ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

18 流血表現

七海が一人の吸血鬼と対峙しているとき、式部も同じように対峙していた。
ベルトに付いている鞄から直径10cm程の外側に刃がついている投げ輪・「チャクラム」。古代インド発祥の投擲武器とうてきぶきだ。
日本名だと「円月輪」等と言われる。円月輪・「環」これが彼女が使うAクラス武器だ

怪我防止の特殊なグローブに両手の指に二つづつ挟むと、時間差で投げていく。
相手の腕や足の健を斬り動きを鈍くさせるためだ。

そして、本来なら投げた物は戻ってくることはない。
だがこの武器はブーメランのように彼女の手に戻ってくる。
相手を攻撃し、自分の元に戻ってくる投げ輪を指で挟み相手と距離をおく。
その間に後ろにいる隊員の四人がそれぞれの武器を持ち、式部の合図を待つ。

式部の部隊は隠密行動が得意な集団である。
俗に言う「忍者」と言われる部類に入る。
四人の武器も苦無くないや鎖鎌・忍刀・手甲鉤と忍具を装備している。
武器のクラスはBクラスだか全員がBクラスは中々居ない。

式部はもう一度投げ輪を投げ、その際に「散れ」と後ろの隊員に合図を送ると、四人はそれぞれ二組に別れ、後ろからと上からの攻撃をする。
式部は投げた際に、鞄から新たに投げ輪を取り出し指でクルクルと回して回転をつける。
戻ってきた円月輪の輪の部分を指で受け止めて、両指に六個の投げ輪をクルクルとさせる。

そして吸血鬼の眉間と首に目掛けて一気に投げる。
首は一度には落とせないので、数個の投げ輪を使用し確実に落とす為、数多く投げていく必要がある。
眉間に投げた円月輪は、相手の剣によって叩き落とされたが、首の方は確実に当てる事が出来た。
首の脈が切れたのだ。血飛沫が飛ぶなかを二つ目、三つ目が首に刺さり、相手の首が落ちていった。

第一室の圧倒的戦力を少し離れた所から見ていた、庵は唾を飲み込んでいた。
無駄のない動き、連携のとれた部隊。そして圧倒的な強さ。任務成功98%と言われる彼らの動きにただ、圧巻しながら固唾を飲むしかない自分は、また不安が過る

自分が配属された部隊は強い。
普段は粗野でいい加減に見える七海少佐の槍さばきや、全員が確実に生き残るための作戦を考える頭の回転の早さ。
今回の割当と連携は全て七海が考えている。

普段は物静かで、知的に見える式部中尉も武器を持つと、人が変わったような顔つきになる。
部隊全員が忍者のように隠密行動に優れていて、動きを見るのは至難の技だ。
確実に相手の視界から消えて、いつの間にか相手の懐にいる。

出会って二日しかたってない、まだまだ色々な事を知らないのに、部隊の実力を目の前にした庵には、頭の中の処理機能が追いつかなかったのが現実である。

そして、庵は軍のエースであり、自分の教育係でもある夜神と第二室のエースである長谷部貴也はせべたかや少佐の二人が対峙するSランクの強さを見て、震えが止まらなかった。
初めて見るのだ、それもSランクだけでも怖いのにWSなど未知の存在だ。

基本、夜神中佐はS・Aランクを中心に対峙していく。
七海や式部が部隊を率いて何とか対峙しているのに、夜神は一人だ。
それは圧倒的強さがないとなし得ない事だ。一人で対峙するなど「死」しかないのだから。

庵はSランクに対峙している二人を改めて見て、その強さに畏怖の眼差しを向けた