探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

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本日のおやつは、さつま芋パイです。

ラテにはショット追加がおすすめです 3

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 歩いただけではまだ実感がない。
 聞けば、紗川は三枝が仮眠をとっていた時に木崎と実際に走行していたそうだ。本来は助手である自分がすべきことを木崎に託してしまっていたことが悔しいが、木崎は刑事なのだから、適切だったとも言えるかもしれない。

「さっきのレストランですよね。歩いていた時は見えませんでしたが……」
「徒歩と車では距離の体感が異なるからな。――ここまで六分だ」

 レストランはちょうど交差点の角にあった。シルビアはその駐車場に入り――Uターンした。

「あ、ついでに何か食べた――ああああ、ごはんじゃないんですかっ!」
「なるほど、確認したいと言っていたのは、食事を奢ってくれと言うアピールだったのか」
「ついでによってくれたら嬉しいなあなんて」
「よし、その発言は聞いていなかったことに使用。僕が採用するのは、徒歩と車とでは異なるため走行して欲しい地齋に確認したいという助手としての熱心な発言だけだ」
「がーん……」
「うちのバイトは上司をだまして陥れる発言をするような背信行為はしないと信じている」

 その言い方をされてしまうと、これ以上ワガママは言えない。
 空腹と眠気が二重奏で欲求を叫んでいても、理性で押さえるほかないではないか。

「申し訳ございませんでした」

 こつん、と、こめかみを小突かれた。

「よほど眠いらしいから、一度しか走らないぞ。居眠りせず、よく見ておけ」
「はい」

 シルビアは元来た道を戻り、先ほどカフェの看板のあった場所から脇道に入った。点々と光の筋になっていたルートだ。歩いた時は長いと思った距離は、車だとあっというまだった。
 俊夫の家まで行き、店舗前の駐車場でUターンすると、今度はコンビニに止まる。

「ここまで、ゆっくり走って8分。時間帯を加味してゆとりを見ても10分といったところだ」
「えと……」
「分からないか?」
「すみません。寝てないんですけど」
「寝ていないから分からないと言う方が正しいか。やれやれ。先ほどは一度だけと言ったが……ここだけ、もう一度走ろう」

 紗川はメーターをゼロにセットしてアクセルを踏んだ。レストランの前からスタートし、カフェの看板付近で左折。
 T路を左折して俊夫の家に行き、そこから戻り、今度はT路を曲がらず進んでコンビニエンスストアに入る。

「途中、工事をしている箇所もなかった。道を走るだけなら、10分もかからない」

 紗川は視線を一瞬向けただけで、黙ってアメリカーノを口に運んだ。

「さっき歩いたあの道。あれが抜け道になってて、先回りをしてて――」
「もっと論理的な話し方で説明できるだろう?」

 笑いを含んだ言い方で諭され、三枝はゆっくり話し始めた。

「俺たちが夕方、走ったルートをAとして、レストランからの道をBとすると……」
「ああ、その言い方はうまくないな。レストランよりカフェの看板を分岐に考えた方がいい」
「たいして変わらないと思うんですけど」
「証明は常に簡潔である事が望ましい」
「分かりました」

 眠ろうとする頭を無理に起こして、懸命に考え、クリアにする。
 少し濃いラテがそれを手伝ってくれている気がした。

「じゃあ、看板を分岐にして、俺たちがここに来るときに通った看板からコンビニまでをAコース。看板から俊夫さんの家を経由してコンビニまで行くルートをBコースとします」

 三枝は数学の証明問題を説いているような気持ちになってきた。

「Aコースは本来最短ルートですが、渋滞がひどくて該当箇所を抜けるのに30分ほどかかりました。一方でBコースはゆっくり走っても8分から10分」
「良くなったが、それでは満点はもらえないぞ」
「簡潔に話したじゃないですか」
「不足があっても駄目だ」
「面倒くさいなあ……。要するに、抜け道使って先回りして奥さん殺して、何食わぬ顔でコンビニに来たんですよね。20分が殺害にかける時間として長いのか短いのかはわかりませんが……」
「まだ説明が足りないな」
「どのへんが足りないんですか?」
「どうしてそう思えたかの根拠がない」
「それは、光ってる何かが点々と俊夫さんの移動を教えてくれたからです。家の前には三本あって。コンビニまで行くのが二本、旧16号までが一本だったら、一回家に行ってそこからコンビニまで往復したって考えられるじゃないですか」
「だから……」

 紗川は楽しそうに言った。

「その筋の正体はなんだったか覚えているか? 僕は話していたはずだが」
「えと……」

 眠気のせいでよく覚えていない。記憶力の良い三枝にしては珍しいことだ。

「よほど眠いらしいな」
「すみません」
「こんな時間まで連れまわしている大人の方が悪い。いいか。これは意図して残したものではない。分かりやすく言うなら……うっかり残してしまった足跡だ」
「足跡、ですか」
「そう、犯罪の足跡――エンジンオイルだ」


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