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本日のおやつは、さつま芋パイです。

ローストビーフはお断り

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 渋滞は一向に解消される様子がない。テールランプの赤が雨に乱反射してまぶしく、三枝は目の疲労を感じ始めていた。

「これだけギラギラ光ってると眩しくて目が疲れますね。ちょっと寝てていいですか?」
「運転している方はどうしろというんだ?」
「頑張ってください」
「君と心中する気はないぞ」
「寝ちゃダメだー、寝たら死ぬぞー」
「目を閉じながらいうな」
「いててててて」

 グリグリと眉間を拳で押された。

「ひどいですよ、先生」
「どっちがひどいって?」
「まあまあ……。ほら、コーヒーでも飲んで目を覚ましてくださいよ」

 三枝はドリンクホルダーにあるタンブラーを渡そうと持ち上げ、あまりの軽さに驚く。

「あれ……?」

 三枝がタンブラーを左右に振ると、ちゃぷんと高めの音がした。
 少なくとも、中身がたっぷりある音ではない。

「コーヒーからっぽ……。いつのまに。あ、そういえば先生さっき、飲みましたよね」
「その時すでに軽かったぞ。正確に言えば、僕の口に入ったのは最後の一滴くらいだ。犯人の顔が見たいなら鏡を見ろ」
「あー」
「それはショートサイズのタンブラーだからせいぜい缶コーヒー一杯分の容量だったんだが?」

 そういえば、おいしいと思って、ついつい飲んでしまったような気がする。
 ほんの少しだけのつもりが、気付いたらずいぶん飲んでいたらしい。

「反省してます」
「まあ、飲ませてやるつもりだったからそれは構わないんだが……ここまで飲まれるとは思わなかったな」

 三枝がコーヒーのおいしさを覚えたのは紗川の影響だ。
 紗川も、それを面白がっている節はあるから、三枝が飲んでしまっても怒ったりはしない。基本的には。
 問題は、紗川が飲みたいと思っているときにそれがないという事だ。

「えっと……すみません?」

 ちらりと視線を向けた紗川は、ようやく言ったかとばかりに苦笑いしていた。

「少しは上司をいたわってくれ。もっとも、ひとが運転している間に、その目を盗んで半分以上飲むのが君の良識であると言うなら別だが」
「あーもう。わかりましたよ。もー寝ません。起きてますっ」
「よし。なら、目頭でも揉んでろ」
「はーい」

 言われた通り、目頭をマッサージすることにした。

「先生は目が疲れたりしないんですか?」
「疲れる。一人で運転していたら、どこかで休憩を取っているところだな」
「ですよねー。あ、ファミレスがあるー。先生、お腹すきました。帰り、行きませんか?」

 前方の交差点に付近に見慣れたレストランの看板を発見して、空腹を感じてしまった。いつも注文するドリアの味を思い出してしまい、より空腹感が増す。

「何を言っているんだ君は」

 眉をしかめながら、紗川がレストランの方を見たのに気付いて、期待値が上がった。

「とか言いながら、先生もお腹すいてるんじゃないですか?」
「そうじゃない。方角的にはあちらではないかと思っただけだ」
「またまた~。口に入れたの。先生だってお腹空いてるんじゃないですか? 俺、帰りにドリア食べたいです」
「帰宅後に僕の食事を分けてやろう。ローストビーフとピクルスとオニオンスープ。あとマリネもある」

 どうやら、ファミリーレストランで外食をするつもりはないらしい。
 先のメニューはおいしいことに間違いはないのだが、頻度が高いため、飽きてしまうのだ。
 それに、ヘルシーな食事が常においしいと感じられるほど、三枝は年を重ねていない。ローストビーフよりもハンバーガーだし、ピクルスやオニオンスープより、ポテトとコーラの方がいい。
 ファストフード店に行きたいと言わずにファミリーレストランをしめしたのは、三枝なりの譲歩でもあったのだが、上司には伝わらなかったようだ。

「うう……先生……うちに帰ってからそれでもいいですけど、でもお腹空いてるんですよ」
「やれやれ……家に着くまでもちそうにないなら、帰りにコンビニに寄ってやる」

 こめかみから指を差し入れるように長い前髪をかき上げ、紗川がため息をつく。

「やった! おごりですね?!」
「人のコーヒーを飲んだ上に、おごれと?」
「わー、先生、かっこいい、おっとこまえー!」

 視線が向けてきた紗川が、あきれたようにつぶやく。

「残念だったな、三枝君。それは全て事実だ」

 そして次の瞬間には楽しげに笑った。

「で? それがどうかしたのか?」
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