7 / 51
幼少期編
逃亡生活(3)
しおりを挟む翌日、サバイバルの三日目だ。
予想では、今日の夕方か明日の夜までには騎士団が来ているはずだ。
ならば、それまで生き残るしかないだろう。
俺は、まずはリリナを連れて村の方に向かった。
村が見える最大の距離まで近づくと、やはり盗賊達はまだいた。
しかし、それ以上に驚きのことがあった。
村の中央には、数人の村人が拘束されているのだ。
それも、全裸で十字架に貼り付けられている。
その身体には幾つもの痣と火傷の痕が残っている。
ふいに身体に感じた感情は怒りだろう。
しかし、隣にいるリリナという存在がそれを否定する。
今はまだ、動くべきでは無いはずだ。
騎士団が何とかしてくれるはずだ。
それを待てば、それだけでどうにかなるはずだ。
_しかし、俺の願いは儚く散った。
村を見ていた俺の目が捉えたのは炎。
盗賊達は十字架に火を点けたのだ。
一瞬で燃え上がった火は、村人を焼いていく。
その姿を見ているこの場所まで、悲鳴が届きそうだった。
そして、その炎に照らされて俺は見つけた。
いや、見つけてしまった。
炎の隣には、大量の鎧と剣、そして男達が全裸で足と手を縛られている。
(まさかッ!?騎士団が!?)
その鎧と剣に刻まれるのは、間違いなくこの国の騎士に与えられる紋章だ。
つまり、騎士団は既に到着していて、そして捕まった。
その瞬間、俺の頭には最悪な光景が再生された。
恐らく、村人にも、騎士団にも、女性はいただろう。
なら、その女性はどうなる?
盗賊達は、ほぼ確実に弄び、そして殺してしまうだろう。
それか、奴隷として売り払うかもしれない。
(クソッ!!)
俺の頭の中では、二つの巨大な信念がぶつかっている。
最愛の妹の安全か、村人と騎士団の安全か。
いや、分かっている。助けに行ったところで役には立たないことも。
それでも、何かは出来るかもしれないッ!
俺は、頭の中で葛藤した。
どちらも絶対に救いたい大切なものだ。
しかし、それを可能にする力が無い。
その時、俺は右腕を引かれた。
そちらを見ると、リリナが此方を見ていた。
その瞳と視線が合わさると。
ニコッ、とリリナは笑顔を作った。
それは、きっと覚悟と決意が出来ている証なのだろう。
そして、何も言わないのだったら、きっと全て任せてくれるのだ。
ほぼ確実に敵わないはずだ。
なにせ、俺は近場の森にいた鹿に苦戦していたのだから。
そんな俺が、騎士団でも勝てなかった盗賊に勝てるとは思えない。
_でも、それでも我が儘を言えるなら。
「リリナ、悪いな。兄ちゃんは、ちょっとお人好し過ぎるみたいだ」
「知ってる♪」
「だから、ちょっとリリナの運命を兄ちゃんに託してくれないか?」
「うん!私の全てを、お兄ちゃんに今は預ける。存分に楽しんで来て」
その言葉は、最後まで俺のことを気遣っていた。
リリナの顔は、笑顔のままだ。
なら、俺も笑顔でいなくてはいけない。
「じゃ、ちょっと行ってくるね?」
「うん!」
最高の笑みと共に、リリナは送り出してくれた。
だから、俺は、リリナを抱きしめた。
「さようなら、は言わない。すぐに帰って来る!」
俺はすぐに離れて、村に向けて駆け出した。
五歳の子供が、こんなカッコつけるべきじゃないだろう。
でも、それでも俺は俺の意地を通す。
「”氷道”!!」
地面を凍らせて、俺は移動速度を上げた。
この程度の魔力は微々たるものだ。
村の手前まで氷の道を創り、そこを滑るようにして移動する。
最速で、全力で挑む。
負けることは俺が許さない。
全身全霊を以ってして、俺は戦ってやる。
守りたい者は、俺が全て守る!
_村へと続く道のりは、すぐに終わった。
此処から続くのは、一人の子供が紡ぐ物語だ。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
死んだと思ったら異世界に
トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。
祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。
だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。
そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。
その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。
20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。
「取り敢えず、この世界を楽しもうか」
この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。
転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩
柴田 沙夢
ファンタジー
アラサー狩りガールが、異世界転移した模様。
神様にも、仏様にも会ってないけど。
テンプレなのか、何なのか、身体は若返って嬉しいな。
でも、初っぱなから魔獣に襲われるのは、マジ勘弁。
異世界の獣にも、猟銃は使えるようです。威力がわやになってる気がするけど。
一緒に転移した後輩(男)を守りながら、頑張って生き抜いてみようと思います。
※ 一章はどちらかというと、設定話です。異世界に行ってからを読みたい方は、二章からどうぞ。
*******
一応保険でR-15
主人公、女性ですが、口もガラも悪めです。主人公の話し方は基本的に方言丸出し気味。男言葉も混ざります。気にしないで下さい。
最初、若干の鬱展開ありますが、ご容赦を。
狩猟や解体に絡み、一部スプラッタ表現に近いものがありますので、気をつけて。
微エロ風味というか、下ネタトークありますので、苦手な方は回避を。
たまに試される大地ネタ挟みます。ツッコミ大歓迎。
誤字脱字は発見次第駆除中です。ご連絡感謝。
ファンタジーか、恋愛か、迷走中。
初投稿です。よろしくお願いします。
*********************
第12回ファンタジー小説大賞 投票結果は80位でした。(応募総数 2,937作品)
皆さま、ありがとうございました〜(*´꒳`*)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
辺境村人の俺、異能スキル【クエストスキップ】で超レベルアップ! ~レアアイテムも受け取り放題~
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村人・スライは、毎日散々な目に遭わされていた。
レベルも全く上がらない最弱ゆえに、人生が終わっていた。ある日、知り合いのすすめで冒険者ギルドへ向かったスライ。せめてクエストでレベルを上げようと考えたのだ。しかし、受付嬢に話しかけた途端にレベルアップ。突然のことにスライは驚いた。
試しにもう一度話しかけるとクエストがスキップされ、なぜか経験値、レアアイテムを受け取れてしまった。
謎の能力を持っていると知ったスライは、どんどん強くなっていく――!
私、のんびり暮らしたいんです!
クロウ
ファンタジー
神様の手違いで死んだ少女は、異世界のとある村で転生した。
神様から貰ったスキルで今世はのんびりと過ごすんだ!
しかし番を探しに訪れた第2王子に、番認定をされて……。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
無能の烙印を押されパーティーから追放された俺、探知スキルと古代遺物の力で無双する~今更戻って来いと言われてももう遅い~
u2
ファンタジー
探知スキルを持つアレンはガラクタばかり見つけてくる無能の烙印を押されパーティーから
追放されてしまう。しかし、彼の発見したものは実は古代文明の遺産だった。
そしてアレンは古代文明に興味を持つとある貴族令嬢とともにダンジョンなどを探検し、
古代の遺物を探し当てていき、その力で成り上がっていく!
一方、アレンを追放したパーティはじょじょに没落していくのであった。
この作品は小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる