7 / 20
第7話 アイドルだった私、初めてのお出掛け
しおりを挟む
婚約披露パーティーの準備は着々と進んでいた。
私はダンスの先生と、毎日のようにレッスンを重ね、体力も大分付いてきたように思う。
当日は、父が選んだどこかの伯爵だか子爵のご子息数名と踊ることになっている。
伯爵だの子爵だの、私にはあまり興味もなかったけれど、エイデル家には男子がいないのだ。娘である私とアイリーンは、いわば家を守るために政略結婚をさせられる。そして男子を儲け、歴史を繋げということらしい。
良縁を。
そう言えば聞こえはいいが、お相手はどこぞの貴族の次男や三男。アルフレッドの件もあり、あまり期待は出来なそうだと思っている。
それより、私はずっと気になっていた。
この、転生についてだ。
本物のリーシャはどうなったのだろう?
私はこのまま、リーシャとしてここで生きていくことになるのだろうか…、
そもそもアイリーンがリーシャに食べさせたものが何なのかもわからない。何かしらの毒なのだとすれば、リーシャは眠っていたのではなく昏睡状態だったのかもしれない。
そして、そのまま……?
私、元の世界に戻れるのなら帰りたい。帰って、私の人生をきちんと歩んでいきたい。諦めたくない。だから、リーシャとしてここで生きることは、きっと出来ない。
ダンスレッスンを受けたのも、乃亜としての感覚を無くしたくなかったからだ。いつか本来の自分に戻った時、あの感覚を……舞台で踊るあの素晴らしさを忘れてしまわないように、始めたのだ。
「お嬢様、本日は……、」
マルタが朝食の準備をしながら予定を確認してきた。
ああ、そうだ、今日はあまり乗り気ではないけれど、アイリーンと買い物に行かなければならないんだった……。
その旨をマルタに伝え、外出用の服を見繕ってもらう。
街へ出るのは初めてだ。
楽しみでもあるが、アイリーンと二人きりで出掛けることへの緊張というか、何かされるのでは、という疑いもあり、若干憂鬱でもある。
継母であるシャルナが一緒でないのは有難いのだが……。
*****
「お姉様、参りましょう!」
馬車に乗り込むアイリーンは楽しそうだった。買い物は若い女の子にとって、明日への活力だ!(?)私も、馬車に乗り込む頃には、さっきまでの憂鬱な気分は半分以上どこかに飛んで行ってしまっていた。
案内されたのは、継母シャルナの御用達にしているという大きなブティック。いつもなら屋敷に布やドレスを運ばせ、その中から選んだり作らせたりするらしいが、今回は作っているほど時間に余裕がないため、こうして店に足を運ぶことになったのだった。
「うわぁ、ゴージャス……、」
店内はきらびやかで、私は気分が高揚していくのを感じていた。
「お姉様、こちらなどいかがですか?」
アイリーンが勧めてきたのは真っ青なドレス。まずはジャブ、ということか。私は慌てることなく受けて立つ。
「あら、自分の婚約披露パーティーに青いドレスを進めるなんてどういう了見かしら? 確か『水に流す』という意味が含まれているから、青い色はいけないのではなかった?」
記憶がないから引っかかるとでも思ったのだろうが、そうはいかない。パーティーで恥をかかせようという魂胆がみえみえなのだ。
アイリーンは一瞬悔しそうに眉間に皺を寄せたが、すぐに開き直って、
「ああ、そうでしたわ! 私ったら、うっかりしておりました」
と、満面の笑みを浮かべた。
「アイリーンは何色のドレスを着ようと思っているの? それと、お母様も。私は二人と色が被らないように、最後に選ばせていただくわ」
こちらも負けじと満面の笑みを返し、アイリーンを見つめた。
すると、店の奥からケバケバしい夫人が現れ、アイリーンとアイコンタクトをした後、私を一瞥した。そう、あなたもそっち側の人なのね。
「これはこれはお嬢様、いらっしゃいませ。リーシャ様は、お店においでいただくのは初めてですわね」
「そうなんですね。すみません、私何も覚えておりませんので」
私、自分が記憶喪失であると周りには隠していない。というか、可能な限り、広めようと思っていた。その方が都合が良さそうだし。
「あら! それは……大変ですわね」
同情を装った興味津々な眼差しを向けられる。少なくとも、初耳という感じではないのが分かった。つまり、記憶喪失の私を店に連れて行く、とアイリーンなりシャルナなりが店側に公言しているということだ。
「では、リーシャ様はこちらへ。採寸をさせていただきたいので」
「はい」
案内されたのは店の奥。いわゆる、更衣室のような場所だろう。私は着てきたドレスを脱がされ、コルセットにペチコートのような格好で待たされた。鏡に映る自分を見る。コルセットはフランス映画で見るようなものに似てはいるけれど、あそこまで窮屈ではなかった。ペチコートは、スパッツに近い感じ。真夏の日本なら、この格好で外に出ても違和感がなさそう……。
私は鏡を見ながら、意味もなくポージングなど決めていたのである。
私はダンスの先生と、毎日のようにレッスンを重ね、体力も大分付いてきたように思う。
当日は、父が選んだどこかの伯爵だか子爵のご子息数名と踊ることになっている。
伯爵だの子爵だの、私にはあまり興味もなかったけれど、エイデル家には男子がいないのだ。娘である私とアイリーンは、いわば家を守るために政略結婚をさせられる。そして男子を儲け、歴史を繋げということらしい。
良縁を。
そう言えば聞こえはいいが、お相手はどこぞの貴族の次男や三男。アルフレッドの件もあり、あまり期待は出来なそうだと思っている。
それより、私はずっと気になっていた。
この、転生についてだ。
本物のリーシャはどうなったのだろう?
私はこのまま、リーシャとしてここで生きていくことになるのだろうか…、
そもそもアイリーンがリーシャに食べさせたものが何なのかもわからない。何かしらの毒なのだとすれば、リーシャは眠っていたのではなく昏睡状態だったのかもしれない。
そして、そのまま……?
私、元の世界に戻れるのなら帰りたい。帰って、私の人生をきちんと歩んでいきたい。諦めたくない。だから、リーシャとしてここで生きることは、きっと出来ない。
ダンスレッスンを受けたのも、乃亜としての感覚を無くしたくなかったからだ。いつか本来の自分に戻った時、あの感覚を……舞台で踊るあの素晴らしさを忘れてしまわないように、始めたのだ。
「お嬢様、本日は……、」
マルタが朝食の準備をしながら予定を確認してきた。
ああ、そうだ、今日はあまり乗り気ではないけれど、アイリーンと買い物に行かなければならないんだった……。
その旨をマルタに伝え、外出用の服を見繕ってもらう。
街へ出るのは初めてだ。
楽しみでもあるが、アイリーンと二人きりで出掛けることへの緊張というか、何かされるのでは、という疑いもあり、若干憂鬱でもある。
継母であるシャルナが一緒でないのは有難いのだが……。
*****
「お姉様、参りましょう!」
馬車に乗り込むアイリーンは楽しそうだった。買い物は若い女の子にとって、明日への活力だ!(?)私も、馬車に乗り込む頃には、さっきまでの憂鬱な気分は半分以上どこかに飛んで行ってしまっていた。
案内されたのは、継母シャルナの御用達にしているという大きなブティック。いつもなら屋敷に布やドレスを運ばせ、その中から選んだり作らせたりするらしいが、今回は作っているほど時間に余裕がないため、こうして店に足を運ぶことになったのだった。
「うわぁ、ゴージャス……、」
店内はきらびやかで、私は気分が高揚していくのを感じていた。
「お姉様、こちらなどいかがですか?」
アイリーンが勧めてきたのは真っ青なドレス。まずはジャブ、ということか。私は慌てることなく受けて立つ。
「あら、自分の婚約披露パーティーに青いドレスを進めるなんてどういう了見かしら? 確か『水に流す』という意味が含まれているから、青い色はいけないのではなかった?」
記憶がないから引っかかるとでも思ったのだろうが、そうはいかない。パーティーで恥をかかせようという魂胆がみえみえなのだ。
アイリーンは一瞬悔しそうに眉間に皺を寄せたが、すぐに開き直って、
「ああ、そうでしたわ! 私ったら、うっかりしておりました」
と、満面の笑みを浮かべた。
「アイリーンは何色のドレスを着ようと思っているの? それと、お母様も。私は二人と色が被らないように、最後に選ばせていただくわ」
こちらも負けじと満面の笑みを返し、アイリーンを見つめた。
すると、店の奥からケバケバしい夫人が現れ、アイリーンとアイコンタクトをした後、私を一瞥した。そう、あなたもそっち側の人なのね。
「これはこれはお嬢様、いらっしゃいませ。リーシャ様は、お店においでいただくのは初めてですわね」
「そうなんですね。すみません、私何も覚えておりませんので」
私、自分が記憶喪失であると周りには隠していない。というか、可能な限り、広めようと思っていた。その方が都合が良さそうだし。
「あら! それは……大変ですわね」
同情を装った興味津々な眼差しを向けられる。少なくとも、初耳という感じではないのが分かった。つまり、記憶喪失の私を店に連れて行く、とアイリーンなりシャルナなりが店側に公言しているということだ。
「では、リーシャ様はこちらへ。採寸をさせていただきたいので」
「はい」
案内されたのは店の奥。いわゆる、更衣室のような場所だろう。私は着てきたドレスを脱がされ、コルセットにペチコートのような格好で待たされた。鏡に映る自分を見る。コルセットはフランス映画で見るようなものに似てはいるけれど、あそこまで窮屈ではなかった。ペチコートは、スパッツに近い感じ。真夏の日本なら、この格好で外に出ても違和感がなさそう……。
私は鏡を見ながら、意味もなくポージングなど決めていたのである。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。

元バリキャリ、マッチ売りの少女に転生する〜マッチは売るものではなく、買わせるものです
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【マッチが欲しい? すみません、完売しました】
バリキャリの私は得意先周りの最中に交通事故に遭ってしまった。次に目覚めた場所は隙間風が吹き込むような貧しい家の中だった。しかも目の前にはヤサグレた飲んだくれの中年男。そして男は私に言った。
「マッチを売るまで帰ってくるな!」
え? もしかしてここって……『マッチ売りの少女』の世界? マッチ売りの少女と言えば、最後に死んでしまう救いようがない話。死ぬなんて冗談じゃない! この世界で生き残るため、私は前世の知識を使ってマッチを売りさばく決意をした――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる