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相談室の慌ただしい日常6

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――バンッ!!

 しんと静まり返る。
 電話の着信音だけが場違いなほどに響き、誰もがその男を見ていた。
 70前後だろう。
 激昂した白髪の男性が杖をカウンターにたたきつけていた。
 クロネコが、背を丸めて尻尾を立てている。
 そうだ、クロネコはずっとカウンターにいた。
 いつもなら私たちのすぐそばにいたクロネコが、今回はカウンターから動かなかった。
 桐生さんもそちらを見ていたではないか。
 なるほど。
 心配してくれてたってわけか。

「おれは患者だぞ!」

 対応していたらしいアシスタント事務員が真っ青になっている。
 若王子さんが即座にカウンターに向かった。
 相談室にいるスタッフのほとんどは女性だ。
 誰もが怒声に震え上がり、身動きが取れない中、間をおかずに駆けつける若王子さんは勇気がある。彼女は主任だ。責任感で動いたのはわかる。
 だが無謀だ。
 私と桐生さんも若王子さんとともにカウンターに向かう。
 老人は怒りに肩を震わせアシスタント事務員をにらんでいた。
 カウンターの上の杖も震えている。
 これはヤバイ。

「ここの相談員で主任の若王子です。何かありましたか?」

 若王子さんは穏やかに優しく声をかける。
 だが、白髪男性は再び杖を振り上げた。
 おいおいおい。
 その角度は若王子さんの頭に当たるぜ、じいさんよ。
 シャレにならねえぞ。
 とっさに若王子さんの前にでる。
 カウンターを回り込んでいたら間に合わない。
 桐生さんがカウンターに手をつき、飛び超えようとした。先日の搬送さんの時と同じだ。

「――っく……」

 だが、即座に顔を歪め、タイミングが遅れた。

――ガンッ

 桐生さん、どうした――と思う間はなかった。
 衝撃が私の視界を揺らした。
 老人が振り上げた杖が私のこめかみに叩きつけられたのだ。
 痛いとか熱いとか、それ以前に目が回る。
 悲鳴がすげえ。
 頼みます若王子さん、耳元ででかい声出さないでくださいよ。鼓膜いてえ。
 回る視界の中で再び杖が振り上げられたがそれ自体が再び揺れる。
 別の悲鳴が上がった。
 ぐらりと私の視界は揺れたが、同時に足元も揺れているように感じる。

「こんな時に、地震?」

 若王子さんの声が聞こえた。
 なるほど地震か。
 いいタイミングじゃねえか。地震のおかげで老人がひるんでくれた。
 おかげで桐生さんがカウンターを回り込んでいけたようだ。
 カウンター下の薄い板一枚、これの向こう側で桐生さんが老親を押さえつけている音が聞こえる。
 地震の最中だってのに桐生さんは容赦がない。
 カウンターの上に置いてあったパンフレットや病院のマスコットのぬいぐるみが床に落ちた。
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