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封印を解く者
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「ナダ様!」
エルフィが走ってゆく。家から出てきたナダが両手を広げ、エルフィを迎えた。
「早かったな、エルフィ」
「はい! シアとアディが手伝ってくれましたので」
傍らのシアを撫で、言う。
「イルミナルクは?」
「リオン様が」
遠くにリオンの姿が見える。その肩には金色の鳥が鎮座していた。
「おーい、ナダ! 捕まえたぞ!」
大きく手を振り、リオンが小走りにやってくる。
「参ったよ、家が見えた途端、エルフィがシアの背に乗って走っていくもんだから」
「だって、一刻も早く知らせたかったんですものっ」
「ああ、ありがとう。イルミナルクが手に入ったのなら封印はすぐに解けるさ」
「どうすりゃいいんだ?」
リオンが首を傾げる。
「ただ、命じればいい。あの場所で」
「……それだけ?」
「それだけだ」
なんとまぁ、簡単な。
「なら、とっとと済ませてこよう」
「はい!」
二人はマキのいる泉へと向かう。彼を開放したら、ナダとの再会が待っているのだ。
泉には、ナダに渡された長剣が浮いたままになっていた。そして水底にはマキ、と呼ばれている男が眠っている。
リオンは肩に乗せているイルミナルクのハディレニシルダを指に止まらせると、泉の前に差し出し、命じた。
「我がリオン・レミエル・メイナーの名において命ずる。ハディレニシルダよ、泉の結界を解除せよ!」
リオンの言葉を聞いたハディがピィィィと高く澄んだ声で鳴き、数回羽をばたつかせた。キラキラとした金色の粉が羽から泉へと流れる。水面がゆらりと揺れ、パンッと何かが弾ける。それと同時に、水面に浮いていた長剣が、とぷん、と沈む。
「あっ」
エルフィが剣の行方を追おうと水底を覗き込む。と、
ゴゴゴゴゴ、
地鳴りのような音。
「エルフィ、こっちへ!」
危険を感じ、慌ててリオンが引き戻し、抱き締める。
ズザァァァァァァァッ
噴水のように高く飛び出す水柱。
「うわっ」
大量の水しぶきに、思わず目を閉じる。
ザァァァァァ…
スコールのように降り注ぐ水。辺りが水浸しになり、木々のない泉の上には、太陽の光を浴び大きな虹がかかる。
「わぁ……綺麗」
思わず口にしてしまう。
水柱が消えてゆく。波打つ泉の向こう側に、男の姿が見える。
「リオン様、あれ!」
エルフィが指をさす。
「ああ、成功したみたいだ」
そこには、水底にいたマキアルス・ウィリ・ベテルゼンが長剣を手に、立っていたのである。
「俺を開放したのはお前たちか」
黒髪、黒い瞳。凛とした声は自信と威厳に満ち、まるで人間離れしている。
「ああ、そうだ。ナダに頼まれた」
「ナダ!!」
マキがハッとしたように目を見開く。
「ナダは無事かっ?」
「無事だ。今は家にいると思う」
「そうか……無事なんだな。よかった」
ふっと微笑みを漏らす。その何とも言えない美しさに、エルフィだけではなくリオンまでもが見とれてしまう。
「彼、人間なんですかね」
ぽーっとしながらエルフィが呟く。
「違うかもしれないな。ナダもだけど」
この二人が並んだら、寺院に掛かっている『神々の降臨』という有名な絵画に匹敵するくらい美しいのではないだろうか。
「俺の名はマキアルス・ウィリ・ベテルゼンという。面倒だからマキでいい」
「話は少しだけ聞いている。俺の名はリオン・レミエル・メイナー。リオンでいい。こっちは妻のエルフィだ」
「女剣士か。なるほど、赤い髪の、ね」
ナダ同様、エルフィのルーツにすぐ気付いたようだ。
「ナダ様が待ってます。参りましょう」
エルフィが案内すべく歩き出す、が、
「よし、行くかっ……なぁ、あいつ、怒ってたか?」
眉間に皺を寄せ、こめかみのあたりを指で搔きながらマキが俯く。
「え? 怒って……ですか?」
「いやぁ、そりゃ、怒られるようなことした俺が悪いんだけどさぁ、」
視線をあちこちに動かしながら、言う。一体何をしたというのか。
「怒っているとは思わなかったが……何をしたんだ?」
我慢できずにリオンが訊ねる。
「あ~、結界の中に閉じ込めた」
「え?」
「はぁ?」
二人同時に、叫ぶ。
「じゃ、ナダがあの場所から動けないってのは……」
「俺のせい」
「え? でもあなただって泉に封印されて」
「そう。そっちは俺がヘマやったせい」
バツが悪そうに口を尖らせる。この上なく端正な顔立ちながら、顔を百面相のように変えるせいか、神々のイメージは早々にどこかへ飛んで行く。
「とにかく、早くナダの結界を解いて謝った方がいいんじゃないのか?」
リオンがナダの家の方を指した。
「だな。よし、行こう!」
と、威勢よく声は出すものの動かない。
「あの、お二人はどういうご関係なのですか?」
エルフィがナダにしたのと同じ質問を投げかけた。ナダはマキのことを『腐れ縁』だと言っていたが……、
マキはキッとエルフィを見つめ、
「ナダは我が愛しき運命の相手だ」
と言い切った。
エルフィとリオンが顔を見合わせる。
「こんなことは言いたくないが」
リオンがマキの肩をポンと叩く。
「ナダは怒ってると思う。すごく」
「えええええ、やっぱりぃぃぃ?」
森に、マキの情けない声が響いたのである。
エルフィが走ってゆく。家から出てきたナダが両手を広げ、エルフィを迎えた。
「早かったな、エルフィ」
「はい! シアとアディが手伝ってくれましたので」
傍らのシアを撫で、言う。
「イルミナルクは?」
「リオン様が」
遠くにリオンの姿が見える。その肩には金色の鳥が鎮座していた。
「おーい、ナダ! 捕まえたぞ!」
大きく手を振り、リオンが小走りにやってくる。
「参ったよ、家が見えた途端、エルフィがシアの背に乗って走っていくもんだから」
「だって、一刻も早く知らせたかったんですものっ」
「ああ、ありがとう。イルミナルクが手に入ったのなら封印はすぐに解けるさ」
「どうすりゃいいんだ?」
リオンが首を傾げる。
「ただ、命じればいい。あの場所で」
「……それだけ?」
「それだけだ」
なんとまぁ、簡単な。
「なら、とっとと済ませてこよう」
「はい!」
二人はマキのいる泉へと向かう。彼を開放したら、ナダとの再会が待っているのだ。
泉には、ナダに渡された長剣が浮いたままになっていた。そして水底にはマキ、と呼ばれている男が眠っている。
リオンは肩に乗せているイルミナルクのハディレニシルダを指に止まらせると、泉の前に差し出し、命じた。
「我がリオン・レミエル・メイナーの名において命ずる。ハディレニシルダよ、泉の結界を解除せよ!」
リオンの言葉を聞いたハディがピィィィと高く澄んだ声で鳴き、数回羽をばたつかせた。キラキラとした金色の粉が羽から泉へと流れる。水面がゆらりと揺れ、パンッと何かが弾ける。それと同時に、水面に浮いていた長剣が、とぷん、と沈む。
「あっ」
エルフィが剣の行方を追おうと水底を覗き込む。と、
ゴゴゴゴゴ、
地鳴りのような音。
「エルフィ、こっちへ!」
危険を感じ、慌ててリオンが引き戻し、抱き締める。
ズザァァァァァァァッ
噴水のように高く飛び出す水柱。
「うわっ」
大量の水しぶきに、思わず目を閉じる。
ザァァァァァ…
スコールのように降り注ぐ水。辺りが水浸しになり、木々のない泉の上には、太陽の光を浴び大きな虹がかかる。
「わぁ……綺麗」
思わず口にしてしまう。
水柱が消えてゆく。波打つ泉の向こう側に、男の姿が見える。
「リオン様、あれ!」
エルフィが指をさす。
「ああ、成功したみたいだ」
そこには、水底にいたマキアルス・ウィリ・ベテルゼンが長剣を手に、立っていたのである。
「俺を開放したのはお前たちか」
黒髪、黒い瞳。凛とした声は自信と威厳に満ち、まるで人間離れしている。
「ああ、そうだ。ナダに頼まれた」
「ナダ!!」
マキがハッとしたように目を見開く。
「ナダは無事かっ?」
「無事だ。今は家にいると思う」
「そうか……無事なんだな。よかった」
ふっと微笑みを漏らす。その何とも言えない美しさに、エルフィだけではなくリオンまでもが見とれてしまう。
「彼、人間なんですかね」
ぽーっとしながらエルフィが呟く。
「違うかもしれないな。ナダもだけど」
この二人が並んだら、寺院に掛かっている『神々の降臨』という有名な絵画に匹敵するくらい美しいのではないだろうか。
「俺の名はマキアルス・ウィリ・ベテルゼンという。面倒だからマキでいい」
「話は少しだけ聞いている。俺の名はリオン・レミエル・メイナー。リオンでいい。こっちは妻のエルフィだ」
「女剣士か。なるほど、赤い髪の、ね」
ナダ同様、エルフィのルーツにすぐ気付いたようだ。
「ナダ様が待ってます。参りましょう」
エルフィが案内すべく歩き出す、が、
「よし、行くかっ……なぁ、あいつ、怒ってたか?」
眉間に皺を寄せ、こめかみのあたりを指で搔きながらマキが俯く。
「え? 怒って……ですか?」
「いやぁ、そりゃ、怒られるようなことした俺が悪いんだけどさぁ、」
視線をあちこちに動かしながら、言う。一体何をしたというのか。
「怒っているとは思わなかったが……何をしたんだ?」
我慢できずにリオンが訊ねる。
「あ~、結界の中に閉じ込めた」
「え?」
「はぁ?」
二人同時に、叫ぶ。
「じゃ、ナダがあの場所から動けないってのは……」
「俺のせい」
「え? でもあなただって泉に封印されて」
「そう。そっちは俺がヘマやったせい」
バツが悪そうに口を尖らせる。この上なく端正な顔立ちながら、顔を百面相のように変えるせいか、神々のイメージは早々にどこかへ飛んで行く。
「とにかく、早くナダの結界を解いて謝った方がいいんじゃないのか?」
リオンがナダの家の方を指した。
「だな。よし、行こう!」
と、威勢よく声は出すものの動かない。
「あの、お二人はどういうご関係なのですか?」
エルフィがナダにしたのと同じ質問を投げかけた。ナダはマキのことを『腐れ縁』だと言っていたが……、
マキはキッとエルフィを見つめ、
「ナダは我が愛しき運命の相手だ」
と言い切った。
エルフィとリオンが顔を見合わせる。
「こんなことは言いたくないが」
リオンがマキの肩をポンと叩く。
「ナダは怒ってると思う。すごく」
「えええええ、やっぱりぃぃぃ?」
森に、マキの情けない声が響いたのである。
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