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運転者にはノンアルコールのカクテルを。
完全犯罪 1
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「いいこと、ですか?」
「あのね。駐禁って、きっぷ切られてもさ、罰金だけ払えば点数は減らないってこと知ってた?」
表面上は笑顔を浮かべていた紗川だが、内心では苦く思っていた。
(確信犯か)
誰が駐車したのか証拠がなければ、警察は逮捕することはできない。最初は車にシールを貼って罰金の支払いを促し、それがなされない時は郵送で所有者の家に便りが届く。
その段階でも誰が運転していたか証拠がないため、特定の個人の免許の点数が減点されることはない。
彼女のいうとおり、罰金さえ払えば、罪がなかったことにされる。
「うふふ。警察公認の完全犯罪だよね」
実のところ証拠がないというより、そこまで手が回らないから、罰金を払ってもらう事で再発を防止したい――というのが警察の本音ではなかろうか。
常習犯だとすれば質が悪い。
車の状態から、金回りがいい様子が伺える。
コインパーキングに停めるよりも、余分に金を払っても構わないから便利なところに停めておきたいと考えているのかもしれない。
残念ながら、罰金が抑止力にならない人種も一定数いる。
この場合は車に乗れなくなる可能性を示唆した方がいいだろう。
紗川はそう判断すると、彼女の自慢には乗らずに肩をすくめるだけにとどめることにした。
「完全犯罪とはいかないかもしれませんよ。警察も記録していますから、常習犯の場合は免停になる可能性もあります」
「心配してくれてるんだ。やさしー。ありがとう」
機嫌よく感謝されても困ってしまう。
どうしたものかと思っていると「それにしてもさ」と、彼女の話題は次に移ってしまった。
先ほどから話題がころころと変わる。
話題に集中していないのかもしれない。
(となると、丁寧に話すよりも、小さな楔をいくつも打ち込んでいく方が効果的か……)
車での来店を除けば、彼女は良い顧客になるかもしれない。
だがそれ以上に、こういう時にどうふるまえば良いのか、店長に見せておくことのメリットが大きい。
全く同じケースはないかもしれないが、一つ一つのふるまいが、別のときに活かされる可能性がある。
どのように仕向けて行こうかと考えていた時だった。思いもよらない言葉に、紗川は目を丸くした。
「イギリス系の高そうなスーツ着てるものも珍しいけど、いまどき髪を染めてない人も珍しいよね。ピアノまで弾いちゃうしさ。ビックリ。ねえ、どこのお店?」
「……」
一瞬、この店のオーナーだと答えそうになってしまったが、彼女の問いかけはそういう意味ではない。
(なるほど)
彼女の砕けた口調にも納得がいった。
「車の話できるのも珍しいし。今度、行ってみようかな」
(ホストと勘違いしていたわけか)
さすがに苦笑いを隠せない。
ホストに間違えられたのは初めてではなかったが、ここまでフランクに話しかけられることはまれだ。
店に入ってきたときに店長との会話を聞かれていたようだが、全部ではなかったのかもしれない。あるいは紗川は自分の立場を明確にする発言はしていなかったから、単純に常連と思った可能性もある。
紗川は彼女の間違いに気づかぬふりをして頷いた。
「川越にありますよ」
「川越? この辺にないよねえ、そう言うお店。……うーん、何のお仕事なの?」
ホストかと言うのは、流石に気がとがめたのだろう。
紗川は安心させるように微笑んだ。
サラリと長い前髪が揺れる。
「どんな職業に見えますか?」
「わからないなあ。普通の会社員って感じじゃないし。でも制作会社とかそう言う感じでもないし……」
紗川は笑みを浮かべたまま、彼女の解答を待つ。
その間にどう答えようかと紗川は考えていた。この店のオーナーと言うよりは――
「うーん、わかんない。ねえ、何やってる人なの?」
「探偵です」
「あのね。駐禁って、きっぷ切られてもさ、罰金だけ払えば点数は減らないってこと知ってた?」
表面上は笑顔を浮かべていた紗川だが、内心では苦く思っていた。
(確信犯か)
誰が駐車したのか証拠がなければ、警察は逮捕することはできない。最初は車にシールを貼って罰金の支払いを促し、それがなされない時は郵送で所有者の家に便りが届く。
その段階でも誰が運転していたか証拠がないため、特定の個人の免許の点数が減点されることはない。
彼女のいうとおり、罰金さえ払えば、罪がなかったことにされる。
「うふふ。警察公認の完全犯罪だよね」
実のところ証拠がないというより、そこまで手が回らないから、罰金を払ってもらう事で再発を防止したい――というのが警察の本音ではなかろうか。
常習犯だとすれば質が悪い。
車の状態から、金回りがいい様子が伺える。
コインパーキングに停めるよりも、余分に金を払っても構わないから便利なところに停めておきたいと考えているのかもしれない。
残念ながら、罰金が抑止力にならない人種も一定数いる。
この場合は車に乗れなくなる可能性を示唆した方がいいだろう。
紗川はそう判断すると、彼女の自慢には乗らずに肩をすくめるだけにとどめることにした。
「完全犯罪とはいかないかもしれませんよ。警察も記録していますから、常習犯の場合は免停になる可能性もあります」
「心配してくれてるんだ。やさしー。ありがとう」
機嫌よく感謝されても困ってしまう。
どうしたものかと思っていると「それにしてもさ」と、彼女の話題は次に移ってしまった。
先ほどから話題がころころと変わる。
話題に集中していないのかもしれない。
(となると、丁寧に話すよりも、小さな楔をいくつも打ち込んでいく方が効果的か……)
車での来店を除けば、彼女は良い顧客になるかもしれない。
だがそれ以上に、こういう時にどうふるまえば良いのか、店長に見せておくことのメリットが大きい。
全く同じケースはないかもしれないが、一つ一つのふるまいが、別のときに活かされる可能性がある。
どのように仕向けて行こうかと考えていた時だった。思いもよらない言葉に、紗川は目を丸くした。
「イギリス系の高そうなスーツ着てるものも珍しいけど、いまどき髪を染めてない人も珍しいよね。ピアノまで弾いちゃうしさ。ビックリ。ねえ、どこのお店?」
「……」
一瞬、この店のオーナーだと答えそうになってしまったが、彼女の問いかけはそういう意味ではない。
(なるほど)
彼女の砕けた口調にも納得がいった。
「車の話できるのも珍しいし。今度、行ってみようかな」
(ホストと勘違いしていたわけか)
さすがに苦笑いを隠せない。
ホストに間違えられたのは初めてではなかったが、ここまでフランクに話しかけられることはまれだ。
店に入ってきたときに店長との会話を聞かれていたようだが、全部ではなかったのかもしれない。あるいは紗川は自分の立場を明確にする発言はしていなかったから、単純に常連と思った可能性もある。
紗川は彼女の間違いに気づかぬふりをして頷いた。
「川越にありますよ」
「川越? この辺にないよねえ、そう言うお店。……うーん、何のお仕事なの?」
ホストかと言うのは、流石に気がとがめたのだろう。
紗川は安心させるように微笑んだ。
サラリと長い前髪が揺れる。
「どんな職業に見えますか?」
「わからないなあ。普通の会社員って感じじゃないし。でも制作会社とかそう言う感じでもないし……」
紗川は笑みを浮かべたまま、彼女の解答を待つ。
その間にどう答えようかと紗川は考えていた。この店のオーナーと言うよりは――
「うーん、わかんない。ねえ、何やってる人なの?」
「探偵です」
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