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最高の仲間たちと別れ

決意

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 朝。心地よい感覚に身を包まれて目を覚ました。
 
 大きく伸びをしてから朝食を食べ終え、再び昨日の事を考える。
 どうするべきなのか。どうしたいのか。ただ一つ、俺は2つの世界に未練がある。

 コンコン。

(ん?)

「はいはー……何か用か?」

 ノックの音に扉を開ければ、この国の騎士を示す鎧を着込んだ男が立っていた。
 少しばかり警戒して周囲を探るが、他に気配は無し。流石に俺の索敵範囲――半径4kの円――を越して見張れるやつは居ないと思う。

「はっ! ロシュエフ殿下がお呼びで御座います」
「アイツが? なんで?」

 とは聞きつつ、どうせ答えなんて知らないことを俺は知っていた。

「そこまでは私に説明されておりません。ただ、勇者様をお連れせよとしか」
「ああ、うん。わかった。じゃあ後で行くから宜しく」
「そ、それが、私が連れて参れと命令が下っておりまして……」

 へっぴり腰の男だなぁ、なんて頭の片隅で思いつつ、今日の予定を組み立てる。
 王城に行くということは、少なくとも午前中は潰れると考えた方が妥当だろう。

 そうすると、ネミの所へ行くのは午後となる。まぁ問題ない。

「了解っと。じゃ、連れてってくれ」
「は、はい! かしこまりました」

 そう言って、騎士に連れられる。
 王城へ続く通り道メインストリートを歩きながら、街中を見渡す。

 どの家からも、寂し気な、怯える空気が漂っていた。

(ま、当然か)

 戦争は既に始まっている。男たちの過半数も徴兵を受け、兵士として戦いに出された。
 エルフとは高貴で傲慢な種族だが、反して身内には酷く感情的だ。見知らぬ誰かでもそれがエルフなら怒りを持つほどに、仲間思いが強い。

 いや、身内贔屓が酷いだけかもしれない。

 とりあえず、エルフとはそういう種族だ。誰もが恐怖と不安を共有している。
 本当にそれが、他種族まで広がればこんなことにもならないとは、メリルの談だ。


 そうこうしてる間に、王城に到着した。基本的な西洋の城い城をモチーフにしたモノで、特に変わった所も無い。
 変わり映えの無いただの城だ。エルフにオシャレという概念は低い。

(さてさて、何の話やら……)

 面倒なことにならないように、と嘆息しつつ、俺は歩みを進めた。









「勇者フェイト、いや、勇者フェイト、貴様を追放する」
「は?」
「もちろん財産は没収。住民票も抹消するので、ギルドに登録してある功績も全て剥奪される。本日の正午までに出て行かない場合は――「黙れ」……なんだ?」

 突然の事態に付いていけない。対峙するロシュエフの表情からは何も読み取れなかった。
 どうして急にそんなことを言われるのかは分からなかったが、どうしても許せないことがあった。

「なんで、お前が俺にそれを言う?」

 それ、とは勿論追放のことだ。
 基本的に、国からの追放だったり処分に関しては全て国王から通達されるものだ。それ以外では有り得ない。

 そして今、この国の国王は健在している。それはつまり、ロシュエフは未だ国王ではないということ。

「お前は規則に厳しかった。何よりも平和を望むお前が持ち出すのは、この国の規則に書かれたことばっかだった……国立憲法第37条、国からの指示は全て国王を通すものとする」

 その先は言わない。どうして、なぜ、と。

 声に出せば、止まれない気がしたから。
 自分の考えを口に出して言ったお陰か、少しずつ内容が理解できてきた。

 ロシュエフはつまり、俺から全てを奪って捨てると言っているのだ。これは、そういう話だ。

(ッ!!!)

 言い知れない感情が沸き上がってきた。魔王軍と戦った日常では味わったことの無い感情。
 その気持ちに名を付ける、その前に。

「なぜ、か。この国はエルフのみが存在して良い場所だ。そしてお前は、卑しき人族。これ以上の説明がいるか?」
「なっ……!?」

 それは――。

(それはお前が、一番嫌ってた言葉じゃないか……!)

「さぁ出て行け。この神聖な王城に下等種族が居るとなると吐き気がする。大体、魔王討伐の際もそうだったが、貴様ら下等種族は無能だ。それにいつも情に溺れる愚図ばかりだな」

 鋭い言葉が、胸を貫いた。

「あぁそれと、メリルからも手紙を預かっている。貴様宛てのようだ。なに、少し見づらいかもしれんが、問題なかろう? 神聖な水で清めたのだ」

 そう言いながら、ロシュエフはわらった。

 俺の視界に投げ捨てられたのは、びしょ濡れになった1枚の封筒だった。
 半分に破かれ、触っただけで千切れそうな程にふやけていた。


――ッ!!

 言い知れぬ感情は、さらに募り続けた。
 その先の記憶は、無い。

 ただ気付けば、俺はネミの前へとやってきていた。

「ん、どうする?」
「帰るさ」

 そう一言だけ呟いて、その先は黙った。思い返せば、メリナからの手紙というのも、考え方を変えれば俺を見捨てたのと同じだ。
 手紙だけ残して、去って行ったのだから。

「この魔法は、私でも完全には理解出来なかった。だから、発動後、正確な座標を示すことは出来ない。ただ、ほぼ確実に”チキュウ”という場所には帰れるはず」
「ああ」

 返事にも気力が無くなった。だんだんと、頭の中が冷えてくる。

「私からも。貴方がこの世界から消えると知って、嬉しい」

(お前も、なのか……)

 皆、皆いなくなった。
 もうこの世界に未練など――。



――視界が暗転した。

 永遠を秒に凝縮したように、何もかもが止まって見える。
 そんな中で俺だけが独り、思考を続けた。

(未練があるから、俺は帰れなかった)

 それを、アイツらが気付けない訳が無い。およそ3年もの月日、共に戦った仲間だったのだから。
 そして、全員が心優しい奴らなのも、俺は知ってた。

――。

―――。

――――。
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