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プロローグ
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はじまり
広い、広い空の下。都会の真ん中にポツンと存在する空き地がある。
有刺鉄線の壁が辺りを囲い、中には入れなくなっていた。
野球場ほどもあるその空き地にはススキが生え放題で、更にススキに埋もれるかのようにして廃墟と化したビルが一つ。
小さなビルだ。
とはいえビルはビルである。
三階、四階建てくらいの高さだろう。窓は全て落ち、入り口の扉もとれたまま。風通しは抜群だ。ついでにいうなら、天井が三分の一ほどなくなっていた。
ここで何があったのやら、爆弾でも落とされたのかと思えるほどの状態だった。
誰も足を踏み入れることのない場所。
子供たちでさえ近づこうとはしない場所。
特に表立った怪談が付きまとっているわけでもないのに、人々から忘れ去られてしまった、存在を消された一角。
だから誰も知らなかった。そのビルの中に、秘密の穴が開いていることなど……。
*****
「困ったなぁ」
のっけから困っているのは神楽千景。
セーラー服姿もまだ様にならない、なりたて中学生である。
「時間はないし」
身長の低い千景は、くい、と顎を伸ばし、それを見上げた。
『有・刺・鉄・線!』
そう、自己主張しているかのごとく聳え立つトゲトゲ。
触れば、当然のごとく千景の皮膚を破り肉に食い込むだろう事は間違いない。
間違いないから、眺めていたのだ。
「でもねぇ、」
近所のおばちゃんのように立ったままで首を傾げ頬杖などついて、悩む。人間、困ったときには自然と口数が増えるものだ。
「これを乗り越えないと向こう側には行けないのよ。そして向こう側に行けないと、アレを取り戻せない……はぁ~」
彼女の視線の先にあるのは小さな鈴。
それは彼女のとても大切にしている鈴だった。
いつも肌身離さず持ち歩いていた。
随分汚れてしまってはいるが、今でも涼やかな音色は変わらない。
その鈴が弾みで取れてしまい、この大きな檻の中へと入ってしまったのである。
「棒で引き寄せようとしたのがまずかった」
今更反省してみても仕方がないのだが、なんとか届きそうな距離にあった鈴は千景の鈍くさい棒きれさばきによって更に遠くへと転がってしまっていたのだ。
「……うー、駄目だっ。帰りに来よう。うん」
自分で自分に言い聞かせるようにそう言うと、後ろ髪引かれる思いでその場を後にしたのだった。
鈴が、風に揺られて小さく鳴いた。
広い、広い空の下。都会の真ん中にポツンと存在する空き地がある。
有刺鉄線の壁が辺りを囲い、中には入れなくなっていた。
野球場ほどもあるその空き地にはススキが生え放題で、更にススキに埋もれるかのようにして廃墟と化したビルが一つ。
小さなビルだ。
とはいえビルはビルである。
三階、四階建てくらいの高さだろう。窓は全て落ち、入り口の扉もとれたまま。風通しは抜群だ。ついでにいうなら、天井が三分の一ほどなくなっていた。
ここで何があったのやら、爆弾でも落とされたのかと思えるほどの状態だった。
誰も足を踏み入れることのない場所。
子供たちでさえ近づこうとはしない場所。
特に表立った怪談が付きまとっているわけでもないのに、人々から忘れ去られてしまった、存在を消された一角。
だから誰も知らなかった。そのビルの中に、秘密の穴が開いていることなど……。
*****
「困ったなぁ」
のっけから困っているのは神楽千景。
セーラー服姿もまだ様にならない、なりたて中学生である。
「時間はないし」
身長の低い千景は、くい、と顎を伸ばし、それを見上げた。
『有・刺・鉄・線!』
そう、自己主張しているかのごとく聳え立つトゲトゲ。
触れば、当然のごとく千景の皮膚を破り肉に食い込むだろう事は間違いない。
間違いないから、眺めていたのだ。
「でもねぇ、」
近所のおばちゃんのように立ったままで首を傾げ頬杖などついて、悩む。人間、困ったときには自然と口数が増えるものだ。
「これを乗り越えないと向こう側には行けないのよ。そして向こう側に行けないと、アレを取り戻せない……はぁ~」
彼女の視線の先にあるのは小さな鈴。
それは彼女のとても大切にしている鈴だった。
いつも肌身離さず持ち歩いていた。
随分汚れてしまってはいるが、今でも涼やかな音色は変わらない。
その鈴が弾みで取れてしまい、この大きな檻の中へと入ってしまったのである。
「棒で引き寄せようとしたのがまずかった」
今更反省してみても仕方がないのだが、なんとか届きそうな距離にあった鈴は千景の鈍くさい棒きれさばきによって更に遠くへと転がってしまっていたのだ。
「……うー、駄目だっ。帰りに来よう。うん」
自分で自分に言い聞かせるようにそう言うと、後ろ髪引かれる思いでその場を後にしたのだった。
鈴が、風に揺られて小さく鳴いた。
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