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愛のカタチ
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「こんっの、すっとこどっこいが!!」
地の底から響き渡るような声で、怒鳴る声と、恐ろしい形相。ともすればここは冥府なのではないかと錯覚しそうなほどの恐怖に包まれている。
怒鳴っているのはナダ。
怒鳴られているのは、マキである。
あの後、すぐにナダの元に向かい結界はすぐに解き放たれた。これでナダも自由になったのだ。
そしてナダに駆け寄り抱き締めようとしたマキをナダが殴りつけ、そこからはもう、マキが居たたまれないほど小さく縮こまっているのである。
「すまん」
素直に謝るも、ナダの怒りは収まらないようだ。
「お前はいつだってそうだ! 私がいつ、お前に守ってほしいなどと言った? 一緒に戦えばよかっただろう? 挙句、この有様だっ。この二人がいなかったら私は今もずっと、」
「すまん!」
ナダの言葉を遮り、またしても謝るマキ。
大体のあらましはこうだ。
昔、ナダとマキはある強大な魔物と対峙していた。形勢が不利になり、マキはナダを守るためここに閉じ込め、一人だけで相手に向かっていった。対象者は何とか倒したものの、自分自身が泉に閉じ込められてしまったのだ。
「二人には感謝してる! よくぞやってくれた! 赤い髪の仮面の末裔が運よく来てくれたことはまさに奇跡だ! しかも連れがテイマーという。うん、あの賢者の予言は間違ってなかった!」
「賢者の予言?」
聞き返すナダに、マキがしまった、といった風に口を押さえる。
「ほほぅ、すべては賢者の予言通りなわけか」
半眼で詰め寄る。
「あ~、いや」
「で? その賢者はこの二人がここに来て助けてくれる、そう言っていた、と?」
「あ、えっと、まぁ」
明後日の方向を見て適当なことを口にするマキ。
「まぁ、何はともあれよかったじゃないか。二人とも自由になれたわけだし」
リオンが二人の間に割って入る。
「そうですよ。これからはまたお二人で仲良く、」
「昔のように、は無理だろう」
腕を組んで、ナダ。
「え? 何故ですか、ナダ様っ」
「いいかエルフィ。こいつは私を信じなかったんだ。大変な事態を二人で乗り切るのではなく、勝手に一人で向かって行ったんだぞ? 同じことされたらどう思う? リオンがお前を置いて、危険極まりない相手に向かって行ったら」
「それは……悲しいですね」
「だろう? 信用されてないんだよ私は」
フンッと鼻息を荒くするも、真っ向から否定してきたのはマキではなく、リオンである。
「それは違うよ、ナダ。マキはナダが大切だったから守りたかったんだ。俺だって、命に関わるような相手と対峙することになったらエルフィだけは絶対に守りたいと思うぞ?」
「え? リオン様、私を置いてお一人で向かって行くおつもりですか? 冗談ですよね?」
すぐさまエルフィが突っ込む。
「おいおい、何もお前らまで揉めることないだろう。これは完全に俺とナダの問題で、」
「そうはいかない!」
「そうはいきません!」
二人がマキを押しのける。
「俺は、エルフィの身に何かあったら困るから、だな」
「あら、そんなの私だって同じです。リオン様に何かあったら困るのです!」
「しかし、だな、」
痴話喧嘩、というやつである。
「ええい、やめんか鬱陶しい!」
ダンッ、とナダがテーブルを叩いた。
「とにかく二人には感謝する。おかげで私は解放された。二人は元の生活に戻れ。新婚旅行なのだろう?」
「え? お前ら新婚なのっ?」
目をキラキラさせてマキが言い寄る。そんなマキの首根っこを捕まえ、ナダが耳元で
「黙れ」
と囁く。
「けど……ナダ様、これは私にとっても大切な問題です。もし同じような出来事があった時、リオン様が私を頼ってくれないなどということがあっては困るのです。今ここではっきりさせておかなければっ」
キッとリオンを見上げ、エルフィ。
「リオン様、誓ってください。この先どんな困難なことがあろうとも、決して一人で解決しようなどとは思わないで。私と一緒に、二人で解決すると」
真剣な顔で、告げる。じっと見つめ合った後、リオンが肩をすくめ、言った。
「わかったよ。じゃ、エルフィも誓って。俺を守るために自らの命を懸けたりしないって」
「それは……」
口をつぐむ。
もし、目の前でリオンが……もしそんなことになったら、自分は……、
「それは、お約束できません」
エルフィがキッパリと言い放つ。
「エルフィ、」
「ごめんなさいナダ様。私、やっぱりマキ様のしたことを責められません。きっと私も同じことをする。愛するものを守るためなら、私は命を懸ける!」
「エルフィ!」
ナダがエルフィの肩を掴み、揺さぶる。
「それじゃダメなんだ。もしそれで私だけが助かったらどうなる? 私は愛するものを失うだけじゃない。自分を責めながら生き続けなくてはならないんだぞ? いいかエルフィ、困難には二人で立ち向かうんだ。そして本当に危なくなったときは、自分の命を優先しろ。そうでないとこっちだって本気を出せん。いいか、平等なんだ。二人は対等なんだ。相手を見くびるな」
「ナダ様……」
なんだかいい雰囲気で見つめ合う二人に、マキが突っ込む。
「ナダ、それ俺に言ってくれよぉ」
「ああん? なんでお前にっ。そこで聞いてればわかるだろうっ?」
「ちぇ、冷たいな」
ごちゃごちゃと言い争う二人にリオンが苦笑する。そして、考え込むように二人を眺めていたエルフィが、何かを思い付いたかのようにパッと顔を上げる。
「……私、解決法を見つけましたっ」
「解決法?」
キョトン、とするリオンに、満面の笑みを向ける。
「はい! 誰にも負けないくらい、強くなればいいのです!」
自信満々に言ってのける。
「ぷっ、」
「ふふ、」
「ええっ?」
ナダとマキが吹き出し、リオンが驚く。
「あはは、なるほど! 確かに!」
「すごいな、お前の嫁は! 最高だぜ!」
「えええ、エルフィ……、」
とんでもない解決法に、戸惑うしかないリオンなのであった。
地の底から響き渡るような声で、怒鳴る声と、恐ろしい形相。ともすればここは冥府なのではないかと錯覚しそうなほどの恐怖に包まれている。
怒鳴っているのはナダ。
怒鳴られているのは、マキである。
あの後、すぐにナダの元に向かい結界はすぐに解き放たれた。これでナダも自由になったのだ。
そしてナダに駆け寄り抱き締めようとしたマキをナダが殴りつけ、そこからはもう、マキが居たたまれないほど小さく縮こまっているのである。
「すまん」
素直に謝るも、ナダの怒りは収まらないようだ。
「お前はいつだってそうだ! 私がいつ、お前に守ってほしいなどと言った? 一緒に戦えばよかっただろう? 挙句、この有様だっ。この二人がいなかったら私は今もずっと、」
「すまん!」
ナダの言葉を遮り、またしても謝るマキ。
大体のあらましはこうだ。
昔、ナダとマキはある強大な魔物と対峙していた。形勢が不利になり、マキはナダを守るためここに閉じ込め、一人だけで相手に向かっていった。対象者は何とか倒したものの、自分自身が泉に閉じ込められてしまったのだ。
「二人には感謝してる! よくぞやってくれた! 赤い髪の仮面の末裔が運よく来てくれたことはまさに奇跡だ! しかも連れがテイマーという。うん、あの賢者の予言は間違ってなかった!」
「賢者の予言?」
聞き返すナダに、マキがしまった、といった風に口を押さえる。
「ほほぅ、すべては賢者の予言通りなわけか」
半眼で詰め寄る。
「あ~、いや」
「で? その賢者はこの二人がここに来て助けてくれる、そう言っていた、と?」
「あ、えっと、まぁ」
明後日の方向を見て適当なことを口にするマキ。
「まぁ、何はともあれよかったじゃないか。二人とも自由になれたわけだし」
リオンが二人の間に割って入る。
「そうですよ。これからはまたお二人で仲良く、」
「昔のように、は無理だろう」
腕を組んで、ナダ。
「え? 何故ですか、ナダ様っ」
「いいかエルフィ。こいつは私を信じなかったんだ。大変な事態を二人で乗り切るのではなく、勝手に一人で向かって行ったんだぞ? 同じことされたらどう思う? リオンがお前を置いて、危険極まりない相手に向かって行ったら」
「それは……悲しいですね」
「だろう? 信用されてないんだよ私は」
フンッと鼻息を荒くするも、真っ向から否定してきたのはマキではなく、リオンである。
「それは違うよ、ナダ。マキはナダが大切だったから守りたかったんだ。俺だって、命に関わるような相手と対峙することになったらエルフィだけは絶対に守りたいと思うぞ?」
「え? リオン様、私を置いてお一人で向かって行くおつもりですか? 冗談ですよね?」
すぐさまエルフィが突っ込む。
「おいおい、何もお前らまで揉めることないだろう。これは完全に俺とナダの問題で、」
「そうはいかない!」
「そうはいきません!」
二人がマキを押しのける。
「俺は、エルフィの身に何かあったら困るから、だな」
「あら、そんなの私だって同じです。リオン様に何かあったら困るのです!」
「しかし、だな、」
痴話喧嘩、というやつである。
「ええい、やめんか鬱陶しい!」
ダンッ、とナダがテーブルを叩いた。
「とにかく二人には感謝する。おかげで私は解放された。二人は元の生活に戻れ。新婚旅行なのだろう?」
「え? お前ら新婚なのっ?」
目をキラキラさせてマキが言い寄る。そんなマキの首根っこを捕まえ、ナダが耳元で
「黙れ」
と囁く。
「けど……ナダ様、これは私にとっても大切な問題です。もし同じような出来事があった時、リオン様が私を頼ってくれないなどということがあっては困るのです。今ここではっきりさせておかなければっ」
キッとリオンを見上げ、エルフィ。
「リオン様、誓ってください。この先どんな困難なことがあろうとも、決して一人で解決しようなどとは思わないで。私と一緒に、二人で解決すると」
真剣な顔で、告げる。じっと見つめ合った後、リオンが肩をすくめ、言った。
「わかったよ。じゃ、エルフィも誓って。俺を守るために自らの命を懸けたりしないって」
「それは……」
口をつぐむ。
もし、目の前でリオンが……もしそんなことになったら、自分は……、
「それは、お約束できません」
エルフィがキッパリと言い放つ。
「エルフィ、」
「ごめんなさいナダ様。私、やっぱりマキ様のしたことを責められません。きっと私も同じことをする。愛するものを守るためなら、私は命を懸ける!」
「エルフィ!」
ナダがエルフィの肩を掴み、揺さぶる。
「それじゃダメなんだ。もしそれで私だけが助かったらどうなる? 私は愛するものを失うだけじゃない。自分を責めながら生き続けなくてはならないんだぞ? いいかエルフィ、困難には二人で立ち向かうんだ。そして本当に危なくなったときは、自分の命を優先しろ。そうでないとこっちだって本気を出せん。いいか、平等なんだ。二人は対等なんだ。相手を見くびるな」
「ナダ様……」
なんだかいい雰囲気で見つめ合う二人に、マキが突っ込む。
「ナダ、それ俺に言ってくれよぉ」
「ああん? なんでお前にっ。そこで聞いてればわかるだろうっ?」
「ちぇ、冷たいな」
ごちゃごちゃと言い争う二人にリオンが苦笑する。そして、考え込むように二人を眺めていたエルフィが、何かを思い付いたかのようにパッと顔を上げる。
「……私、解決法を見つけましたっ」
「解決法?」
キョトン、とするリオンに、満面の笑みを向ける。
「はい! 誰にも負けないくらい、強くなればいいのです!」
自信満々に言ってのける。
「ぷっ、」
「ふふ、」
「ええっ?」
ナダとマキが吹き出し、リオンが驚く。
「あはは、なるほど! 確かに!」
「すごいな、お前の嫁は! 最高だぜ!」
「えええ、エルフィ……、」
とんでもない解決法に、戸惑うしかないリオンなのであった。
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