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「長谷部室長!長谷部室長ってば!何、疲れてるんですか?」
陽気な声で語りかける七海中佐に、絶対零度の無表情をした長谷部は無言で廊下を歩く。
理由を知っている七海だが構わず話を続ける
「まさか、去年の再来とは思わなかったですよ~あっ、違うのは今年のくじの順番か~」
「七海!!元はと言えばお前のせいだろうが!!焚き付けたのは間違いなくお前だ!」
立ち止まり、三人ほどその眼力で凍らせることが出来るのでないか?と、思ってしま程の睨みを七海に向ける。

例年行われる、学生の受け入れ体制での室長会議が行われた。今年は、異議を出すことはないだろうと、思っていてが、それは間違いだった。
やはり、第八室長が去年と同様に、学生の受け入れについて話をしてきたのだ。



「皆さん。私は古い慣例をなくしたくて去年、七海中佐の助言でくじ引きによる挨拶回りの順を決めました。みなさんの意見を聞かせて下さい。もちろん一番接する機会の多かった、隊長達の意見も聞かせて下さい」

色々と思うことがあっての話だったと思うが、いかにも「今年は通常通りで」と雰囲気を出しているのが、面白くない七海は考えて直ぐに答えを導き出す。
「私から宜しいですか?」
挙手をして、周りにしっかりと聞こえる声を出す。

後ろからの七海の声を聞いて、長谷部は慌て後ろを振り向く。互いの目が合うと、七海が満面の笑みで長谷部を見る。

━━━━━しまった!これでは去年と同じ事が起こる!

長谷部は無表情だったが、内心焦っていた。
この男の事だから絶対楽しむ!断言出来る!今年もくじ引きが決定する!!いや、今度はあみだくじか?・・・・・・違うぅぅ!!

「七海中佐どうぞ意見お聞かせ下さい」
「ありがとうございます。去年はいつもと違う順番での挨拶回りでした。毎年一番目に決まっていた我々第一室は、十番目になりました。みなさんご存知の通り、成績は十位の学生が配属されました。そうですよね長谷部室長」
外面用の爽やかな顔で、長谷部室長に尋ねていくと、周りの空気を3℃ほど下げて、長谷部は最低限の言葉で話す
「そうです。庵二等兵は十位の成績でした」

「その十位の成績の庵二等兵は前期で五位、後期では一位になりました。本人の努力もありますが、指導によっては学生の伸びる力が未知数であるのが、おわかり頂けたと思います。恥ずかしながら、私も最初は「十位か」と思っておりました。いまならそれは間違いだったと、声を大にして言えます」

さて、ここでの言葉選びが肝心になってくるか・・・・
七海は頭の中をフル回転させて続けていく。

「第八室長が疑問を投げかけなければ、このような奇跡は起こらなかったのではないでしょうか?どんな学生であろうとこちらの指導次第では、石にも金にもなります。成績上位の者が上位の部屋に配属されても、このような奇跡は起こりません。いかなる者が来ても、それを上手く関わり、指導する。それが我々隊長の役目であり、延ひてひいては学生を預かる部屋の責任でもあります」

七海は更に考えて言葉を繰り出す
「我々も慣例に従うのでなく、一歩進みませんか?いかなる者が来ても指導出来る力があると周りに見せつけませんか?そのためにも順番通りにするのではなく、あえてランダムにすることで、実力の公平感が生まれると思います。第八室長が願ったのは公平ですよね?」

いきなり話を振られた第八室長は「えっ?はい!」としか言えなかった。既に七海の作戦に周りの人間は巻き込まれている。
「ここは公平にするために、くじしかないでしょう!大丈夫です、我々はこれまで沢山経験があります。少しぐらい戸惑ってもそれは、指導する糧になります!」
グッと拳を握りしめて、自分を鼓舞する仕草をする。

すると、感極まった第八室長が拍手をする。
「そうですよね!公平になったことによって、自分達も成長するんですよね!私は提案します。今年もくじによる配属の順番を決めるのが一番いいと思います。これはチャンスですよ!自分達の部屋の可能性を広げる!」

一人だけ熱い状態になった会議を、どう収拾するのかは第一室の室長・長谷部にかかっている。
他の部屋の室長は苦笑いや、この茶番劇を早く終わらして欲しい顔で長谷部を見ていた。

無表情で周りを見て、ため息を軽くする。後ろのお祭り男は後でお灸を据えるとして、この微妙な空気を治めるにはこれしかない

「みなさんが宜しければ、今年もくじで構いませんか?」
「異議なし」
「賛成です」
「構いません」
淡々とした声が次々に賛成の言葉を言っていく。
「では、賛成多数で今年もくじ引きで学生の挨拶回りを決めたいと思います」
長谷部の声が会議室に響いた。



七海はどこ吹く風で、長谷部室長の睨みを受け止めると無精ひげを撫でてニヤリと笑う
「聞いてきたから、自分の思う事を述べたのであって、やましい事など一切合切ありませ~~ん」
「お前を連れて行くのが間違いだった・・・・・」
「あの場に俺ほどの適任者はいませんよ?」
「もういい。口を開くな」
頭が痛い。良いように丸め込まれた気もする一方で、自分達の進む新たな道を教えられたような気もする。

ただでさえ軍の人員は少ないのだ。育つなら早く、強く育ってくれるのは確かに有り難い。有り難いが・・・・

「七海・・・・・・お前は自分が考えているよりも、周りに影響を与える言葉の力がある。それは常に周りを見て、人間観察をして、その結果、人の行動、思考を読み取ってそれに適した言葉を使うからだ。だか、それは時として攻撃にもなる。それだけは忘れるな」

そう、七海の凄さは作戦立案を考える上で、行動パターン・思考パターンを組み立てて、時と場合を更に当てはめ、組み立ていく。そして、それが完璧な立案となり、何度も仲間を助けていった。

今回も何かしらの事を思ってか知らないが、周りを振り回しながらの誘導、成立を促した。一歩間違えば、それは色々と危うさ兼ね揃えての誘導になっていたかもしれない。

「分かってますよ。それはオヤジにも元帥にも言われてます。俺は、なーなーで過ごしたいので安心して下さい」
「ならいい。部屋に戻るぞ。学生受け入れの説明をしないといけないからな」

再び廊下を歩き出す長谷部の後ろを、七海は無精ひげを撫でながら付いていく。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

書いていて、自分でも分からなくなっていったような・・・・

何が言いたいのかと言うと、七海のアニキは言葉で誘導するのが得意だということです。
なんだか不完全燃焼です。すみません
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