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198 流血表現あり

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凪さんの体が目の前からいなくなった。悲しい程の切ない口付けを残して。
それは一瞬の事だった。手を伸ばしたけど掴んだのは残像の凪さんで、感触はない。
そして、気がついたら皇帝の腕の中だった。

ネクタイを乱暴に緩められて、白い首筋を鎖骨を曝け出されたとき皇帝が何かを掴んでいた。
それを必死に取り返そうとしている凪さんを嘲笑うかのように「それ」を投げ捨てた。
「それ」は太陽でキラキラと反射しながら自分の膝下に落ちてきた。金色で紐をグルグル巻にしたデザインの指輪は、少しだけいびつにゆがんでいた。

凪さんに贈った指輪
似合うと思って贈った指輪
俺の大切な女性だと教えたくて贈った指輪
俺に縛り付けたくて贈った指輪

視線は二人に戻しながらも、手だけは指輪に向かい握り込む。
それと同時に皇帝の牙が凪さんの首筋に突き立てられていた
「凪さんっっ!!」
指輪を掴んだ手を伸ばす。凪さんも助けを求めるように手を伸ばす。
「かいと」と名前を呼ばれたような気がした。

血を取られ過ぎたせいか、凪さんは皇帝の腕の中で気を失ってしまった。
牙を突き立てられた首からは、血が伝い白いシャツを赤く染めていた。
それは皇帝の唇も同じで、口紅のように赤い唇を歪めて、赤い舌でベロリと白い首筋を舐めて、自分の赤い唇を舐める。
「相変わらず、凪ちゃんの血は美味しいね・・・・・甘くて、いい匂いで、一度口にすると他の血は飲みたくなくなるね・・・・甘露だね」

蕩けるような目をして、自分の腕の中でぐったりと気絶する夜神の白練色の頭を撫でる。
その光景が気持ち悪くて、悔しくて、庵は皇帝を睨みつけながら叫んでいた。
「皇帝っっ!!」
「ふっ、ははははっ!!満身創痍の負け犬がっ!!ただの餌でいればよかったものを。愚かにも歯向かい、打ち破れた気分はどうだい?愉快だね!傑作だね!」

見下し、馬鹿にしたような顔を、声を、言葉を庵に向けながらルードヴィッヒは夜神を横抱きに抱えると、重さなど微塵も感じない足取りで歩き出す。
「私の用はもう終わったよ。凪ちゃんも手に入れたことだし。そろそろ城に帰らないとローレンツも我慢の限界みたいだからね?」
ツカツカと軍靴を鳴らしながら、自分達が乗ってきたヘリに向かう。
ヘリに近づいて行くときに突然クルリと半回転して庵や、何とか体を起こしている藤堂元帥達を冷めた金色の目で見ていく。

「私の力は私達がゲートをくぐるまで続いているよ。もし、攻撃をしてきたら・・・・・」
夜神を抱きながらパチン!と指を鳴らす。すると遠くの建物が爆発音と共に屋根を吹飛ばし、火柱が上がる。
「なっ・・・確かあそこは・・・・・」

場所はヘリ等を格納する場所だった。鎖によってヘリの機体が破壊され、火花がガソリンに引火して爆発と火柱を生まれさせた。
これではヘリでの攻撃も出来ない。
「見事なまでに爆発したね。もちろんあの建物以外にも、私の力は地面の中に埋もれているよ?この場所を畑にしたくなかったら大人しくしていることだ。分かったかい?」
まるで聞き分けの出来ない幼子に、語りかけるようにゆっくりと語り掛ける。
けど、その顔は歪んで嬉々としていて「楽し、愉快」と言っている。

庵は悔しくて、顔を歪めた。そして、満身創痍の体を起こそうとした時、背中に何かに硬いものが押し付けられる
「それ以上は動かないで下さい」
その声は本條局長だった。
「あなた方のせいでこれ以上、人類を危険に晒さないで下さい。迷惑です・・・・・吸血鬼の皇帝よ!我々はこれ以上首を突っ込む事はしません。夜神大佐を連れて帝國に御帰り下さい」

ゴリゴリと背中に押し付けていたのは軍の公式銃だ。
上層部は持てないので、きっと落ちている誰かのを拾ったのだろう。
こんな至近距離で発砲されたら、回避することなど不可能だ。
庵は悔しかったが大人しく従うしかなかった。

「ふ~ん・・・・・もう、おしまいならそれで私は構わないよ。なら、帰ってもいいよね?そろそろ私は飽きたからね・・・・」
「構いません。我々はこれ以上追撃もしません。方の帰還をここで静かに見守らせていただきます」
軽く一礼する本條局長を見てルードヴィッヒは冷笑した。

帝王と呼ぶ人種を知っている。それは自分達の「餌」として連れてきた、何にも力のない者たちだ。
餌達は私のことを「帝王」と呼ぶ。
そして、人間の世界で「帝王」と呼ぶ者は・・・・

弱者が己の権利、主張を叫び、安定の暮らしを手に入れるために間者になって我々、吸血鬼が人間の世界で活動しやすいように手助けする餌共がいるのは知っていたが、まさかこんな身近にいたとは・・・・

愉快としか言えないね?

ルードヴィッヒはそのまま動かないでいる庵に、笑いながら気になっていたことを尋ねる。
「そこの餌は代々伝わる古い書物があるんだよね?」
それを聞いた庵は自分の事を聞かれていると、理解するのに少しだけ時間がかかった。
頭の中は自分の不甲斐なさや非力さ。目の前にいるのに助け出す事など出来ず、背中には凶器を押さえつけられている恐ろしさと、色々と有りすぎた。
本條局長が背中の銃を更に強めにゴリゴリと押し付けて、庵は自分の事を聞いていると理解して口を開く

「ある・・・・けど、それがどうした」
「最後まで読んだかい?」
「いや、全部は読んでいない」
「・・・・・そうか・・・・なら、最後まで読むといい。きっと自分の中にある不可解なことが解決されるかもしれないね?私は全部ではないが謎が解けたよ?後、奇妙な力もね?」
「・・・・・言っている意味が分からない。俺の不可解なこと?謎?」
庵は皇帝の言っていることが分からなかった。けど、この力の事については何か知っているようにも感じられる。
「さっきの赤い塊は「血液」だよね?」
「!!どうして・・・・・」
「その塊を飲んで力を得ている。けど、効力は短い・・・・違うかい?」
「・・・・・・」
どこまでも知っているのだろう。まるで、本を全て読んで内容を理解しているような口ぶりに恐怖を覚える。
「まあ、いいよ。例え全て見ようとすでに意味のないことかもしれないしね・・・・・不可解なことも、ね?」 

そうだ・・・・
不可解なことだ。凪さんと関係あるのか?そして、皇帝と初めて剣を交えた時に感じたもの・・・・・
恨み、辛み、嫉妬・・・・
これらも関係あるのか?

一瞬考えた庵を見てルードヴィッヒは唇を歪めて指を鳴らす。
「?!・・・・ぐああぁぁぁ!!くそっ!!」
庵の足を数本の鎖が貫いていた。地面に赤黒いしみがどんどんと広がっていく。
体を支える事が出来なくなって地面に突っ伏してしまった。

「私の前でふしだらな事をしたお仕置きだよ?凪ちゃんはこの後、城で十二分にお仕置きするけど、お前は今しか出来ないからね?」
そう、笑いながらマントを翻し、人を抱えていると感じないほど軽々とヘリに乗り込む。
その後をローレンツが乗り込もうとしたが、再確認するために庵の後ろにいる本條局長に問いかける。
「先程の話ですが、皇帝の力はゲートをくぐるまで持続されます。我々のヘリにそちらが攻撃をした場合、あなた方の軍の施設は鎖で粉々になるでしょう。それが嫌ならば大人しく指を加えて見ていることです。とくに、その地面に伸びている軍人は・・・・・・」
冷たい視線を地面に倒れ、悔しそうに顔を上げて見ている庵にやるとローレンツも同じくヘリに乗りこむ。

ヘリはゆっくりとプロペラを回し始め、砂埃を撒き散らし、上昇していく。
「くそっ!!凪さん!!」
指輪を握っている手を何度も何度も、地面に叩きつけていた。手からは傷付き血が滲んでいる。
痛いはずだが、そんな痛み今の庵には些末な事だった。

一番痛いのは心だった。大切な人を守りたかったのに、結局守れず、それどころか目の前で血を流させてしまった。

きっと痛かったかもしれない
もう、二度とあんな痛みを凪さんに与えないと心に誓ったのに
離れないと誓ったのに
守ると誓ったのに
結局何にも守れなかった・・・・・

ヘリの音は少しずつ遠くに行ってしまう。そしてその音はいつの間にかなくなっていた。
けど、庵も他の人達もみんな動かことが出来なかった。

あまりにも色々なものを失ってしまった
それが大きすぎて誰も動くことも出来ず、ただ、青い空を見つめるだけだった
青く澄んだ空を、何にもない綺麗な空を只々、見つめることしか出来なかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

庵VS皇帝の結果は皇帝が勝者になりました。
そして、庵青年は皇帝にお仕置きされました。痛いですね・・・・・
もちろん、夜神大佐もきっちりとお仕置きされますが、ご存知の通り夜神大佐のお仕置きは・・・・です。
ねっちこくいじめていくと思われ・・・・
ルードヴィッヒはそんな男です(笑)
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