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拉致
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夕焼けが眩しい。
そして、恋人たちも眩しい。
「じゃ、二人ともまたね」
香苗が満面の笑みでそう言った。
「またね!」
大きく手を振り、香苗の後ろ姿を見送った。
彼氏のお迎えをキラキラしながら待っていた香苗は、みっくん登場で今日イチの笑顔になった。そして仲良く手を繋いで、行ってしまった。
「ああ、可愛いねぇ、香苗」
隣でみずきがしみじみと言う。
「そう言うみずきだって、でしょ?」
私が茶化すと、ふふん、と笑った。
「恋する乙女は無敵さ」
と、ピースサインをしてみせる。
「で、結局志穂はどうするの?」
「あ、うん。多分相田君、三上君、大和君と一緒に……かな」
後夜祭を一緒に楽しく回りましょう、なら構わないかな、と思っていた。
「そっか。じゃ、私もそろそろ行くね」
そう言ってみずきも優希の元へ行ってしまった。私も三人を探そうか、と辺りを見渡す。どこにいるんだろ?
とりあえず教室か、と校舎に戻る。ほとんどの生徒は校庭に出てしまっているようだ。校内はさっきまでの喧騒が嘘のように静かだった。
「あ、発見!」
廊下の向こうから声を掛けてきたのは蓮。
「あ……、」
そうだった。まだちゃんと断ってないんだ。二人にはきちんとお断りしなきゃ。
「有野、手、出して!」
「手?」
私は近付いてくる蓮に手を差し出す。
「はい」
カシャン
乾いた音を立て、手首に…、
「はぁぁ? なによ、これ!」
手錠を嵌められた。
カシャン
もう一つを自分の手首に嵌め、蓮。
「ラブブレス」
ほわほわの、可愛い手錠である。
いや、可愛くても手錠は手錠だ。なんでこんなもの持っているのか。
「これ、今日のイベントの小道具だよ。可愛いだろ?」
「可愛いかどうかはどうでもいい! 外してよっ」
「やーだ」
「ちょっと!」
私は無理やり外そうと試みるが、
「あー、駄目だって。無理やりそんなことしたら手首傷めちゃうでしょうが」
「だって、こんなのっ」
カシャカシャッ
玩具みたいな手錠のくせに、ちっとも外れない。
「これで有野は逃げられない」
ふふん、と楽しそうに蓮が笑う。
「卑怯者っ」
罵ってみる。
「おお、こわ。悪徳令嬢さん、そう睨まないでくれよなー」
そして急に真剣な顔になる。
「……ねぇ、今日のあれってさ、最初からああいう芝居じゃなかったんだろ?」
「え?」
「最後のシーンだよ。あんなシーン、なかったんだろ?」
何故か怖い顔でそう迫られる。
「それは、」
「あいつ、舞台上で有野が逃げられないのをいいことに、」
「ちょっと待って! あれはあくまでも舞台の話でしょ? 現実とごっちゃにしないでよ」
私は慌てて否定した。蓮がなにを考えてるのかわからない。
「目の前であんなの見せられてさ、黙ってられるかよ。俺だってさぁ、」
蓮が私を壁際に追い詰める。
「ちょ、」
「はーい、そこまでっ」
パン、と手を叩き、やってきたのは仁。
「なんだよ、おい」
蓮が心底嫌そうに仁を見た。
「有野独り占めはだーめ。な?」
そう言って、仁がもう片方の私の手を取り、
カシャン
「はぁぁぁぁ?」
手錠のもう片方を自分に手に。
私は両手を拘束されたのである。
*****
「あ、ねぇ川原さん」
キャンプファイヤーの前でタケルに声を掛けられる。
「あれ? 大和君」
「有野さん、知らない?」
「え? 一緒じゃないの?」
みずきが驚く。
「志穂、後夜祭は大和君たちと、って言ってたけど?」
「探してるんだけど見つからなくてさ。翔と手分けして探してる」
「三上君は?」
「あいつは、牧野さんとどっか行った」
ほほぅ、やりよるな、三上信吾。
……は、置いといてぇ。
「よう! ロミオ! 今日は凄かったな」
飲み物片手に優希が現れる。
「あ、ども。有野さん見てない?」
優希にも同じことを言う。
「有野? いないの? 仁と蓮と一緒じゃないのか?」
「は?」
「はぁぁ?」
みずきとタケルがハモる。
「あれ? あいつら、有野と一緒に後夜祭だって言ってたような気がしたけど」
「あれ? そうなの? ええ?」
みずきが混乱する。断るって言ってたけど、気が変わったのかな? 断りきれなかった、とか?
タケルが眉間に皺を寄せる。
「探してくる」
脱兎のごとく駆け出す。
「志穂、なにやってるんだろ」
みずきが心配そうにそう呟いた。
*****
「くそっ、あいつらっ」
タケルはキョロキョロしながら双子の姿を探した。きっと志穂がどこにいるか知っているはず。いや、多分一緒なのだ。
「おーい、タケル!」
翔だ。
「有野さん、いたか?」
「こっちはいない。てか、これ預かったんだけど」
翔が封筒を差し出す。
「なに?」
「お前に渡せって」
「誰から?」
「他のクラスのやつ」
封筒を見る。大和タケル様、と書いてある。差出人は…封筒の裏を見る。斉藤仁、蓮!
タケルは急いで封筒を開けた。中には二つの小さな鍵。
『有野は預かった。返して欲しくば鍵を持って校舎内を探せ。午後六時を過ぎても現れなかった場合、有野の唇の保障は出来ない』
そう、書かれていた。
「あんっの野郎」
グシャ、と手紙を握り潰す。あまりの剣幕に、翔が驚いて、
「え? なに?」
と、うろたえる。
そして、翔の質問には一切答えず、凄いスピードで校舎に向かって走り出した。
「えええ、タケルぅ?」
残された翔がタケルの捨てていった手紙を手に取り、皺を伸ばし、読んだ。
「こりゃぁ…一大事だな」
そして、恋人たちも眩しい。
「じゃ、二人ともまたね」
香苗が満面の笑みでそう言った。
「またね!」
大きく手を振り、香苗の後ろ姿を見送った。
彼氏のお迎えをキラキラしながら待っていた香苗は、みっくん登場で今日イチの笑顔になった。そして仲良く手を繋いで、行ってしまった。
「ああ、可愛いねぇ、香苗」
隣でみずきがしみじみと言う。
「そう言うみずきだって、でしょ?」
私が茶化すと、ふふん、と笑った。
「恋する乙女は無敵さ」
と、ピースサインをしてみせる。
「で、結局志穂はどうするの?」
「あ、うん。多分相田君、三上君、大和君と一緒に……かな」
後夜祭を一緒に楽しく回りましょう、なら構わないかな、と思っていた。
「そっか。じゃ、私もそろそろ行くね」
そう言ってみずきも優希の元へ行ってしまった。私も三人を探そうか、と辺りを見渡す。どこにいるんだろ?
とりあえず教室か、と校舎に戻る。ほとんどの生徒は校庭に出てしまっているようだ。校内はさっきまでの喧騒が嘘のように静かだった。
「あ、発見!」
廊下の向こうから声を掛けてきたのは蓮。
「あ……、」
そうだった。まだちゃんと断ってないんだ。二人にはきちんとお断りしなきゃ。
「有野、手、出して!」
「手?」
私は近付いてくる蓮に手を差し出す。
「はい」
カシャン
乾いた音を立て、手首に…、
「はぁぁ? なによ、これ!」
手錠を嵌められた。
カシャン
もう一つを自分の手首に嵌め、蓮。
「ラブブレス」
ほわほわの、可愛い手錠である。
いや、可愛くても手錠は手錠だ。なんでこんなもの持っているのか。
「これ、今日のイベントの小道具だよ。可愛いだろ?」
「可愛いかどうかはどうでもいい! 外してよっ」
「やーだ」
「ちょっと!」
私は無理やり外そうと試みるが、
「あー、駄目だって。無理やりそんなことしたら手首傷めちゃうでしょうが」
「だって、こんなのっ」
カシャカシャッ
玩具みたいな手錠のくせに、ちっとも外れない。
「これで有野は逃げられない」
ふふん、と楽しそうに蓮が笑う。
「卑怯者っ」
罵ってみる。
「おお、こわ。悪徳令嬢さん、そう睨まないでくれよなー」
そして急に真剣な顔になる。
「……ねぇ、今日のあれってさ、最初からああいう芝居じゃなかったんだろ?」
「え?」
「最後のシーンだよ。あんなシーン、なかったんだろ?」
何故か怖い顔でそう迫られる。
「それは、」
「あいつ、舞台上で有野が逃げられないのをいいことに、」
「ちょっと待って! あれはあくまでも舞台の話でしょ? 現実とごっちゃにしないでよ」
私は慌てて否定した。蓮がなにを考えてるのかわからない。
「目の前であんなの見せられてさ、黙ってられるかよ。俺だってさぁ、」
蓮が私を壁際に追い詰める。
「ちょ、」
「はーい、そこまでっ」
パン、と手を叩き、やってきたのは仁。
「なんだよ、おい」
蓮が心底嫌そうに仁を見た。
「有野独り占めはだーめ。な?」
そう言って、仁がもう片方の私の手を取り、
カシャン
「はぁぁぁぁ?」
手錠のもう片方を自分に手に。
私は両手を拘束されたのである。
*****
「あ、ねぇ川原さん」
キャンプファイヤーの前でタケルに声を掛けられる。
「あれ? 大和君」
「有野さん、知らない?」
「え? 一緒じゃないの?」
みずきが驚く。
「志穂、後夜祭は大和君たちと、って言ってたけど?」
「探してるんだけど見つからなくてさ。翔と手分けして探してる」
「三上君は?」
「あいつは、牧野さんとどっか行った」
ほほぅ、やりよるな、三上信吾。
……は、置いといてぇ。
「よう! ロミオ! 今日は凄かったな」
飲み物片手に優希が現れる。
「あ、ども。有野さん見てない?」
優希にも同じことを言う。
「有野? いないの? 仁と蓮と一緒じゃないのか?」
「は?」
「はぁぁ?」
みずきとタケルがハモる。
「あれ? あいつら、有野と一緒に後夜祭だって言ってたような気がしたけど」
「あれ? そうなの? ええ?」
みずきが混乱する。断るって言ってたけど、気が変わったのかな? 断りきれなかった、とか?
タケルが眉間に皺を寄せる。
「探してくる」
脱兎のごとく駆け出す。
「志穂、なにやってるんだろ」
みずきが心配そうにそう呟いた。
*****
「くそっ、あいつらっ」
タケルはキョロキョロしながら双子の姿を探した。きっと志穂がどこにいるか知っているはず。いや、多分一緒なのだ。
「おーい、タケル!」
翔だ。
「有野さん、いたか?」
「こっちはいない。てか、これ預かったんだけど」
翔が封筒を差し出す。
「なに?」
「お前に渡せって」
「誰から?」
「他のクラスのやつ」
封筒を見る。大和タケル様、と書いてある。差出人は…封筒の裏を見る。斉藤仁、蓮!
タケルは急いで封筒を開けた。中には二つの小さな鍵。
『有野は預かった。返して欲しくば鍵を持って校舎内を探せ。午後六時を過ぎても現れなかった場合、有野の唇の保障は出来ない』
そう、書かれていた。
「あんっの野郎」
グシャ、と手紙を握り潰す。あまりの剣幕に、翔が驚いて、
「え? なに?」
と、うろたえる。
そして、翔の質問には一切答えず、凄いスピードで校舎に向かって走り出した。
「えええ、タケルぅ?」
残された翔がタケルの捨てていった手紙を手に取り、皺を伸ばし、読んだ。
「こりゃぁ…一大事だな」
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