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夜神と約束をした日、庵は予定の三十分前から駅に着いて、壁に持たれながら歩く人達を観察する。
あまりにも緊張しすぎて、眠れなくなり、このまま過ごすのもどうかと思い、早めに出てきてしまった。
遠足前の小学生かっ!と自分でツッコミを何度したことか。

時計を見ながら、約束の時間が少しずつ近づくのを、今か今かと待ち望む自分と、何を喋ればいいのかと悩む自分がいる。どちらの自分も当てはまる状態で笑ってしまう。

あの時、夜神の行動が自分に火を付けた。もし、あのまま受けいれていたなら、ここまで行動はなかったのかもしれない。それは感謝する事なのかもしれない。
いずれと、ズルズルと先延ばしにいていたと今なら思う。
「けど、やっぱり緊張はするよ・・・・」
ボソッと声に出す。するといつも聞いている声が、真横から聞こえてくる。

「何に緊張するの?」
「夜神大佐?!来ていたんですか?」
「一方的に約束しておいてそれはないんじゃないの?」
頭一つ小さい、小柄な夜神が庵を見上げている。その瞳は出掛ける時に使用する、カラコンが装備されている。

グレーの膝丈のチェスターコートに、ブラウンのショートブーツの夜神は普段の軍服とは違い柔らかい印象を受ける。
コートの裾か見えるニット生地のスカートが更に、柔らかさを加速させる。
「いつもと違いますね・・・・」
「あぁ、これね。式部達か朝からね・・・・・疲れたよ」
何故か遠い目をしている夜神に、労りの言葉をかけるか迷ったが、何か言ったら止まらない愚痴が来そうなので、黙っていることに徹した。


朝から大変だった。準備していと扉をノックする音が聞こえてくるのだ。朝から誰だろう?と思いながら開くと、笑顔の野村大尉と式部大尉がいて、反射的に扉を締めてしまった。
だが、ヤクザですか?取り立てですか?と言われてもおかしくない素早さで、扉の間に足を入れて、閉めれないようにして、ズカズカと部屋に入ってくる。

そして、持っている風呂敷を押し付けて「早くこれに着替えろ!!」と命令する野村大尉。その目は色々な意味でやばかった。
逆らえるはずもなく急ぎ着替えると、今度は二人してヘヤーメイクをしていく。そしてニヨニヨと満面の笑みを浮かべて夜神を送り出したのだ。


「あの二人には逆らえないよ。逆らったら最後だもん。私生きている自信がない」
ため息と共に愚痴る姿は、本当に逆らえないんだなぁーと庵でさえ思うほどだった。

「とりあえず、移動しましょう。楽しみだなぁー大佐はどんな魚が見たいですか?」
ICカードを取出して電車に乗るため、改札機を通り抜ける。夜神も庵の後を着いていく。
「イルカ見たいかな?後、サメと深海魚」
「種類バラバラですね・・・・・・全部見れるといいですね」
「そうだね」
他愛のない会話をしながら目的の場所に行く為電車に乗った。

大水槽で気持ちよく泳ぐエイやサメを見たりして進んでいく。丁度フードコートが見えてきたので、お昼を摂ることにした。
「水族館でシーフードカレー・・・・・切ない気持ちになるのは気のせいだろうか?」
「庵君は考えちゃうタイプかな?」
「考えた事もなかったですが、そうかもしれないです。大佐は何をたべますか?」
「う~ん・・・・・シーフードドリア美味しそうだからそれにしょうかなぁ?」
「分かりましま。人も多くなってきたので席の確保お願いします。注文はしときますから」
「分かった。任せるね」
微笑んで、列から離れて移動する、夜神の背中を庵は見つめる。

幸いにしてすぐに席を確保した夜神は、座って待つことにする。コートを脱いだ服装は、ベージュの膝丈のニットフレアワンピースで、黙っていれば美人に入る夜神にとても似合っていた。
前程からチラチラと見てくる目線があるが、夜神は気づく事なく、庵が来るのを待っている。すると、いかにもと言わんばかりの、男性五人組が夜神に近づく。

「おねーさん!友達と来てるの?ねーねーこの後、一緒に魚見ようよ?」
「モデルさんみたいにキレーですね。あっ、もしかしてモデルさんとか?」
口々に好き勝手喋るのを、無表情で見ていたが、突然ニッコリして男達を見る。男達も「手応えあり!」となったがすぐに気まずくなる

『あなた達に興味なしなの。とっとと私の前からいなくなれ!そうじゃないと頭に踵落とし食らわして、テーブルにめり込ませるわよ!』

中国語でいきなり話し出す夜神に、男達は「えっ?」となり気まずくなって「シェイシェイ!」といって逃げるように何処かに行ってしまった。

それを一部始終見ていた庵は「え~!」と思いながらも、一瞬だけニッコリして男達を見た夜神に、暗い気持ちになった。その、笑顔は自分にだけ向けて欲しいと思ってしまう。

「大佐!大丈夫ですか?」
「庵君。大丈夫だよ。式部伝来の撃退術、スゴイ効果だわ」
「式部大尉伝来ですか?」
まさか式部大尉の名前が出てくるとは、思わなかった庵は驚いた。
「相手に母国語以外で話せば大抵は逃げるって言ってたの。その通りだった」
「ちなみに、何と言ったのですか?」
「早く目の前から消えないと踵落としして、テーブルにめり込ませる」
本当にそうならなくて良かったと安堵したのは黙っておこう。

色々とあったが食事を済ませて、残りの水槽を見て回る。途中でイルカのショーを見たりする。
距離は近づいたが、互に恥ずかしかったのか、手までは握れなかった。

水族館に併設されているケーキ屋で、海の生き物を型どったケーキを買う。
夜神はてっきりケーキ屋で食べると思っていたが、庵が「静かな所で食べたい」と言ったので、それに賛成する。

買ったケーキを持って、少し人通りの少ない所を歩いていくと、「休憩」と文字が乱立している通りに出る。
庵は夜神を見るが、特に気にすることもなく着いてきている。もしかしたら、この意味を理解していないのかもしれない。

少し後ろめたい気持ちになってしまったが、庵は意を決して、そのうちの一つの建物に入っていった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

式部大尉伝来の撃退術が、果たして効果あるのか知りませんが、妄想と想像で生きている作者はきっとイケるはずで採用しました。違っていたらゴメンナサイ。

「休憩」が乱立する通りは、ご想像におまかせしますが多分、考えられるのは一緒かもしれないです。青年、思いっきりが良すぎです。と、言うか作者がそろそろ禁断症状が出始めたので、ここいらで頑張ってもらおうと思い投げ込みました。
なので次はR-18です!
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