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運転者にはノンアルコールのカクテルを。
カフェバー 1
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紗川はカフェバーのドアの前で足を止めた。
(ホンダS2000?)
オープンカーが止まっていた。新しい車ではないが、まるで新車のような艶のあるボディだ。排気口にも煤がない。
(丁寧に乗っているな……目立つことはしていないようだが、足回りはいじっていそうだ)
チラリと見えるブレーキパットとサスペンションを覗き込んで確認してみたいが、行きつけの店の前で不審な行動をとるわけにもいかない。
ホイールとタイヤの組み合わせから、走らせることが好きなドライバーなのだろうと想像する程度にとどめておく。
それ以上に気がかりなのは、これほど丁寧に乗っている車が、駐車禁止の路上に止められていることだ。
フロントに回ると、案の定、違反を示すシールが貼ってあった。
紗川は違和感に顔をしかめた。
盗難車両の可能性もある。
古い車をきれいな状態で乗り続けるには、手間と金を惜しんではならない。艶やかな光沢は値の張るガラスコーティングをしているからだし、排気口に汚れがないのは日ごろからきめ細やかなメンテナンスをしている証拠だ。
そんな愛車をこんなところにとめるだろうか。
S2000の前には、駐車禁止のポールが立っている。まるで喧嘩を売っているかのようだ。
(店で聞いてみるか)
何かヒントになることがあるかもしれないと考えながら店のドアを押そうとすると、勝手に開いた。
「ありがとうございました」
どうやら帰りの客がドアを開けるのとタイミングが重なったらしい。カランカランと、ベルの音が軽やかに鳴る。
男が一人、店を出た。
車には目もむけず、真っすぐに駅に向かっていく。
どうやら今の客は車の持ち主ではなかったらしい。
「あ――こんばんは。お疲れ様です」
ドアをおさえていたバリスタに声をかけられ、挨拶を返す。アルバイトのように見えるが、この店の店長だ。
客を見送りに来て、紗川がいる事に気づいたのだろう。
「すみません、今の人、車を見てましたか?」
「いや、見ていませんでした。まったく気にしている様子もありませんでしたよ」
「そうですか……困ったなあ。その車、うちのお客さんが乗ってきたんじゃないかと思うんですよね」
客が車で来店していることを知りながらアルコールを飲ませると罰せられる。店主は知っていて飲ませたわけではないだろうが、気がかりなのだろう。
小さな店内だ。一目で全員がアルコールを摂取していることがわかった。
「駐禁のシールがフロントに貼られていますから、警察はチェック済みのようですね」
「こりゃ、まずいな……」
「車での来店に気付いていましたか?」
「後から分かったんですよ。帰ろうとしたお客さんが教えてくれまして。うちのお客さんでなければいいんですが……」
客ではない可能性もあるが、確率は低そうだ。
店長にいざなわれ、中に入ると、店内はほぼ満席だった。
「もし、ここの客だったら、会計時に代行を紹介しましょう。待っている間に一杯サービスすれば気を良くしてくれるかもしれません」
「そうします。良かったですよ、紗川さんが来てくれて」
店長は心底ほっとしたのだろう。ようやく笑顔を見せた。
この店は、紗川が運営するいくつかの店舗のうちの一つだ。
他はカフェだが、この店だけアルコールを提供している。
店内は歓談のささやきで満ちていた。
年齢の高いカップルや、ポジションが高そうな社会人がくつろいだ表情で笑っている。
壁際にはデザイン重視のピアノが置いてあるが、誰も気に留めていないようだった。
「席、一つ空いたところです。片づけますから待っててください」
「ああ、急がなくてもいいですよ。待ち合わせですから」
慌てて片付けようとする店長に荷物を預けて、紗川はピアノの前に座った。
(ホンダS2000?)
オープンカーが止まっていた。新しい車ではないが、まるで新車のような艶のあるボディだ。排気口にも煤がない。
(丁寧に乗っているな……目立つことはしていないようだが、足回りはいじっていそうだ)
チラリと見えるブレーキパットとサスペンションを覗き込んで確認してみたいが、行きつけの店の前で不審な行動をとるわけにもいかない。
ホイールとタイヤの組み合わせから、走らせることが好きなドライバーなのだろうと想像する程度にとどめておく。
それ以上に気がかりなのは、これほど丁寧に乗っている車が、駐車禁止の路上に止められていることだ。
フロントに回ると、案の定、違反を示すシールが貼ってあった。
紗川は違和感に顔をしかめた。
盗難車両の可能性もある。
古い車をきれいな状態で乗り続けるには、手間と金を惜しんではならない。艶やかな光沢は値の張るガラスコーティングをしているからだし、排気口に汚れがないのは日ごろからきめ細やかなメンテナンスをしている証拠だ。
そんな愛車をこんなところにとめるだろうか。
S2000の前には、駐車禁止のポールが立っている。まるで喧嘩を売っているかのようだ。
(店で聞いてみるか)
何かヒントになることがあるかもしれないと考えながら店のドアを押そうとすると、勝手に開いた。
「ありがとうございました」
どうやら帰りの客がドアを開けるのとタイミングが重なったらしい。カランカランと、ベルの音が軽やかに鳴る。
男が一人、店を出た。
車には目もむけず、真っすぐに駅に向かっていく。
どうやら今の客は車の持ち主ではなかったらしい。
「あ――こんばんは。お疲れ様です」
ドアをおさえていたバリスタに声をかけられ、挨拶を返す。アルバイトのように見えるが、この店の店長だ。
客を見送りに来て、紗川がいる事に気づいたのだろう。
「すみません、今の人、車を見てましたか?」
「いや、見ていませんでした。まったく気にしている様子もありませんでしたよ」
「そうですか……困ったなあ。その車、うちのお客さんが乗ってきたんじゃないかと思うんですよね」
客が車で来店していることを知りながらアルコールを飲ませると罰せられる。店主は知っていて飲ませたわけではないだろうが、気がかりなのだろう。
小さな店内だ。一目で全員がアルコールを摂取していることがわかった。
「駐禁のシールがフロントに貼られていますから、警察はチェック済みのようですね」
「こりゃ、まずいな……」
「車での来店に気付いていましたか?」
「後から分かったんですよ。帰ろうとしたお客さんが教えてくれまして。うちのお客さんでなければいいんですが……」
客ではない可能性もあるが、確率は低そうだ。
店長にいざなわれ、中に入ると、店内はほぼ満席だった。
「もし、ここの客だったら、会計時に代行を紹介しましょう。待っている間に一杯サービスすれば気を良くしてくれるかもしれません」
「そうします。良かったですよ、紗川さんが来てくれて」
店長は心底ほっとしたのだろう。ようやく笑顔を見せた。
この店は、紗川が運営するいくつかの店舗のうちの一つだ。
他はカフェだが、この店だけアルコールを提供している。
店内は歓談のささやきで満ちていた。
年齢の高いカップルや、ポジションが高そうな社会人がくつろいだ表情で笑っている。
壁際にはデザイン重視のピアノが置いてあるが、誰も気に留めていないようだった。
「席、一つ空いたところです。片づけますから待っててください」
「ああ、急がなくてもいいですよ。待ち合わせですから」
慌てて片付けようとする店長に荷物を預けて、紗川はピアノの前に座った。
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