上 下
192 / 307

168 流血表現あり

しおりを挟む
刀を握る力を少し強めながら、相手の様子を見る。その時、突然、吸血鬼が口を開く
「おい、餌・・・・・騎士団の訓練場で皇帝陛下と剣で勝負していたなかったか?」
「人違いだ!」
鍔迫り合いの中、顔をまじまじと見られ投げかけられた言葉に動悸が激しくなる。

あの勝負の時にいた騎士達の一人が今、目の前にいる。
帝國にいた時の記憶は消したいが消せない。それは死ぬまで続くと理解している。けど、出来るなら思い出したくない。

鍔同士がぶつかる中を夜神は回避して、庵に討伐させるため反撃にでる。
相手の力を利用してこちらに押してこようとする一瞬に、両手から片手持ちに変えて、吸血鬼が両手で持っている腕の輪の中に、柄を滑らせるように逆さに入れ込む。
剣先を地面に、柄を天にして構えると刀のむねに手を置いて押し上げるように力を加える。
すると、吸血鬼の脇に蒼月の刃がめり込み、片腕を落とすギリギリの所まで斬り込み地面に膝をつかせる。
辺りには脇から流れた血飛沫が、地面の土を赤黒く染める。

「貴様━━━っ!!」「庵伍長!!!」
二人の叫びが重なる中を庵は駆け出す。
夜神大佐が作ったチャンスを逃すまいと懸命に見ていた。
いつでも合図が来たら走り出せるようにしていた。
そして、その合図がとうとう出された。
鍔迫り合いから一瞬で吸血鬼の脇に刀を潜り込ませて、斬り上げる。その動きについていけなかったが、気がついたら脇からの血を流して、地面に片膝をついていた。

刀を構えたまま走り出し、地面に膝をついている吸血鬼の前で止まる。
刀を立てて頭の右側に寄せる八相の構えから刀を振り下ろす
「はぁぁぁ━━━━っ!!」
だが、剣を持っていたもう片方の腕を上げて、庵の一撃をいなすと、後方に素早く移動して剣を構え直す。

「餌風情がぁぁぁっ!!騎士である私の腕を!!この代償は貴様らの命も持って償えぇぇぇ━━━!!!」
片手で剣を構えながら突進してくる吸血鬼の鬼気迫る迫力に一瞬怯んでしまったが、自分にも負けられないものがある。
「負けてたまるかぁぁぁ━━━っ!!」
剣と刀の刃を打ち付けながら互に攻撃したり、受け止めたりする。
いくら手負いとはいえ、身体能力は人間の倍ある吸血鬼と高位クラス武器の恩恵で身体能力が向上している庵でも、圧倒な「差」がある。
その「差」を埋めるのは生き残りたいと言う「せいの執着」だろう。技術も技もいらない。心一つで決まるこの「執着」が明暗を分ける。

相手の剣を受け止めると、庵は相手の首元を掴むと地面に叩きつけるように膝をつかせる。
そうして、もう一度、しっかりと構えて白い柄を掴み刀を振り上げる。
百花ひゃっか、香り立て!澌尽灰滅しじんかいめつっ!!」
一段と花の匂いが強まり、花弁が舞う中を吸血鬼の首めがけて、太陽の光で反射して煌めく刀を振り下ろす。

幾ら、致命傷を負っていても逃げられてしまったら意味がない。折角ここまでお膳立てをしてくれた夜神大佐にも、自分のために様々な訓練に付き合ってくれた中佐達にも申し訳ない。
この一瞬、この一太刀に、全身全霊を込めて振り下ろす!!

「ぐぁぁ・・・・・」
見上げるようにしていた吸血鬼の首に、薔薇色の刀身がめり込み一文字で横に薙ぐ。
吸血鬼の首は胴体から離れ、宙を舞って血飛沫を撒き散らせ、地面に鈍い音をたてながら落ちていく。
「はぁーはぁーはぁ━━」
斬りつけたままの体勢で、荒い息を出して何とかして整えようとする。けど、思えば思うほど体が固まってしまい動けなくなる。

庵が駆けてくると同時に吸血鬼から離れた夜神は、庵の一挙手一投足を見ていた。
吸血鬼が反撃に出た時は、一瞬ドキッとした。庵と過去の自分を重ねて見てしまった。
そして、自分は今も残る傷を背中に受けた。
庵君には何事もなく、無事に討伐任務をして欲しい。その事だけだった。
そして、高位クラス武器を使いこなし、無事に討伐出来た瞬間に安堵した。
きっとそれは遠くから見ていた、虎次郎も同じ気持ちだったかもしれない。

視線は感じていたが、こちらの出方を様子見するだけで、特に何もなかった。万が一の事を考えて武器を構えているだけだった。
自分の刀を納刀する。今から行う行為には少し邪魔になる為だ。

夜神は動けないでいる庵の側まで来ると、白い柄を握り締めたままの手にそっと自分の手を添える。そうして、庵の顔を見ていつもと変わらない微笑みを向ける。
「庵君・・・・・もう大丈夫だよ?任務は無事に終わったよ、頑張ったね。澌尽灰滅も頑張ったね。二人とも本当に凄いよ」
柄から指を一つ一つ外していく。全てを外して片手で澌尽灰滅を持ち、もう片手は庵の肩を軽く叩く。
「もう、大丈夫だよ」
「・・・・・は、い・・・」

動けない自分の肩に、重みと温かみがくる。その重みと温かみが、固まってしまった自分の体を動かしてくれる。
返事をするのも詰まってしまい、まともに返事も出来なかった。
それでも、いつもと変わらない微笑みを向けてくる夜神大佐に心から安堵してしまう。

「怪我がなくて良かった。頑張ったね」
そう笑いながら澌尽灰滅を渡してくれる。慣れてきた重みを受け取るとぎこちないながらも何とか納刀する。
「大佐のおかげです」
「討伐は部隊で動くからね。とくに高位クラスは・・・・私達の隊はまだ二人だけど」
クスクスと笑いながら話してくる姿に、何故かおかしくなって庵もつられて笑い出す
「そうですね。まだ、自分だけですし・・・・」
二人で笑っていると、遠くから声が聞こえてくる

「お~~い!いつまで固まってるんだ?こんな所すぐに離脱するぞ!!」
七海中佐の呼び声が聞こえてくる。
「分かった~~今行く~~!!庵君!帰ろう。そして長谷部室長に報告しなきゃね?」
笑って手を差し伸べてくる夜神の手を掴むと、二人は七海中佐がいる所まで歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

鬼より強い桃太郎(性的な意味で)

久保 ちはろ
恋愛
桃太郎の幼馴染の千夏は、彼に淡い恋心を抱きつつも、普段から女癖の悪い彼に辟易している。さらに、彼が鬼退治に行かないと言い放った日には、千夏の堪忍袋の緒も切れ、彼女は一人鬼ヶ島に向かう。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

処理中です...