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第二章

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「次は」

 立ち上がったイーサンが周囲を見回す。チェストについてはもう満足したらしい。

「寝室のクローゼットかな」
「では、こちらへ」

 リネットに案内され、全員でベッドルームに移動した。クローゼットの中には粗末な服が何着か吊られていたが、調べ始めてすぐ、イーサンが驚きの混じった声をあげた。

「ウォルター! 奥の羽目板が動くぞ、手を貸してくれ」
「はい、旦那様」

 クローゼットのサイズにピッタリはめ込まれた板を取ると、女物の薄いジャケットやスカート、ウールのストッキングやペチコートまで出てくる。

「これは」
「違います。私のものではありません」

 尋ねられる前から、リネットは青い顔を激しく振った。彼女の持ち物でないなら、自ずと誰のものかは察しが付く。

「ご主人は、小柄な方なんですか?」
「えぇ。背格好は私と大して変わりません」
「そうですか」

 驚いているのかいないのか、イーサンは冷静さを維持したまま、ジャケットやスカートを鼻先まで持ち上げ、臭いを嗅いだりポケットを検めたりしている。

「おや、何か入っていますね」

 イーサンが取り出したのは、小さく折りたたまれた紙切れだった。

「ちょっと見せてください」

 テオが頼むとイーサンはすぐにこちらに渡してくれる。紙切れを開くと『ネズミ殺し』という、ギャンブルの開催を知らせるチラシだった。

「ご主人は賭け事がお好きなんですか?」
「そんな話は聞いたことがありません」

 リネットの顔はますます青くなるばかりだ。夫の知られざる秘密を目の当たりにして、ショックを受けているらしい。

「ギャンブルで稼いだというなら、急に金回りが良くなった説明はつきますね。そういう金なら、人に奢るのも抵抗はないでしょうし」
「常に儲け続けられたら、な」

 イーサンがつぶやき、軽く眉間に皺を寄せて続ける。

「しかし女性用の衣服はどうなる?」
「女装して参加してたんじゃないですか。理由はわかりませんが」
「素性を知られたくなかった、ということか?」
「それならただの変装で良いと思いますけど」

 ふたりのやり取りを聞いていたリネットは、緊張した面持ちで言った。

「あの、とりあえずこの賭博場に行ってみませんか?」

 イーサンはテオからチラシを取り上げ、一瞥してから答える。

「そうですね。これ以上の手がかりは、この家にはないようですし」

 その発言が合図だったかのように、ウォルターがテキパキとクローゼットを元通りにして、数分後には全員でリネットの部屋を後にしていた。
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