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ヒラ事務員の切ない日常1

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 321人収容できる大講堂は、病院の中の行動とは思えない広さだ。
 ざっと見渡した限り、混んでいる。
 もちろん数席空けて座ったりしているから、詰めて座ればせいぜい50名ほどなのだろうが、それでも結構な人数だ。
 これだけの関係者を誘導するなど、私一人では到底できないことだった。
 講堂に集まったのは患者である高校生の家族だけではない。学校関係者も含まれている。
 3階のナースステーションから北階段にあふれていた人々は、やはりこの事故の関係者だった。
 北階段を使ったお陰で、気づくことができた。
 何しろ、救急外来受付に手伝いに来ていた師長も3階の北階段に関係者があふれていたことは知らなかったんだからなあ。
 どうも、そちらに入院することになった患者がいた為に、入院する患者は3階と言う誤った情報が伝達してしまい、一部の家族がそちらに集まっていたようだ。
 そこにいると気づかないまま、説明会をやっていたら、あとあと大クレームになる。
 私の足元にはクロネコがちょこんと座っている。
 こいつのおかげで気づけたのかもしれないしなあ。
 仕方ない、ササミ肉買うか。

「事故の詳細、なぜ起きたのかと言うことは、後日学校を通して説明があると思います。ここでは治療に関してのご説明に限らせていただきますのでご了承下さい」

 壇上では、飯塚事務局長が説明をしている。もちろん、この事務局長は現役の、現在進行形でご存命の方だ。人生ごとご引退されている幽霊事務局長ではない。

「全校生徒及び職員が、集会のために体育館に集まっていたところ、地震が起き、その直後、天井の板が崩れ落ちて、下にいた5名の生徒が負傷――この5名のうち3名が当院でご入院されています。この事故に驚いた生徒が出口に殺到しドミノ倒し状に転倒した為、教員を含む負傷者――当院では18名の患者様を受け入れておりますが、他院でもいらっしゃるので、全体で何名になるかは現時点では不明です」

 急いで情報を集め、箇条書きにしたメモしか手元にない中、事務局長は淡々と説明している。
 うちの課長も、今回は家族側として聞くほうに座っていた。市内の高校だから、他にも職員の姿が混ざっている。
 看護師、事務員……ああ、濃い色の制服はリハビリテーション科だ。心配だろうな。

「ほとんどの方は日帰りできますが、後から具合が悪くなった方のために担当窓口を作りました。症状については師長が対応します。もちろん、現時点でできる限りの検査をさせていただいております。患者様の症状につきましては、個別に医師から説明がありますが、症状に応じて順番にお声掛け致します」

 ふと思い立って足元を見ると、クロネコが綺麗な姿勢で座って事務局長を見ていた。こいつの目に、今の時代の事務局長はどう映っているのだろう。

「今回の医療費は学校保険の扱いになるのか、そうではないかで、別途話し合いが設けられますが、みなさんにはご負担頂かないのでご安心下さい。今後の事務手続きにつきましては――」

 事務局長の説明は続き、滞りなく終了した。結局、安心して治療を受けて欲しいという事と、マスコミに病院での情報を流さないようにして欲しいという話で終わった。
 その後は、ここにいる患者の家族にはこれから検査や治療を受けるに際し、必要な書類を作成してもらっている。

「なあ、桐生さん」

 書類を記入している家族の方々の姿を見ながら、隣に立っている桐生さんにずっと思っていることを尋ねることにした。

「どうしましたか?」
「さっき、事務局長が言ってた話ってさ。どういう意味だと思う?」
「どう、とは……?」
「事故、地震の直後におきてるんだよな? でもさっきの揺れは大したことなかっただろ。偶然だと思うか?」
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