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本日のおやつは、さつま芋パイです。
夕食はいまだお預けです 4
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ほどなくして、部屋に俊夫が戻ってきた。
俊夫は妻の遺体にしがみつこうとして、紗川に抑えられ、泣きじゃくった。
すでに紗川はいつも通りの顔をしていた。
(誰が犯人か……なんて、明白じゃないか)
遺体の状況から、外部犯とは考えにくい。
そして何より、紗川の言葉が物語っている。
――やられた
それは、紗川が考えていたいくつかの可能性のうちの一つが現実にされてしまったことを指しているに違いない。
そして
――もう一度依頼してください
美子の依頼内容は夫の殺意を調べることだったはずだ。つまり、夫に殺される可能性を示していた。
(でも、俺には無理です)
分かっている。紗川がいつも通りの顔をしながら、その奥に強い感情を抑えていることは。
被害者と直接やり取りをしたことがある紗川の想いは、三枝が想像するよりずっと激しいものに違いない。
それでも、今の段階では言い切ることができない以上、紗川は抑えているに違いない。
(分かっているんです。でも……)
少なくとも今すぐには、嫌悪を消すことができない。
ならばせめて、探偵の助手としてできることをしたい。
三枝は、そっとリビングを離れた。
ドアを開け、先ほど通った廊下に出る。ここならば敏夫に声を聞かれることはないだろう。
三枝は、名簿から目的の人物の名前をタップした。コール音二回ですぐにつながった。
「もしもし、すみません……木崎さん」
木崎英司――彼は刑事であり紗川の友人でもある。
三枝は状況を伝えようとしたが、それよりも先に『三枝君』と硬い声で呼びかけられた。
『君、事件現場にいるだろう』
驚愕に目を見開いた。
「何で知ってるんですか」
『俺、今月は夜勤が多くてさ。今日も当直でね。これからそっちに向かうところだよ。それよりキヨアキはどうしてる?』
問われて息をのんだ。
誰が、犯人なのか、考えるまでもないと、自分でも思っていたではないか。
「あ……やばい、今、犯人と一緒です」
自分たちと一緒にやってきた俊夫が、どうして美子を殺せたのかは分からないが、犯人は彼しかいないのだ。
「木崎さん、どうしよう……!」
『落ち着いて。大丈夫。あいつなら平気。銃でも持ち出されなければ一対一で殺されることはないから。刃物なんか出した日には返り討ちだよ』
「でも」
『銃なら構える前にどうにかするだろうし、近距離からの刃物なら問題ない。それは保証するよ。それより平気じゃないとしたらウチ――というか、俺の方だよ』
「どういうことですか?」
『該当区域はうちの管轄だ。今日は俺が当直だから担当できるけど、容疑者の友達が担当になれるはずないだろ。間違いなく外されるよ。俺がいる当直時間内なら融通は利かせるけど――朝までに解決できそう?』
「分かりません……すみません」
『いいよ。できるだけ早くいくから。キヨアキには俺が当直だって言っておいて。それでわかるから』
「はい」
木崎が言った、容疑者と言う言葉が重くのしかかる。
確かにその通りだ。
紗川は第一発見者になってしまった。
本来であれば、家主の俊夫が扉を開け、明かりをつけるはずだ。それを客である紗川がやるように仕向けたのは何故だ。
(先生に、発見させるため……)
三枝は唇をかんだ。
俊夫は妻の遺体にしがみつこうとして、紗川に抑えられ、泣きじゃくった。
すでに紗川はいつも通りの顔をしていた。
(誰が犯人か……なんて、明白じゃないか)
遺体の状況から、外部犯とは考えにくい。
そして何より、紗川の言葉が物語っている。
――やられた
それは、紗川が考えていたいくつかの可能性のうちの一つが現実にされてしまったことを指しているに違いない。
そして
――もう一度依頼してください
美子の依頼内容は夫の殺意を調べることだったはずだ。つまり、夫に殺される可能性を示していた。
(でも、俺には無理です)
分かっている。紗川がいつも通りの顔をしながら、その奥に強い感情を抑えていることは。
被害者と直接やり取りをしたことがある紗川の想いは、三枝が想像するよりずっと激しいものに違いない。
それでも、今の段階では言い切ることができない以上、紗川は抑えているに違いない。
(分かっているんです。でも……)
少なくとも今すぐには、嫌悪を消すことができない。
ならばせめて、探偵の助手としてできることをしたい。
三枝は、そっとリビングを離れた。
ドアを開け、先ほど通った廊下に出る。ここならば敏夫に声を聞かれることはないだろう。
三枝は、名簿から目的の人物の名前をタップした。コール音二回ですぐにつながった。
「もしもし、すみません……木崎さん」
木崎英司――彼は刑事であり紗川の友人でもある。
三枝は状況を伝えようとしたが、それよりも先に『三枝君』と硬い声で呼びかけられた。
『君、事件現場にいるだろう』
驚愕に目を見開いた。
「何で知ってるんですか」
『俺、今月は夜勤が多くてさ。今日も当直でね。これからそっちに向かうところだよ。それよりキヨアキはどうしてる?』
問われて息をのんだ。
誰が、犯人なのか、考えるまでもないと、自分でも思っていたではないか。
「あ……やばい、今、犯人と一緒です」
自分たちと一緒にやってきた俊夫が、どうして美子を殺せたのかは分からないが、犯人は彼しかいないのだ。
「木崎さん、どうしよう……!」
『落ち着いて。大丈夫。あいつなら平気。銃でも持ち出されなければ一対一で殺されることはないから。刃物なんか出した日には返り討ちだよ』
「でも」
『銃なら構える前にどうにかするだろうし、近距離からの刃物なら問題ない。それは保証するよ。それより平気じゃないとしたらウチ――というか、俺の方だよ』
「どういうことですか?」
『該当区域はうちの管轄だ。今日は俺が当直だから担当できるけど、容疑者の友達が担当になれるはずないだろ。間違いなく外されるよ。俺がいる当直時間内なら融通は利かせるけど――朝までに解決できそう?』
「分かりません……すみません」
『いいよ。できるだけ早くいくから。キヨアキには俺が当直だって言っておいて。それでわかるから』
「はい」
木崎が言った、容疑者と言う言葉が重くのしかかる。
確かにその通りだ。
紗川は第一発見者になってしまった。
本来であれば、家主の俊夫が扉を開け、明かりをつけるはずだ。それを客である紗川がやるように仕向けたのは何故だ。
(先生に、発見させるため……)
三枝は唇をかんだ。
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