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たこやき
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「で、なんでタケルは復活しねぇの?」
信吾が机に突っ伏したまま動かないタケルの頭を小突く。
「もう牧野さんだって許してくれたし、お前だって謝ったし、ハッピーエンドじゃん?」
「馬鹿だな信吾、わかんねぇの?」
全てお見通し、みたいな言い方で、翔。
「え? お前わかるの?」
「わかる」
「なんで!?」
「わかんないお前がおかしい」
「はぁぁ?」
信吾は改めて考える。そしてポン、と手を叩く。
「あ、有野さんにチューしちゃったから?」
あれを許可なくやったんだとしたら、そりゃ確かに問題ではある。
「そういうこと。いくらそういう流れだったとしても、だ、マジキスしちゃったんだぞ? あれだけの生徒の前でさぁ。そりゃ、いくら鈍い有野さんでもカンカンだろ?」
その言葉を聞き、タケルが海より深い溜息をついた。
「でもさ、劇終わったあとの有野さん、普通じゃなかった?」
信吾がそのときのことを思い出し、言う。
「……ま、確かに動揺してる感じはなかった…ような…気もする」
カーテンコールが終わった後も、演者同士でお疲れハイタッチなどしていたが、普通だったよな……。
「鋼の心臓なんじゃないかな、有野さん」
翔が至極真面目な顔でそう言った。
「俺もそんな気がする。な、タケル?」
同意を求めるも、タケルは相変わらず動かない。
「あー、もうっ、こんなことしてたら文化祭終わっちゃうって! とりあえずなんか食べようぜ!」
「だな。タケル、何食べたい?」
「……たこ焼き」
二人は同時に吹き出す。
「おまっ、」
「そこはちゃんと主張すんのかよっ」
「仕方ねぇ」
「買ってきてやるから、待ってろ!」
そういい残し、二人は教室を出た。
タケルは首だけを動かすと、窓の方を見遣った。外からは賑やかな音楽や楽しそうな声が聞こえてきている。
「ああ、マジで俺、なにやらかしてんだ」
つばさと唇が触れたのは一瞬だ。なのにあの時、とてつもない不快感に襲われたのだ。つばさの唇の感触を払拭したかった。だからって、志穂にキスしていいことにはならないのだ。なのに……。
「最低だ……、」
ゴン、と机に頭をぶつける。
このまま机に同化してしまいたいタケルなのであった。
*****
最後のたこ焼きを口に放り込んだところで、声を掛けられた。
「あ、有野さんだ」
翔と信吾である。
「ひはひふん、はひはふん」
「ぶっ、何言ってっかわかんないって!」
翔が笑う。
「ああっ、ロレンス修道士~!」
「お疲れ様! 劇、めっちゃ良かった! 最後に泣き崩れるジュリエットを優しく抱き締めるロレンス、めっちゃ良かった! ねぇ、二人は結ばれるんでしょ?」
恋愛体質の香苗が早口でそう言う。信吾は照れながら、
「あ、うん、多分」
などと言っている。
「あれ? 大和君は?」
みずきが訊ねる。と、二人の顔が途端に曇った。
「あー、タケルは教室の机の上で溶けてふにゃふにゃになってる」
翔が言う。
「なんで?」
「自分がやっちまったことの重大さに気付いたから」
「あー」
「あー」
みずきと香苗が深く同意した。
「そしてなに? やっぱり有野さんは鋼の心臓ってこと?」
「は?」
私、何のことかわからず聞き返す。
「察しがいいね、相田君。志穂は間違いなく、鋼の心臓」
「やっぱりか!」
なにがやっぱりなのか、さっぱりだ。
「タケル、牧野さんに無理やりキスされそうになってキレたっぽい」
翔が言った。私はその言葉を聞き、ああ、と思った。やっぱり、決行したんだ。
「え!? そうなの?」
何も知らないみずきと香苗が驚く。
「練習中も色々我慢してたんだよ、あいつ」
チラ、と私を見て、信吾。
「……ん?」
首を傾げる私に、肩をすくめて翔が言った。
「有野さん、ハブられたりしてたでしょ?」
「え!? やだ、志穂、そうなの!?」
みずきが心配そうに私を見た。
「へ? えーっと、そう…だった?」
確かに、一人だけ早く帰されたりはしていたが、特に気にしてはいなかった。
「これだもんなぁ」
信吾がやれやれ、と頭を振る。と、
「有野さん」
後ろから声を掛けられる。そこにはつばさと亜紀が立っていた。
「あ、お疲れ様でした」
ペコ、と頭を下げる。
「有野さん、ごめん!」
突然二人に頭を下げられ、私は困惑した。
「ええっ? なに?」
「私、意地悪なことばかりしてて、本当にごめんなさいっ」
今にも泣き出しそうな顔で謝ってくるつばさ。亜紀も同じような顔で、
「私も! 悪徳令嬢とか考えたの、私だし」
そうだったのね、やっぱり。
「えっと、」
私が困惑していると、信吾が口を挟んだ。
「牧野さん、有野さんわかってないみたい」
「え?」
つばさが私を見つめる。
「この子、鋼の心臓だから」
みずきまでもがそんな風に言い出す。
「え? 私のした意地悪、わかってないってこと?」
まさか! とばかりにつばさ。
「えっと、私だけ早帰りさせてくれてたこととかが意地悪だった…のかな?」
答え合わせをする私を見て、つばさと亜紀が吹き出す。
「ちょっと待ってよ! 嘘でしょ!?」
えええー、笑わないでよぉ……。
「だから、気にしなくていいみたいだぜ?」
信吾が優しい声で、言った。
「きゃあっ、ロレンスはジュリエットを庇うのね! いいわ! きゅんとする!」
香苗が言うと、つばさと信吾が顔を赤くした。なんというか、初々しい。
「あ、ねぇ有野さん、タケルにたこ焼き届けてやってくれない?」
翔が、手にしていたたこ焼きの包みを差し出す。
「え? 私が?」
「あいつ、マジで落ち込んでてさ、あいつを立ち直らせることが出来るの、今のとこ世界中で有野さんだけなんで」
「そうだねっ。有野さん、私からもお願い!」
つばさが顔の前で手を合わせる。
「えええ、」
私はどうすればいいかわからず躊躇していたが、香苗が突然強い口調で
「志穂、アリアナはラストシーンでロミオにキスされて生き返ったんだよね? あの時、幸せだったんじゃないの?」
と聞いてきた。
「え?」
「今、ロミオが落ち込んでるんだよ。アリアナ、助けに行ってあげて!」
どこまで本気なのかわからないが、その目は真剣そのものだ。
私は小さく頷くと、
「わかったよ。行ってくるね」
と、たこ焼きのパックを手にした。
みずき、香苗、つばさ、亜紀が同時に「きゃ~!」と言った。
まったく……。
「有野、よろしく頼む!」
翔と信吾が追い討ちをかけるように私の背中にお願いポーズをしているのだった。
信吾が机に突っ伏したまま動かないタケルの頭を小突く。
「もう牧野さんだって許してくれたし、お前だって謝ったし、ハッピーエンドじゃん?」
「馬鹿だな信吾、わかんねぇの?」
全てお見通し、みたいな言い方で、翔。
「え? お前わかるの?」
「わかる」
「なんで!?」
「わかんないお前がおかしい」
「はぁぁ?」
信吾は改めて考える。そしてポン、と手を叩く。
「あ、有野さんにチューしちゃったから?」
あれを許可なくやったんだとしたら、そりゃ確かに問題ではある。
「そういうこと。いくらそういう流れだったとしても、だ、マジキスしちゃったんだぞ? あれだけの生徒の前でさぁ。そりゃ、いくら鈍い有野さんでもカンカンだろ?」
その言葉を聞き、タケルが海より深い溜息をついた。
「でもさ、劇終わったあとの有野さん、普通じゃなかった?」
信吾がそのときのことを思い出し、言う。
「……ま、確かに動揺してる感じはなかった…ような…気もする」
カーテンコールが終わった後も、演者同士でお疲れハイタッチなどしていたが、普通だったよな……。
「鋼の心臓なんじゃないかな、有野さん」
翔が至極真面目な顔でそう言った。
「俺もそんな気がする。な、タケル?」
同意を求めるも、タケルは相変わらず動かない。
「あー、もうっ、こんなことしてたら文化祭終わっちゃうって! とりあえずなんか食べようぜ!」
「だな。タケル、何食べたい?」
「……たこ焼き」
二人は同時に吹き出す。
「おまっ、」
「そこはちゃんと主張すんのかよっ」
「仕方ねぇ」
「買ってきてやるから、待ってろ!」
そういい残し、二人は教室を出た。
タケルは首だけを動かすと、窓の方を見遣った。外からは賑やかな音楽や楽しそうな声が聞こえてきている。
「ああ、マジで俺、なにやらかしてんだ」
つばさと唇が触れたのは一瞬だ。なのにあの時、とてつもない不快感に襲われたのだ。つばさの唇の感触を払拭したかった。だからって、志穂にキスしていいことにはならないのだ。なのに……。
「最低だ……、」
ゴン、と机に頭をぶつける。
このまま机に同化してしまいたいタケルなのであった。
*****
最後のたこ焼きを口に放り込んだところで、声を掛けられた。
「あ、有野さんだ」
翔と信吾である。
「ひはひふん、はひはふん」
「ぶっ、何言ってっかわかんないって!」
翔が笑う。
「ああっ、ロレンス修道士~!」
「お疲れ様! 劇、めっちゃ良かった! 最後に泣き崩れるジュリエットを優しく抱き締めるロレンス、めっちゃ良かった! ねぇ、二人は結ばれるんでしょ?」
恋愛体質の香苗が早口でそう言う。信吾は照れながら、
「あ、うん、多分」
などと言っている。
「あれ? 大和君は?」
みずきが訊ねる。と、二人の顔が途端に曇った。
「あー、タケルは教室の机の上で溶けてふにゃふにゃになってる」
翔が言う。
「なんで?」
「自分がやっちまったことの重大さに気付いたから」
「あー」
「あー」
みずきと香苗が深く同意した。
「そしてなに? やっぱり有野さんは鋼の心臓ってこと?」
「は?」
私、何のことかわからず聞き返す。
「察しがいいね、相田君。志穂は間違いなく、鋼の心臓」
「やっぱりか!」
なにがやっぱりなのか、さっぱりだ。
「タケル、牧野さんに無理やりキスされそうになってキレたっぽい」
翔が言った。私はその言葉を聞き、ああ、と思った。やっぱり、決行したんだ。
「え!? そうなの?」
何も知らないみずきと香苗が驚く。
「練習中も色々我慢してたんだよ、あいつ」
チラ、と私を見て、信吾。
「……ん?」
首を傾げる私に、肩をすくめて翔が言った。
「有野さん、ハブられたりしてたでしょ?」
「え!? やだ、志穂、そうなの!?」
みずきが心配そうに私を見た。
「へ? えーっと、そう…だった?」
確かに、一人だけ早く帰されたりはしていたが、特に気にしてはいなかった。
「これだもんなぁ」
信吾がやれやれ、と頭を振る。と、
「有野さん」
後ろから声を掛けられる。そこにはつばさと亜紀が立っていた。
「あ、お疲れ様でした」
ペコ、と頭を下げる。
「有野さん、ごめん!」
突然二人に頭を下げられ、私は困惑した。
「ええっ? なに?」
「私、意地悪なことばかりしてて、本当にごめんなさいっ」
今にも泣き出しそうな顔で謝ってくるつばさ。亜紀も同じような顔で、
「私も! 悪徳令嬢とか考えたの、私だし」
そうだったのね、やっぱり。
「えっと、」
私が困惑していると、信吾が口を挟んだ。
「牧野さん、有野さんわかってないみたい」
「え?」
つばさが私を見つめる。
「この子、鋼の心臓だから」
みずきまでもがそんな風に言い出す。
「え? 私のした意地悪、わかってないってこと?」
まさか! とばかりにつばさ。
「えっと、私だけ早帰りさせてくれてたこととかが意地悪だった…のかな?」
答え合わせをする私を見て、つばさと亜紀が吹き出す。
「ちょっと待ってよ! 嘘でしょ!?」
えええー、笑わないでよぉ……。
「だから、気にしなくていいみたいだぜ?」
信吾が優しい声で、言った。
「きゃあっ、ロレンスはジュリエットを庇うのね! いいわ! きゅんとする!」
香苗が言うと、つばさと信吾が顔を赤くした。なんというか、初々しい。
「あ、ねぇ有野さん、タケルにたこ焼き届けてやってくれない?」
翔が、手にしていたたこ焼きの包みを差し出す。
「え? 私が?」
「あいつ、マジで落ち込んでてさ、あいつを立ち直らせることが出来るの、今のとこ世界中で有野さんだけなんで」
「そうだねっ。有野さん、私からもお願い!」
つばさが顔の前で手を合わせる。
「えええ、」
私はどうすればいいかわからず躊躇していたが、香苗が突然強い口調で
「志穂、アリアナはラストシーンでロミオにキスされて生き返ったんだよね? あの時、幸せだったんじゃないの?」
と聞いてきた。
「え?」
「今、ロミオが落ち込んでるんだよ。アリアナ、助けに行ってあげて!」
どこまで本気なのかわからないが、その目は真剣そのものだ。
私は小さく頷くと、
「わかったよ。行ってくるね」
と、たこ焼きのパックを手にした。
みずき、香苗、つばさ、亜紀が同時に「きゃ~!」と言った。
まったく……。
「有野、よろしく頼む!」
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