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14.やっと言えた、あの時の「ごめんね」

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「ギンシロ」

 名前を呼んで指を差し出してみた。
 わたしの指の匂いをかいでぺろりとなめた。

「くすぐったーい」
「だろ? ギンシロのベロってザラザラしてるからなめられるとくすぐったいんだよな」

 コータがこんなに優しい顔をしてるの、はじめて見た。
 そういえば、五年生になってからこんな風に話をしたこと、なかった気がする。去年まではよく遊んでたのに……なんでだろう。
 クラスが違った三、四年のときの方が遊んでた気がする。
 それに、一緒に遊ぶことが多かった時は、わたしのことをからかったり変な替え歌を歌ったりもしなかった。
あれ。クラスが一緒になってからなんだ、そういうことするようになったのって。
それまでコータはいつも優しかった。
 逆上がりの練習のときも、怖い犬にほえられたときも、コータは一緒にいてくれた。逆上がりは出来るようになるまで付き合ってくれたし、犬のときはわたしが泣き止むまでついていてくれた。コータが手をつないでくれて、何度も大丈夫って言ってくれて、それで犬にも触れるようになったんだっけ。
 そんなことを思い出したら急にのどが痛いような、苦しいような気持ちになった。引っ越しのことを考える時もそうなるけど、その時とはなんとなく違う。
 わたしはコータにいろんなことをしてもらったのに、子猫のお墓を作ったときに一緒にいなかった。
 暗くて寒い夜に一人でお墓を作るなんて、どんな気持ちだろう。わたしだったらきっと怖くて出来ない。
 ううん、もし子猫を見つけても、どうしたらいいか分からなくて途方にくれてたと思う。

「なんだよ。人の方、じろじろ見て」
「お墓作るの、手伝えなくてごめんね」
「そんなの、ミキッペが気にする事じゃないだろ」
「でも、金魚のときは手伝ってもらったから」
「気にするなよ。だいいち、夜だったんだからオレがミキッペに手伝いを頼みに行くなんてできないだろ」
「でもコータは一人で……」
「うちはかーさんが風邪だったって言っただろ。とーさんは残業で遅いし、オレ一人だったからできたんだって」

 そっか。ゴミ出しの時だって言ってたもんね。
 じゃあ、結局、わたしは何も出来なかったんだ。
 そう思ったらすごく寂しい気持ちになった。
 わたしに出来ることって、なんだろう。

「ねえ、わたしに出来ることがあったら言ってね。手伝うから」

 気持ちをこめて言ったのに、コータったら急に顔をしかめた。

「あのさ、オレ、頼んでなかったっけ。うちのかーさんのこと」
「コータのママのこと?」
「そう。委員会があるから遅くなるって」
「あ……!」

 すっかり忘れてた。
 コータはわざとらしく溜息をついた。

「いいけどね、別に。いまさら遅いし」

 確かに。きっとわたしも怒られる。
 だけど二人一緒なら、ちょっと気楽だよね。
 コータも、口に出しては言わないけど、きっと同じことを考えてる。

「いいよ。一緒に委員会だったって言おう」
「ミキッペはひまひま園芸委員なのに?」
「大丈夫だよ。わたしは真面目な優等生で通ってるから」
「……成績がいいと得だよなあ」
「じゃ、勉強しなよ」
「げ。オマエまでかーさんみたいなこと言うなよ」

 無理やりピーマン食べさせられたときみたいな顔してる。それがおかしく声をあげて笑った。

「しっ。静かにしろよ」
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