4 / 20
第4話 アイドルだった私、黙ってなんかいられない
しおりを挟む
陽も傾きかけたころ、部屋をノックする音がした。いよいよご対面だ。
「どうぞ」
ソファから立ち上がりドアを開ける。
マルタがお辞儀をし、中に入ってきた。そしてドアの方に改めて深々とお辞儀をし、外の二人を迎え入れる。
うわ、派手……。
わたし、思わず笑っちゃいそうになって口元に力を籠める。
真っ赤なドレスに身を包んだご婦人。これが継母、シャルナに違いない。化粧も派手で、場末のママみたいな雰囲気。目つきも鋭く、まぁ、美人ではあるけどイメージとしては悪女とか、そっち系だな。気高さとか優雅さからはかけ離れている感じだ。
続く若い女の子。これがアイリーンか。こちらもどぎついピンクのフリフリドレスに身を包み、ハッキリ言って似合ってない。気の強そうな瞳は母親譲り。金色の巻髪は可愛らしく彼女を飾るけど、性格の悪さがにじみ出ちゃってるの、残念。ああ、なんだか見ただけでもう、お近付きになりたくないタイプだとわかる。
そういえば私……リーシャって母親似なんだろうか?
アイリーンとは半分血が繋がってるはずだけど、あまり似ていない。彼女がやや釣り目の狐顔だとすれば、私はやや垂れ目の狸顔。リーシャって、年齢の割のは童顔よね。スタイルはいいけど。髪の色も栗色で、ドストレート。乃亜は癖っ毛でふにゃふにゃだったから、背中まで伸びたサラサラの髪って、憧れだったんだよなぁ。
「あら、もう起きているのね」
労うわけでも心配するわけでもなく、単なる厭味ったらしい口調でシャルナが言う。
「ええ、医師も申しておりましたが、特に異常はないそうです」
ニッコリ笑って答える。
私の態度が意外だったのか、継母シャルナが驚いた顔で目を見開いた。
「お姉さま、どこも悪くなかったの?」
アイリーンが続ける。
そうよね、あなたは私が心配よね。
「そうね、今のところ何も見つかっていないみたい」
私、少し強い口調でそう言ってあげる。アイリーンは目を泳がせ、ふぅん、とだけ言った。
「お茶をお持ちしますね」
マルタがそう言ってお茶のセットを運び入れ、若いメイドと共にお茶会の準備を始めた。
私たちはそれぞれソファに腰を下ろし、注がれたお茶を口にする。
「記憶がないというのは本当なの?」
シャルナが探るような眼で私を見る。私は少し目を伏せ、
「そうなんです。申し訳ありませんが、お母様のこともアイリーンのことも、今初めてお会いしたかのような感覚です」
これは嘘ではない。
「へぇ、何も覚えてないんだ」
あからさまにほっとした顔で、アイリーン。
「ではダリル家との婚約解消の件も?」
「そうですね。私には何の思いもありません。アイリーンが望むのであれば、アルフレッド様との婚約を進めていただいてもよろしいと思います」
私が少しも悲しそうでないことに、アイリーンは納得出来ないようだった。ふてくされたような表情を浮かべ、私を睨みつけた。私は臆することなく続ける。
「あら、アイリーンたらおかしな顔をしているわ。私は二人を祝福します、って言っているのに、どうしてそんな顔を?」
そんなことを言われると思っていなかったのだろう、アイリーンは目に見えて動揺していて、それがとても滑稽だった。
「なっ、なによそれ!」
顔を真っ赤にして立ち上がるアイリーン。
「あら、私ったら勘違いをしていたのかしら。アイリーンは私から婚約者を奪った形になってしまったから心を痛めているのかと思っていたの。折角の婚約というめでたいことを、後ろめたい気持ちで台無しにされては可哀そうだと思っていたのだけど……、」
アイリーンだけではなく、シャルナの顔までみるみる赤く染まる。
「リーシャ! なんという口の利き方なの!」
大きな声で一喝される。
「お気に障ったなら謝りますわ。でもお母様、私が意識をなくす前に、アイリーンからもらったお菓子を口にしていたことが知れたら、もしかしてアイリーンが困ったことになるかもしれないじゃない?」
そう。
リーシャの日記の最後には、婚約破棄を受けて落ち込んでいるのを心配したアイリーンが、お菓子を差し入れてくれたと書いてあった。食べたら少し変な味がした、とも。
もちろん、そんなものとっくに処分されているのでしょうけど。
「あなた、なにをっ」
私に物言いたげなシャルナではあったが、傍らのアイリーンが尋常でないほど震えているのが見え、察したのであろう。シャルナは立ち上がると、アイリーンの手を引いて無言で部屋から出て行ったのだった。
「あら、行っちゃった」
私としては物足りなさも感じたけれど、まぁ、以前のリーシャしか知らない二人にとっては相当なショックだったに違いない。ファーストインパクトとしては、やりすぎですらあったかも……?
「お嬢様!」
部屋の片隅で、固唾を吞んで見守っていたマルタが私に駆け寄る。
「先ほどの話は本当なのですか? アイリーン様が、まさか、」
「ああ、本当だけど、騒ぎ立てないでね。今更だし、そのお菓子のせいで意識を失ったっていう証拠もないし」
ちょっとからかってみただけだし、とはさすがに言えないのでやめておく。
こうして、私の転生人生一日目は怒涛の勢いで過ぎていったのである。
「どうぞ」
ソファから立ち上がりドアを開ける。
マルタがお辞儀をし、中に入ってきた。そしてドアの方に改めて深々とお辞儀をし、外の二人を迎え入れる。
うわ、派手……。
わたし、思わず笑っちゃいそうになって口元に力を籠める。
真っ赤なドレスに身を包んだご婦人。これが継母、シャルナに違いない。化粧も派手で、場末のママみたいな雰囲気。目つきも鋭く、まぁ、美人ではあるけどイメージとしては悪女とか、そっち系だな。気高さとか優雅さからはかけ離れている感じだ。
続く若い女の子。これがアイリーンか。こちらもどぎついピンクのフリフリドレスに身を包み、ハッキリ言って似合ってない。気の強そうな瞳は母親譲り。金色の巻髪は可愛らしく彼女を飾るけど、性格の悪さがにじみ出ちゃってるの、残念。ああ、なんだか見ただけでもう、お近付きになりたくないタイプだとわかる。
そういえば私……リーシャって母親似なんだろうか?
アイリーンとは半分血が繋がってるはずだけど、あまり似ていない。彼女がやや釣り目の狐顔だとすれば、私はやや垂れ目の狸顔。リーシャって、年齢の割のは童顔よね。スタイルはいいけど。髪の色も栗色で、ドストレート。乃亜は癖っ毛でふにゃふにゃだったから、背中まで伸びたサラサラの髪って、憧れだったんだよなぁ。
「あら、もう起きているのね」
労うわけでも心配するわけでもなく、単なる厭味ったらしい口調でシャルナが言う。
「ええ、医師も申しておりましたが、特に異常はないそうです」
ニッコリ笑って答える。
私の態度が意外だったのか、継母シャルナが驚いた顔で目を見開いた。
「お姉さま、どこも悪くなかったの?」
アイリーンが続ける。
そうよね、あなたは私が心配よね。
「そうね、今のところ何も見つかっていないみたい」
私、少し強い口調でそう言ってあげる。アイリーンは目を泳がせ、ふぅん、とだけ言った。
「お茶をお持ちしますね」
マルタがそう言ってお茶のセットを運び入れ、若いメイドと共にお茶会の準備を始めた。
私たちはそれぞれソファに腰を下ろし、注がれたお茶を口にする。
「記憶がないというのは本当なの?」
シャルナが探るような眼で私を見る。私は少し目を伏せ、
「そうなんです。申し訳ありませんが、お母様のこともアイリーンのことも、今初めてお会いしたかのような感覚です」
これは嘘ではない。
「へぇ、何も覚えてないんだ」
あからさまにほっとした顔で、アイリーン。
「ではダリル家との婚約解消の件も?」
「そうですね。私には何の思いもありません。アイリーンが望むのであれば、アルフレッド様との婚約を進めていただいてもよろしいと思います」
私が少しも悲しそうでないことに、アイリーンは納得出来ないようだった。ふてくされたような表情を浮かべ、私を睨みつけた。私は臆することなく続ける。
「あら、アイリーンたらおかしな顔をしているわ。私は二人を祝福します、って言っているのに、どうしてそんな顔を?」
そんなことを言われると思っていなかったのだろう、アイリーンは目に見えて動揺していて、それがとても滑稽だった。
「なっ、なによそれ!」
顔を真っ赤にして立ち上がるアイリーン。
「あら、私ったら勘違いをしていたのかしら。アイリーンは私から婚約者を奪った形になってしまったから心を痛めているのかと思っていたの。折角の婚約というめでたいことを、後ろめたい気持ちで台無しにされては可哀そうだと思っていたのだけど……、」
アイリーンだけではなく、シャルナの顔までみるみる赤く染まる。
「リーシャ! なんという口の利き方なの!」
大きな声で一喝される。
「お気に障ったなら謝りますわ。でもお母様、私が意識をなくす前に、アイリーンからもらったお菓子を口にしていたことが知れたら、もしかしてアイリーンが困ったことになるかもしれないじゃない?」
そう。
リーシャの日記の最後には、婚約破棄を受けて落ち込んでいるのを心配したアイリーンが、お菓子を差し入れてくれたと書いてあった。食べたら少し変な味がした、とも。
もちろん、そんなものとっくに処分されているのでしょうけど。
「あなた、なにをっ」
私に物言いたげなシャルナではあったが、傍らのアイリーンが尋常でないほど震えているのが見え、察したのであろう。シャルナは立ち上がると、アイリーンの手を引いて無言で部屋から出て行ったのだった。
「あら、行っちゃった」
私としては物足りなさも感じたけれど、まぁ、以前のリーシャしか知らない二人にとっては相当なショックだったに違いない。ファーストインパクトとしては、やりすぎですらあったかも……?
「お嬢様!」
部屋の片隅で、固唾を吞んで見守っていたマルタが私に駆け寄る。
「先ほどの話は本当なのですか? アイリーン様が、まさか、」
「ああ、本当だけど、騒ぎ立てないでね。今更だし、そのお菓子のせいで意識を失ったっていう証拠もないし」
ちょっとからかってみただけだし、とはさすがに言えないのでやめておく。
こうして、私の転生人生一日目は怒涛の勢いで過ぎていったのである。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる