84 / 89
雨の日のゲイシャにご用心ください。
4
しおりを挟む
「永遠に同じ状態なんてことはありえないさ」
「それはそうなんですけど、その喧嘩の原因が変なんですよ」
「それが君がひっかかっていたことなのか?」
「ダイキは一人っ子で、両親が共働きなんです。親が遅くまで帰ってこないとか、ザラなんですよ」
「なるほど、いろいろと都合がいい」
「彼女がダイキのうちに来ることが多いらしいです。でも、彼女は違う学校で、携帯持ってないんですよ。学校で禁止されてるらしくて」
「そうなると、連絡手段は限られるな。彼女の家に電話をかけることになりそうだが……彼女のご両親は?」
三枝は首を振る。
「彼女のうちはガードが固くて電話をかけても取り次いでもらえないらしくて」
「それは苦労するな」
「だから、ちょっと変わった連絡方法を使うんです」
「変わった連絡方法?」
どうやら、探偵の興味を引くことに成功したらしい。
探偵という仕事を好んでしていなかったとしても、なぞには心惹かれてしまうのだろう。
「彼女のうちは線路沿いのマンションの五階なんです。ほら、去年できたばっかりの高坂駅のそばのやつです」
「ああ、あのマンションか」
毎日のように広告が入っていたから、紗川も覚えていたらしい。
「便利さと高級感を兼ね備えながらも価格帯は手ごろ……という売り方をしていたな」
「どうも、実際にはなかなか人が入らなくて困ってるみたいです。ベランダが電車から丸見えで、リビングが丸見えになるから、プライバシーがないって」
「それはそうだろう。他にも問題はあるはずだ。すぐに思いつくところでは騒音だ。線路沿いだからな。それに最近は特急の本数も増えたから音の問題は避けられない。特急で渋谷までのアクセスが良くなったとはいえ、高坂には止まらないからな。メリットが少ない。当初の見込みよりも販売が伸び悩むのは、当然だ」
「酷い言われようですけど、ダイキの彼女はそこに住んでるんですから。もうちょっと優しく言ってくださいよ」
「やれやれ、注文が多いぞ。それで変わった連絡方法とはなんだ?」
面白がるように細めた目は、先を見越しているようで三枝は気に入らなかったが、そのまま話し続けた。
「一つ、先生が言ったとおり、あの家は電車からベランダが丸見えです。二つ、ダイキのうちは高坂駅の二駅となり、坂戸駅です。故に、彼女は鳩避けの緑のネットに雑巾を干すんです」
「めちゃくちゃな三段論法だな」
紗川はあきれながらも湯をさし続けている。
一度やり出したらとめることができない作業だ。
「緑のネットとは、鳩がベランダに入り込むのを防ぐために用いられているネットのことか?」
「そうです。五センチ四方の粗い目の網の。ごみネットとほとんど一緒ですよ。ダイキの彼女のマンションの周りは鳩が多いらしくて。ネットを張っていないとベランダが糞まみれになってしまうそうです」
「……まさかとは思うが」
「なんです?」
「その、鳩避けのネットに吊るした雑巾で連絡しているのか?」
(嫌そうな目でこっち見ないでくださいよ。俺だって鳩除けネットに雑巾ってどういうセンスだろうって思ったんだからさ!)
文句は心の中で言いつつ、三枝は頷いた。
「そうですよ。洗濯バサミで止めて吊るすんです。雑巾があったら電話してもオッケーな日で、ネットが開けてあるときは会えるっていう合図なんです。電車からベランダ、丸見えですからね。連絡手段にはもってこいですよ」
「昔、ハンカチで逢引の合図を送る映画があったそうだが、今の時代は雑巾と鳩避けネットか……」
「それはそうなんですけど、その喧嘩の原因が変なんですよ」
「それが君がひっかかっていたことなのか?」
「ダイキは一人っ子で、両親が共働きなんです。親が遅くまで帰ってこないとか、ザラなんですよ」
「なるほど、いろいろと都合がいい」
「彼女がダイキのうちに来ることが多いらしいです。でも、彼女は違う学校で、携帯持ってないんですよ。学校で禁止されてるらしくて」
「そうなると、連絡手段は限られるな。彼女の家に電話をかけることになりそうだが……彼女のご両親は?」
三枝は首を振る。
「彼女のうちはガードが固くて電話をかけても取り次いでもらえないらしくて」
「それは苦労するな」
「だから、ちょっと変わった連絡方法を使うんです」
「変わった連絡方法?」
どうやら、探偵の興味を引くことに成功したらしい。
探偵という仕事を好んでしていなかったとしても、なぞには心惹かれてしまうのだろう。
「彼女のうちは線路沿いのマンションの五階なんです。ほら、去年できたばっかりの高坂駅のそばのやつです」
「ああ、あのマンションか」
毎日のように広告が入っていたから、紗川も覚えていたらしい。
「便利さと高級感を兼ね備えながらも価格帯は手ごろ……という売り方をしていたな」
「どうも、実際にはなかなか人が入らなくて困ってるみたいです。ベランダが電車から丸見えで、リビングが丸見えになるから、プライバシーがないって」
「それはそうだろう。他にも問題はあるはずだ。すぐに思いつくところでは騒音だ。線路沿いだからな。それに最近は特急の本数も増えたから音の問題は避けられない。特急で渋谷までのアクセスが良くなったとはいえ、高坂には止まらないからな。メリットが少ない。当初の見込みよりも販売が伸び悩むのは、当然だ」
「酷い言われようですけど、ダイキの彼女はそこに住んでるんですから。もうちょっと優しく言ってくださいよ」
「やれやれ、注文が多いぞ。それで変わった連絡方法とはなんだ?」
面白がるように細めた目は、先を見越しているようで三枝は気に入らなかったが、そのまま話し続けた。
「一つ、先生が言ったとおり、あの家は電車からベランダが丸見えです。二つ、ダイキのうちは高坂駅の二駅となり、坂戸駅です。故に、彼女は鳩避けの緑のネットに雑巾を干すんです」
「めちゃくちゃな三段論法だな」
紗川はあきれながらも湯をさし続けている。
一度やり出したらとめることができない作業だ。
「緑のネットとは、鳩がベランダに入り込むのを防ぐために用いられているネットのことか?」
「そうです。五センチ四方の粗い目の網の。ごみネットとほとんど一緒ですよ。ダイキの彼女のマンションの周りは鳩が多いらしくて。ネットを張っていないとベランダが糞まみれになってしまうそうです」
「……まさかとは思うが」
「なんです?」
「その、鳩避けのネットに吊るした雑巾で連絡しているのか?」
(嫌そうな目でこっち見ないでくださいよ。俺だって鳩除けネットに雑巾ってどういうセンスだろうって思ったんだからさ!)
文句は心の中で言いつつ、三枝は頷いた。
「そうですよ。洗濯バサミで止めて吊るすんです。雑巾があったら電話してもオッケーな日で、ネットが開けてあるときは会えるっていう合図なんです。電車からベランダ、丸見えですからね。連絡手段にはもってこいですよ」
「昔、ハンカチで逢引の合図を送る映画があったそうだが、今の時代は雑巾と鳩避けネットか……」
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
RoomNunmber「000」
誠奈
ミステリー
ある日突然届いた一通のメール。
そこには、報酬を与える代わりに、ある人物を誘拐するよう書かれていて……
丁度金に困っていた翔真は、訝しみつつも依頼を受け入れ、幼馴染の智樹を誘い、実行に移す……が、そこである事件に巻き込まれてしまう。
二人は密室となった部屋から出ることは出来るのだろうか?
※この作品は、以前別サイトにて公開していた物を、作者名及び、登場人物の名称等加筆修正を加えた上で公開しております。
※BL要素かなり薄いですが、匂わせ程度にはありますのでご注意を。
時の呪縛
葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。
葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。
果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
意識転移鏡像 ~ 歪む時間、崩壊する自我 ~
葉羽
ミステリー
「時間」を操り、人間の「意識」を弄ぶ、前代未聞の猟奇事件が発生。古びた洋館を改造した私設研究所で、昏睡状態の患者たちが次々と不審死を遂げる。死因は病死や事故死とされたが、その裏には恐るべき実験が隠されていた。被害者たちは、鏡像体と呼ばれる自身の複製へと意識を転移させられ、時間逆行による老化と若返りを繰り返していたのだ。歪む時間軸、変質する記憶、そして崩壊していく自我。天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、この難解な謎に挑む。しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、想像を絶する恐怖と真実への迷宮だった。果たして葉羽は、禁断の実験の真相を暴き、被害者たちの魂を救うことができるのか?そして、事件の背後に潜む驚愕のどんでん返しとは?究極の本格推理ミステリーが今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる