探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

文字の大きさ
上 下
66 / 89
ホイップたっぷり、さくら待ちラテはいかがでしょうか。

4

しおりを挟む
 店内に入ると、コーヒーの香りが鼻孔をくすぐった。

(いい匂いがする……)

 店内は8割ほどの席が埋まっていた。
 大型のショッピングモールや駅前にもあるシアトル系のカフェだが、三枝が知っている店と雰囲気が異なっている。

(なんか……年齢層高くないか?)

 レジに並び、バリスタや会計に立っているスタッフを見ていると、どうにも年齢が高そうだ。三枝の知る、駅前の店は若いスタッフが多い。
 ほとんどが20代ではないかと思う。
 しかしここのスタッフは、高齢者ばかりだ。

(右見ても左見ても、じーさんばーさんのスタッフしか居ないんだけど)

 驚きを隠せぬままレジ前に立った。

「こんにちは。本日は店内でお召し上がりでしょうか?」

 穏やかに訪ねて来る女性は、60代くらいだろうか。
 姿勢が良く、真っ赤な口紅を引いている。年齢を重ねていても、美人だ。

「はい、ここで。あと、これ……」

 半ば気圧されながらドリンクチケットを出すと、ニッコリと微笑まれた。

「お待ちしておりました。オーナーのお客様ですね。どのドリンクでも注文が可能です。サイズはショートのみですので、もしサイズアップするようでしたら差額をいただきますが……」

 どうしますか、と尋ねられ、三枝は思わず辺りを見渡してしまった。
 困った。
 普段、カフェを使うときは紗川と一緒の時だけだ。注文は紗川がしてくれる。
 ショートサイズと言われてもわからない。

「ツムっ!」

 迷っていると、肩を叩かれた。

「シンヤ?」

 そこにいたのは同級生の爾志信也にし しんやだった。
 偶然ではない。待ち合わせ相手だ。
 ひょっとして、先に店内で三枝が来るのを待っていたのだろうか。
 問いかけようとすると、爾志の方から耳打ちしてきた。

「あのさ、これってどうやって注文すんの?」

 どうやら爾志はシアトル系のカフェの利用は初めての様だ。

「えっと」

 ここはいいところを見せねばと思った時だった。「あら……」と店員が声を上げた。

「ここにオーナーから指示がありますね。あ、ダブルトールラテですね。差額はオーナーが後で支払ってくださるそうなので、大丈夫ですよ」
「あ、そうなんですか?」
「はい。只今ご用意いたしますので、オレンジのランプの下でお受け取りくださいませ――アモーレ、フォーヒア、ツー・ダブルトールラテ」

 店員がエスプレッソマシンの方に向かって声を上げると、「アモーレ、ツー・ダブルトールラテ」と復唱が上がる。
 三枝はぎょっとしてバリスタを見た。

「せ、先生?」
「すぐ用意する、待っていろ」

 スーツにエプロンをつけ、エスプレッソをセットしているのは、三枝の上司、紗川だ。
 自分の店だというのだから、バリスタとして立っていてもおかしくはないのだが、それにしても違和感が大きい。
 いや、その前に、接客業をしている探偵を見た衝撃から未だ立ち直れていない。

「お待たせいたしました。ダブルトールラテでございます」

 提供台にマグカップが二つ並ぶ。
 カップの中にはリーフのラテアートが出来上がっていた。

「わ、すごい」

 茶色と白のコントラストがはっきりしているほど技術が高いあかしだ。
 紗川の作ったラテは白と茶のコントラストがきれいだ。

「カウンター席を使うといい」

 言われて、バリスタの動きがよくみえるカウンター席に爾志とともに並んで座った。

「なあ、ツム。待ち合わせの探偵の先生ってどこにいるんだよ。これからか?」
「え……」
「てっきり、ツムと一緒に来ると思ってたのに」

 もっともな感想である。
 三枝はちらりと紗川の姿を見た。
 紗川はレジに立っていた女性に何か話している。
 女性が頷き、紗川は軽く会釈をしてからこちらにやってきた。

「お待たせしました」

 紗川が爾志と三枝の前にクッキーを置いた。

「あの、これ頼んでないんですけど」

 慌てる爾志に、紗川は笑いかけてきた。

「クッキーはサービスだから大丈夫――探偵、紗川清明です、初めまして」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...