26 / 89
本日のおやつは、さつま芋パイです。
ご当地パンの自己主張はささやかに
しおりを挟む
真実を見せるために調べることがあると言って、紗川は岸邸を離れた。
「なんか……先生、元気になってくれて嬉しいんですけど、あんまりうれしくない気もしてきました」
「あはは。まあ、昔に比べれば随分マイルドになったから」
「え……そうなんですか?」
「うん。学校帰りとかね。他人のふりしたくなったよ。割としょっちゅう」
「……何してたんですか、先生」
「探偵の名台詞とキメポーズを真剣に鏡の前で練習してたよ。あいつ。『すべての謎は解かれるためにある、僕の前の乙女の腰ひものように』って言うのが、俺の知る最高に馬鹿なやつかな。中学のころだけど」
「何ですか、それ」
「それを従姉のお姉さんに見られてさ、ビデオテープを用意されてからはやめたみたいだけど」
他人事ながらに、録画されていないことを祈るばかりだ。
「あはは。三枝君は本当にいい助手だね」
「だって、俺だったら昔の記録とか嫌ですよ、凄く。いくら何でも可哀そうじゃないですか」
「いや? 全然? だって、あいつふてぶてしいもん」
「割と酷いことを平気で言いますよね、木崎さん……」
「わー、ひどーい。三枝君が、か弱い刑事さんをいじめる~」
「え」
「なーんて、ね」
木崎の言葉に、三枝は瞬きした。
「俺はずっと、いい加減に探偵なんかやめちまえって思ってるんだけど。あいつ、けじめがつけられるまでは『探偵』でい続けないといけないからさ」
それはどういうことなのだろうかと首をかしげる三枝を前に、木崎は人差し指を立てて「内緒だぞ」と言った。
「本当は、ここまで話すのもNGだから。そもそも、俺もあいつと同じように囚われてるせいで刑事やってるわけだけど……」
囚われている、と言う言葉に三枝は眉を寄せた。
紗川はいつでも言っている。
囚われてはならないと。
「それより、さっきの話だけどね」
「さっきの?」
「そう、綺麗になった被害者が調子に乗ってたって話。あれさ、彼女にとっての夢だったかもしれないでしょ。夢が叶ったら調子に乗りたくもなるよね。だとしたら、夢を追う事は罪なのかな?」
「え」
それは考えていなかった。
どう答えるべきだろう。
一度にいくつもの出来事が起きたせいで、頭が回らない。
(うう、無理。ダメだ。寝てない俺の頭じゃ、何も出てこない)
「えと……あの、俺も罪人なんで許してください」
「そうなの?」
「何か、色々考えたら、悪いことをしてない人間なんていないなって思って。俺だって先生のコーヒー飲み切っちゃいましたし。これ、窃盗ですよね」
もう、いっそのこと自分の罪を告白して、「みんな罪人なのでこの件はこれ以上突っ込まないでください」と謝るほかない。
「飲んじゃったんだ、キヨアキのコーヒー」
「飲んじゃいました」
「そうかーなかなかやるな」
「そうですか?」
「うん。そうだ。アンパン食べる? 中に白玉が入っている贅沢なアンパン」
「え、何ですかそれ、食べたことないです」
「おいしいから食べてみると良いよ。腹持ちもいいし、俺のお気に入りアイテム。パトカーで食べる?」
三枝は即答した。
「嫌です。だって動く取調室じゃないですか」
三枝は事実上の関係者待機室とされた、店舗の椅子に座ってアンパンを食べた。
その間もひっきりなしに警察が動き回っている。
全く落ち着かない状況ではあったが、腹が満たされれば眠くなる。
どうやら眠ってしまっていたらしいと気づいたのは、ノック音がした時だった。時計を見ると1時間ほど時が経過していた。
店舗の入り口にあたるガラス扉を木崎が開錠してひらき、外にいた人物を招き入れる。
「先生」
紗川が戻ってきた。
三枝は慌てて立ち上がると、肩から毛布が落ちた。
覚えがないから、木崎がかけてくれていたのだろう。感謝をしつつそれを拾い上げる。
「眠っているところを起こして悪かったな。仮眠は取れたか?」
「大丈夫です」
紗川は安堵したように一つ頷くと、木崎に目を向けた。
「岸さんも連れ出すことは可能か?」
「思ってたより時間がかかっていたようだけど、何かわかったのか?」
紗川はゆるやかに口角を上げ、雨に濡れた前髪をかきあげた。
「ああ、もちろんだ。罪の足跡を消し去ることは容易にはできない」
「なんか……先生、元気になってくれて嬉しいんですけど、あんまりうれしくない気もしてきました」
「あはは。まあ、昔に比べれば随分マイルドになったから」
「え……そうなんですか?」
「うん。学校帰りとかね。他人のふりしたくなったよ。割としょっちゅう」
「……何してたんですか、先生」
「探偵の名台詞とキメポーズを真剣に鏡の前で練習してたよ。あいつ。『すべての謎は解かれるためにある、僕の前の乙女の腰ひものように』って言うのが、俺の知る最高に馬鹿なやつかな。中学のころだけど」
「何ですか、それ」
「それを従姉のお姉さんに見られてさ、ビデオテープを用意されてからはやめたみたいだけど」
他人事ながらに、録画されていないことを祈るばかりだ。
「あはは。三枝君は本当にいい助手だね」
「だって、俺だったら昔の記録とか嫌ですよ、凄く。いくら何でも可哀そうじゃないですか」
「いや? 全然? だって、あいつふてぶてしいもん」
「割と酷いことを平気で言いますよね、木崎さん……」
「わー、ひどーい。三枝君が、か弱い刑事さんをいじめる~」
「え」
「なーんて、ね」
木崎の言葉に、三枝は瞬きした。
「俺はずっと、いい加減に探偵なんかやめちまえって思ってるんだけど。あいつ、けじめがつけられるまでは『探偵』でい続けないといけないからさ」
それはどういうことなのだろうかと首をかしげる三枝を前に、木崎は人差し指を立てて「内緒だぞ」と言った。
「本当は、ここまで話すのもNGだから。そもそも、俺もあいつと同じように囚われてるせいで刑事やってるわけだけど……」
囚われている、と言う言葉に三枝は眉を寄せた。
紗川はいつでも言っている。
囚われてはならないと。
「それより、さっきの話だけどね」
「さっきの?」
「そう、綺麗になった被害者が調子に乗ってたって話。あれさ、彼女にとっての夢だったかもしれないでしょ。夢が叶ったら調子に乗りたくもなるよね。だとしたら、夢を追う事は罪なのかな?」
「え」
それは考えていなかった。
どう答えるべきだろう。
一度にいくつもの出来事が起きたせいで、頭が回らない。
(うう、無理。ダメだ。寝てない俺の頭じゃ、何も出てこない)
「えと……あの、俺も罪人なんで許してください」
「そうなの?」
「何か、色々考えたら、悪いことをしてない人間なんていないなって思って。俺だって先生のコーヒー飲み切っちゃいましたし。これ、窃盗ですよね」
もう、いっそのこと自分の罪を告白して、「みんな罪人なのでこの件はこれ以上突っ込まないでください」と謝るほかない。
「飲んじゃったんだ、キヨアキのコーヒー」
「飲んじゃいました」
「そうかーなかなかやるな」
「そうですか?」
「うん。そうだ。アンパン食べる? 中に白玉が入っている贅沢なアンパン」
「え、何ですかそれ、食べたことないです」
「おいしいから食べてみると良いよ。腹持ちもいいし、俺のお気に入りアイテム。パトカーで食べる?」
三枝は即答した。
「嫌です。だって動く取調室じゃないですか」
三枝は事実上の関係者待機室とされた、店舗の椅子に座ってアンパンを食べた。
その間もひっきりなしに警察が動き回っている。
全く落ち着かない状況ではあったが、腹が満たされれば眠くなる。
どうやら眠ってしまっていたらしいと気づいたのは、ノック音がした時だった。時計を見ると1時間ほど時が経過していた。
店舗の入り口にあたるガラス扉を木崎が開錠してひらき、外にいた人物を招き入れる。
「先生」
紗川が戻ってきた。
三枝は慌てて立ち上がると、肩から毛布が落ちた。
覚えがないから、木崎がかけてくれていたのだろう。感謝をしつつそれを拾い上げる。
「眠っているところを起こして悪かったな。仮眠は取れたか?」
「大丈夫です」
紗川は安堵したように一つ頷くと、木崎に目を向けた。
「岸さんも連れ出すことは可能か?」
「思ってたより時間がかかっていたようだけど、何かわかったのか?」
紗川はゆるやかに口角を上げ、雨に濡れた前髪をかきあげた。
「ああ、もちろんだ。罪の足跡を消し去ることは容易にはできない」
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
蠍の舌─アル・ギーラ─
希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七
結珂の通う高校で、人が殺された。
もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。
調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。
双子の因縁の物語。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
W-score
フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。
優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる