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本日のおやつは、さつま芋パイです。
遥かなるティータイム 5
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そこには入浴をしている美子の写真があった。
入浴剤の説明とともに、風呂でも使えるランタンや小物類の説明が書かれている。
「おかしな連中に乗せられて、爪を塗り、派手な化粧をして……他人に肌を見せる。これのどこが表現なんですか」
「そういう話し合いをしたことはありましたか?」
「わたしはこんなもの見ていないんだから、しりませんでした。つい最近ですよ」
「しかし尋ねはしなかったのですね」
「結論は決まっているんです。話し合う余地はない。それよりも、確実にやめさせるための手順を踏むべきです」
それはあまりにも横暴なのではないだろうか。
神経質そうな俊夫の本性を垣間見たような気がした。
三枝はそっと上司の顔を盗み見た。
ほとんど表情は変わらないが、見慣れている三枝には分かる。感情を押し殺している表情だ。
「ご夫婦のことに口を挟むつもりはありませんが、ビジネスとして考えた場合、それは好ましくないやり方です。銀行の営業としてそんな貸付は行うスタッフがいれば、即座に指導するのではありませんか?」
「ビジネスとして、成立させる必要はなかったんですよ。妻は、大人しくて真面目な女だったんです。近所の人や友人を相手に雑貨屋をやってみたいというから許してしまった……ままごとを許した、それだけのことだったのに……」
俊夫は年下から意見されたことがよほど腹立たしかったのか、紗川をにらんでいる。
だが三枝からすれば、その態度こそが腹立たしい。
(先生は当たり前のことしか言ってないし。大体、奥さんだって、一人で頑張って、利益を出してたんだろ? すごいじゃないか)
近しい人から理解されないのは、何よりもつらいはずだ。
少なくとも、三枝はそう思う。
「ところで岸さん。奥様はフットバスをよく使われるのですか?」
「ええ、夕方になると足がむくむといって……。実店舗には客がほとんど来ないので、夕方には閉めてしまうんです」
「フットバスを夕方以降に使う習慣があったという認識でよいでしょうか」
「そうですね」
「その間にマニキュアを塗るのも習慣ですか?」
「フットバスを使っている時間は基本的に歩けませんからね。この時はいつも爪の手入れをしていました。それほど長い時間というわけでもないので、ちょうどいいのだといって……」
「なるほど。では犯人は、被害者の生活スタイルをよく知る人物でしょうね」
「そうだと思います。妻はネイルをしている場面をSNSでよく公開していました。それにテレビがついていることも多かったですからね。ストーカーも狙うならこの時間と思っていたんですよ」
「……そうですか。では、被害者の首を絞めたと思われるスカーフはご本人のものですか?」
「あのスカーフは、先日、結婚記念日に送ったもので、一点物です。特に妻が気に入っていたものでした」
三枝は、被害者の顔を見に様に気を付けながら、ソファの背を見た。
亜麻色の髪の間に、色鮮やかなスカーフが見え隠れしている。
(フットバスとか使ってたとしても……仕事が終わってくつろぐ人のカッコじゃないよな……誰か来客の予定が――)
と、考えて、気付いた。
美子には来客の予定があったのだ。
俊夫には秘密にしていたが、紗川がその来客者だ。
引っかかりを覚え、三枝は申し越し考えようとしたが、エンジン音とドアの開閉の音にさえぎられた。
「先生……」
そっとささやきかけると、紗川が頷く。
「玄関に行きましょう」
「え?」
「警察が到着したようです」
入浴剤の説明とともに、風呂でも使えるランタンや小物類の説明が書かれている。
「おかしな連中に乗せられて、爪を塗り、派手な化粧をして……他人に肌を見せる。これのどこが表現なんですか」
「そういう話し合いをしたことはありましたか?」
「わたしはこんなもの見ていないんだから、しりませんでした。つい最近ですよ」
「しかし尋ねはしなかったのですね」
「結論は決まっているんです。話し合う余地はない。それよりも、確実にやめさせるための手順を踏むべきです」
それはあまりにも横暴なのではないだろうか。
神経質そうな俊夫の本性を垣間見たような気がした。
三枝はそっと上司の顔を盗み見た。
ほとんど表情は変わらないが、見慣れている三枝には分かる。感情を押し殺している表情だ。
「ご夫婦のことに口を挟むつもりはありませんが、ビジネスとして考えた場合、それは好ましくないやり方です。銀行の営業としてそんな貸付は行うスタッフがいれば、即座に指導するのではありませんか?」
「ビジネスとして、成立させる必要はなかったんですよ。妻は、大人しくて真面目な女だったんです。近所の人や友人を相手に雑貨屋をやってみたいというから許してしまった……ままごとを許した、それだけのことだったのに……」
俊夫は年下から意見されたことがよほど腹立たしかったのか、紗川をにらんでいる。
だが三枝からすれば、その態度こそが腹立たしい。
(先生は当たり前のことしか言ってないし。大体、奥さんだって、一人で頑張って、利益を出してたんだろ? すごいじゃないか)
近しい人から理解されないのは、何よりもつらいはずだ。
少なくとも、三枝はそう思う。
「ところで岸さん。奥様はフットバスをよく使われるのですか?」
「ええ、夕方になると足がむくむといって……。実店舗には客がほとんど来ないので、夕方には閉めてしまうんです」
「フットバスを夕方以降に使う習慣があったという認識でよいでしょうか」
「そうですね」
「その間にマニキュアを塗るのも習慣ですか?」
「フットバスを使っている時間は基本的に歩けませんからね。この時はいつも爪の手入れをしていました。それほど長い時間というわけでもないので、ちょうどいいのだといって……」
「なるほど。では犯人は、被害者の生活スタイルをよく知る人物でしょうね」
「そうだと思います。妻はネイルをしている場面をSNSでよく公開していました。それにテレビがついていることも多かったですからね。ストーカーも狙うならこの時間と思っていたんですよ」
「……そうですか。では、被害者の首を絞めたと思われるスカーフはご本人のものですか?」
「あのスカーフは、先日、結婚記念日に送ったもので、一点物です。特に妻が気に入っていたものでした」
三枝は、被害者の顔を見に様に気を付けながら、ソファの背を見た。
亜麻色の髪の間に、色鮮やかなスカーフが見え隠れしている。
(フットバスとか使ってたとしても……仕事が終わってくつろぐ人のカッコじゃないよな……誰か来客の予定が――)
と、考えて、気付いた。
美子には来客の予定があったのだ。
俊夫には秘密にしていたが、紗川がその来客者だ。
引っかかりを覚え、三枝は申し越し考えようとしたが、エンジン音とドアの開閉の音にさえぎられた。
「先生……」
そっとささやきかけると、紗川が頷く。
「玄関に行きましょう」
「え?」
「警察が到着したようです」
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