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誘い
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「で、有野さんにするお願い決めたのか?」
翔が聞く。
帰り道、タケルと翔と信吾、いつものメンバーである。
「まだ」
タケルはアイスを頬張りながら、答える。
「まだなのか! てっきり、最初からお願い決めてるのかと思ってた」
と、信吾。
「付き合ってください、でいいじゃん」
安易な翔の提案を、タケルが否定する。
「そんなのダメに決まってるだろ。そんなんで付き合っても嬉しくないしっ」
タケル、現実的である。
「でもさぁ、最近の有野さん、異様にモテてるじゃん? 今日だって休憩中、斉藤弟来てたし」
仁が兄、蓮が弟らしい。
「あ、俺も見た! あいつ、後夜祭誘ってたらしいぜ!」
「マジで!? ヤバいじゃん、タケル」
二人に言われ、タケルが首を傾げる。
「後夜祭?」
キョトン、としているタケルに、二人が説明を始める。
「あ~! タケルは知らないか!」
「あのな、うちの学校の後夜祭って…、」
一通りの説明。
「だから、後夜祭に誘うのは、イコール付き合ってください、と同義語!」
信吾が語尾を強め、言った。
「……そうなの?」
「そうなの!」
「俺、牧野さんに後夜祭誘われたけど」
「おおおおお!」
「ついに動いたか、牧野つばさ!」
「で、オッケーしちゃったのかよっ?」
「いや、翔と信吾と行くからって言った」
しれッと、タケル。
「よし!」
「意味が分からなかったにしちゃ、ナイスな返答だ!」
二人が褒める。
「オッケーなんかしちゃってたら大変だったぞ、お前」
「危なかったな~」
盛り上がる、二人。
「有野さん、なんて返事したんだろ…、」
急に不安になるタケル。と、信吾が
「じゃ、お願いそれにすりゃいいじゃん。『後夜祭一緒に回って』って!」
しかし、タケルは首を振る。
「お前、さっき言ってたろ? 後夜祭誘うのイコール付き合ってくださいだ、って。ダメだろ、それ」
真面目かっ!
じれったくなる二人なのであった。
「ま、お願いは考えておくけど…そうか、後夜祭ってそういうやつなんだ」
タケルはじっと遠くを見て、呟いた。
*****
「えっ? 後夜祭誘われた!?」
みずきが声を上げる。
「ちょっ、みずき、声大きいって!」
私が慌てて窘めると、みずきが口元を抑え、頷く。
いつもの中庭。いつものランチである。
「思い切ったね、弟君」
香苗がのんびりと言った。
「兄には誘われてないんだ」
「うん。まぁ」
「で、どうするの?」
と、香苗。
「断るよ」
私はそう言ってオレンジのパックジュースを一気に啜る。
「断るのか~」
「そりゃそうでしょ。うちの学校の後夜祭の誘いって、つまりそういうことでしょ?」
「ま、そうだねぇ」
「そしたら、返事はごめんなさいじゃん」
ズズズ、と嫌な音を立てる。ああ、もう空っぽだ。
「ね、志穂ってさ、斉藤君二人と大和君、三人だったら誰が一番好きなの?」
香苗、真剣な眼差しである?
「ええ? なにそれ」
「だーって、今のところ三人からモーション掛けられてるじゃない? 誰が一番可能性あるのかな、って」
「あ、それ私も興味あるな」
みずきも乗ってくる。
「そんなの、知らないよぉ」
笑って誤魔化す。というか、本当にそんなの知らない。
「志穂って恋愛経験ないんだっけ?」
香苗が不思議そうに訊ねる。
「ない。ビックリするほど、ない。私、恋愛不感症なのかな」
なんだか悲しくなる。
香苗など、初対面恐怖症なのに彼氏がいるのだ。しかも年上。私にしてみればそっちの方が不思議なんだけど。
「私なんか割と惚れっぽいからな。多分私なら転校初日の大和君でもう既にアウトだったと思う」
「え? 香苗、ほんとに?」
「いや、あれでオチないのって志穂くらいじゃない?」
みずきまでもが、そう言う。
「えええ、ますます私がおかしい説誕生じゃないかぁ~」
頭を抱える。
「あはは、まぁいいじゃない、志穂は志穂だよ!」
バン、とみずきが私の背中を叩く。
「そうだよ、志穂は志穂だよ!」
香苗が真似をして私を叩く。
「痛いよぉぉ」
女子の友情は若干痛い。
すると、
「あ、噂をすれば、兄が来たよ」
香苗が渡り廊下の方を見て、言った。仁がキョロキョロしながら歩いている。そして私を見つけると、大きく手を振った。
「おーい、アリー!」
アリーってなんだ!!
「アリーだって。いつの間にそんな仲に?」
みずきが突っ込む。
「私が聞きたい!」
私は拳を握り締めて立ち上がると、仁の元へ足を向けた。
「アリーって何!?」
不満げに言うが、仁はニコニコしている。
「あだ名」
「いらない」
「じゃ、下の名前で、」
「却下」
速攻否定、断固拒否、の構え。
「何か御用ですか? 斉藤兄」
面倒くさそうに訊ねると、仁が眉間に皺を寄せた。
「その呼び方やだ。なんで俺は名前で呼んでくれないんだよ」
「じゃ、仁君、何か用?」
「ふふ、名前呼びいいな。じゃ俺も、」
「却下」
手のひらを仁に向け、突き出す。
なぜか仁は私の手に自分の手を合わせる。
「平行線タッチ」
「な、なんじゃそりゃっ」
私は慌てて手を引っ込めた。
「あはは、有野は面白いな」
楽しそうである。
「からかいに来たわけ?」
「あー、違う。誘いに来た」
急に真面目な顔になって、仁。
「有野、後夜祭なんだけ、」
「ごめんなさい」
即答である。
「はぁぁ? なんでだよ! 蓮には考えておくって言ったんだろっ?」
仁が食って掛かる。
「いや、申し訳ないけどそっちも断る予定なので」
キッパリ。
「まさか、大和と行くのかよっ?」
険しい顔で、仁。
「は? なんでよ、違うわよ」
「じゃあなんで。いいじゃん一緒に行こうぜ、後夜祭。二人きりが嫌なら、最悪蓮と三人でもいいし!」
しつこく粘ってくる。
「他に一緒に回ってくれる子沢山いるでしょう? 私じゃなくたって、」
「お前なぁっ」
仁がガシッと私の手を掴む。
「俺はお前と回りたいって言ってんの! 他の誰かの話なんかするなよ!」
あ、なんだろ、デジャヴ……、
「……ゴメン」
「あ、俺もごめん、大きい声出しちゃって。でも、考えておいてよ。うちの学校の、いわゆる付き合う云々じゃなくて、単に一緒に後夜祭楽しまないか? っていう誘いだから」
「……うん、」
「じゃ、またな、アリー!」
仁が私の頭をポンと撫でる。そして走り去った。その背中に私は叫んだ。
「アリーは却下~~~!」
遠くに、仁が手を振る後姿が見えた
翔が聞く。
帰り道、タケルと翔と信吾、いつものメンバーである。
「まだ」
タケルはアイスを頬張りながら、答える。
「まだなのか! てっきり、最初からお願い決めてるのかと思ってた」
と、信吾。
「付き合ってください、でいいじゃん」
安易な翔の提案を、タケルが否定する。
「そんなのダメに決まってるだろ。そんなんで付き合っても嬉しくないしっ」
タケル、現実的である。
「でもさぁ、最近の有野さん、異様にモテてるじゃん? 今日だって休憩中、斉藤弟来てたし」
仁が兄、蓮が弟らしい。
「あ、俺も見た! あいつ、後夜祭誘ってたらしいぜ!」
「マジで!? ヤバいじゃん、タケル」
二人に言われ、タケルが首を傾げる。
「後夜祭?」
キョトン、としているタケルに、二人が説明を始める。
「あ~! タケルは知らないか!」
「あのな、うちの学校の後夜祭って…、」
一通りの説明。
「だから、後夜祭に誘うのは、イコール付き合ってください、と同義語!」
信吾が語尾を強め、言った。
「……そうなの?」
「そうなの!」
「俺、牧野さんに後夜祭誘われたけど」
「おおおおお!」
「ついに動いたか、牧野つばさ!」
「で、オッケーしちゃったのかよっ?」
「いや、翔と信吾と行くからって言った」
しれッと、タケル。
「よし!」
「意味が分からなかったにしちゃ、ナイスな返答だ!」
二人が褒める。
「オッケーなんかしちゃってたら大変だったぞ、お前」
「危なかったな~」
盛り上がる、二人。
「有野さん、なんて返事したんだろ…、」
急に不安になるタケル。と、信吾が
「じゃ、お願いそれにすりゃいいじゃん。『後夜祭一緒に回って』って!」
しかし、タケルは首を振る。
「お前、さっき言ってたろ? 後夜祭誘うのイコール付き合ってくださいだ、って。ダメだろ、それ」
真面目かっ!
じれったくなる二人なのであった。
「ま、お願いは考えておくけど…そうか、後夜祭ってそういうやつなんだ」
タケルはじっと遠くを見て、呟いた。
*****
「えっ? 後夜祭誘われた!?」
みずきが声を上げる。
「ちょっ、みずき、声大きいって!」
私が慌てて窘めると、みずきが口元を抑え、頷く。
いつもの中庭。いつものランチである。
「思い切ったね、弟君」
香苗がのんびりと言った。
「兄には誘われてないんだ」
「うん。まぁ」
「で、どうするの?」
と、香苗。
「断るよ」
私はそう言ってオレンジのパックジュースを一気に啜る。
「断るのか~」
「そりゃそうでしょ。うちの学校の後夜祭の誘いって、つまりそういうことでしょ?」
「ま、そうだねぇ」
「そしたら、返事はごめんなさいじゃん」
ズズズ、と嫌な音を立てる。ああ、もう空っぽだ。
「ね、志穂ってさ、斉藤君二人と大和君、三人だったら誰が一番好きなの?」
香苗、真剣な眼差しである?
「ええ? なにそれ」
「だーって、今のところ三人からモーション掛けられてるじゃない? 誰が一番可能性あるのかな、って」
「あ、それ私も興味あるな」
みずきも乗ってくる。
「そんなの、知らないよぉ」
笑って誤魔化す。というか、本当にそんなの知らない。
「志穂って恋愛経験ないんだっけ?」
香苗が不思議そうに訊ねる。
「ない。ビックリするほど、ない。私、恋愛不感症なのかな」
なんだか悲しくなる。
香苗など、初対面恐怖症なのに彼氏がいるのだ。しかも年上。私にしてみればそっちの方が不思議なんだけど。
「私なんか割と惚れっぽいからな。多分私なら転校初日の大和君でもう既にアウトだったと思う」
「え? 香苗、ほんとに?」
「いや、あれでオチないのって志穂くらいじゃない?」
みずきまでもが、そう言う。
「えええ、ますます私がおかしい説誕生じゃないかぁ~」
頭を抱える。
「あはは、まぁいいじゃない、志穂は志穂だよ!」
バン、とみずきが私の背中を叩く。
「そうだよ、志穂は志穂だよ!」
香苗が真似をして私を叩く。
「痛いよぉぉ」
女子の友情は若干痛い。
すると、
「あ、噂をすれば、兄が来たよ」
香苗が渡り廊下の方を見て、言った。仁がキョロキョロしながら歩いている。そして私を見つけると、大きく手を振った。
「おーい、アリー!」
アリーってなんだ!!
「アリーだって。いつの間にそんな仲に?」
みずきが突っ込む。
「私が聞きたい!」
私は拳を握り締めて立ち上がると、仁の元へ足を向けた。
「アリーって何!?」
不満げに言うが、仁はニコニコしている。
「あだ名」
「いらない」
「じゃ、下の名前で、」
「却下」
速攻否定、断固拒否、の構え。
「何か御用ですか? 斉藤兄」
面倒くさそうに訊ねると、仁が眉間に皺を寄せた。
「その呼び方やだ。なんで俺は名前で呼んでくれないんだよ」
「じゃ、仁君、何か用?」
「ふふ、名前呼びいいな。じゃ俺も、」
「却下」
手のひらを仁に向け、突き出す。
なぜか仁は私の手に自分の手を合わせる。
「平行線タッチ」
「な、なんじゃそりゃっ」
私は慌てて手を引っ込めた。
「あはは、有野は面白いな」
楽しそうである。
「からかいに来たわけ?」
「あー、違う。誘いに来た」
急に真面目な顔になって、仁。
「有野、後夜祭なんだけ、」
「ごめんなさい」
即答である。
「はぁぁ? なんでだよ! 蓮には考えておくって言ったんだろっ?」
仁が食って掛かる。
「いや、申し訳ないけどそっちも断る予定なので」
キッパリ。
「まさか、大和と行くのかよっ?」
険しい顔で、仁。
「は? なんでよ、違うわよ」
「じゃあなんで。いいじゃん一緒に行こうぜ、後夜祭。二人きりが嫌なら、最悪蓮と三人でもいいし!」
しつこく粘ってくる。
「他に一緒に回ってくれる子沢山いるでしょう? 私じゃなくたって、」
「お前なぁっ」
仁がガシッと私の手を掴む。
「俺はお前と回りたいって言ってんの! 他の誰かの話なんかするなよ!」
あ、なんだろ、デジャヴ……、
「……ゴメン」
「あ、俺もごめん、大きい声出しちゃって。でも、考えておいてよ。うちの学校の、いわゆる付き合う云々じゃなくて、単に一緒に後夜祭楽しまないか? っていう誘いだから」
「……うん、」
「じゃ、またな、アリー!」
仁が私の頭をポンと撫でる。そして走り去った。その背中に私は叫んだ。
「アリーは却下~~~!」
遠くに、仁が手を振る後姿が見えた
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