そして、また男と女は繰り返す

松嶋 梨緒

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そして、また男と女は繰り返す

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第1話
始まり


俺は つくづく不幸だ。自分では 決して イケてない方ではないと思っている。
だが 女を見る目がないのか 未だに未婚だ。

今まで人妻との恋愛ばかり重ねて来た。
未成年の同僚に手を出したこともあった。
その度に男にだらしない女ばかりとつきあって来た。

俺はある時
ひとりの女と出逢った。
女の名前は梨緒。

梨緒はフリーで離婚歴があり謎めいたところに俺は惹かれて行った。

梨緒は明るく笑う時があれば深刻な顔をしてみたり、とにかく表情の豊かな女だ。

知り合って2か月。
俺の梨緒への想いは止められなかった。
俺はお気に入りの場所に彼女を呼び出し
告ることを決めた。

だが 止められない気持ちを黙ってはいられなかった。梨緒も俺に気があると確信していたからだ。

梨緒に電話をした。

いつものように
「お疲れ様ー。」と明るく弾む梨緒の声。

「大事な話があるんだ。ホントなら俺の、お気に入りの場所で伝えたかったんだけど我慢出来なくなった。気持ちを抑えられない。俺とつきあって欲しい。」

黙って聞いていた梨緒が声を発した。

「うん、いいよ。」

二つ返事で了承してもらえた俺は有頂天だった。

その日から俺の日常が梨緒で埋め尽くされて行った。

梨緒の画像を携帯の待ち受けにし
ラインのタイムラインに梨緒の画像を貼り付け『やっと彼女が出来たぞーっ』と。

男ウケする梨緒。
そして4年間 彼女のいなかった俺は舞い上がった。

職場の研修にまで梨緒を連れて行き
車で待たせてまで 見せびらかし。
梨緒は自慢の彼女だ。

なのに梨緒は、ある日言う。

「いつも不安なの、、、。」
何も不安になることない。俺がいるから。そう言って安心させた俺。

俺の頭の中は梨緒で一杯だった。

一緒に行ったラーメン屋。
まだ暑い秋のある日

「熱い、、、」
と 猫舌でラーメンをすする姿も愛おしい。

研修までの時間を潰した車の中で 

梨緒が一緒に写真を撮ろうと言い出した。
初めて二人で写真を撮るなんて。
この俺が。

ふたり一緒に撮った画像。
梨緒はまだ大切にしているのだろうか。

初めてのキス。
こんなにイチャつける自分に驚いた。

俺の日常は、それまでとは変わり梨緒一色に染まって行った。

一緒に行く買い物。
彼女と呼べる女と初めて行く温泉。
俺が初めて仕事で連休をもらった。
二泊三日。

宿の手配は全部梨緒がした。

いい部屋だった。
初めての温泉旅行。
はしゃぐ梨緒。
バイキング形式の食事が苦手な俺のために
いろいろと料理を運んで来てくれる。

風呂の後
軽く呑んでから、また俺らはイチャつく。

俺は梨緒を抱く。
本音で愛している。

「楽しいね。それに秀俊とふたりきりで嬉しい。」
梨緒は顔を赤らめ、そう言った。

突然
携帯ゲームを始めた梨緒を隠し撮り。

「何してんの?やだぁ」
そう言いながら照れる姿も可愛い。

土産を買って、もう帰る時が来た。

「あっという間だったね」

梨緒は寂しそうに呟く。
そして少し俯いた。

毎日のように一緒にいた。
俺は梨緒に会わずにはいられなかった。
梨緒本人がどう思っていたかわからないが
俺は梨緒といられるだけで幸せだった。

次の月
クリスマスだ。

俺は梨緒を連れて買い物に出た。
一緒にペアのアクセサリーを何度も見て来たが気に入った物がずっとなかった。
俺は、ある店を思い出した。
一緒に選ぶペアリング。

いくつも恋をして来たはずなのに

「結婚指輪以来、初めてだぁ」

そう言って左手の薬指に指輪をはめる。

「少し早いけどクリスマスプレゼントな」


「ありがとう」梨緒は顔を赤らめそう言った。

クリスマスの日が来た。
イブに遅番で梨緒を車で待たせていた。

「ごめんな。遅くなって。」

助手席にうずくまり眠る梨緒。

「お疲れ様。お帰りー。」

微笑む姿に癒され安心する。

時間が真夜中でコンビニで買い物をすることにした。

ケーキがひとつも残っていない。
食事とショートケーキを買いホテルへと向かった。 

「クリスマスを彼氏と過ごすって初めてなんだよー」

そんなたいしたことの出来ない夜でも
梨緒は
はしゃぎ喜ぶ。
何度となく
そんな夜を過ごしただろう。

目が覚めシャワーを浴びた梨緒がコーヒーを入れてくれる。

間違いなく幸せの絶頂だ。
俺は不幸ではなくなった。

梨緒が毎日作ってくれる弁当。
彼女が弁当を作ってくれるなんてことは初めての経験だった。
梨緒はいつも味を気にした。

「梨緒が作る弁当だぞ。旨くないわけがないだろう」

梨緒のアパートにも秘密で泊まった
梨緒の息子は祖母の家にいたからだ。

梨緒は実は入院中だった。
俺の休みに合わせ外出、外泊をしていた。

梨緒のアパートは寒く冷え込んでいた。
俺はポータブルのストーブを買い梨緒のアパートに2泊した。
風呂にお湯を入れてくれた梨緒。
風呂上がり狭いシングルの布団でくっつき眠る。
もうホテルに泊まる余裕がなくなっていた。
それでも俺は梨緒と僅かな時間でも離れたくはなかった。



そうだ
想い出せば 想い出せる
梨緒は俺を1番愛してくれた彼女だ。

梨緒には言えない秘密があった。
借金だ。
梨緒との楽しい時間を過ごすため俺は借金をした。

イライラしていた。
金のことも梨緒の男友達関係にも。
初めて電話で梨緒に当たり散らした。

「男関係が嫌なのよ。梨緒がいくら友達だと言っても相手はどう思っているのかわからないだろう!」

怒鳴ってしまった。

「わかったよ。そんなに嫌なら男友達は全部切る。でも会ったりしたこと、もうずっとないんだよ。
どうしたいの?
別れたい?」

電話口で梨緒が別れを口にした。

1時間強の電話。

梨緒は呆れたのか
「一度切るね。落ち着いたら、こっちから電話する」

「わかった」

そう言って電話を切った。

1時間ほどして電話がかかって来た。

「どうしたい?別れるの?」

「うーん、、、」
俺は言葉が出ない。
梨緒に不満があるわけじゃない。

でも俺は嫉妬に狂い
それをぶちまけた。

「じゃ別れたいわけじゃないんだね」

冷静な声で梨緒は言う。
それまで3時間話し合った。
俺らの絆は深まった。

そう実感した。

正直
俺にはもう梨緒を連れて遊びに行く金がなかった。

俺は自分の部屋で一緒にくつろぎたい思いもあり実家に梨緒を連れて来た。
梨緒は初めは嫌がった。

もうその頃
退院していた梨緒は日中にしか出られなかった。
俺の休みに実家で過ごす日が増えた。

電話で梨緒と喧嘩のようになったが
それ以前から
車でふたりでいると
不意にそこに涙を流す梨緒がいた。

そんなことが数回あった。
俺は頭を撫でてやることくらいしか出来ずにいた。

梨緒の涙のわけもわからなかった。
ただ
情緒不安定なのかと、、、。

けれど違っていた。
後にそれがわかる日が来る。

あんなに梨緒を愛した。



でも 俺には今 忘れられない女がいる。

梨緒のことをすっかり忘れたわけではないのに。

梨緒に夢中の俺は
毎日電話とラインを欠かさなかった。
職場への車での移動中も 仕事の休憩時間も。
梨緒との時間が楽しくて仕方ない。


それが いつの日にか惰性へ と変わってしまっていたのか、、、。

梨緒とつきあい始め半年が経った頃
職場の人間が一気に3人辞めた。
その月にひとりの女性社員が入った。

俺は梨緒に電話でその新人の話をした。

「辞められたら困るから新人のフォローをしなきゃならないから大変だ」

知らず知らずに、毎日そう言っていたらしい。

その次の月のシフトから休みが半分に減った。人が足りないからだ。

疲れていた俺は休みに梨緒と会わなくなった。
毎日弁当を受け取る時に顔は合わせる
ひとりで過ごす時間に慣れて行った俺。

年上の梨緒との交際に反対する両親。姉。

梨緒には言えなかった。


梨緒は何も知らない。
きちんと挨拶もし、交際は許してもらったと思っている。

けれど俺は毎日のように親から梨緒との事に口出しをされ頭を痛めるようになった。

そんな毎日。いつものように梨緒との電話で
梨緒は

「好きなら10分でも一緒にいたいと思わないの?」

「その新人の女の子の話毎日して、その子のことを好きなんじゃないの?」

そんな話をして来る。

「そんなんじゃねぇって。辞められたら困るからだろう。」

そう言う俺。

俺は次第に梨緒に嫌気がさして行った。


ある遅番の食事休憩。珍しく梨緒が電話に出なかった。
いつもと少し時間がずれていたかららしい。

『ラスト休憩の時に気づかなくてゴメンね。今日終わるまで起きて待ってるね』

『まだ終わらないのかな?』

『今日遅いね。誰かと一緒なの?』

仕事が終わった1時半過ぎ梨緒から入っていたラインに腹立ちを感じた。

【何よ、これ】


新人の話を聞くのも仕事のうちだ。

それでも俺は、すぐさま梨緒に電話をした。

「お疲れ様、、、」

泣きそうな声の梨緒。でも俺はなぜだか怒りがおさまらなかった。

「何よあれ。これからは毎日遅くなるって言っただろ。」

「でもいつもは1時過ぎには連絡来てたから」

消え入りそうな声で話す梨緒。

俺は梨緒の気持ちを考えず

「これから出世もかかって来るし忙しいんだって。俺は何かあれば女性社員とふたりで飯とかも行くよ。話を聞くのも仕事のうちだし。」

そう言った。

「わかってるよ。ごめんね。」
梨緒は言った。

なのに
俺は梨緒を許せなかった。

「弁当箱、玄関先にかけてあるから」

俺は黙って梨緒のアパートを去った。
梨緒は、それに気づかなかったらしい。

「どうして黙って行ったの?」

梨緒が言う。

「もう別れよう。毎日毎日、仕事に行く前の電話で嫌な気分にさせられて本当に仕事中も引きずって気分悪かったわ。もらった物とか指輪とか別の日でもまた玄関先にかけておくから。ラインも電話も削除するわ」

俺は
そう言って電話を切った。

梨緒が「明日休みでしょ、、、」

そう言いかけていた。
13歳年上の彼女との恋愛を終わらせた。


第2話
別離


彼は一方的に別れを告げた。
私は彼が新入社員の子に心変わりをした。
そう思った。

ラインはブロックされた。
翌日の休みに電話をした。
やっと出た。

「気持ち変わんねーから」

彼は言った。
13歳年下の彼氏。

秀俊と出逢ったのは9か月前のことだった。
つきあい始めて7か月で終わりが訪れた。

つきあい始めの頃
誰に反対されようと、俺の決意と覚悟は変わらないし
気持ちも絶対に揺るがない。必ず一緒になろう
と。
そう言い切っていた彼。

【絶対】や【永遠】

そんなことがないことなんてわかっていた。

けれど、あの時の秀俊の気持ちに嘘はなかったのだろう。

1つだけ私は彼に問いかけた。

「私はもう子どもが生めない。秀俊の子ども生んであげられないよ。」

それでも
姉に子どもがいて孫はいるから構わないと秀俊は言う。

私は長くは続かないことわかっていて
それでも秀俊との恋愛を楽しんでいた。

一方的に電話を切られた別れを切り出された日
いつでも別れを覚悟しながらも
私は、ただ泣いていた。
秀俊が お弁当箱を置いて行く音にも気づかずに、、、。

5月に入った
ある日。

やっと電話が繋がった。

「別れたくない」

そう言った。

「もう無理だって。戻れないって。」

秀俊は言う。

「昨日まで俺、指輪ネックレスにかけてた。でも、やっぱりもう無理だ。」

「繋ぎにして2度傷つけたくない。セフレとかにもしたくない」

【どういう意味だろう、、、】

「結婚したいし、子どもも欲しいんだって。俺。」

ショックだった。
もう涙も出なかった。

別れるなら きちんと会って話したい。

そう言っても秀俊は頑なに拒否をした。

そのうち電話も 着信拒否をされてしまった。

それでも着信を入れておくと電話がかかって来る。

「毎日話すの習慣になってるんだよね。」

秀俊も言う。

「毎日話していたから俺も電話しないと変な気がする。」

別れているのに
毎日 秀俊から電話が入る。
会話は別れる前と変わらない 日常会話などだった。
秀俊は わりと職場の不満や愚痴をこぼす男だった。  

それと私がいつも不安でいた訳を話した。

「こんな日がいつか来ることが、不安でたまらなかったんだよ」

秀俊は絶句した。

そんな中 私は 別れ話のことも お互いにプレゼントした物のことも きちんとしたいから 会って話したい そう話した。

別れてから18日が過ぎていた。

23日 お互いに納得の上で 会って話すことが決まった。
彼の休みに彼がうちに来て話し合うことに、、、。

けれど 彼からは連絡もなく 電話にも出なかった。

私は 友達に頼み 彼の電話に留守電を入れてもらった。
連絡をくれるように と。
だが 秀俊からの電話はなかった。

逃げたのならば 追わなければいい。
けれど 会えさえすれば 元に戻れる自信が私にはあった。

夜になっても 連絡してくれない秀俊。

仕事のシフトも もう わからなかった私は
秀俊の実家に電話をすることにした。

そこで 思わぬことを聞く羽目になった。
電話をしたことを後悔した。


第3話
罵声

秀俊の実家に電話をすると 始め 彼の父親が出た。
そして 名乗るとすぐに 母親に代わった。

私は 秀俊と 別れる時に電話に出てもらえなかった2日間の間に秀俊に手紙を書いていた。

「松嶋さんって手紙の方?」

「そう聞かれた私は、はいそうです。手紙渡していただけましたか?」

そう尋ねた。

「渡してませんよ」

【えっ?!】

「あんな手紙を書いても、あの子には何も伝わらないと思いますよ」

【お母さんが読んだ?!】

「あの子は難しいよー。もう無理じゃないかい」

「わかっています。それでも、きちんと会って話し合いたいんです。今日はいらっしゃいますか?」

「いないわ、仕事じゃないかい。」

「そうなんですか。わかりました。」

切ろうとした時、

「あなたね、あの子があなたとつきあって、どれだけ借金背負ったか知ってるかい?携帯代もあなたとつきあってから増えたんだよ。」

【知らなかった、、、。携帯代ゲームの課金だと言ってた。借金?どうして??】

「知りませんでした。知らなかったとはいえ申し訳ありません。」

私は そう答えるしかなかった。

「あの子がね、この子(彼の姉)とどれだけあなたとのことで言い合いして喧嘩になっていたか知っているかい?」

【知らない、、、確かにママより姉ちゃんがうるさくて と言ってたけど、その事?】

「毎日だよ。毎日喧嘩していたんだよ。聞いてないのかい?」

【聞いていなかった。姉ちゃんが毎日来てイヤだ。とは言っていたけど】

電話の向こうで 女性の声がした。

「そうやってしつこいから嫌われるんだべや!」

ショックだった。

私は 彼のお姉さんは 自分の血の繋がらない高校生の息子を実家に預けていることで
毎日 実家に来ている と思っていたからだ。

遊びに行った時も
お姉さんが来ていて

ヒステリックに息子を怒鳴りつけている声が聞こえていた。

私は秀俊に

「何をあんなに怒っているの?」

そう聞いたことがあった。
彼は

「アイツ(血の繋がらない甥)がテスト前なのにサボって遊びに行ってたからよ」

そう聞いていた。

秀俊の母親は

「うちには年頃の孫がいるから女の子は連れて来ちゃいけないと言ってたんだけどね。あなたが来るようになってから毎日喧嘩してたんだわ」

立て続けに
彼のお母さんは、そう話し続けた。

私は
思えば3度目に行った時から靴をかくすように言われたことを思い出した。


そうだ。
歓迎されていないことは私も気づいていた。
でも彼がどうしても うちで一緒にDVDを観ようなどと言うので お邪魔していた。

実際 秀俊といれば どこにいても楽しかった。
録画していたDVDを観ながら ふたりで笑った。
いつも楽しく甘い時間だった。

私が見ていた秀俊は一面の秀俊だった。

家では 秀俊はキレて姉と毎日喧嘩をし、両親に交際を反対されていたのだ。

私は思った。

【こんなことも重なれば増々別れたくなるのは当然だ】

「いろいろと申し訳ありませんでした。失礼します。」

私は、そう言って 電話を切った。
夜19時前のことだった。

20時半過ぎ
秀俊から電話が入った。

「なんてことしてくれてんのよ。何、家にまで電話してんのよ!姉ちゃんから連絡来たぞ」


秀俊がキレていた。

「今日会う日だったのに連絡なかったから、、、。」

私がそう言うと

「急に仕事になったのよ!なんで待ってられないのよ」

「何も連絡なかったから、、、。仕事中じゃないの?」

私は恐る恐る尋ねる。

「休憩中だ。ホントもういいわ2度と連絡しないわ!!」

電話、、、切られた。

【終わった、、、。これで良かったのかも知れない、、、。】

5月23日
つきあってからちょうど8か月の記念日の日だった。

節目だ。
これで終わらせられる。気持ちに整理をつけなきゃ。


翌日ショートメールが入っていた。

『物、、、玄関先にかけてあるから』

それには私があげたプレゼントの他にもらったブレスレットの箱、私が忘れたペンダント
そしてペアリングの片方が箱におさめられていた。

私も指輪を外した。

そして
それを 彼の指輪の隣へと収めた。

あっけなかった。

【愛は本物じゃなかった】

私はもう涙も出なかった。

ただただ 疲れ切っていた。


第4話
想い出達

秀俊と私がつきあい始めたのは
2016年の9月23日のことだった。

それから2日後 私達は初めてのデートをした。私の好きなカラオケをする約束だった。
入院中だった私は きちんとメイクをした姿を秀俊に見せたことがなかった。

私はその日 ちゃんとメイクをし 秀俊の助手席に初めて乗り込んだ。

「何か変かな?」

そう言うと秀俊は

「普段の梨緒は可愛いしメイクをした梨緒はキレイだよ」

そう答えた。

恥ずかしかったけれど嬉しかった。

カラオケボックスが開店するまで
まだ時間があった。

秀俊は 車で30分ほどの湖へと向かった。
湖畔を 手を繋ぎ歩いた。

「こういうことしたことがなかったんだ」

私も同じだった。

それからカラオケに行き盛り上がり
私は秀俊に
「梨緒の声、初音ミクに似てる」

そう言われた。

【えっ?誉めてるの?ディスってるの?】

笑いながら初音ミクを歌い
歌えずに ふたりで大笑いをした。

その日は それで病院に戻った。

翌日 いつものように秀俊は仕事に行く前に病院に来て 隣の市の自分の職場に行く日に梨緒を連れて行きたい。

そう言い出した。

「仕事なら不味いんじゃない?」

「調査に行くだけだから大丈夫だよ。車で少し待たせるかも知れないけど」

「うん、わかったよ。じゃ着いて行く!」

2度目のデートだ。

『明日何を着て行ったらいい?』

私は迷い秀俊にラインをし
候補を画像で送った。

『後の方のがいいかな』

返信が来た。

『それにするね』

一緒に行動出来る それだけで楽しみだった。

また外出。けれど制限されていなかった私は 初めてのデートから3日後外出をした。

そして秀俊の車で隣の市に向かう。

「まだ時間早いし昼時だから、有名店のラーメンを食べて行こうか?」

秀俊の言葉に私は

「うん!」そう答えた。

ふたりで食べるラーメンの味は一層おいしかった。
私は食べきれず残りを秀俊に食べてもらった。

【間接キス、、、】

まだキスもしたことがなかった間柄だったから
妙に恥ずかしかった。

その店の店主と秀俊は知り合いだったらしく軽く会話をしていた。

【私、、、変に見られてないかな。大丈夫かな。】

そう思いながら 店を後にした。
16時頃に本社に行くことになっていた秀俊。
まだ時間があった。

そこから車で20分ほどの海辺に車を停めた。

「秀俊のネクタイ姿、初めて見るね。似合うよ」
前日に私が画像で選んだシャツに合わせて着ていた。

「梨緒もその服いいよ。似合ってる」

お互いに誉め合って
すっかりバカップルだ。

そして車で手を握り合ったりするうちに
自然とキス、、、。

私達はイチャつき

そして その日の想い出を写真に残したかった私は ふたりで撮ろう と提案した。

「こういうことしたことなくてさ」

恥ずかしがる秀俊。
一緒に撮った画像とひとりずつ撮った画像をシェアする
後に その画像は秀俊の携帯から消えてしまう。


時間が来て 秀俊の本社に向かう。

実は秀俊は パチンコ屋の店員だ。

本社に着いた。

「あまり暇だったら中に入って打ってていから」

そう言って秀俊は 私に財布を渡した。

待っていた私は 時間がかかりそうだったので 店内を覗くことにした。

ある台に座った。
千円で出た。

秀俊がやって来た。
財布を返し ボーナスが終わったところで両替をした。
千何百円勝っていた。

帰り道 コンビニに寄り
飲み物を秀俊が買い
私は病院で読む雑誌を買った。

運転しながら 手を繋ぐ秀俊。
来る時も自然と手を握って来たっけ。

それからは いつも車で手を繋ぐのが当たり前だった。

帰ると 門限ギリギリだった。

毎日のように秀俊とは会えた。

遅番の日には仕事に行く前に午前中から来てくれる。
早番の日には 終わってから 僅かな時間だけれど 面会時間の終わるギリギリまでいてくれる。

必ず おやつと飲み物を持って、、、。

そして 次の次のデートで 私達は結ばれる、、、。


彼は
その日緊張していた。
ホテルに入ると ふたりともおどおど。

ますば お互いにシャワーを浴び 行為に及んだ。

彼は とても痩せていて 太股に当たる彼の脚が痛かった。


彼は どうやらぽっちゃりが 好きらしく私は、彼に8キロ太らされ 彼も太った。

私は、彼に引き込まれ 彼も私に夢中になって行くのがわかった。

彼が、全てお金を出してた。
私は貯金があるのかな とぐらいにしかと思っていなかた。

気前の良い彼。
病院が寒いと言えば スウェット上下を3着 カイロを3箱。暖かい靴下を、3足買って来る人。

「梨緒に寒い思いはさせられない」
と 家から モコモコした抱き枕とシーツを持って着てくれた人。

いつも笑 顔 で、やさしかった。

そして 秀俊は初めて連休を取ってくれて温泉に。

うれしかった。


こんな事になるとは知らずに、、、。



彼は
いつも尽くしてくれた。
ファミレス 居酒屋さん お好み焼き屋さん お蕎麦屋さんなど、、、。

ぽっちゃりが好きな彼は 甘い物も欠かさずに 食べさせてくれた。

甘党の私はみるみる太って行った。

人生マックスの体重、、、。

「痩せた方が良くない?」

秀俊に尋ねると いつも笑顔で

「そのままで」

と 言う。

温泉は最高だった。常に笑顔の秀俊
優しい目をした秀俊。

時間潰しに パチスロをして負けちゃったり。
でも いつも 八つ当たりすることもなく 常に 私には笑顔でいてくれた。

夜 シーツにくるまり 携帯でゲームをする姿を隠し撮りされたり
そんなこともあったけど
すぐに二泊三日は過ぎてしまった。

秀俊は準備をして 私を病院に送り
そのまま仕事に、、、。

いつも 休みに一緒にいてくれて休む暇もなくハードだったと思う。

けど 前日が 遅番でも 朝には迎えに来てくれていた。


一緒にスロットを打ちに行き
ふたりで大勝ちをしたことがあった。
秀俊は私に半分
お金を渡そうとした。

私は

「私のお金じゃないから要らないよ」

と言った。

「梨緒のお陰で勝てたから」

と秀俊が言うので3千円だけもらったりもした。

私の財布には、いつもお金がほとんど入っていなかった。

ホテルでシャワーを浴びている間に財布にお金が入っていたこともある。


隣街に 美味しいシュークリームを食べに行ったり
寒いだろうと フワフワの素材の上着を2着買ってくれたり、、、。

太ってロングブーツが入らなくなった

と 言えば ブーツも買ってくれた。

「こっちも可愛いよ」

と ショートのブーツと2足。

愛されていた。

そして 尽くされていた。

それは全部 秀俊の借金で成り立っていた、、、。

それでも 想い出は 消えない。



第5話
忘れなければ、、、。

そんな想い出に浸っても
秀俊は、もう私の元には戻らない。
恋は終わってしまったのだから。

けれど 私は
かなり 引きずっていた。

男友達と遊びに出かけても
気分は晴れなかったし

大好きなカラオケも
そんな心情の歌ばかりを歌ってしまう。

なぜだろう、、、。

なぜ こんなに苦しいんだろう。

終わりが来ることは いつでも覚悟していたはずなのに

なのに 想い出が 私を離さない。

たくさんの想い出をくれた人。

その7か月がまるで数年のように

秀俊が別れ際に言った

「中身の濃かった恋愛だった」

その通りだ。


私には
秀俊の前に5年半、遠距離恋愛をした人がいた。
その彼は16歳年下だった。
けれど
とても包容力のある人で
秀俊と同じくらい
いえ
秀俊以上に私に尽くしてくれた。

サプライズ と言って花束を何度か渡してくれたり

今日は買い物に行くよ

と 服 靴 指輪 バック アクセサリー、、、。

ありと あらゆる物を私に買ってくれる。

私は 尽くされるタイプなのだろうか。

でも、、、。

結果的に終わってしまうなら意味がない。
5年半つきあった周史とは
いつの間にか疎遠になり自然消滅してしまった。

周史は 常に

「梨緒には近くの人がいい」

そう言っていて。
きっと身を引いて行ったのだろう
そう思った。

なぜ周史のことを書いているか

と いうと

秀俊と別れ 周史のことを想い出したからだ。

私は 身勝手な女だ。
周史から 連絡が途絶え

その後 秀俊とつきあい始めた。

秀俊と つきあうようになり
次第に周史のことは忘れて行った。

なのに
都合のいいことに
秀俊に振られれば周史を想い出している。

と言って
周史とは2度と連絡はつかなかった、、、。


失恋を 前の彼氏を忘れるには次の恋



人は よく言う。

そして
振られた場合ほど忘れられないのだと人は言う。

秀俊は
私と別れた理由を4月に一緒にいられずに私が彼に嫉妬や嫌味染みたことを言ったからだと
そう言っていたけど。

それは違う。
4月のラインを読み返しても
秀俊は私に普通にそれまでと同じに

『大好きだよ』

と接してくれていた。

じゃぁ何が変わった?何て変わった?

その時にはわからなかったことが
後に点と線で繋がる、、、。


私は早く忘れたかった。
けれど 別れて8か月経った今でも
私は秀俊を忘れていない。

なぜ 忘れられないのかは わからない。

忘れようと思えば思うほど忘れられないのだ。

世の中には もっと良い男は たくさんいるはずだ。

けれど 今は 友達がいれば それでいい。

秀俊が 頭から消えるまで。

もう想い出さなくなるまで、、、。



第6話
自殺未遂


俺は梨緒と別れた次の月から別の女と
つきあい始めた。
それが 朱里だ。朱里は見た目こそ良くはなかったが 男好きのするタイプだ。

そう 梨緒が あれほど気にしていた18歳の新入社員。それが朱里だ。

梨緒には朱里に気があるとは 勿論言えなかった。そして 自分の気持ちにも 俺は気づいていなかった。

朱里には 彼氏がいたからだ。
朱里に近づくために 梨緒が邪魔だったのも事実だったかも知れない。

梨緒との恋愛よりも
新しく入って来た社員 朱里の方が新鮮に感じたのかも知れない。

俺は 朱里の彼氏から 朱里を奪い
梨緒と別れて間もなく 朱里とつきあい始めた。
朱里は18歳で未成年だということもあり 親からも早めに帰すように言われていた。

朱里の母親ともラインで交流を持つようになった。

俺は 梨緒のことをすっかり忘れ
若い朱里に夢中になった。

年齢は関係がない。

梨緒とは まるで正反対の朱里。

梨緒は 癒しや安らぎや安心感をくれた。

朱里は 危なっかしく 放っておいたら何をするか わからないタイプだ

つきあい始めて2か月。
朱里の母親から電話が入った。

それは 驚愕の事実だった。
同じ職場の男とも つきあっている
と いうのだ。

そうだ

俺は朱里に二股をかけられていた

そして それにまったく気づいていなかった。

真実を知ってしまった以上
朱里とも もう ひとりの男とも話し合わなければならない。

俺は その日仕事が休みで 朱里が仕事を終えるのを待った。

男は、、、
話し合う前に逃げた。

朱里を待つ間

俺は何故か 梨緒の着拒の解除をしていた、、、。

朱里が仕事が終わり 俺らは 車2台で彼女の 家近くの空き地で話をした。

外はどしゃ降りだった。

話をしても 朱里は ただ謝り 泣くだけだった。

そうなんだ
黙って許せば良かったんだ。
好きだったのだから、、、。

20歳も下の朱里だ。
まだ子どもじゃないか。
その場で許せば別れずに済んだのか?


簡単には許せない
プライドが邪魔をする。


 俺は他の男らと違う。

「前の男が別れるなら死ぬって言ったんだよな?でも何が出来た?俺はやるよ。本当に。」


そして 持っていた睡眠薬 導入剤 鎮痛剤などを まとめて 朱里の目の前で飲んだ。

まだ朱里は泣いていた。

「送ってくわ」

俺は 自分の車を置いたまま 彼女の車を運転し 彼女を送り届けた。

大雨だった。
俺は走り 自分の車へと向かう。

彼女は走って後を追って来るのが見えたが
車までは 追っては来なかった。

ずぶ濡れの身体 朦朧とする意識、、、
そして 孤独と疎外感。

俺は知らず知らずに梨緒に電話をしていた。


第7話
電話の声


私は
その日の23時半頃 なぜだか
ふっと秀俊を想い出した。

忘れていたのに なぜだか
わからず 仕事かも知れないし着拒されてるし、、、

そう想いながら なぜか電話を鳴らした。

着拒が解除されていた。

どうしたんだろう、、、

そう思いながら 眠りについた。


明け方 3時半頃のことだった。
秀俊から着信が。

【えっ?秀俊?】

「もしもし?」

秀俊の声だ。私が愛した その声。

「んー久しぶりだね。何かあった?」

そう言うと

 「女に裏切られてよ。他の男とヤリまくってたのよ」

秀俊は そう汚い言葉を 言い放った。

「女って、、、あたしと別れたあとにつきあった人?あの18歳の子?」

「あー そうよ。」

「なんでそんなことに?もうひとりの男の人って?」

「同じ職場の奴よ」

「だから梨緒と別れなければ、そんな想いしなくて済んだのに」

「うん、そうだな、、、梨緒にした分
全部自分に跳ね返って来た。
俺が全部悪いのよ」

「秀俊?何か変だよ?何やった? 」

「持ってた薬全部飲んだ。」

「えっ! とにかく吐いて
指入れても全部吐いて!」

秀俊は

「もう遅い もう遅い、、、」

そう言うだけだった。
薬は 2時前に飲んだらしい。

私には 居場所を教えてくれない。
元々 彼はうつを持っていて 何度かこんなことがあったとは聞いていた。


居場所がわからない私は 彼の実家に電話をした。

「こんな時間にすみません。秀俊さんから電話があって薬を飲んだと言っているんです。私には場所も教えてくれなくて。どうしたらいいかわからないんです」

秀俊の両親には 居場所を告げたらしい。
私が車を持っていなかったから
親が駆けつける間
また、電話を入れてみた。

秀俊は
ハッキリしない言葉で
私の話に答える。


「秀俊、つらかったね。梨緒も同じようにつらかったんだょ」


そんな話をするうちに
両親が彼の元に辿り着いた。
電話が繋がったまま
秀俊は気づいていないようだったが
母親に電話が繋がったままじゃないの
と促され

大丈夫だ
と言って、その後も話をしていた。
私は秀俊が話すのを切らずに待っていた。

次の日
私に謝りの電話を入れて来た。

「迷惑かけたね。悪かったね。」と。

「梨緒に電話した記憶が全くないんだ。」

何だか【あんまりだ】
と感じてしまった。

そして
彼は 彼女の家にケーキを持ってお詫びに行ったらしい。

誰も出なかった と。

そして 彼女は電話に出ない と。
ラインで 『怖いから  もう終わらせたい』
的なことを言われたらしい。


彼は 元々 鬱を持っている

私も精神疾患を抱えている。


私には 秀俊の気持ちがわかるが
彼女には 一般人には わからないのだろう。

ラインでしか話が出来ず納得行かなかったり

それでも結果別れ。


私に愚痴をこぼしたり、、、。
つらい
せつない想いを話して来たりした。

会うことも 戻ることはない。

なのに2か月強 毎日連絡を取り合っていた。

私は秀俊の声が好きだった。

せっかく忘れていた声
その愛した声で 彼は毎日電話をして来る。

彼にとっては
単なる暇潰しだったのだろう。

彼は 彼達3人は 問題を起こしたということで 職場を自主退職させられた。

そのため 彼は 新しい職に就くまで暇を持て余していたのだ。

私は 彼の電話や ラインにつきあって話すようになった。

また それで 気持ちが込み上げて来た。
一度は 忘れかけていたのに、、、。


自分の気持ちに重なる曲を聴いて落ち込んでは ラインをして来たり。


ある雨の夜には

『雨は嫌いだ』

と ラインして来る。

その度に 宥めるように諭すように
私は話をする。

『なんで今日、こんな曲を聴いてしまったんだろう』
秀俊はラインで言う。

いつものことなのだけれど イラついた私は

『そんなに好きなら、もう1度謝って戻りたいって言えばいいじゃん。大体二股かけられていた女をまだ好きとか信じられない。不潔。私にはわからない。』

それに対して

『なんでだろな。俺もわからない。』

そう答えた。

翌日 言い過ぎたと謝ったり

また 自殺をするようなことをほのめかさかす秀俊に心配だから、そんな話はやめてと言うと

『そんな心配するな!』

とラインでキレられたりもあった。
放置すると

『昨日は言い過ぎたね。悪かった。』

と言って来たり、、、。

また、ある日には

『なんで忘れられないんだろう』

そう言って来る。

イライラした私は

『人の物を奪いたいから男にだらしない男を好きになるんでしょう』

言い過ぎたりもした。


私は 振り回されていたのだと思う。

秀俊は どちらからと言うと 広く浅くの交遊関係で あまり 心を開ける相手がいなかったのだと思う。

彼女の話を出来るのが 唯一 私だったのだろう。

後には電話で

「奪っても奪っても他の男が出て来た。」

そう言っていたことからも18歳の子には元々は彼氏がいたことも伺える。

【そのために私は捨てられた】

そんな気持ちを持ったりもした。

けれど私は自殺未遂を図った秀俊の支えになりたかった。

そうやって 電話でもラインでも彼女の話をしなくなった秀俊が

ある日 アダルトな画像を送って来た。

『何やってるの ?したいの?笑』

それが 続いたうちに

絵文字で ホテル+ホテルは と聞いて来た。

私は ホテルホテル と絵文字で返した。

秀俊は 
『ホテル+ホテルは』

画像(アダルトの)と送って来て

『しようか』

と言って来た。

私は

『いいよ』

と答えた。

『いつする』

『いつでもいいよ』

そんな
軽いノリで話してしまった。

あれだけ別れた女とは会わない。ヨリも戻さない。
連絡取ってるのも梨緒が初めてだ

そう言っていた秀俊が
そんな話をして来た。

秀俊の仕事が決まった。

仕事が始まる前に
私達は会うことになった。


第8話
身勝手


秀俊の仕事が始まる前日

秀俊のハローワークの手続きが終わり次第
私達は会う約束をした。

思っていたより時間がかかって会えなくなった

秀俊から連絡があった。

勿論 ホテルに行くのが会う前提ではない。

お茶か ごはんか カラオケでも行こうか、、、


そんな話だった。

その時間がなくなり
会わなくなって私は

「また今度だね。秀俊の仕事が慣れた頃に、、、だね」

電話でそう話した。

2か月余りの間
秀俊と関わる間に
私の秀俊への想いがよみがえってしまった。

以前とは違う愛し方で
それは 間違いなく愛で。

私は いつからか 秀俊からの電話を待つようになっていた。

ある時 まったく連絡が取れなくなる
ほんの4~5日のことだったが
理由は 今でもわからない。

だが また連絡が来るようになる。

前の仕事と違い 忙しいのかラインはなくなった。

けど2日に1回くらい 仕事が終わると電話が入る。
仕事の話やたわいのない話。

18歳から パチ屋の店員だった秀俊には 今の肉体労働の仕事は かなりきついようだ。

そして 接客業であったことから 自分が店にいることで お客がついている という自信があるようなことも ずっと聞いていた。

今の仕事で一杯一杯なのは 秀俊本人からも聞いていた。

仕事が慣れた頃

会う約束をした。秀俊の休日に。

当日
ラインが入った

『今日ごめん、体調が良くないんだ。』

『秀俊の都合に合わせる約束だから構わないよ。じゃまた来週だね。ゆっくり休んでね。』


秀俊からは そのライン以来電話がなくなっていた。


そして翌週

『身体が疲れきっているから身体の疲れがなくなるまでゆっくりしたい』

またラインが入った。


会いたくないのなら はっきり言ってくれたら いい。
電話もない。電話にも出ない。

そうだ。
私は 避けられているのだ。

理由は わからない。

何かを言ったとか 何かをしたとか
そんな覚えはない。

秀俊の気持ちは わからない。
ただ逃げているだけ。

私は

『また来週ね。疲れ取れるといいね。』

そうラインを返したが
もう二度と連絡をしない方がいいのだろうと

しない と そう決めた。

この約3か月

秀俊と私の関係は何だったのだろう

私は思った。

何でもない。
秀俊を構ってあげたのが私だっただけだ。

そうだ
秀俊にとって 私は単なる暇潰しだっただけだ。
心細かった間の頼りでも何でもなかった。

秀俊にとって 私は 既に 愛した女でもなければ友人でもない。

ただ自分の話を聞いてくれる

それだけの存在だったのだ。

過去にある女性が

【期待するから裏切られた気持ちになる。だから私は期待しない。】

そう言った言葉を思い出した。

期待し過ぎた。
期待しなければ良かった、、、。


元々
別れた時から
わかっていたことだ。

秀俊は自分勝手な男だ。


そして
秀俊の母親ですら

「あの子は難しい子だよ」

そう言っていたほどだ。

そうだ。
秀俊の性格にかなりの問題がある。

つきあっている間のことは幻想だ。

取り繕っていたのか 演じていたのか、、、
あれは本来の秀俊ではなかったのだろう、、、。

私はそれを
今頃になって気づいたのだった。




第9話
秀俊の過去


秀俊は 自分で 若い頃から 決して良い恋愛はして来なかった。

そう言った。
結婚しなかったのも 人妻とばかりつきあって来たから だ とも、、、。

ある既婚の女性との間には 子どもが出来たそうだ。
既婚である女性は離婚するつもりもないことから 妊娠中絶をしたという。
そして その彼女は 子どもの出来ない身体になったそうだ。

秀俊は彼女を本気で愛していた。

だが また その後すぐに 別の女性とつきあい出した。

秀俊は まったく別の場所に住んでいるのに 別れた彼女の近くの店に 新しい彼女を連れて行ったそう。

秀俊の心の中に

【もしかしたら会えるんじゃないか】

そんな気持ちがあったそうだ。

秀俊達が 店に入ろうとした その時

前の彼女と その ご主人が 店から出て来たそうだ。
鉢合わせしたのだ。

勿論、声をかけることも出来ない。

その時 秀俊の胸は 押し潰されそうだったという。

「そんなの新しい彼女に失礼じゃない。」

私は そう言った。

秀俊自身も 間違いに気づき
その彼女とは 別れたそうだ。


秀俊は 自分では気づいているのかいないのか 嫉妬 独占欲 束縛が強い。

それ故 過去 彼女ら と揉めることも多かったらしい。

新しい彼女と つきあい始めた。
彼女は 独身だと嘘をついていたらしい。だが既婚だった。

秀俊は それを知っても別れなかった。

彼女は 離婚し 結婚する と言った。
信じられず
婚姻届まで 書かせたそうだ。

ある時その彼女に 旦那と自分の他に男がいることを知った。

秀俊は キレたそうだ。
けれど 既婚とわかった時点で別れなかった秀俊にも 非はある。

そうこうするうち
彼女の妊娠が発覚した。

秀俊は 旦那と別れない彼女が 他に男性がいると わかった時に彼女とは別れたそうだが

彼女は 宿した子どもを生んだらしい。

誰の子なのかは わからない。
秀俊は 自分の子かも知れない。

そう話していた。

秀俊は キレると自分が わけがわからなくなるそうだ。

私は 目の前で 秀俊がキレる姿を1度も見たことがなかったので よくは わからない。

会社の 後輩に手を出し 一緒に暮らしていた頃 やはり 彼女が若くて遊びたい盛りだったのか 喧嘩が絶えなかったらしい。
そして1度手を出してしまい 別れたことがあったらしい。

彼女 ひとりとだけは 1度 ヨリを戻したと話していた。
だが 上手くは行かなかった。

その後 別れた相手と戻ることも連絡を取ることも一切やめたそうだ。

別れた相手と連絡を取っているのは梨緒だけだと 秀俊は言った。
なぜなのか自分でもわからない、、、。

と。

そんな秀俊に避けられている と察した私は
2日前

『今までごめんね』

と 一言ラインを入れた。
最期の一言のつもりだった。

数時間して 二度秀俊から着信が入っていた。
3分前だった。
驚いた。一瞬だったが複雑な想いだった。折り返そうか
ちょっとだけ躊躇った。

私は折り返し電話をした。

たわいのない話をした。

なぜ秀俊が電話をして来たのかはわからない。
約3週間ぶりの電話だった、、、。

秀俊は 突き放されると寂しくなるのだろうか。

私達は 恋愛しているわけではない。

けれど 秀俊の過去の中にいる

それが 私だ。



第10話
梨緒の過去


梨緒の生い立ちは幸福と呼ぶには遠かった。
母にDVをする父の間に入り 自分も虐待を受ける。

中学になり 父の都合で転校した梨緒は 虐めにあい 不登校になる。

出席日数の関係で進みたい高校に進めなかった梨緒は 学校に馴染めず やはり不登校になる。

中退をする覚悟で単位を落とし 中退する。

梨緒の母は当時 スナック経営をしていて つきあいも多かった。

まだ30代半ばだった梨緒の母親は 若い頃から夫に離婚してもらえずに
スナック経営と同時に酒を飲むようになりつきあいも増え 開き直っていたのだろう。

あるメンズパブに通うようになる。
梨緒の母は 『高校生の娘がいるの。美人なのよ。』
と 吹聴していた。

従業員は

『嘘でしょ。ママ。本当なら連れて来てよ。』


その時 既に イカれた親だ。

梨緒は その店へと連れて行かれた。

「高校生なの?」

ある従業員に問われ 梨緒は俯き

「はい」と答えた。

「えっー!ホントだったんだね。ママ。姉妹みたいだね。」

梨緒の母親は そう言われることに快感を覚えていたのだろう。

その店で 梨緒の母親は ある男と恋愛をしていた。
純愛だと言っていたようだが それは定かではない。

彼の休みの度に 夫がいないのをいいことに 出かけて行く梨緒の母。


そして 梨緒も また その店の従業員と親しくなる。

「私はお兄ちゃんが欲しかったんです。」

梨緒が 言うと その従業員  真(まこと)は ひとつ歳上の18歳。
「俺がなってやるよ」

そう言って梨緒に近づいた。

梨緒は まだ幼く純情だった。

梨緒は ヴァージンを真に捧げた。
真は 梨緒の身体に夢中になった。

だが 女にだらしない男でもあった。

梨緒は真と接するうちに ますます学校へ行かなくなった。
行っても 帰りは真が車で迎えに来る。
梨緒は 後先考えず 浅はかだった。

高校を辞めた梨緒は その時17歳。

父親は 「働かざる者食うべからずだ。今日から店に出ろ。」

そう言って 梨緒を 妻の店に働かせた。梨緒は まだ未成年だった。

梨緒が 店に出るようになって 真は気が気ではない。

自分の出勤時間を遅らせ 梨緒を見張るように 梨緒の元で飲むようになり 人手が足りない時には 無償で店を手伝っていた。

繁盛していた 店は 人が足りず 梨緒の友人を雇うようになる。

それが 麻由美だ。
麻由美は 美人ではないが笑顔で愛嬌のある女の子だ。

友人であることもあり 仕事は上手く行っていた。
真の友人とつきあうようになる。

真は 部屋がなく 麻由美の友人の部屋をシェアしていた。

ある時 梨緒の父親の仕事で短期出張に行った真は 電話で 梨緒に かまをかけられる。

「麻由美と寝たんだって?」

「麻由美が言ったのか」

【やっぱり、、、。】

前から怪しいと思っていた梨緒は冷静に受け止めた。

「帰ったらちゃんと説明するから待ってくれ」

そう 真は言った。

梨緒は冷ややかだった。

【男なんて信じるもんじゃない】

そんなことを思う梨緒にも甘い青春時代はあった。
中学生。
サッカー部の彼を目で追う梨緒。
モテる彼。激しくなる虐め。

彼は 『つきあって欲しい』と手紙を渡して来た。
その仲介をしたのが奇しくも麻由美だった。
優(すぐる)との初恋。

転校での別れ。

不登校。

受験間際に付き合いだした 頭が良く勉強の出来る浩(こう)

男性不振になる要素などない。

ただ ひとり。父親を除いて。


梨緒は 真の釈明を聞き入れなかった。
真は必死に
「麻由美に誘われたんだ」

そう訴えた。

梨緒は 聞けば聞くほど

【誘われたら誰とでもすんのかよ】

と 冷め 呆れるだけだった。

真と別れて 間もなく梨緒には 新しい出逢いが訪れる。


第11話
梨緒の過去2

梨緒は歳の割には大人びた考えをする女だった。

ある時
店の常連の梨緒より3歳歳上の竜が親友を連れて来る。
名前は和也。和也と梨緒は急激に親しくなって行った。

梨緒の
母は 和也との交際に賛成していた。

女にだらしない真と別れ ホッとしていたのだ。

梨緒は18歳になっていた。


ここで注意書きを書こう。
梨緒とは 作者本人であり この話はノンフィクションだ。

ここからの 梨緒の過去については 梨緒の長い男性遍歴が続くが 基本は 現在でも 秀俊への気持ちを持ち続ける 現在の心情を綴るつもりだ。

なので ここからは 梨緒ではなく 梨緒本人 すなわち 一人称を 〝私〟として表現して行くことにする。


和也と知り合った私は 本当に幸せな毎日を過ごした。
日曜日の和也の休みには 和也が車で迎えに来てくれる。
和也の車のエンジン音だけで 私は和也だと わかるほど 和也のスポーツカーも 気に入っていた。

和也は マメだった。
ドライブも どこにでも連れて行ってくれたし 一緒に歩くと 腰に手を回し 周りから 庇うように歩いてくれる。

私は精一杯 和也を愛した。
和也も 真剣に愛してくれている

そう信じていた。


湖で ボートに乗る 
いきなりキスして来る和也。

周りから 口笛を吹かれる。

車の信号待ちでも キスをする
車の中でも 手を繋いでくれる
ギアチェンジの 合間に。

和也の仕事は大工で雨が降ると休みになる。
雨の嫌いな私が
いつの間にか雨を好きになっていた。

雨の日は家で寝転がり二人ゆっくりする
いろんな話をしながら
それはたわいもなく、ゆっくりと流れる時間、、、。


和也と私は 離れることが ない
そう信じていた。



第12話
妊娠

つきあい始めて5か月。

私は 和也の子を妊娠した。

生みたかった。

でも 許されなかった。

和也の家は 建設会社をしていて 和也も そこで大工の仕事をしていた。

社長の息子、、、。

和也は
「生め」そう言ってくれた。

けれど
親や姉から反対をされた和也は
私と一緒になれば 職も失う。

反対された理由、、、。

『水商売の家の女の子なんて』

うちの 親が 先方の親から電話で言われたそうだ。

それでも 和也は苦悩しながら

「生め。でも幸せにしてやれるか自信はない。」

そう 言う。

「いいょ。堕ろすよ。和也を苦しめたくない。」

私が そう言うと 和也は 少しキレ気味に

「じゃ子ども見殺しにするのか。それなら堕ろせ。」

もう 会話もメチャクチャだった。

和也の中で葛藤があったのだと思う。


「一緒に逃げるか、、、。」

そう言った和也

大好きな車の中で 私達は そんな会話をしている。

「そんなことしたら和也が家を継げなくなる、、、。」

「家なんかどうでもいい。大事なのは子どもだろう。」

私は まだ19歳になったばかり。
自分で決めるには 幼すぎた。

和也は 22歳。

親になる自信など ふたりともなかった。

私は 生む決意が出来なかった。

和也に黙って ある日
勝手に産婦人科へ行った。

母の友人が付き添ってくれた。
今は亡き方だが 私は 彼女に かなり世話になり 今でも本当に感謝している。


思っていたよりも 身体の痛みも心の痛みも酷かった。
私はずっと泣いていた。

和也が訪ねて来た。

「梨緒ー。和也くんよ。上がってもらうわよ。」

横になっていた 私を見て和也は

「どうした?具合悪いのか?つわり酷いのか?」

和也は何も知らない。

「赤ちゃん、もういない。」

私は 答えた。

「嘘だろ?嘘だよな?」

和也は言った。

「、、、。」

「どうしてよ。どうして俺に黙って、、、。」


「私は和也を苦しめたくない。家を取るか私や赤ちゃん取るかなんて悩ませたくないし、家を継ぐのが和也のするべきことだから、、、。」

そう 言った。

和也は泣いた。

「ごめんな。梨緒にだけ苦しい思いをさせて。」

「一緒に、お参り行こうね。私名前つけたんだ。証だよ。愛の証。」

和也は泣きながら
「行こうな。何か欲しい物ないか?食べたい物ないか?」  

本当に優しい和也。

私達は それでも愛し合っていた。


第13話
和也との別離と優との再会
竜の横恋慕


和也は
いつも優しかった。
けれど、その分だけ私に対する不振を感じるようになってしまったのだと思う。

18になり母は店を移転。
他の店に勤めていた私は
いつも和也との時間を大切にしていた。
昼と夜の仕事 その掛け持ちの時間をぬって 和也とは 仕事の休みの日曜日に会う。

愛していた。
愛されていた。

だからこそ 私達には妊娠中絶は許されなかった。

和也の心が離れて行くのがわかった。
私は和也を追えなかった。

お互いに どちらからともなく別れ話になっていた。

別れたくなかった。
私は それまでになかった程に泣いた。

それでも時間は止まってくれない。
時間は流れて行くのだ。


私は ひょんなことから 優と再会していた。
まだ和也とつきあう前のことだ。
2度ほど デートし 優の部屋にも連れて行ってくれた。
まだお互いに18歳。
けれど 手を出そうと思えば出せたと思う。
優は 何もして来ることはなかった。

そのうちに和也と つきあい始めたわけだ。

別れて1年  20歳になっていなかった私は 和也から連絡をもらった。
和也は電話で

「やり直さないか。俺は半年くらい出張に行くけれど帰ったら戻りたいと思ってる。」

私は 嬉しかった。

「うん、、、」

泣きながら答えた。

和也が東京から帰って来るのが楽しみだった。
お互いの時間の合間を見て 和也は電話をくれた。

信じていた。
戻れることを、、、。

ある日 和也から電話が入った。

和也は

「梨緒、俺、梨緒とやり直せない」

「えっ?!どうして?」

「竜が心底梨緒に惚れてるんだってよ。一緒になりたいぐらい好きだから身を引いてくれって言われた。」

「そんなの関係ないよ。私の気持ちはどうなるの?」

和也は言った。

「他のどんな男にも梨緒は渡さない。でも親友の竜がそこまで言うなら俺は引き下がるしかないんだ」

徐々に芽生え始めていた 男性不振。

私は 男を信じられなくなった。


そして また優と連絡を取るようになる 20歳前。

私は 元々 優を好きだったが
優が どう考えているのか まったくわからなかった。

私は 和也を忘れたかった。

そして 優なら 和也を忘れさせてくれる そう思っていた。

優は 私の店に来ることはなく  母の店に顔を出し 車なので いつも 烏龍茶を飲んでいた。

優が来てると連絡をもらい 店が終わり次第 母の店に駆けつける。

優とチークを踊った。
その時から 急激に 優と私は親密になって行った。

優は いつも親友と ふたりで来ていた。親友の方は 理恵という女の子を気に入っていて
私達は 車で 湖の湖畔にドライブに行ったりするようになった。

キスをして来た優
胸に手を入れる優。

でも それ以上は進まなかった。

ある夜 優の部屋に行った。

優の親は ふたりともいなかった。

あたし 思いきった行動に出た。
 
服を脱ぎ始めた。

優は
「やめろ」

と言って あたしの身体に毛布をかけた。

「服着ろ。送ってく。」


私は 車でずっと泣いていた。

「私、女として、そんなに魅力ない?」

優は ポツリと言った。

「自分、大事にしろ、、、」

と。


第14話
自暴自棄

優に
振られた、、、いや正確には受け入れてもらえなかった。

私は自暴自棄になり
もう何がどうでも良くなっていた。

和也との別れ。
優の拒絶。

惚れた方の負け

昔からいうけど
本当にその通りだ。

私はもう男にすがるのはやめた。
本気で愛することなんてしない
そう思っていた。


ある日
夜のバイト先に偶然
高校の同級生がやって来た新藤くん。
高校時代 私達は話したこともなかったが
同級生だと すぐにわかり会話が弾んだ。

「高校時代、誰と仲が良かった?」

新藤くんが聞いて来た。

「男子では中学から一緒だった中山くらいかなぁ。中山裕太。」

私が そう言うと

「裕一と同じクラスじゃなかったっけ?中山裕一。同じ中山だけど。」

新藤くんに言われた。

「あー知ってるょ。中山くん人気あったし。」

私が言うと 新藤くんは 

「今度連れて来るよ」

そう言って帰って言った。

また別のある日

中山が来たのだ 友達を ふたり連れ
3人で。

「帰り一緒に帰らないか」

裕一が言った。

どうでも良かった。

私は裕一の家に連れられて行った。

その日のうちに関係を持った。

同級生、、、 ただの同級生

そんな気持ちしかなかった。
私の心の中には まだ和也がいた。

裕一は言った

「一緒になろうな」

男なんて 結局ヤりたいだけだ。

そんな言葉なんて信じない。


裕一のアプローチが始まった。
毎日の送り迎え。

そのうちに 母と親しくなり
入り浸るようになった。

好きになって行った。
好きだった。

けれど やっぱり 友達感覚なのだ。
悩んでいた。

けれど つきあいから1年
結婚を迫られていた。

父も 【ハッキリしろ】

と 言っていたようだ。

【結婚させて欲しい】

裕一は話していたという。

私達は結婚することになった。

結婚式前夜

ふたりで お酒を飲んだ

少し酔った私は

「和也を忘れられない」

泣きながら そう言ってしまった。

言ってから はっと気づいたが
出てしまった言葉は 取り消せない。

「じゃ結婚式キャンセルするか」

キャンセルしても意味はない

もう 既に1か月以上前に入籍していたからだ。
私の妊娠と同時に入籍をした。

私は ひどい悪阻で 水も受け付けなかった。
医者が中絶をすすめた。体が衰弱していた。
私には2度目の妊娠中絶だった。

今更 結婚式をためらって何だというのだろう。

もう夫婦になっているのに
和也を思い出して それを夫に話して どうなるというのだろう。

裕一は 心が広かった。

裕一は 私をりーちゃん と呼んだ。

「りーちゃんの全部を受け入れるって俺は決めてるから」

翌日の結婚式

私達は笑っていた。



第15話

秀俊との関係



裕一との結婚 離婚

敏和との再婚 離婚

敏和とは私が経営していたスナックで知り合った。
お互いに すぐに恋に落ちた。
両親の反対に遭い 駆け落ち同然で一緒になった。
敏和は 天涯孤独同然だった。
両親が離婚し その後 母親は敏和を残し自殺。
父親に引き取られた敏和は 今度は父親が女と逃げ おばさんに引き取られる。
難しい生い立ちだから なおさら私の母は反対をした。

私は敏和に暖かい家庭を作ってあげたかったし
敏和は何より 自分の子どもを欲しがった。

敏和とは たくさんの想い出もあるが
結果 敏和のDVという形で離婚をしたので
ここで 深く掘り下げるのは止めておく。
作者の心情が持たないからだ。

あまりにもたくさんのいろいろな出来事で
私は精神を病んでしまったからだ。


そして何度かの恋愛をして
私は 秀俊と巡り逢った。

別れてから 4か月
着信拒否をされていた私は
ある日の夜
なぜか 秀俊に電話をした
23時頃のことだった。

電話は普通に呼んだ。
【着信拒否されてない】

【どうしたんだろ、まぁいいか今更関係ないしな】

そうして 私は眠りについた。

 数時間経っていただろうか?
恐らく 夜中の3時頃 携帯に着信が入った

『今、何時?、、、えっ?秀俊、、、』

「もしもし、久しぶりだね」

そう言うと

「おっーもうダメだわ俺。あの女が他の男とヤリまくってたのよ」

余程 興奮しているのか汚い言葉を使う秀俊。

『あの女、、、あーあの子、、、』

「あの18才の子?」

「そうよ俺と社内の男と二股かけてたのよ」

『そうなんだ、、、やっぱり、あの子とつきあったんだ』

私は 思った。

「それで、どうしたの?話し合いしたの?」

「俺、薬大量に飲んだんだ。もうすぐ意識薄れる。」

「なんでそんなことするの?」

「あの女の元カレが『別れるなら死んでやる』ってよく言ってたらしいけど、何も出来なかった。俺は出来るって見せてやった。」

薬のせいか 話も飛ぶ。

「彼女はどうしたの?」

「家に送って行ったよ。泣きながら追いかけて来たけど、俺は自分の車まで走って戻った。」

要するに
彼女の車を運転し 彼女を家に返し
自分は走って 自分の車を止めていた所に戻ったらしい。

「今、どこにいるの?大丈夫なの?薬吐いて。」

「もう遅いよ。吐けないよ。飲んでから時間経ってるから。」

「水は?水飲んで!」

「水ないし、もう遅い、もう遅い」

「どこにいるの?」

秀俊は答えない。

困ってしまった私は 疎まれる覚悟で
秀俊の実家に電話をした。

「こんな夜中に申し訳ありません。松嶋です。秀俊さんから薬を飲んだと電話があって、、、どうしていいかわからなくて、電話しました。」

秀俊の母親は 

「えっ あの子どこにいるの?!」

と言った

「私にも教えてくれないんです。」

【お父さん起きて秀が】

お母さんは 父親を起こして呼んだ。

「どうしたのよ」

「秀が薬飲んだって」

その後 秀俊の母親は
私に こう聞いて来た。

「あなたと秀俊は まだ続いてたの?」

「いいえ ずっと連絡なかったんですが 先程突然電話があって」

私は答えた。

秀俊の父親は 秀俊の居場所に見当がついたようだった。

私は電話を切り
秀俊に電話をしてみた。

「秀俊 大丈夫?」

意識がある

けれど 段々意識が薄れているようだった。

私は話しかけ続けた。

そこに 両親が到着したようだった。

電話は 繋がったままで 向こうの会話が聞こえる。

父親が

「何 だいぶ飲んだのか」

様子から 秀俊のこういう行為は初めてではないのがわかる。

とりあえず 【秀俊良かった】

秀俊は その後 薬が抜けたようで
私に
「ごめんな」と謝った。

もう 朝になっていた。

私は 秀俊が家に帰る様子を伺いながら ホッとし電話を切った。

その後は 前述にあった通りだ。

そして 年末が来て 秀俊から夜電話があり

車を運転しながら 秀俊は話していた。

「どこに行くところなの?」

「どこだっていいだろ」

「どこ走ってるの?」

「海」

「ドライブしてるんだね」

だいぶ時間が経った。

「今ね 山走ってる」

「さっき海で今度は山ー?笑」

私は笑った。

5分経っただろうか。

「出てこい。暖かい格好して。」

「えっ?! なんで?」

「いいから出て来い」

私が外に出るとそこには秀俊の車があった。
懐かしかった。

「乗っていいの?」

「うん」

私が助手席に乗ると秀俊は車を走らせた。

海沿いの道を 結構な距離を。

秀俊が ふたりで よく行ったラブホの看板の手前を曲がろうとした。

「えっ?」と言う私に

「嫌か?」と聞く秀俊。

「ううん いいよ」

身体だけの関係
それは 愛ではない。

私は 虚しさを感じながらも 秀俊を求めた。

それから 約8か月
セフレ という関係が続くのだけど
私は いつも その関係を精算したかった。

どうしても 許されることもない
戻りたくても戻れない。

そんなことは わかっていた。

秀俊は バーチャルな世界で 本気で好きな女の子が出来たと私に告げた。
かなりな遠距離。
それでも つい最近 私を抱いておいて そんなことを言う秀俊を 私は どうしても許せなかった

と 同時に
やっと 秀俊から離れる 踏ん切りがついた。

身近での出逢いは なかった。

けれど 私はSNSを使って 恋活に励んだ。

そのひとりが 博之だ。
なぜか 博之の行動力と 気の合う話とで 一気に 関係は進んで行った。

知り合ってから 10日。
博之と 付き合うことになった。

未練、、、秀俊への未練は 恐らくなかった。
けれど 立ち直れていない秀俊を突き放すことが出来ず 毎日来る電話で 私は 秀俊に 彼氏が出来たことを 告げることが出来なかった。

博之との想い出をLINEのタイムラインにあげる。
秀俊は それを見て
「そっちは充実してるのに連絡取る必要があるのか」
そう 言った。

私は秀俊の幸せを見届けたかった。

けれど秀俊にも博之にも失礼なことをしている

そう思った。

私は 博之という彼氏が出来たことを 秀俊に告げる覚悟を決めた。

「秀俊にいい人が出来るまで見守るから」

そう言った 私に

秀俊は 

「彼氏が出来たなら、そんな必要はないだろう。もう連絡は取らない。連絡先は削除する」

そう言った。

それが 最後 秀俊が 今 どうしているのか わからない。
元気にしているのだろうか、、、。

友達が 1度見かけた と言っていた。
元気にしているのだろう。

私は 博之との恋愛に没頭し 愛されている と毎日実感していた。

ところが いつの日からか
どこか すれ違い
今は 倦怠期気味になっている

博之とは プチ遠距離で
彼は 往復3時間かけて会いに来てくれているのだが 仕事が忙しいせいもあり
一緒に食事をして そのまま帰る ということが続いている。

それでも博之は 「こうやって時間を作って会いに来ている。それが答えだ」と言う。
勿論 気持ちがなかったら出来ないことだ
とも 私は思っている。

なのに私は

ご飯友達のようになってしまっていることに不満を感じている。

私は 博之を問い詰めた。

「何もない」と言う博之の口を割らせ

理由を答えさせた。

彼は 私からの愛情が感じられなくなっている

そう言った。

ハグもキスもなくなってしまったのは それが原因だったらしい。

些細なことだ と博之は言った。
小さなことで 愛情を感じると。

私は すっかり博之に甘えていて 博之の求める些細なことが出来ていなかった。

半年の間に いろいろと変わって行く
私は それに着いて行けない。

気持ちは変わらない 変わっていない

そう言いながら 博之は 私からの愛情を感じない

そう言う。

私は 理由がわからずに何度も泣いた。

その時 その時の状況に対応していけないのだ。

あんなに お互いを大切にし 愛し合って来た
気持ちは ずっと変わらない
そう言っていた博之が 今は 違う言葉を口にする。

やはり 私は恋愛下手なのだ。

秀俊の時も 結果 私は捨てられたし

今までの恋愛も ロクなことがなかった。

今度は違う そう思っていたのに
初めの頃の私では 満足してはいない博之が いる。

私は 今 どうしたら良いのかわからない。
愛情の表し方など 人それぞれで
受け取り方も 人それぞれだからだ。

けれど 博之が求めるもの
それが 私には出来ていないのだ。

「今までと違って梨緒は違うタイプだから」
と言う。

秀俊との恋愛が終わった今

私には博之しかいないのに。

愛しているのに
愛を感じられない そう言われる。

博之は これを話して 梨緒が変わる必要はないし
話して変わるなら それは違う

そう言う。

ならば私は いったい どうすればいいのだろう。

このまま 倦怠期の状態で 続けて行くのは苦痛だ。

タイプが違うのに

何故 いつも恋愛で苦しむのだろう。

欠陥 私に欠陥があるのだろう。

愛され下手。愛し下手。愛し合い下手。

博之は それでも 精一杯 大切にしてくれる

それは 私がメンタルが弱いから 傷つけたくないから だと そう言う。

けれど そんな我慢は いつか崩壊へと繋がる。

付き合い始め 物体とは違って 自分達が壊れることはない と博之は言った。

けれど 私は常に このままでは 壊れてしまうのではないか と不安だ。

博之は博之で 嫌われるんじゃないか と不安だ と言う。
関係を元に戻すのは とても難しい。
半年が私の恋愛の節目なのだ。

なぜだろう
飽きられてしまうのか
惰性になってしまうのか
私の甘えなのか
私に真の魅力がないのか、、、


こうやって 恋愛下手な人達は みな 同じことを繰り返す。

博之と 私の関係が 元に戻ることは 多分 もうない。
と言って別れようとも思わない。
彼も別れたいと思ったことはない と言う。

努力
これ以上悪い方に変わらない
壊れない努力をするしかない。

ならば せめて 新しい関係を築いて行くしかない。

恋愛で もうこれ以上
同じことを繰り返さないために、、、。





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