ふたりに向かって言った。

「で、ケンカの原因は?」

 久司も裕也も答えない。しばらく待ってみたけど、口を開く様子はなかった。

「言いたくない、と」

 私はつぶやき、野次馬の中から菜々実を見つける。

「ナナ、三人とも、保健室連れてったげてよ」
「わかった」

 保健委員の菜々実は頼もしく返事をすると、三人を連れて去って行く。
 私は四人を見送ってから、二組に入った。

 あれだけの騒ぎがあったのに、縞野丈一しまのじょういちは机に向かって計算ドリルを解いている。
 予想通りだけど、もう少し責任ってものを感じてほしい。
 丈一だって、直人の幼なじみなのだから。

「ちょっと丈一、あんた外の騒ぎ、聞こえなかったの?」

 丈一はドリルから顔も上げずに答える。

「聞こえてたらなんだ」
「なんだ、って止めに入るなりなんなり」
「ケンカしたいなら、させておけばいい」

 クールと言えば聞こえはいいけど、丈一のはただやっかいごとに巻き込まれたくないだけだ。
 私は大きくため息をついて、丈一の前の席に座った。

「原田と津崎って、仲悪いの?」

 ことわりもなく座って質問する私を、丈一がにらんだ。
 丈一はあきらめた様子で鉛筆を置き、ドリルを閉じる。

「悪くない。むしろ仲はいいほうだ。同じスイミングスクールに通ってるらしい」
「じゃあ、何があったわけ」
「さぁな」
「気になったこと、ないの?」
「そもそも気にしてない」

 丈一らしい答えに、私は次の質問ができなくなってしまう。
 昔はこんなにひねくれてはいなかったのに。

 背が高く眼鏡を掛けた丈一は、直人に比べて細くシュッとしている。
 見た目から来る印象通りに頭がよく、特に算数や理科は誰も丈一に勝てない。

 正反対の直人と丈一、幼なじみだと知ると皆びっくりする。
 私でさえ不思議な気持ちになるのだ。毎日一緒に遊んでたのに。

 いつの間にか離れてしまったのは、丈一が中学受験することになったからだと思う。
 直人は塾に通ってないけど、私と丈一は同じ塾に通っている。
 でもコースが違う。私は進学コースで、丈一は受験コースだ。

 丈一のお母さんはすごい教育ママで、私たちと遊ぶこともいい顔をしなかった。
 一緒に遊んでても、すぐに丈一を呼びに来るのだ。
 丈一が抜けて私と直人だけになると、なんだか気まずくて、いつの間にか遊ぶ約束もしなくなってしまった。

「ひとつだけ、ないこともない」
「え?」

 考え事をしていた私は、とっさに反応できなかった。
 丈一はちょっと眉をひそめ、ぶっきらぼうに答える。

「気になったことだ」
「ぁ、あぁ。何?」
「最近、教室で裕也とよく目があう」

 なんで? と言いかけて、私は口を閉じた。
 丈一の試すような視線。私に答えを出させようとしている。

「丈一を見てた、ってことはないよね? じゃあ隣の席?」
「そう。多分、 井澄清花いすみさやか

 なるほど。清花は学年一の美少女だ。

「席替えして清花の隣になってから、目が合うようになったの?」
「あぁ」

 津崎裕也は井澄清花が好き、だった――?

「わかった。もう少し調べてみるよ」

 私が立ち上がると、丈一はフイと目をそらして言った。

「俺も、一応調べてみる」

 さっきまで興味なさそうだったのに。
 勉強漬けで忙しくても、丈一にはまだ優しさが残っているみたいだ。
 私は嬉しくなって、丈一の肩を叩いた。

「ありがとう。丈一が一緒にやってくれるなら、心強いよ」

 丈一はちょっと頬を染めて、コクンとうなずいた。
 それと同時にチャイムが鳴る。昼休みが終わったのだ。

 続きは放課後になるだろう。
 私は久しぶりにワクワクしながら、自分のクラスである一組に戻った。
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