13 / 22
第二章
5
しおりを挟む
「次は」
立ち上がったイーサンが周囲を見回す。チェストについてはもう満足したらしい。
「寝室のクローゼットかな」
「では、こちらへ」
リネットに案内され、全員でベッドルームに移動した。クローゼットの中には粗末な服が何着か吊られていたが、調べ始めてすぐ、イーサンが驚きの混じった声をあげた。
「ウォルター! 奥の羽目板が動くぞ、手を貸してくれ」
「はい、旦那様」
クローゼットのサイズにピッタリはめ込まれた板を取ると、女物の薄いジャケットやスカート、ウールのストッキングやペチコートまで出てくる。
「これは」
「違います。私のものではありません」
尋ねられる前から、リネットは青い顔を激しく振った。彼女の持ち物でないなら、自ずと誰のものかは察しが付く。
「ご主人は、小柄な方なんですか?」
「えぇ。背格好は私と大して変わりません」
「そうですか」
驚いているのかいないのか、イーサンは冷静さを維持したまま、ジャケットやスカートを鼻先まで持ち上げ、臭いを嗅いだりポケットを検めたりしている。
「おや、何か入っていますね」
イーサンが取り出したのは、小さく折りたたまれた紙切れだった。
「ちょっと見せてください」
テオが頼むとイーサンはすぐにこちらに渡してくれる。紙切れを開くと『ネズミ殺し』という、ギャンブルの開催を知らせるチラシだった。
「ご主人は賭け事がお好きなんですか?」
「そんな話は聞いたことがありません」
リネットの顔はますます青くなるばかりだ。夫の知られざる秘密を目の当たりにして、ショックを受けているらしい。
「ギャンブルで稼いだというなら、急に金回りが良くなった説明はつきますね。そういう金なら、人に奢るのも抵抗はないでしょうし」
「常に儲け続けられたら、な」
イーサンがつぶやき、軽く眉間に皺を寄せて続ける。
「しかし女性用の衣服はどうなる?」
「女装して参加してたんじゃないですか。理由はわかりませんが」
「素性を知られたくなかった、ということか?」
「それならただの変装で良いと思いますけど」
ふたりのやり取りを聞いていたリネットは、緊張した面持ちで言った。
「あの、とりあえずこの賭博場に行ってみませんか?」
イーサンはテオからチラシを取り上げ、一瞥してから答える。
「そうですね。これ以上の手がかりは、この家にはないようですし」
その発言が合図だったかのように、ウォルターがテキパキとクローゼットを元通りにして、数分後には全員でリネットの部屋を後にしていた。
立ち上がったイーサンが周囲を見回す。チェストについてはもう満足したらしい。
「寝室のクローゼットかな」
「では、こちらへ」
リネットに案内され、全員でベッドルームに移動した。クローゼットの中には粗末な服が何着か吊られていたが、調べ始めてすぐ、イーサンが驚きの混じった声をあげた。
「ウォルター! 奥の羽目板が動くぞ、手を貸してくれ」
「はい、旦那様」
クローゼットのサイズにピッタリはめ込まれた板を取ると、女物の薄いジャケットやスカート、ウールのストッキングやペチコートまで出てくる。
「これは」
「違います。私のものではありません」
尋ねられる前から、リネットは青い顔を激しく振った。彼女の持ち物でないなら、自ずと誰のものかは察しが付く。
「ご主人は、小柄な方なんですか?」
「えぇ。背格好は私と大して変わりません」
「そうですか」
驚いているのかいないのか、イーサンは冷静さを維持したまま、ジャケットやスカートを鼻先まで持ち上げ、臭いを嗅いだりポケットを検めたりしている。
「おや、何か入っていますね」
イーサンが取り出したのは、小さく折りたたまれた紙切れだった。
「ちょっと見せてください」
テオが頼むとイーサンはすぐにこちらに渡してくれる。紙切れを開くと『ネズミ殺し』という、ギャンブルの開催を知らせるチラシだった。
「ご主人は賭け事がお好きなんですか?」
「そんな話は聞いたことがありません」
リネットの顔はますます青くなるばかりだ。夫の知られざる秘密を目の当たりにして、ショックを受けているらしい。
「ギャンブルで稼いだというなら、急に金回りが良くなった説明はつきますね。そういう金なら、人に奢るのも抵抗はないでしょうし」
「常に儲け続けられたら、な」
イーサンがつぶやき、軽く眉間に皺を寄せて続ける。
「しかし女性用の衣服はどうなる?」
「女装して参加してたんじゃないですか。理由はわかりませんが」
「素性を知られたくなかった、ということか?」
「それならただの変装で良いと思いますけど」
ふたりのやり取りを聞いていたリネットは、緊張した面持ちで言った。
「あの、とりあえずこの賭博場に行ってみませんか?」
イーサンはテオからチラシを取り上げ、一瞥してから答える。
「そうですね。これ以上の手がかりは、この家にはないようですし」
その発言が合図だったかのように、ウォルターがテキパキとクローゼットを元通りにして、数分後には全員でリネットの部屋を後にしていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる