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16.わたしたちの、苦い思い出。

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 幼稚園のときに、二人で捨て犬を拾ったことがあったんだけど、あの時は返してきなさいって両方のママにすごく怒られたんだよね。
 返してきなさいって、元の場所に捨ててきなさいってことで、そのあと、あの子犬がどうなったか、わたしもコータも知らない。
 あの時はただ悲しくて泣いていたけど、今から思うと、あの子犬は生きていけなかったと思う。たった一人で生きていけるほど、大きくなってなかったから。
 確か名前は……

「ゴン太の時みたいにはしたくなかったんだ」

 そう、ゴン太。
 コータも同じことを思い出してたんだね。

「うん。わたしもそう思った」

 ギンシロはよたよた歩いてミルクのあるところまで行ってピチャピチャ飲み始めた。ちゃんとお皿の下に新聞紙が敷いてあるあたり、コータは準備がいい。
 もしかしたら、ギンシロと出会う前、もしもここでゴン太を飼えていたらって、考えたことがあったのかもしれない。

「よかった。ここならこっそり飼えるもんね」

 わたしは心からそう思った。
 なのに、コータはびっくりして首を振った。

「何言ってんだよ。そんなこと、できるわけないだろ」

 びっくりするのはわたしの方だよ。

「そっちこそ何言ってんの。ここで飼ってるじゃない」

 コータはバカにするようにわたしを見てる。

「あのさ、ここ、借家なんだって分かってる?」
「わかってるよ。でも、ずっと借りる人いないじゃない」
「でも、ずっと誰も来ないって保証はないだぞ」
「そうだけど……」

 言われてから気がついた。確かにそうだ。
 ずっと誰もいない、だからこれからもいない、そんなことはありえない。

「それに、もしも大家さんに見つかったら絶対に追い出されるんだ」
「それは見つからないように気をつければいいよ。あとは、借りる人が出てこないように悪い噂を流しておくとか」
「絶対無理だと思う」
「なんで」
「噂をもし流しても、オレらの範囲じゃ学校止まりだぞ。それに、いつまでも今みたいなことはできないだろ」
「今みたいなことって?」
「毎日餌をやらないといけないし、ウンチやおしっこだって片付けないといけないんだ。学校が終った後でここに来るとして、毎日うちに帰るのが遅くなるのをどうやって言い訳するんだよ」
「あ……」

 それはそうだ。
 今だって、コータは言い訳に苦労してる。
 委員会活動って言ったって、いつまで通用するか分からない。

「こっそり飼うのはやっぱり無理なんだ」
「じゃあなんでギンシロの面倒なんてみてるのよ」
「だって放っておけないだろ。あのままにしてたら死んじゃってたんだぞ」
「だったらわたし達で飼おうよ。二人で協力したらどうにかなるよ。代わりばんこに面倒みてさ」

 転校することは黙ってた。
 でも、たとえ転校しても、もしもギンシロを二人で飼うなら、わたしはここに来る。絶対に。
 わたしがここまで決心しているのに、コータはやっぱり首を振った。
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