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病院職員たちの昼時の日常5
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「このカウンターテーブルのはじ、中庭に面した窓の外枠に置いてありました」
「あ、さっきこれを取りに行ってたのか。なに、窓ってあかないのかよ」
てっきり猫を追い払いに行ったと思っていたから意外だった。
クロネコだからな。ひょっとしたら見落としていたのかもしれない。
「カフェの窓ははめ殺しです。そしてカエルの折り紙は、本日で4つ目です」
「は?」
言っていることが分からない。
「二つ目だろ。俺のがひとつめ、桐生さんのふたつめ」
「わたしが持っているものと、友利さんが持っている者は制作者が異なります。わたしが言っているのは、同じ制作者によるものと思われるカエルです」
そう言いながら、桐生さんは財布から3枚の紙を取り出した。
おいおい、ちょっと嫌な予感がするぞ。
「これです」
「……って、桐生さん。折り紙開いちゃってるじゃねえか。これじゃダメだろ」
「内側を確認するために一度開いただけです」
桐生さんのいう事も分かるが、これでは壊したも同然だ。
元に戻せるか心配に思いながら、折り紙を手に取る。
そこには、バケツをかぶった、犬の絵が描いてあった。
「お、わんわんヒーローじゃん」
「わんわんヒーロー?」
桐生さんが知らないのも無理はない。
これは幼児向けの番組で10年も続く長寿番組だ。ドジだけど親しみやすい犬のヒーローが、飼い主やその周りの人たちを幸せにする優しい物語だ。
「そ。小さい子供に人気の番組でさー。拾われた雑種犬が、実は宇宙からやってきたヒーローで、バケツをかぶると不思議な力が使えるようになって、家族のピンチを助けるっていう話」
「全く整合性が取れていない物語のように感じますが……」
「そう言うなって。大人目線で見ると、結構心にささるんだよな、これが」
「幼児向けなのにですか?」
「設定が幼児向けじゃねえんだ。わんわんヒーローはもともと地球を征服しようとしてた宇宙人なんだけどな。雷に打たれて弱ってたところをおばあさんに拾われてさ。その人を好きになるんだよ。まあ、おばあさんは犬だと思って拾うんだけどな」
「昔のSF映画のような展開ですね」
「そう言うなって。ところが、そのおばあさんは年をとって死んでしまう。見た目は犬だけど宇宙人だから寿命が違う。残された犬は、おばあさんの代わりに彼女の孫を守る」
「今度は昔話のようですね」
「だから、茶々入れるなって。んで。こっから後は、毎週やる番組内容なんだけどな。雷に打たれたせいで、力の源であるバケツが壊れててさ、おかげで日によって使える能力が違う。失敗しながら、大好きな人の最後の願いである、孫の幸せのために頑張るっつーところがさ、大人には受けるわけ」
「大人……子供向けとおっしゃっていませんでしたか?」
「子供と一緒に親も見てるからさ。愛犬が飼い主のために不器用ながらも頑張るところが、可愛いとか、けなげだってんで、キャラグッズなんかも人気なんだぞ」
「……子供と一緒に……そうですか。それは知りませんでした」
表情をピクリとも動かさずに聞いている。
興味がないのは分かり切っていたが、私は苦笑いするほかなかった。
「ま、いいや。そのわんわんヒーローだな」
「友利さんのおかげで、三角の中に三つの丸がある理由と、その上の四角がバケツであることが分かりました」
どうやら、桐生さんには子供の絵が図にしか見えていなかったらしい。
「あ、さっきこれを取りに行ってたのか。なに、窓ってあかないのかよ」
てっきり猫を追い払いに行ったと思っていたから意外だった。
クロネコだからな。ひょっとしたら見落としていたのかもしれない。
「カフェの窓ははめ殺しです。そしてカエルの折り紙は、本日で4つ目です」
「は?」
言っていることが分からない。
「二つ目だろ。俺のがひとつめ、桐生さんのふたつめ」
「わたしが持っているものと、友利さんが持っている者は制作者が異なります。わたしが言っているのは、同じ制作者によるものと思われるカエルです」
そう言いながら、桐生さんは財布から3枚の紙を取り出した。
おいおい、ちょっと嫌な予感がするぞ。
「これです」
「……って、桐生さん。折り紙開いちゃってるじゃねえか。これじゃダメだろ」
「内側を確認するために一度開いただけです」
桐生さんのいう事も分かるが、これでは壊したも同然だ。
元に戻せるか心配に思いながら、折り紙を手に取る。
そこには、バケツをかぶった、犬の絵が描いてあった。
「お、わんわんヒーローじゃん」
「わんわんヒーロー?」
桐生さんが知らないのも無理はない。
これは幼児向けの番組で10年も続く長寿番組だ。ドジだけど親しみやすい犬のヒーローが、飼い主やその周りの人たちを幸せにする優しい物語だ。
「そ。小さい子供に人気の番組でさー。拾われた雑種犬が、実は宇宙からやってきたヒーローで、バケツをかぶると不思議な力が使えるようになって、家族のピンチを助けるっていう話」
「全く整合性が取れていない物語のように感じますが……」
「そう言うなって。大人目線で見ると、結構心にささるんだよな、これが」
「幼児向けなのにですか?」
「設定が幼児向けじゃねえんだ。わんわんヒーローはもともと地球を征服しようとしてた宇宙人なんだけどな。雷に打たれて弱ってたところをおばあさんに拾われてさ。その人を好きになるんだよ。まあ、おばあさんは犬だと思って拾うんだけどな」
「昔のSF映画のような展開ですね」
「そう言うなって。ところが、そのおばあさんは年をとって死んでしまう。見た目は犬だけど宇宙人だから寿命が違う。残された犬は、おばあさんの代わりに彼女の孫を守る」
「今度は昔話のようですね」
「だから、茶々入れるなって。んで。こっから後は、毎週やる番組内容なんだけどな。雷に打たれたせいで、力の源であるバケツが壊れててさ、おかげで日によって使える能力が違う。失敗しながら、大好きな人の最後の願いである、孫の幸せのために頑張るっつーところがさ、大人には受けるわけ」
「大人……子供向けとおっしゃっていませんでしたか?」
「子供と一緒に親も見てるからさ。愛犬が飼い主のために不器用ながらも頑張るところが、可愛いとか、けなげだってんで、キャラグッズなんかも人気なんだぞ」
「……子供と一緒に……そうですか。それは知りませんでした」
表情をピクリとも動かさずに聞いている。
興味がないのは分かり切っていたが、私は苦笑いするほかなかった。
「ま、いいや。そのわんわんヒーローだな」
「友利さんのおかげで、三角の中に三つの丸がある理由と、その上の四角がバケツであることが分かりました」
どうやら、桐生さんには子供の絵が図にしか見えていなかったらしい。
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