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夜神は庵を庇う為、ルードヴィッヒの重い一撃を蒼月で受け止める。
それをされたルードヴィッヒは驚いて、後ろに何回か跳躍して後退する。
剣の重みがなくなった刀をゆっくりと下げて夜神は周りを見渡した。

戦地、荒廃、そんな言葉が当てはまるほど荒れていた。

コンクリートで、舗装されていた場所は所々穿かれたうが所が無数にあり、コンクリート片と土が散乱している。

そして、その地面には傷付き、血を流して、呻く軍人仲間がいる。
もちろん見知った人達もいる。元帥や室長、そして共に戦ってきた部屋のみんな。

そんな荒廃した場所に、傷つき、口からは血を滲ませながら、何とかして突破口を見つけようとしている、一人の軍人がいた。
白練色の髪をなびかせて、その瞳は赤く染まっている軍人は日本が誇る軍最強と言われた、夜神凪大佐だった。

その後ろでは、同じように体全体がに貫かれて、一歩間違えば出血多量で命を落としていたかもしれない軍人が、同じように口から血を伝わせて、薔薇色の刀身を持つ刀を地面に突き立てて肩で息をする。

そして、二人と対峙するように立っていたのは吸血鬼の帝國・エルヴァスディア大帝國の皇帝ルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルであり、黒衣のマントをはためかせている。

夜神はここまで来て、絶望しかない未来を見てしまった。このままいても、世界はに蹂躪され、支配される。
自分一人で済むのならば安いものだ。お釣りが来るかもしれない。
それに、「大好きな人」を守れるならば喜んで捧げよう。

かつては、大好きになった人は奪われた。集落の皆も、お母さんも、先生も。この目の前で薄ら笑いをしている皇帝に。
けど、守れる道があるならば、迷わずその道を進む。
それが人身御供のように、捧げることになっても。

けど、大好きになった人は優しいから。きっと、私が憎い皇帝の元に行くことを責めてしまうかもしれない。
誰のせいでもないのに。自分に力がなかったと嘆いてしまうかもしれない・・・・・

傷つき、今も苦しそうにしている男性愛しい人に笑みを浮べる。罪悪感をこれ以上抱かないように・・・・

夜神はゆっくりと蒼月そうげつを納刀していく。
そして刀の鞘を固定しているベルトを外すとゆっくりと地面に下ろす。
蒼月そうげつ紅月こうげつ黒揚羽くろあげは月桜つきざくらこれにて契約は終わる。新たな人を、使い手を見つけてね・・・・・」

ずっと手足となって私を支えてくれた大切な物。この子達が認めてくれたから私は戦えてきた。
みんなを手放すのはしたくない。けど、連れてもいけない。だってこれはこの世界には必要な武器だから。
奴らを、憎い敵吸血鬼と戦える唯一の武器だから。

キィィィィ━━━━と、みんなが泣いているような音が聞こえる。
すると、体に急激な重みと痛みがのしかかる。
「っぅ・・・・ぐぅぅ・・・・・」
「高位クラス武器」の恩恵で身体強化されていた体だったが、武器を手放したのだ。
恩恵もなくなってしまったので体に刺された傷の痛みや、戦闘で消耗した力が一気にのしかかる。
地面に両手を突いて何とかやり過ごすと、重い体に鞭打って後ろにいる庵の方に体を向ける。

「海斗・・・・・大好き。生きて、これ以上私から大切な人を奪われたくないから・・・・・」
トンと膝をつき合わせ、悲しそうに、苦しそうにしている庵の頬を、両手で包み込む。
そして、カサつく唇に自分の唇を重ねる。
それは数秒の出来事。けど、夜神にとっては長い出来事にも思う。
互に口からは血を流しているせいか、血の味がする。
最後の口付けが、まさかの血の味とはなんの因果なのだろう。

精一杯の笑みを浮かべて、夜神は庵を見る。もし、思い浮かべる時は泣いた顔ではなく、笑った顔を思い出して欲しくて。
「海斗、笑って。私はあなたの笑った顔が好きだから。あなたを守れるなら、私は頑張れるから・・・・・大好き!そして生きて!」

沢山の想いを込めて、許されるなら何度でも伝えたい
━━━━大好き、と。だから、生きて、と。

それが私が願う、我儘だと。

触れるだけのキスをされた庵は目を見張った。
まるで最後の別れではないかと。もう、二度と会えないと。
何でそんな顔で笑うんですか?
泣きそうな顔じゃないですか!
「行きたくない」その一言が欲しいです
まるで、全てを飲みこんで、人身御供のように捧げて・・・・
全てを自分が背負って、そんな華奢な細い肩に「人類の命」を全て乗せて・・・・

いやだ!行かせたくない!

その心が反映されたのか、庵の手がゆっくりと夜神を抱きしめようとした時、夜神の体にがシュルルと巻き付いたと思うと、夜神の体が引きずられるように後ろに引っ張られた。

スローモーションを見ているようだった。実際は何秒もかかってないのに、その行為がゆっくりと、ゆっくりと動いているようにも見えた。
「凪っ!!」
「っ!!」
互いが手を伸ばして掴もうとする。けど、掴んだのは空気だけ。
そして、気がついた時には夜神はルードヴィッヒの腕の中に囚われていた。

「駄目じゃないか凪ちゃん?私の目の前でふしだらな事をして・・・・お仕置きしないと、ね?けど、その前に喉が渇いてしまったから、頂戴ね」
額を抑えられて、ルードヴィッヒに体を押し付けながら固定させられる。視線は庵を捉えていた。
庵は驚いて、夜神を掴もうと手を伸ばしたままで固まっていた。
ルードヴィッヒはもう片方の手でネクタイごと襟元を寛げられる。牙を首筋に突き立てやすいように。

そして、その首周りをぐるりと囲む金色のチェーンを見つけたルードヴィッヒは興味を示して指を一本引っ掛ける
「だめっ!!」
夜神の切羽詰まった声にルードヴィッヒはゾクゾクして、チェーンを上に持ち上げると指輪が出てきた。
「凪ちゃんコレは何?・・・・・こんな物、前は付けてなかったよね?」
これだけ必死になるのだ。きっと誰かから貰った物かも知れない。

例えば、目の前の餌からとか・・・・・

そう考えてしまったルードヴィッヒは面白くなくて、指輪を掴むとブチッとチェーンを引き千切る。
「イヤぁぁ!返してっ!!それは・・・・」
ルードヴィッヒの鎖に巻き付けられていない、自由な片手を必死に伸ばして、指輪を掴んでいるルードヴィッヒの手を掴もうとする
「凪ちゃんに合いそうなネックレスも指輪もちゃんと用意してあるからね?ダイヤに真珠、ルビー、エメラルド・・・・だからこれは要らないね?」
そう言ってルードヴィッヒは指輪を投げ捨てた。落ちた場所は庵の膝元だ
「返してっ!!それは海斗の・・・・あぁ・・・」
必死に伸ばした手を嘲笑うように、指輪は投げられて庵の所に落ちていく。それを視線で追いながら手も同じ様に庵に向けられた時、首筋にブチッと肉がに突き破られた音がした。

「?!・・・うぅぁぁぁ・・・・・」
痛みが襲い、次に熱が生まれる。あまりの痛さに呻くことしか出来なかった。
ルードヴィッヒの牙が深々と夜神の首筋に埋められていた。
そして、ゴク、ゴクと嚥下する音に耳を塞ぎたくなる。
只々、痛みだけがそこにある。これは「食の牙」だ。

急激に血を吸われてしまい頭がクラクラする・・・・
体温も下がってきて、寒くて震える・・・・・
視界が・・・・
海斗、助けて・・・・・
「か、いと・・・・」
手を必死に伸ばして助けてもらおうとしたけど駄目だった。
視界は黒くなってしまった。ブラックアウトだ。
「凪さんっっ!!」
遠のく意識の中で、大事な人の声を聞いたような気がした。

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プロローグ2の場面はここでした。
二人の別れのやり取りに、プッッン!したルードヴィッヒは見せしめに血をチューチュー吸いました(笑)
ヤキモチです。こう、書けば可愛いけど、本人たちは色々と必死です。
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